山梨県甲州市徳波沢の「蛭石(ひるいし)」

        山梨県甲州市徳波沢の「蛭石(ひるいし)」

1. 初めに

    桜井、加藤先生の「鉱物採集の旅 関東地方とその周辺」を読むと、田野のスカルン鉱物産
   地に行く途中で「蛭石(ひるいし)」が採集できるとある。
    これだけではポイントを特定できず、参考文献 2), 3)も調べてみた。ミネラル・ウオッチング
   の鉄則の1つ、『遠い産地を先に』に従い、門井沢での採集を終え、妻が待つ駐車場に戻った
   のは1時過ぎだった。
    道の駅「甲斐大和」で、遅い昼食に山女魚の甘露煮2匹がついた定食(750円)を食べても
   帰宅するには早い時間なので、「蛭石」産地を探してみた。

    産地とされるの初鹿野(はじかの)駅周辺は急斜面が多く、平らなところは”猫の額”くらしか
   なく、道路も複雑で、20号線沿いの空き地に駐車し、歩いて探し回った。文献にある崖は、崩
   落防止の擁壁工事が済み、コンクリートに覆われていて採集できなかった。
    探しあぐねて、作業中の方に聞くと、「ときどき学生を連れた大学の先生が来るのは、100mも
   行った砂を採ったザラザラしたところ」、と教えてくれた。

    しかし、行けども行けどもそんな場所は見つからない。ミネラル・ウオッチングの鉄則・その2
   『産地が判らなければ沢筋を攻めよ』、に従い、自分の勘を頼りに「徳波沢」に降りて、沢の
   砂を手ですくって、選り分けると「蛭石」があった。
    私の得意業の”フルイ掛け”なら冷たい思いもせず、簡単に採集できると知ったが、後の祭り
   だった。

    さて、「蛭石」は、黒雲母が風化したもので、熱すると結晶中の水分が膨張してへき開面を押
   し広げるため伸び、そのありさまが”ヒル”に似ているので名づけられた、と言われる。
    帰宅後、フライパンの上で熱してみたが、一向に伸びないのだ。そうなると、「蛭石」ではなく、
   単なる「黒雲母」で、鉱物学的には「主に金雲母と鉄雲母の中間」となってしまうのだろうか。
    こんな疑問を抱えながらも、表題は「蛭石」としてある。
   ( 2010年3月 採集)

2. 産地

    何冊かのフィールド・ガイドやインターネット情報をもとに、産地を調べた結果を下の表に示す。

記号      出   典    ポ イ ン ト   現      状
A 「鉱物採集の旅」 大菩薩ハイキングコースの
道の左(北)側にある花崗岩露頭
擁壁工事中
場所不明
B 「山梨の自然をめぐって」 大和中学の西約500m、徳波沢に
ある細い山道のカーブしたところ
にある風化した花こう岩や風化土
風化したマサから採集可能
量は極めて少ない
C インターネット 「古部」地区 場所不明
Aと同じ?
D Mineralhunters 徳波沢の中 手で土砂をすくって採集可能

”フルイ掛け”すれば、
簡単に採集できそう

      
                    「蛭石」産地 地図

     注意)
      産地Bは、中央線のトンネル近くの線路脇にあり、安全には十分注意されたし。

3. 産状と採集方法

    この産地では、斜長石、石英、黒雲母、角閃石などからなる花崗岩が風化した、いわゆるマサ
   を観察でき、それらの中に産出する。
    採集方法は、ピンセットでつまみながらプラスチックの容器(タッパーウエア)に回収するのが
   良いだろう。
    産地Dの沢の中では、”目の細かいフルイ”があると、冷たい思いをせずに能率よく採集でき
   るはずだ。

         
         マサが露出した山肌             沢
                      「徳波沢」産状

4. 産出鉱物

 (1) 黒雲母【Biotite:K(Mg,Fe)3(AL,Fe3+)Si3O10(OH,F)2
      主に金雲母と鉄雲母の中間、とされ、黒色、ガラス光沢、六角短柱状結晶で、1枚1枚薄く
     はがすことができる。

      「黒雲母」が風化した「蛭石」を加藤先生は「鉱物採集の旅」では『加水黒雲母:Hydro
     Biotite』としていたが、「造岩鉱物」では『苦土蛭石』【Vermiculite:(Mg,Fe3+,Al)3[(OH)2
     (Si,Al)4O10]・4H2O】としている。
      黒雲母があまり酸化されることなく、その主成分のカリウム(K)の代りに、水(H2O)が置き
     換えて入っているもののようだ。

      「蛭石」は、熱すると結晶中の水分が膨張してへき開面を押し広げるため伸び、そのあり
     さまが”ヒル”に似ているので名づけられた、と言われる。

         
                  黒雲母                      蛭石
                                  【「山梨の自然をめぐって」から引用】

5. おわりに

 (1) 『 蛭石 』
      帰宅後、フライパンの上で熱してみたが、一向に伸びないのだ。そうなると、「蛭石」では
     なく、単なる「黒雲母」で、鉱物学的には「主に金雲母と鉄雲母の中間」となってしまうのだ
     ろうか。
      こんな疑問を抱えながらも、表題は「蛭石」としてある。

 (2) 『 鶴瀬の輝水鉛鉱 』
      今回、甲州市を訪れた最大の目的は、JR初鹿野駅の西にある「鶴瀬」集落に日本で一番
     古い輝水鉛鉱鉱山があった、と文献にあり、それを探すことだった。
      産地探査を始めたのが15時過ぎで、短時間では探し出すことができなかった。いずれ折
     を見て再探査を考えているが、苦戦しそうな雰囲気だった。

6. 参考文献

 1) 桜井 欽一、加藤 昭:鉱物採集の旅 -関東地方とその周辺-,築地書館,1972年
 2) 西宮 克彦編著:山梨の自然をめぐって 日曜の地学16,築地書館,1984年
 3) 田中 収編:山梨県 地学のガイド,コロナ社,昭和62年
 4) 益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 5) 加藤 昭:造岩鉱物読本,関東鉱物同好会,1998年
 6) 松原聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年


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