2007年11月の3連休、結婚記念の月でもあり、”いい夫婦(11月22日)の日”を中心に
妻と岐阜県中津川市を中心とする苗木地方をユックリ回る計画だった。しかし、3男の
帰省や長野・大Yさんと新ポイントの継続探査などがあり、1日だけの日帰り採集に
なってしまった。
こうなると、たくさんの産地は回れないので、”砒酸塩鉱物”が採集できる可能性が
ある2つの産地に絞らざるを得なかった。
一柳鉱山・・・・・・・・「亜(パラ)砒藍鉄鉱」
遠ケ根鉱山・・・・・・「洋紅石」
一柳鉱山の次に訪れたのは遠ケ根鉱山だった。ここは、2004年6月に開催した「ベル
チェ鉱の古里と蛭川村の有名・無名鉱山を訪ねて」と題したミニ採集会のとき訪れて
以来3年半近くが経っている。
この時は、愛知・Hさんの案内で、「鉱物採集の旅」にある一番下のズリ【ズリA】で
「砒鉄鉱」と「スコロド石」を採集しただけで引き上げ、産地の全容はわからなかった。
石友・Mさんから山梨県黄金沢鉱山の「洋紅石」を恵与いただき、その話の流れで
『 最近、遠ケ根鉱山で洋紅石が採集した人がいる 』、と知った。ネットで調べると
写真も掲載されていて、結晶の形は少し違う気がするが、まさしく、Mさんから恵与い
ただいた「洋紅石」と同じ”紅色”である。
広いズリの1つで、「閃亜鉛鉱(方鉛鉱)」を含む石英塊を発見し、その周辺のズリ石
を割ると、鮮やかな”紅色”をした「洋紅石」があった。
今まで採集したことがなかった「洋紅石」を採集できたのは、石友・Mさんにいただい
た標本をジックリ見て、産状、色をシッカリと身体に覚えさせて臨んだ結果であり、貴重
な標本を恵与いただいた、石友・Mさんに厚く御礼申し上げる。
* 私の肉眼鑑定 であることをお断りしておきます。
( 2007年11月採集 )
また、ここも『松茸山』になっているようで、テープが張ってある区域があった。松茸
シーズンには採集が難しいかも知れない。
遠ケ根鉱山
↓
ズリA【ズリC?】
ズリB【ズリB?】
ズリC【ズリA?】
遠ケ根鉱山ズリ
【ズリ@が山頂にある】
ズリ石の中で、茶褐色の鉄サビに覆われ、やや重そうなものを選んでハンマで割り
割れ口をルーペで観察しながらの採集となる。したがって、採集効率の点から、太陽
光を十分に浴びた晴れの日に訪れるのが望ましい。
(1) 洋紅石【CARMINITE:PbFe3+2(AsO4)2(OH)2】
”紅色”、ガラス光沢の微細な粒状結晶で、石英の晶洞の内壁を覆うように産出
する。
似たような産状を示すことがある「赤鉄鉱(ベンガラ)」とは、色の鮮やかさが格段
に違い、慣れると肉眼でも区別できる。
(2) トパズ(黄玉)【TOPAZ:Al2SiO4(F,OH)2】
砒鉄鉱と斑状を示す石英の中に、透明、細柱状結晶が放射状に集合している。
グライゼン化した気成鉱床のトパズは、細い柱状(針状)になると聞いたことがある
が、その通りの産状である。
ミメット鉱ではないかとも考えたが、針先で突っついてもビクともせず、モース硬度
が7以上あり、トパズと判断した。
「鉱物採集の旅」には、このほか、鉄マンガン重石、蛍石、スコロド石、自然蒼鉛
輝蒼鉛鉱そして燐灰石なども産する、と記述されているが、採集できなかった。
「色の名前」という本を読むと、カーマイン(Carmine)という名の色があり、これは
”真紅(しんく)”と呼ばれているものである。「洋紅石」の英語名は、Carmine+iteで
CARMINITE となったようだ。
日本の真紅は、植物性染料の紅花染めの赤(”紅色”と呼んでいる)だが、西洋
の真紅【洋紅】は中南米のサボテンに寄生する臙脂(えんじ)虫の一種コチニール
から採集された動物性染料の赤を指す。
コロンブスの新大陸発見(1492年)後、16世紀の初めにはこの染料は全世界に
知れ渡った。
英語名のカーマインは、コチニールの渡来から間もない1523年にこの色の名前
になっている。
コチニールが知られる以前のヨーロッパでは、ケルメスという昆虫から取った色
素で赤を着色していた。この虫のラテン語名ケルメシヌスがカーマインと同じ濃紅
色クリムスンの共通の語源とされている。
ケルメスはコチニールにたちまちの内に取って代わられた。しかし、わずか450g
(1重量ポンドのこと)の色素をとるのに70,000匹のコチニールが必要だった、と
伝えられている。
正に、『 紅の価値は、同じ重さの金と同じ』
(2) 2007年を代表する鉱物
今年も、余すところ1ケ月足らずになった。例年、年末になると、各界から「今年
の○○」なるものが発表される。
近年、鉱物の世界では、「△沢の紫水晶」、「レインボーガーネット」そして「逸見
石」などが話題となり、産地も過熱したようだ。
2007年8月、名古屋ミネラルショーに行った石友・ヘナK小隊長と兵長から、「今年
は ”パッ”とした鉱物が見当たらなかった 」、と聞いた。たしかに、ブームになる
ような産地・鉱物はなかったような気がする。
「国産初ダイヤモンド」発見のニュースが話題にはなったが、1ミクロン(1000分の
1mm)では、学術的な意味は大きくても、”甘茶”が採集する対象としては、今ひと
つだろう。
私個人としては、「洋紅石」を推したい。山梨県甲州市黄金沢鉱山でも発見され
たことも推す理由の1つだが、今年固めて発見・発表され、意外に産地が多そうだ
し、”紅色”の結晶が美しいからである。
「宮崎県黒葛原(つづら)鉱山」、「大分県木浦鉱山」、「山口県岩国市」で発見され
約10年の空白のあと「茨城県錫高野」、「岐阜県遠ケ根鉱山」そして「山梨県甲州
市黄金沢鉱山」と、立て続けに発見されている。
まだまだ、新しい産地が隠されているような予感がする。
ルーペや顕微鏡で見ると”洋紅色”で美しいのだが、肉眼での見掛けが”鉄サビ”
のようなので、見向きされずに眠っている産地も多いと思う。これらを発見できる
のも数が多い”甘茶”の強みだろう。