開催期間:2017年9月23日(土)〜2018年1月14日(日)
場所 :埼玉県立自然の博物館
埼玉県秩父郡長瀞町長瀞1417-1
秩父鉱山で産出したとされる140種の鉱物の主なものを展示しており、間近で観察でき、寒くなってフィー
ルドに出にくくなるこれから、開催期間も2か月近く残っているので訪れてみてはいかがだろう。
( 2017年11月訪問 )
■ 鉱床
スカルン鉱床とされる秩父鉱山の成因と代表的な鉱床の特徴。同じスカルン鉱床とされる日本の他の
鉱山との比較
■ 産出鉱物
代表的な産出鉱物を展示
■ 鉱山の歴史
平賀源内の鉱山開発と近代以降の採鉱の歴史
■ 鉱山町のくらし
最盛期には約500人が働き、家族を含めると2千数百人が暮らす鉱山町には、郵便局、診療所、
駐在所もあった。それらの写真。
■ スカルン鉱床とは
鉱床とは、われわれにとって有用な成分が地中に濃縮し、採掘して利用可能な場所のことだ。「スカルン
鉱床」のカタカナ表現よりも、「接触交代鉱床」のほうが”ピン” とくる方も多いのではないだろうか。スカルンを
「マグマの熱でヤケドした石」、と表現している初心者(こども?)向けの入門書を読んだ記憶がある。
そのとおり、地下深くから”ドロドロ”に溶けた高温のマグマが上昇し、上に堆積していた石灰岩などの堆積
岩と接触した周辺に形成される鉱床を指している。
ちなみに、「スカルン」とはスウェーデンのPersberg鉱山での鉱山用語に由来する。ドイツ語の綴り”Skarn"
は、英語、フランス語でもそのまま使われている。
■ 日本のスカルン鉱床
秩父鉱山の南西20kmにある、わたしのホームグラウンドともいえる長野県川上村の甲武信鉱山もスカルン
鉱床とされている。このように、スカルン鉱床は北海道と四国をのぞき、本州と北九州に分布している。
スカルン鉱床は中央構造線に沿う「秩父帯」と呼ばれる石炭紀からジュラ紀の「付加体」よりも北側にのみ
存在することに注目して欲しい。つまり、フィリピン、あるいは北米プレートに乗って日本列島に衝突して付加
した(くっついた)サンゴ礁が石灰岩の起源になっているのだ。
■ 秩父鉱山の鉱化作用
ある石友とスカルン鉱床について話していると、彼は「石灰岩地帯と何キロも離れているマグマ(火成岩)の
間で熱や成分の交代(やり取り)ができるはずがない」、と従来のスカルン鉱床生成の説明に不満足げだった。
以前から私は鉱床は一つの成因だけでなく、複数の要因が複合していると考えている。2017年2月、山梨
県身延町「湯之奥金山博物館」主催のフォーラムで、「中津川の砂金」と題して発表させていただいた。
このとき、『ペグマタイト鉱床とされる中津川地方にも「木錫(もくしゃく)が産出するので”熱水鉱床”があり、
砂金はそれに由来する』と述べた。
スカルン鉱床とされる秩父鉱山だが、現在の鉱床が形成されるまでに、少なくとも4回の『鉱化作用』があっ
たと「展示説明書」にある。これが、140種におよぶ『多様な産出鉱物』の理由になっている。
■ 秩父鉱山の鉱床と特徴
秩父鉱山には数多くの鉱床がある。また、本格的な稼行の対象にならなかったものの、秩父鉱山ならでは
の貴重な鉱物を産出する産地も数多くある。それらを地図に落としてみた。
これらの鉱床を @ の「初期塊状鉱床」 と C の「後期鉱床」 の2種に区分できるとされている。
「初期塊状鉱床」・・・・道伸窪(どうしんくぼ)、和那波(わなば)、中津、滝上(たきうえ)
大黒・赤岩下部
「後期熱水鉱床」・・・・・・大黒・赤岩上部
このほかの鉱床や産地には、次のような特徴がある。
六助鉱床・・・・・・・・・Cの後期熱水鉱化作用を強く受け、「輝安鉱」などアンチモン(Sb)を含む鉱物を産出
マンガン鉱物に伴って、「車骨鉱」や「ブーランジェ鉱」などの貴重な鉱物も産出
和那波鉱床・・・・・・・早期塊状鉱床だが、Bのホウ素(B)を付加する「気成交代作用」を強く受け、
「斧石化」が顕著
石灰沢・橋掛沢・・・・石灰沢では日本では珍しい「高温スカルン鉱物」が産出
現在も坑道内で結晶質石灰岩を採掘
ウズノ沢・・・・・・・・・・磁鉄鉱の試掘が行われ、「燐灰石」などが産出
以下、主要な3つの鉱床の特徴を詳細にみてみよう。
◆大黒鉱床(中津・滝上・山鳥窪を含む)
大黒〜中津鉱床の断面を示す図がある。これを見ると、ピンク色の閃緑岩の影響で、広範囲に水色の
再結晶質石灰岩(方解石、大理石)が広く分布していて、大黒と中津鉱床はつながっていることがわかる。
中津鉱床ではその中央に「マンガン鉱」があり、その晶洞部に閃亜鉛鉱、毛鉱などの硫化鉱物が認め
られる。
中津鉱床より200mくらい標高が低い大黒鉱床では晶質石灰岩体に接して硫化鉱物、磁鉄鉱、
黄鉄鉱、磁硫鉄鉱が、また内部を貫く脈状やチムニー(煙突)状に硫化鉱物が認められる。
滝上・山鳥窪鉱床は、ピンク色の閃緑岩の東(紙面に対して手前)にある小さな鉱床だ。神流川に
面する山鳥窪の露頭で、柘榴石を伴う石英脈中に自然金が発見されたことを記憶されている読者もおら
れるだろう。
南←-----→北
◆赤岩鉱床
石灰岩体の南側に石英閃緑岩が貫入し、間にある粘板岩や緑色岩は著しい変質作用を受けていて、
柘榴石、緑簾石、灰鉄輝石などのスカルン鉱物や熱水変質による粘土鉱物が顕著に発達している。
石灰岩の船底部には「磁硫鉄鉱」が存在し、上部になるに従い「閃亜鉛鉱」が増加する。磁硫鉄鉱の
晶洞中には六角板状の磁硫鉄鉱結晶が見られる。
鉱床上部では、亀裂に伴ってチムニー状・脈状の硫化鉱物の鉱体ができている。最上部はマンガン鉱
になっている。
地表近くは酸化が進み、褐鉄鉱、スコロド石などの酸化鉱物や炭酸塩鉱物などに変質している。
北←-----→南
◆道伸窪鉱床
道伸窪鉱床は赤岩鉱床の北東にほぼ平行な形で存在する。したがって、貫入した石英閃緑岩の北に
接して燐灰石・クリントン雲母・黄鉄鉱化を受けたべスブ石・柘榴石主体のスカルン帯が約30mの幅で
生成されている。
火成岩自体も縁辺の一部はスカルン化して、この中のべスブ石は時に径5センチ、長さ8センチの巨晶に
なる。
北←-----→南
日本各地のスカルン鉱床の産出鉱物を一覧表で比較してみると秩父鉱山の鉱物種の豊富さが理解でき
る。
表 スカルン鉱山の産出鉱物比較
今回の展示にあわせて、「展示解説書」が販売されている。その中に、秩父鉱山で産出が確認された140種
の鉱物が一覧表で載っている。このような試みは過去に例がない画期的なものだ。
このリストの錯誤や脱落に気づいたら、ご一報願う、ということなのでそのまま掲載し、識者にチェックをお願
いする次第だ。
鉱山の歴史や暮らしは割愛させていただいた。それらについては、館のミュージアムショップで販売している
参考文献を読まれることをおすすめする。
そこには、写真と鉱山で暮らした老若男女の生々しい証言が綴られていて、当時を疑似体験できる。