8時15分にはバス停に着いた。8時30分に来たバスに、カラカスに行くのを確認して乗り込むと混んでいて
座れなかった。バスはすぐに高速道路に入って、80キロくらいで飛ばす。車掌役の青年が車内を回って運賃を
徴収している。話し掛けてくるスペイン語が全く分からないので、10米ドル札を出すと困った顔をした。すると
隣にいた身なりの立派なビジネスマンらしき男性が英語で、「200ボーリバル・フェルテ(約25円)だ」と教えてくれ
た。
「米ドルしかない」、というと、「私が出してあげる」、と立て替えてくれた。( 結局、今だに返せず仕舞だ )
カラカスは山の蔭にあるので、山の西側を迂回していくことになる。距離にして30キロくらいで、高速道路区間
だけでも25キロくらいありそうだ。そのバス賃が25円と余りの安さには驚きだ。ロシアでもそうだったが、公共交通
機関の料金は日本に比べると驚くほど安いのだ。
私がスペイン語は話せないし、身なりから外国人と判ったので「どこまで行くのか」、と尋ねて来た。「日本人で
カラカスの自然科学博物館に行きたい」、と話すと、「地下鉄の乗り場を教えてあげる」、と言ってくれた。
道路は切通しやいくつかのトンネルを抜けながら坂を上っていく。切通しの露頭を見ると地学的に面白そうで、
ここで降りたいくらいだが、バスはノンストップで飛ばす。
9時少し前に高速道路を下りて5分も走るとバスターミナルに着いた。先ほどの男性に促されてバス降りた。
地下鉄の「ガトー ネグロ(Gato Negro)」駅まで案内してくれた上に切符まで買ってくれた。別れ際に、「カラ
カスの町は危険だから、持ち物には気を付けるように」、と注意してくれ、お別れした。
キップには Bs36,00 と印刷してあり、36ボーリバル・フェルテ(約5円)だから、これまた驚くほど安い。
エスカレータで地下に降り、キップを自動改札機に通してホームに行く。ラグアイアの町では見られない日本の
都市部と変わらない光景があった。ほどなくして車両がホームに滑り込んできた。新しいせいか、東京の浅草
線のような古い路線の車両や駅よりも清潔な感じだ。
日本にいるときに、降りる駅が「バラス アルテス(Ballas Artes)」だと調べておいた。6つ目の駅だから10分
ほどで着いた。
自動改札を通り、エスカレータで地上に出る。
自然科学博物館は、丸い前庭を持つ、上から見るとアーチ(円弧)状の白い建物だ。正面に入り口があり
小さなドアが開いているだけで、入りにくい印象だ。入場は無料で、入ると見学者は私だけだった。
自然科学博物館だが、白クマのはく製、サーベルタイガーの骨格などの化石類から先住民の土器などまで
展示してある。一方、最新の「ナノテクノロジー」などのコーナーもあるが、全般的に展示品は貧弱だ。
関心がある鉱物関係では、唯一「忍ぶ石」と呼ぶ堆積岩の隙間に2酸化マンガンや酸化鉄が沈殿し、樹枝
状やシダ状の模様を示すものがあっただけだった。(展示説明は、間違って「化石」になっていた)
土器は日本の縄文時代のものに似た意匠で、アジアの東端でとどまった日本人とベーリング海峡を渡り
北アメリカから南下してきたベネズエラの人々とに共通点があるようで、親近感を覚える。
これでスゴスゴ帰るのも何なので、学芸員らしき人に「ベネズエラの鉱物の本か文献などがあれば見せて欲し
い」、とお願いした。しばらく探していた彼女が、「これしかない」、と言って鉱物産地地図のページを示したので、
コピーをとってもらった。
これを見るとベネズエラには石油だけでなく、金、ダイヤモンドからレアミネラルと呼ばれるタンタル、ニオブなどが
豊富に産出するようだ。地図中央は白が目立つが、ジャングル奥地や山岳地帯でこれからの探査・開発を
待っているのだろう。
自然科学博物館を出て地下鉄駅に戻る。道路脇に露店がいくつか出ていた。アクセサリーを並べた店に
鉱物が並んでいたので、ベネズエラ産か確認すると、”Ave de Paraiso(Bird to Paradise)産だという。
「黄鉄鉱(Pirita)」と「瑪瑙(Jaspe)」2つで3米ドルだというので、5米ドル札を出して、現地通貨でお釣りを
もらった。(数えもしなかったが、2,000Bsくらいあったはずだ)
駅を通り過ぎて西の方に行くとそこにも露店があり、果物、飲み物、クラッカーなどを売っていたのでそれを昼
の代わりに食べた。たしか、500ボーリバル・フェルテ(約60円)だったから前の日に食べた中華料理の8.3ドル
(約900円)に比べるといかにも質素だった(貧しかった)
地下鉄「バラス アルテス」駅から「ガト ネグロ」駅まで戻る。12時20分だった。駅前にはバスがたくさん停まって
いて、バスターミナルになっているようだ。
ロシアでもそうだったが、バスに乗った場所にバスで戻るのは意外と大変なのだ。ロシアでは結局タクシーで
帰る羽目になったが、ここではタクシーはつかまらない。「ラグアイア バス?」、と聞いて回るが「??」、という
人がほとんどだ。
テレビ番組でタレントの出川が、海外で指示されたミッションを達成できるか追跡する番組があるが、それと
同じだ。
「ラグアイア」と言っているが、スペイン語の綴りは”LA GOAIRA”なのだ。ローマ字だと、「ラ・グォアイラ」とでも
発音するのだろうと思って聞いてみると、「あの列だ」と教えてくれた。
こうして乗り込んだバスは来た時のバスよりも”ボロ”だった。その代わり空いていて座れた。ラグアイアの町が
近づくとドアを開けたまま走っている。
バスと並んで走る車をみると、外板の下の方が”ボロボロ”に錆びていて、塗装で誤魔化しているだけのようだ。
走っている車のほとんどが似たり寄ったりだ。
ネットで調べると、ベネズエラ国内で車の生産(販売?)台数はトヨタなどが月産100台前後だから、新車
よりも圧倒的に中古車が多く、このような車を目にすることが多い。
バスの料金は行きと同じかと思って200Bs出すと、50Bsお釣りが帰ってきた。理由は、バスが”ボロ”いからなのか
ほんの少し乗車した距離が短いからか聞きもしなかった。(高かったら聞いて、値引きしてもらったはずだ)
■ 糊なし切手を手に入れろ
前の日に行った郵便局で買った切手(1通分40円)は裏糊がなかった。今時、裏糊のない切手は珍しいから
お土産に買っておこうという気になった。13時ごろ郵便局に行くと木曜日なのに閉まっている。近くにいる人に
「なぜ閉まっているのか」、とか「何時に開くのか」などと英語で聞くのだがスペイン語しか解さない現地の人との
意思疎通は厄介で要領を得ない。
何人か目かの男性が「2時に開く」というので、2時に行くとまだ閉まっていた。切手を売っている店を探そうと
思い、あちこちで「estampilla(切手)!!」と聞くのだが、切手そのものを知らない人もいて、首をかしげる人が
ほとんどだった。
郵便局前のゆるい坂道を登っていくと、銃を構えた警察官がいた。「ここから先は、観光客は入らないように」
と言っているようで、追い返された。船で、「山の方は危ないから行かないように」、と説明があった理由がここで
わかった。
それでもあきらめずに、「あっちのショッピング・モールならあるかも」、というかすかな情報を頼りに、街をグルリと
一回りしたが、結局切手を手に入れることはできなかった。
この経験から、『郵便が日常生活から離れている』と感じ、この想いは開発途上国だけでなく先進国でも
同じだった。
【後日談】
そう感じたのは、開発途上国の低所得者層は識字率も高くなく、郵便で用事を済まそうというニーズが
低いし、高所得者層や先進国では携帯やスマホなど携帯端末を利用するので、郵便の出番が少ないの
だ。
■ 散髪して”スッキリ”
船に乗って2ケ月余りが過ぎていた。一度船の中にある美容室で髪の毛をカットしてもらったが、腕が良く
ない上に、ものの15分くらいで料金はシッカリ4,000円近くとられた。いつもは1,000円散髪で済ませている4倍だ。
髪の毛が伸びてきたので、ソロソロ散髪しなければと思っていたところ、前の日船に戻ったときに”スッキリ”して
いる人(Tさん)がいたので話を聞くと、公園の西側の床屋でやってきたという。
公園はわかっているので、そこに直行すると、確かに床屋が2軒、目に入った。清潔そうな方を選んで入り、
料金を聞くと、1,000ボーリバル・フェルテ(約125円)か1米ドルだというので頼む。スペイン語で注文を付けられ
ないから”お任せ”だ。
カットが終わり、ひげ剃りにうつる。万一”エイズ”の人と同じカミソリでやられてはたまらないと思っていると、
替え刃式のカミソリで、目の前で新しい刃を出して装着してくれたので、安心し手お任せした。
30分くらいして、”スッキリ”した。1米ドルとチップに300ボーリバル・フェルテ(約35円)を渡して店を出た。
【後日談】
船にもどると”スッキリ”した髪の男性が目についた。PCで私をサポートしてくれている”正ちゃん”もその一人
だった。
彼も私とおなじ店でやったようだ。ところが、カミソリを出した途端、”オー、ノー”と言って店を飛び出した
と話してくれた。
■ 音楽CDをゲット
前の日、MさんからCDを買う何らこれが”BOB MARLEY"のこれが良い、と薦めてくれたので、ジャケットを写真に
撮って、それを持って再びCD店に行った。探してもらうが1点ものが多いせいかなかなか見つからなかった。それ
でも探し出してくれ、1枚1米ドルで買って帰った。
■ スーパーの出口でチェック?!
小さなプラスチックケースを買った。598.21Bsに12%の消費税がついて、670Bs(約85円)払ってレジを通ると
出口にいた男性が「レシートと袋の中身を見せろ」、と言っているようだ。その通りにすると、中身とレシートが
合っていたので、レシートに2本線を引いて通してくれた。
なぜ、このような手間のかかることをやっているのか聞きもしなかったし、聞いてもスペイン語でまくし立てられ
たら解らないから聞かないのと同じだ。
思うに、万引きの防止だろう。それだけ、犯罪が多いということと、このようなことに人手をかけられるほど、
人手が余っている(失業者が多い)、ということだろう。
この後、ショッピングモール、と言えば聞こえは良いが映像でしか見たことはない「戦後の闇市」のようなところで
”赤シャツ”を買った。Adidas のマークが入ったもので、18米ドルしたから、ここでは高級品だ。
じつは、パナマ運河を渡ったころ、船内で運動会が開催されるのだ。船客を4つのチームに分け、私は紅組
になったのだが、赤いシャツなど持っていないので買った次第だ。
こうして、船に戻ったのは16時ごろだった。夕食の後、デッキに出てみると、船の脇に停まって給油していた
タンカーもちょうど仕事を終えて離れるところだった。産油国のベネズエラでたっぷりと給油すれば、横浜、いや
神戸までもつのだろうか。
西の空を見ると、この航海を通して、一、二を争う美しいのカリブ海の夕焼けだった。”分々秒々”変化する
夕焼けを飽かずに眺めていた。
明日のキュラソーの旅も良い天気に恵まれそうだ。
同じことを、この先訪れるパナマでも感じることになる。
(2) 記号の難しさ
このページをまとめる時もそうだが、できるだけ正確を期そうと自分の記憶以外に日記帳、メモ帳、メモ書き、
そして船で配布された上陸地案内や船内新聞をひっくり返しながら記事を書いている。
この日訪れた博物館は「自然博物館」だとばかり思っていたら英文から「自然科学博物館」だとわかり、
何度も図や原稿を修正するありさまだ。
『老老介護』で妻の母親の家に行って困ったことの一つがインターネット環境とプリンターがないことだ。
メールをいただいても返事が遅くなり、失礼することも少なくないと思う。
急ぎの場合、近くの無料Wi-Fiが使えるファミレスに行って、飲みたくもない一番安いドリンクバーを注文
してインターネットに接続している。また印刷して介護の関係者に配布する資料は、近くのコンビニでコピー
している。
いつまでもこのままではマズイと思い、インターネット環境を整えることにした。通信量や必要スピードから
光通信にする気はないが、家の中は無線ラン(Wi-Fi)にしたいと思い”ルーター”を購入して、来週には
接続する予定だ。
船の中では衛星通信を使ったWi-Fiが使えることになっているが、なかなか安定しなかった。船内新聞の
6月5日号に次のような川柳が載ったのはこの状況を明快に説明してくれている。
『 ワイファイよ
お前は山の
天気かよ
(海神) 』
海神さんですらこうなのだから、凡夫の私が手こずるのは当たり前だ。Wi-Fi接続できないのが衛星通信
の電波が弱いとか船のシステムメンテなどの外的環境の影響なのか、自分のPCやスマホの設定などが悪い
自己責任なのかが判らないのが一番問題だと思った。
そこで、その日の衛星通信の状況を” ◎ ○ △ × ” の4段階で、私の指定席の8階オープンデッキの
窓ガラスに表示することにした。私の感覚では、 ◎ は一番良くて、 × はダメ という心算(つもり)だったし
日本人はこれを見て、「今は × だから Wi-Fi 接続を止めよう 」、と言って頼りにしてくれていた。
掲示を始めて間もなく、アラスカ在住のトマス・ヒギンズさんが来て、「MH、◎ と × のどっちが良いのだ?」と
聞かれ、絶句した。”判りきっているだろう”と思ったことが、記号だけでは国や人が違えば理解できないのだ
と知り、慌てて、◎ の上に ”Good" 、× の上に ”Bad" を追記した。