船の中では毎月”Birthday Party"が開催される。乗船した4月12日から下船した7月26日までの間に誕生日
が来る人で希望する人を対象に、毎月(何回か)誕生会が開催される。幼稚園などでやっている「誕生会」と同じ
だ。1,000人からの船客がいるのだから、単純に計算してもその月に生まれた人は80人はいるわけで、誕生会の
ある日は前後半2部制の夕食時には、あちこちのテーブルから、♪♪ Happy Birthday dear ○○○ ♪♪ の
歌声が聞こえてくる。
6月4日のアメリカ人・Teresaさんの誕生会に招待していただいた。Teresaさんとは共に趣味が「鉱物」ということ
もあり、私が8階ロビーの定位置にいるときや食事をしているときに、ご主人のRayさん(私と同い年!!)と一緒に
来て談笑することが多かった。そんな理由で招待してくれたようだ。
誕生会に出席するとなると、@ 何を着ていくか A 何をプレゼントするか が問題だ。まず服装は、公式な席に
出席する場合を想定してスーツを持参していたのでこれを着ることにした。それだけではありきたりなので、出発前に
骨董市で買っておいた古い羽織を羽織ることにした。しかも、裏返しして。浴衣姿のRayさん、Teresaさんと並んだ
出席者の服装を見ると船の事務長はタキシード、あねごはチャイナ風、そして女性カメラマンのカジュアルまで色とり
どりだ。
船の売店には日本のコンビニでも売っていそうなチョコレート、お煎餅からTシャツまで、プレゼントにできそうな品が
並んでいるのだが、ありきたりだ。
趣味が鉱物のTeresaさんに何回か貸してあげたことがある、「日本の鉱物」を袋に入れてプレゼントした。
こんなイベントを楽しんでいる間にも船は北欧最後の訪問国ノルウェーのベルゲン港に1海里、1海里近づいてい
た。
(2016年6月5日 体験 )
フィヨルドは湾入口から湾奥まで湾の幅があまり変わらず、非常に細長い形状になる。さらに、両岸は湾奥を除き
断崖絶壁となっているところが多く、水深も深い。
われわれが訪れたソグネ・フィヨルドは、グリーンランドのスコルズビ湾に次ぐ世界第2の規模で、幅は一番広い
ところでも数キロしかないが、長さは200キロ、水深・両岸の断崖ともに1,000mを越えている。
ベルゲンの街並をみたり、ノルウェーの魚料理なども堪能したいが、朝8時にベルゲンを出発して18時30分に戻る
強行軍のオプショナル・ツアー「フィヨルド列車とフェリーでゆくソグネフィヨルド観光」に申し込んでおいたので、期待
できなかった。
1) ベルゲン @ からバスでグドヴァンゲン A へ
2) フェリーに乗りフィヨルド B 観光
3) フェリーをフロム C で降り、フロム鉄道でミュールダール駅 D へ
4) ベルゲン鉄道に乗り換えて、ヴォス駅 E へ
5) 徒歩でホテルまで行き、休憩
6) バスでベルゲン @ へ
7時ごろ船がベルゲンの港に近づくと周りが薄暗くなってきた。ベルゲンの街は背後まで高い山が迫っているので、
朝日が遮られてしまうせいだ。
8時にロビーに集合し、バスに乗ってベルゲンの街を後にした。バスの号車・座席は決まっていないので、早い者
順に空いているバス、好きな座席を選んで座っていく。ツアーの度に周りの人の顔触れが変わることになる。私は、
写真を撮りたいので窓際の席に座りたいのだが、思った通りになるのは3回に2回くらいだった。
バスは地図のベルゲン鉄道に沿った道路を走る。行き交う車も少なくて”渋滞”という言葉がここにはなさそうだ。
対向車のライトが点きっぱなしになっているので同乗している地元ガイドに聞くと、「冬季日照時間が極端に短い
ノルウェーではライトを点けていないと事故になるので、法律で一年中自動車は走行中ライトを点けることが義務
付けられている」、とのことだった。
車窓にはベルゲン鉄道と名も知らないフィヨルドや湖沼そして木々に覆われたなだらかな頂をもつ山の景色が
次々と現れては後へと去っていく。もうすぐフィヨルドの中を船でクルーズするのだと思うと、ワクワクしてくる。
やがて人里が見えてきた。家の造りが牛などの牧舎のようだ。家の周りは短い背丈の牧草のようで、この辺りは
観光業以外牧畜業が唯一の産業のようだ。人家の奥に見える山の頂は6月だというのに斑(まだら)に雪が残って
いて、冬季の雪の量が多さや、厳しい寒さを伝えてくれる。
さらに進むと、絶壁に滝がみえる。何段かに落ちる水量豊かな滝は、水煙を巻き上げ、折からの強い日差しに
照らされて虹が見えるようだ。
10時半過ぎに、グドヴァンゲンに着いた。ここにはフェリーの船着き場と土産物店が2つ、3つあるだけの予想に反
して小さな港だ。
フィヨルドの岸辺には、かつてヴァイキングが乗っていた「ロングシップ」と呼ばれる喫水の浅く、細長い舟を展示して
ある。この船は、外洋では帆走もできたが、多数のオールによって漕ぐこともでき、水深の浅い河川にでも侵入できた。
また陸上では舟を担いだり引っ張って移動することもあり、ヴァイキングは”神出鬼没”、と恐れられた。
獰猛で略奪を生業とする野蛮なイメージのつきまとうヴァイキングだが、最近の研究ではかれらの収益の大部分は
交易によるものだったと言われている。
すでに停泊しているフェリーに乗り込む。出港を待っているとフィヨルドを航行している同じ型のフェリーが到着した。
いよいよ、われわれが乗ったフェリーが出港だ。11時過ぎに船は動き出した。船から見て初めてグドヴァンゲン港は
フィヨルドの行き止まりにあるのがわかり、その先に見えるU字谷が白い雪をいただく高い山につながっているようだ。
船の展望デッキに居場所を決める。狭いフィヨルドの中を進むと周りの景色に圧倒される。11時半過ぎに、「昼食
を摂ってください」、と案内があり、船内にはいるとサンドイッチとカップにスープを入れて配っていた。それをソソクサと
食べ、再び展望デッキに戻る。
しばらく、フィヨルドの景色をご堪能あれ。
1時ごろ、「アウルランド・フィヨルド」の行き止まりにある目的地のフロムの港が見えてきた。背後に迫る雪をいただく
山の高さは、優に1,000mはありそうだ。
フロムの港には大きな土産物店や観光案内所のような公共施設もある。ポストを見かけたので中国人が経営する
土産物店で切手を買って、孫娘などに絵葉書を出す。投函する様子を自撮りだ。
【後日談】
ここで投函した絵葉書や封書は、無事に妻の手元に届いていた。
「トルトベイト石」は、1903年ノルウェーのペグマタイト産地で発見されたが不明鉱物とされていた。1911年に分析
した結果、ノルウェーのあるスカンジナビア半島に因んで名付けられたスカンジウム(Sc)を含む新鉱物とわかり、
発見者でノルウェーの鉱物学者O.Thortveitの名前から名付けられた。THORTVEITITE:Sc2Si2O7 は、
ノルウェーの「国石」とでもいうべき鉱物だ。
フロム駅に向かう。ホームには銀色に輝くいかにも力強そうな電車が停車していた。それもそのはず、標高2mの
フロム駅から標高866mのミュールダール駅まで20.2キロを約1時間かけて一気に駆け上るのだ。とは言え、傾斜が
急になるのは行程の後半以降だ。
車内はノルウェーの豊富な森林資源を生かしたパイン(松)板張りの内装で、木材で造られた家に住み慣れた
私には落ち着ける空間だった。
沿線20.2キロの見どころを現地でもらった絵地図の左から右( F フロム駅 → @ 「ミュールダール駅」)に順次
紹介しよう。地図で白く雪に覆われている山々は、標高が低いもので1,200m級、高いものは1,700m近い。
フロム駅を出た列車は、船からフロム港をみたときに見えた「 E フラム渓谷」の間に入っていく。多くの人々から、
『フロム鉄道は世界一美しい電車』 と呼ばれるのはこのような風景からだ。
D ブレークヴァム(BEREKVAM)は、フロムとミュールダールの中間地点にあり、この区間だけ複線になっているので、
列車がすれ違うことができる。
C 谷の対岸に見えるコールダル(KARDAL)は、フロム峡谷で一番標高(556m)が高い村落だ。ここまで登ってくると、
フロム谷は遥か眼下に見え、白い山頂が間近に迫ってくる。
ショースの滝があるのは E その名の通りショースフォッセン(KJOSFOSSEN)だ。(FOSSENN;滝)トンネルとトンネルの
間にある滝には、フロム鉄道に乗る以外アクセスできない。ここまでくる間にいくつもの滝を見てきたが、6月のこの
時期は水量も多く、ノルウェーで最も感動した滝になった。
この駅では列車は滝を見るために5分間停車する。私が乗った車両は前の方だったので、トンネル(スノー
シェイド?)の中に停車し、滝の見える位置まで少し歩くことになった。
滝が近づいてくると”ドド〜ッ”、という音と地響きのような振動が伝わってくる。人と話すにも、大声を出さないと
聞き取れないくらいだ。滝の水しぶきが風で列車近くまで吹き飛ばされホームが”ビッショリ”濡れているし、滝の
近くにある柵に近づくと”ヒンヤリ”した雪解け水の水しぶきが掛かる。
【後日談】
居合わせた新潟のAさんに、私のカメラで写真を記念撮ってもらったのが上の1枚だ。お礼に写真を撮り、後日
船の中で印刷してお渡しした。
上の写真をよく見ていただきたい。滝の右側の”石舞台”の上で赤い衣装を着た女性が舞っているのがお判り
だろうか。念のために、”↓”を入れておいた。
『 このショースフォッセン滝は、男性を誘惑するという妖精フルドラの伝説が語り継がれている場所。運が良け
れば、滝の岩場から妖精フルドラが現れ、その舞を見ることができます。 』、とあるように、この妖精さんは空想
でもファンタジーでもなく、リアルに目の前に現れるのだ。ちなみにこの妖精さんの出現は、フロム鉄道が用意して
いるアトラクションのひとつだそうだ。
『 妖精フルドラは、その美しい魔力で男性を誘惑し、山の奥へと誘い込む。男性の方はぜひご注意ください。
ちなみにこの滝、冬に訪れると凍ってしまいます。ダイナミックな滝と妖精をご覧になりたい方は、暖かい季節に
訪れることをお薦(すすめ)めします 』、とある。
さて、Aさんを写した写真をよく見たところ、妖精の姿が見えないのだ。ものの1分と経たないうちに写したのだが
写っていない。やはり、妖精フルドラは、男性だけを誘惑するのだろうか。
( この写真の方が、滝に迫力が伝わってくる )
フロム鉄道には約20のトンネルがある。、それらの内、2カ所をのぞいてはすべて手掘りで掘られたらしい。作業は
6〜9人の少ない人数で、1週間に2メートルという遅々としたスピードで掘り進められたそうだ。またフロム鉄道の
特徴として、谷や川を渡るときに橋の上を通らず、線路の下のトンネルに川を通すという工夫がされているのだ。
当然これらの水路も彼らが掘ったのだ。これらを忍耐強く掘り抜き完成させた坑夫たちの苦労がしのばれると同時に
ヴァイキングの血を感じる。
ここで Mineralhunters の血が騒ぎ、トンネルの壁を観察してみた。この辺りの岩石は、黒色の堆積岩で
ところどころに白い石英塊がレンズ状に挟まれている。たぶんこの岩石が生まれたときには海底にあった地層が
何千万年か何億年後に標高669mの山の上にあるのだから、自然のダイナミズムの不思議さを感じざるを得ない。
当然(?)、落ちていた岩石のカケラをポケットに忍ばせるのを忘れない MH だった。
傾斜がきつく屈曲が多い路線のフロム鉄道工事の難所と思われるのが A の ヴァトナハンセンだ。
「ショースの滝」を出発してすぐに列車はトンネルに入り左に急旋回し、180度方向を変える。ここで100m」の高度
を稼ぎ、「ショースの滝」の上に出るのだ。列車に乗ったわれわれには見ることができない光景をパンフレットから引用
するとこのような難所を通っていたことがわかる。
列車は山の上に出て、雪が残る山腹を間近に見ながら進むと、14時少し前に赤レンガ造りのミュールダール駅が
見えてきた。駅の反対側からわれわれの乗った列車を見ると、このように見えるらしい。
ミュールダール駅は、首都オスロ方面とベルゲン方面の鉄道の分岐点になっている。ベルゲンに向かう路線は「ベル
ゲン鉄道」、と呼ばれている。ここにはカラフルな列車が勢ぞろいしていて、”乗り鉄君”には堪(たま)らないスポット
だろう。甥っ子が”乗り鉄君”、という東京・Aさんへのお土産に何枚か列車を撮った。
ここからヴォス(Voss)駅まで、およそ40キロのベルゲン鉄道の旅が始まる。氷河で削られた”カール”と思われる地形
がアチコチに観察できる。雪解け水が溜まって「高層湿原」を形成している。6月の今は花が全く見られないが、8月
ごろになれば一面花が咲き乱れるのだろう。
1時間ほどでヴォス(Voss)駅に到着した。赤い車体のローカル電車が走っている。駅舎は石造で、外壁には赤い
ポストがあった。
ヴォスの町は、ウィンターリゾート地で日本選手が活躍した場所でもある。第2次世界大戦中にドイツ軍に侵攻さ
れた時に、破壊を免れた1277年に建立された石造りのヴォス教会の尖塔が駅からも見える。
みなさんは500mほど離れたホテルまで歩き、そこで休憩するようだが、湖が見えたので岸辺には石があるはずだと
思い行ってみた。後で調べると、この湖は「ヴァングス湖」で、ノルウェーで2番目に大きい「バダンゲル・フィヨルド」に
つながっていることがわかった。
17時近くになって、再びバスに乗り、ベルゲン港に向かって出発だ。「ヴァングス湖」の湖面の標高は47mなので、
ベルゲンまで緩やかに下っていくことになる。
ベルゲンでの交易は11世紀初頭に始まったとされ、1217年から1299年までノルウェーの首都だった。13世紀後半
からはハンザ同盟都市となった。1789年までベルゲンはノルウェー北部と国外の仲介交易の独占し19世紀初めまで
ノルウェー最大の都市として栄えた。
ハンザ同盟時代の波止場やブリッゲン(ドイツ人街の木造倉庫群)が修復保存され、世界遺産になっている美しい
街だ。
バスを降りたのはベルゲン港の一番奥にある「マーケット」の南東200mくらいのところだった。まずは、マーケットを
覗いてみた。カニなど海産物が氷の上に並び、裏手にあるテーブルで買ったばかりのを食べることもできる。小さいカニ
1パイが500NKR(約7,000円)、タラでも1匹400NKR(5,500円)の”観光地”値段を見て、パスせざるを得なかった。
港の東側、世界遺産の「ブリッゲン」を陽の高いうちに眺めておくことにした。赤さび色、黄色、白色と色とりどりの
倉庫群が美しい。
建物の中は店になっているのだが、ほとんどの店が閉まっていた。それもそのはず、明るいから気づかなかったが既に
18時を過ぎていた。それでも、「ミネラルショップがある」、と聞いたので、倉庫群の裏通りに回ってみると、ほとんどの店が
閉まっている。たまたま開いていた店の人に聞くと、「今日は日曜日だから閉めている店が多い」、ということで、ノル
ウェーの鉱物を手に入れることもできなかった。
そろそろ船に戻ろうと、港の入り口(地図の北端)の「停泊地」を目指して「ブリッゲン」の並びを歩いて行くと、
建物の床下の部分を発掘し、出土したガラスや陶器などと共に往時の姿を展示していた。
近くでたまたま開いていた土産店で、ヴァイキング時代のロングボートを発掘している光景を描く絵葉書を売って
いたので、考古学を生業としていた妻にお土産として購入した。
いよいよ船に戻ることにして、地図の緑色に染められた「ホーコン王の舘」の脇を通ると巨大な露頭が観察できた。
どうやら粘板岩のようだ。その近くにいろいろな材質、大きさの岩石をコンクリートで塗りこめた壁があった。さしずめ、
ノルウェーの岩石見本のようで、粘板岩、変成岩、花崗岩など、国産岩石を網羅しているのでは、と思わせた。
こうなることはある程度予想していたので、スウェーデンを訪れた際にたまたま眼にしたノルウェー産「ルチル(金
紅石)入り水晶」を手に入れておいたのだ。
・ 北極圏をめぐる地球一周の旅 【スウェーデン】
( Tour around the World & Arctic Circle 2016 - Sweden - )
前日に誕生パーティの主役だったアメリカ人のRayさん一行は、ベルゲン市街の背後にあるフロイエン山にケー
ブルカーで登った、と報告してくれた。「山頂付近にあった石だ」、と言いながら、お土産に石を渡してくれた。
このころには、私の石好きは船客に知れ渡り、あちこちの石が集まってくることになる。