北極圏をめぐる地球一周の旅 【北極圏】 ( Tour around the World 2016 - Arctic Circle - )









         北極圏をめぐる地球一周の旅  【北極圏】

              ( Tour around the World 2016 - Arctic Circle - )

1. はじめに

    船がアイスランドのレイキャビックを出港したのは6月9日の22時ごろだった。上陸の日恒例になっている船内
   の居酒屋「波平」でビールを飲む。この日は歩き疲れたせいで早く、と言っても日付が変わるころだが、ベッド
   に潜り込んだ。

    6月10日、朝5時に起きてデッキに出ると曇っている。6月7日にノルウェーを離れてからというもの、毎日の
   ように曇りか小雨で太陽を拝んでいない。雨が降っていなければデッキでやる「太極拳」も船内のラウンジに
   場所を移動することが多かった。

    この日の航海のハイライトは『北極圏航行』だ。北緯66度33分より北を『北極圏』と呼んでいる。2015年の
   「南極探検」では、『南極大陸』に何回か上陸したので、これで両極を制覇することになる。
    またアイスランド沖はホエール・ウオッチングのメッカになっているので、この海域で鯨などの大型海洋生物と
   遭遇できるチャンスがある。否が応でも期待が高まる。
    ( 2016年6月9日〜12日 体験 )

2. 『北極圏』に到達!!

    9日深夜に出港したレイキャビックの緯度は64度8秒だから、2度30分も北上すれば北極圏に入る。地球の
   北極と南極を通る方向の直径は40,007キロだから、緯度1度の長さは、 40,007 ÷ 360 = 111.1305 km
   になる。2度30分 × 111km ≒ 280 km 、時速15ノット(28km/時)で進めば10時間、10日のお昼前に
   到達する予定だ。

    6月9日から12日にかけての船の航跡を地図に示す。

    
                       アイスランド−グリーンランド沖航路

     船はアイスランド最西端をかすめる経度線まで出ると真北に舵を切って北上した。6月10日の10時頃、
    「北極圏に入った」、という情報が伝わってきた。
     あねごの発案でデッキで記念写真を撮ろう、ということになった。あねごが持参したビニール製の地球儀に
    空気を入れたが、気温が低いのすぐに萎(しぼ)んでしまう。

     
                          「北極圏到達』記念写真

    【後日談】
     この時居合わせなかった人たちにこの写真を見せたところ、「私も仲間に加えて」、という要望が強かった。
    チャコちゃんもその一人だった。写真を撮って、後から”合成”する裏技を駆使し絵葉書を作成した。こうして
    何人かのお土産に加えていただいた。

     
                         「北極圏到達』記念絵葉書
                          【チャコちゃんバージョン】

    このとき、霧が深く景色は時々刻々と変化していき、視界は100m〜500mくらいしかなかった。海面には
   氷のカケラも見当たらなかった。流氷域が西にあることはわかっているので船は西に舵を切って進む。

    「鯨が見えた!!」、という声で左舷後方デッキに走って行きビデオを撮る。海洋生物が見えるのは1、2秒か
   ほんの一瞬なので、シャッターチャンスを捉まえるのは神業で、ビデオで撮るのが一番確実なのだ。しばらく待っ
   て、ようやく鯨の背中だけをとらえることができた。

     
                            鯨発見!!

    外はあまりにも寒いので、暖かい8階左舷デッキの定位置で談笑していると、スマホで海面を写していた人が、
   「流氷が見える!!」と叫んだ。海面を見ると小さな、と言っても数百キロはありそうな氷塊が漂っている。近く
   にいたほとんどの人がデッキに出た。進行方向で流氷を観たいと思い、右舷前方デッキに急ぐ。
    船はすぐに流氷域の真っただ中に突入し、人が歩くくらいのゆっくりしたスピードに減速し、やがて停船した。
    船首方向を見ると流氷がビッシリと海面を埋め、砕氷どころか耐氷構造にもなっていないこの船でこれ以上
   前進するのは無理だと素人目にもわかる。

     
                            流氷群・船首側

    船尾側に行ったあねごにもらった写真を見ると、船が停まったのは流氷が密集している海域に入ってすぐだっ
   たようで、船の後方約200mから先には大きな流氷は見られない。

     
                             流氷群・船尾側
                             【撮影:あねご】

    この流氷は、グリーンランドの氷河の氷が崩れて、海流や風によって大西洋に押し流されたもので、大きな
   ものだとタイタニック号ほどの大きな船を沈没させる危険性を潜んでいるから油断できない。
    そんなことが頭の片隅にあるせいか、ときどき、船に流氷がぶつかる”ゴン”という音や、船腹を擦る”ギ〜”と
   いう音がなんとなく不気味だ。氷塊の大きな物は長さ10m、幅10m、海面から出ている高さが50センチくらい
   ありそうだから、単純計算でも500トン前後の重量がありそうだ。
    流氷の中には波長が短い青い光を反射するせいか、ブルーに見えるものもある。

     
                              青い流氷塊

    流氷群の真っただ中に1時間ほどいて船は再び動き始めた。流氷群に頭を突っ込んだ形になっているので、
   ユックリと後ずさり(後進)してから、南西に向きを変えて動きはじめた。

3. 『オルカ(しゃち)』が見えた!?

    船が動き始めてまもなく、8階左舷デッキに戻っていると「イルカが見えた!!」、という声がした。白と黒の
   まだら模様が海面上に飛びあがるのが見えた。本当だったらニコンの30倍望遠のコンデジの方がよかったのだが
   すでに望遠機能が動かなくなっているので、代わりに一眼レフカメラの200mmレンズを装着して船尾に走る。
    ビデオを撮りっぱなしにして海面をウオッチしていると、5頭の群れが現れ、順番に海面上に飛びあがるのを
   撮影できた。まるで群れでじゃれ合っているようだ。ショーは10秒足らずで終わり、1、2分すると再び姿を見せて
   くれる。こんなことを3、4回繰り返しているうちに、だんだん船から遠ざかって行き、姿が見えなくなった。

    ビデオ画像を再生しながら、気に入った画面を”プリントスクリーン”でキャッチし、パワーポイントに貼りつけ、
   ”JPG"に落とし、それらのいくつかを絵葉書にしてみた。これらを次の寄港地カナダ・プリンスエドワード島で投函
   した。

     
                         群れで泳ぐ

     
                  絵葉書

    【後日談】
     「南極探検」で鯨は何回も見たが、オルカ(しゃち)を見たのは、1回しかなかった。そのくらい珍しいのだ。
    そんなところから、オルカは、おるか!?、てな駄洒落が生まれたくらいだった。

     ・ 古希記念 南極ミネラル・ウオッチング
      2015年 南極探検旅行 【南極の楽園】
      ( Mineral Watching in Antarctica , Antarctica Expedition 2015 , - Paradise of Antarctica - )

     翌日、アメリカ人のTeresaさんにこのビデオを見せた。彼女は、「これはイルカだ」という。私は珍しいモノを
    見た、と言いたいばかりにか、「あれはオルカ(しやち)だ」、と言い張った。

     【後日談】
      2017年12月を目前にし、この時から1年半が過ぎている。イルカ・オルカ論争に決着をつけておかねばなら
     ない。東京に出た時、趣味の切手店でアイスランドが発行した鯨などを描く切手シートを入手した。

     
                       海洋生物を描く切手
                        【アイスランド発行】

      縦 2 × 横 2 = 4種の切手が印刷してある。左上が    オルカ(Orcinus orca)、右下がネズミイルカ
     (Hnisa)だ。
      オルカの特徴は、まっすぐに立った背びれで、”寝た三角形”をしているイルカとの大きな違いだ。ホエール・
     キラー(クジラ殺し)の別名があるオルカは、餌食の周りをジョーズと呼ばれるサメと同じように、背びれだけを
     海面上に出して取り囲む不気味な泳ぎ方をする。

      私が撮った写真の背びれをよく見直すと、”寝た三角形”だ。すると、これはイルカだ。「Teresaさん、あな
     たが正しかった!!」

4. 迷走する船!?

    6月11日、船は一日中グリーンランド最南端の「ケープ・フェアウエル(フェアウエル岬)」を目指して大西洋を
   南西に進んでいた。
    この日の夕食は、鮭の分厚い切り身の上にイクラを散らした「海鮮丼」風で、この海域特産の海の幸をたっ
   ぷりと味わった。

     
               今夜の夕食は「海鮮丼」

     夕食を終えてロビーに行くと、航路変更の掲示が出ていた。『 「ケープフェアウエル」沖付近が悪天候の
    ため観光を取りやめて、明朝(12日)朝5時ごろ「プリンス・クリスチャンサウンド」フィヨルドに入り悪天候を
    避けるコースをとる 』
 とあった。
     このフィヨルドは、グリーンランド南部にある世界最大のフィヨルドで、この掲示を見た(全員ではない)船客
    は大喜びだ。

     
                      グリーンランド南端の観光コース地図

     翌6月12日の5時ごろ起きてデッキに出てみると、霧はないが曇り空で、少し風がある。世界最大の島・
    グリーランドの景色がハッキリ見える。雪をいただく山肌には、氷河の痕跡と思われるカール(圏谷:けんこく)
    地形があちこち観察できる。
     寒い中、デッキでフィヨルドにいつ入るのか心待ちにしていたが船は一向にその気配を見せずに、フィヨルド
    の入り口と思われる場所を通り過ぎた。

     
                        フィヨルドの入り口を通り過ぎる

     どうやら、フィヨルドを航行するというのは、船長の”リップ・サービス”だったようで、変更前のコースをとるようだ。
    グリーンランドの南端に近づくと、風が強まり、その風に流されてくる大きな流氷が点々と見える。その大きさは
    乗っている船と同じか、それ以上の物も珍しくない。これだけ大きな流氷を見るのは、2015年の南極探検以来
    だ。「白鳥」を思わせるものやいろいろな形・色のがあって見飽きないせいか、デッキに人影は絶えなかった。

     
                              巨大な流氷

     
                               青い流氷

     
                            白鳥を思わせる流氷

    10時過ぎに船は進路を南にとり、カナダ・プリンスエドワード島のシャーロット・タウンを目指す。いよいよアメリ
   カ大陸上陸が間近だ。

5. おわりに

    6月13日夕刻、カナダ上陸からバミューダ海域航行の「航路説明会」があった。このとき船はすでにカナダの
   ニュー・ファンドランド島の北に近づいていた。シャーロット・タウンまで緯度にして約7度、方角は南南西だから
   800キロ強ある。15ノット(時速28キロ)で進んで30時間かかるから、入港は明後日15日の朝になるはずだ。

     
                      カナダ航路マップ

    昔地理で習ったと思うが、これまでに訪れて来た大西洋の諸国は「メキシコ湾流」の恩恵を存分に受けてい
   る。赤道付近で温められた海水が高緯度まで到達しているので、緯度の割に暖かいし、海流が運ぶ豊富な
   プラントンが豊かな漁場を育んでいる。世界○大漁場の一つに、「ニュー・ファンドランド沖」があったと記憶する。

     
                 メキシコ湾流(ガルフ・ストリーム)

    この日の20時ごろ、最後の流氷を見た。この先は、暖かくなり、そして暑くなる一方だから、寒さとはお別れだ。

     
                              最後の流氷

    21時ごろ、夕日が見えた。夕日を最後に見たのはいつだったか忘れてしまうくらい久しぶりだ。茜(あかね)色
   に染まったかと思うと薄紫色、そして再び茜色と変わっていく。しばし、見とれていた。

     
                               茜色の夕日

     
                              薄紫色の夕日

6. 参考文献

 1) 地球の歩き方編集室編:各国編2013〜15,ダイヤモンドビッグ社,2015年


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