北海道手稲鉱山産 「 手稲石 」

          北海道手稲鉱山産 「 手稲石 」

1. 初めに

    今から7年ほど前、2002年12月、例年より早い本格的な冬の訪れ・降雪でフィールド
   でのミネラルウオッチングがままならず、古い「地学研究」誌を読んでいると、岡本要八
   郎先生と桜井欽一先生が書いた ”「あなたはおもちですか?」鉱物コレクターの資格
   審査”
という記事に目が止まり、その内容について、私のHPで紹介させていただいた。

   ・「あなたはおもちですか?」
    鉱物コレクターの資格審査
    ( How Many Specimens do you have ? , Qualification of Mineral Collector )

    それ以来、フィールドやミネラルショーでは、日本産鉱物50種+【番外】、計54種を積
   極的に追いかけるようにしている。

    2005年に、岐阜県木積沢で「苗木石」、京都府白川で「褐簾石」の2点を自力で採集
   し、48種( 48/54=89% )が揃ったところで足踏み状態が続いた。年に1種増えるか
   増えないかの状態だったが、2007年に「荒川鉱山の三角黄銅鉱」を入手でき、これの
   一部と交換に「日三市鉱山の荒川石」も入手できた。
    さらに、2009年、愛知県の石友・Tさん親子に「尾平鉱山の灰鉄輝石」(仮晶)を恵与
   いただき、残るは2種になっていた。

「日本産鉱物50種」の未入手品
  No 産地 鉱物
 19徳島県眉山産 ルチル
【番外1】北海道手稲鉱山産手稲石

    オークションにときたま、「和歌山県の手稲石」がでることがあるのだが、模式地である
   「手稲鉱山の手稲石」を辛抱強く待っていた。すると、2009年11月、相次いで数点が
   オークションに出品され、迷わず入札し落札した。
    これで、53種( 53/54=98% )が揃ったことになる。

    残り1種は、「眉山のルチル」だ。もし、重品をお持ちの読者がおられたら、適価でお譲
   りいただきたい。
    ( 2009年11月 情報 )

2. 日本産鉱物50種選定の経緯

    1958年(昭和33年)の「地学研究」に、「北投石」発見者の岡本要八郎先生とアマチュ
   ア鉱物学者の桜井欽一先生が連名で次のように書いている。

    『 鉱物収集には色々なスタイルがあるが、コレクターは、珍種、美晶を手に入れて
     胸をときめかせた覚えがあるであろう。
      誰もが欲しがるであろう、日本産の鉱物を50種選んでみた。
      そんなことをして何になる!! など怒り給うな。これは、お遊びです。       』

    気になるのは、両氏による資格審査基準で、それは、次の通りである。

    『  @ 全部あれば一流コレクター
      A 70%以上なら、立派なコレクター
      B 30〜50%では、まだまだ努力が足りない
      C 30%以下では、コレクターという資格はない    』

3. 日本産鉱物50種+番外4種

    50種+番外4種が下記のように掲載されている。

No   産   地   鉱   物(産状)
1 福井県赤谷産 自然砒(金米糖状結晶)
2 北海道手稲産 自然テルル
3 兵庫県生野産 自然蒼鉛
4 愛媛県市ノ川産 輝安鉱(美しい結晶)
5 秋田県太良産 方鉛鉱(八面体と六面体の集形)
6 秋田県院内産* 輝銀鉱(結晶)
7 秋田県阿仁産 閃亜鉛鉱(美しい結晶)
8 兵庫県夏目産
<夏梅の間違い>
紅砒ニッケル鉱
9 秋田県荒川産 黄銅鉱(三角式結晶)
10 新潟県赤谷産 黄鉄鉱(菱体面<原文のまま>に似た結晶)
11 大分県尾平産 硫砒鉄鉱(長柱状結晶)
12 山口県長登産 輝コバルト鉱
13 群馬県中丸(旧八幡産) 四面銅鉱(結晶)
14 山梨県乙女産 水晶(日本式双晶)
15 宮城県小原産 紫水晶
16 新潟県赤谷産* 玉髄(そろばん珠状)
17 富山県立山産 魚卵状珪石
18 岡山県下徳山産 赤鉄鉱(結晶)
19 徳島県眉山産 ルチル
20 長野県湯股産 方解石(球状)
21 長野県浦里産* 玄能石
22 島根県松代産 霞石(結晶の集合体)
23 福島県飯坂産 フェルグソン石(結晶)
24 福島県石川産 サマルスキー石(結晶)
25 福島県石川産 モナズ石(結晶)
26 神奈川県玄倉産 燐灰石(結晶)
27 岐阜県神岡産 緑鉛鉱(結晶)
28 栃木県足尾産 藍鉄鉱(結晶)
29 大分県木浦産 スコロド石(結晶)
30 秋田県日三市産 荒川石(ベスジェリ石<原文のまま>)
31 秋田県玉川産 北投石(渋黒石)
32 山梨県乙女産 ライン鉱(灰重石後の鉄重石結晶)
33 岐阜県苗木産 苗木石(変種ジルコン)
34 滋賀県田ノ上山産 トパズ
35 富山県黒部産 十字右
36 大分県尾平産 斧石(美しい結晶)
37 長野県武石産 緑簾石(いわゆる焼餅石)
38 京都府白川産 褐簾石(花崗岩中の結晶)
39 大分県木浦産 ベスブ石(結晶)
40 静岡県河津産 イネス石
41 長野県御所平産 電気石(扁平な結晶)
42 大分県尾平産* ダンプリ石
43 長野県川端下産 柱石(もと透角閃石と誤認されていた)
44 茨城県日立産 菫青石(結晶)
45 大分県尾平産 灰鉄輝石(結晶)
46 福岡県長垂産 紅雲母
47 山口県六連島産 金雲母
48 岐阜県神岡産 魚眼石(結晶)
49 東京都三宅島産 灰長石(結晶)
50 新潟県間瀬産 方沸石(結晶)
番外1 北海道手稲鉱山産 手稲石
番外2 鹿児島県咲花平産 大隅石
番外3 京都府河辺産 河辺石
番外4 神奈川県湯河原産 湯河原沸石

             * 印は他の産地のものを代用してもよい.
             【番外】は、ぜひあつめておきたい、日本特産鉱物である.

4. 北海道手稲鉱山産「手稲石」

 4.1 「手稲石」の発見・命名
      日本で発見された新鉱物の最初が轟鉱山産「轟石(とどろきいし)」で2番目が手稲
     鉱山産の「手稲石」である。ともに北海道で発見され、発見者は当時北海道大学の
     助教授だった吉村 豊文(よしむら とよふみ)である。

     

吉村 豊文
(1905-1990)
1928年 東京大学鉱物学科卒・助手
1933年 北海道大学助教授
1939年 商工省に出向
1942年 九州大学教授
1969年 退官

 3種の新鉱物「轟石」「手稲石」
「原田石」の論文著者
 鉱物学の発展と日本のマンガン
鉱床の体系化に大きな業績を残し、
「吉村石」が献名された。


      1936年夏、吉村の研究室の教授・原田 準平は、手稲鉱山の滝の沢坑から美しい
     藍青色の柱状結晶鉱物を発見した。特徴が吉村が宮崎県土呂久鉱山で発見し、19
     32年に発表したカレドニア石【CALEDONITE:Pb5Cu2(CO3)(SO4)3(OH)6】に似てい
     たため、手稲鉱山から発見され藍青色鉱物の同定を吉村が行うことになった。
      手稲鉱山の藍青色鉱物は、「カレドニア石」に酷似した外観をもつものの、顕微鏡
     観察では「カレドニア石」よりも著しく低い複屈折を示し、両者の違いは明らかだった。
      当初は、試料が少なく化学分析が困難であったが、当時同じ学科の助教授だった
     渡辺武男が多くの同様鉱物を手稲鉱山から採集し、化学分析が可能になった。
      分析の結果、従来知られていない銅の含水テルル酸塩鉱物であることがわかり、
     鉱山の名前にちなみ「手稲石」と命名された。
      当初の化学式は、Cu(Te,S)O4・2H2Oあるいは10CuTeO4・3CuSO4・26H2Oとされ
     た。

     


色    :緑青〜青〜藍
結晶系:斜方晶系
密度  :3.80-3.85
硬度  :2.5
条痕  :帯青白色
へき開:{010}良好


「日本の新鉱物」から引用


      1936年の岩石鉱物鉱床学会で発表され、1939年に英文の論文が北海道大学理
     学部紀要に掲載された。

 4.2 「手稲石」の成因と産地
      手稲石は、石英・灰重石・黄鉄鉱・安四面銅鉱・自然テルル・テルル石と共生し、安
     四面銅鉱と自然テルルの酸化や地下水による変質によって生じたものと考えられて
     いた。
      加藤先生は、「原記載では、自然テルルを原鉱物とする二次鉱物とされていますが
     一旦生成されたテルル石あるいはパラテルル石をテルル(Te)の根源とし、これに硫
     化第二銅溶液などが作用すれば、手稲石相当の化合物が生成されるかも知れませ
     ん。
      事実、手稲石の産地では、これが含まれている石英脈中の黄色のしみが消失して
     いるということも言われています」、と「二次鉱物読本」の中で述べている。

      手稲石は坑内水に長くさらされると、孔雀石と藍銅鉱に分解する、とも言われてい
     る。

      当初、テルル酸塩鉱物とされたが、1960年、亜テルル酸塩鉱物であることが分り
     【TEINEITE:TeCuO3・2H2O】で表記されるようになった。
      手稲鉱山以外では、静岡県河津鉱山からの産出が報告されている。

 4.3 私の入手品
      私が入手した手稲石は、出品者の情報では、手稲鉱山「滝ノ沢[金通](ひ)」で採集
     したもので、模式地標本である。
      落札価格は、△万円あまりだった。(△千円、という訳にはいかなかった)

       
                全体                         拡大
                        手稲鉱山産 手稲石

      「手稲石」は、”米水晶”を伴う石英脈に、四角い断面を示す「重晶石」、黒色で
     ”銀黒”様の「自然テルル」と共生している。一部に緑色の2次鉱物が見られるのは
     「孔雀石」であろう。
      加藤先生は、「共存鉱物は我が国では、石英、重晶石など脈石鉱物だけが知られ
     ていますが、銅が過剰になった場合として、赤銅鉱、グレム鉱【GRAEMITE:CuTeO3
     ・H2O】、孔雀石などが知られています」、と述べている。

5. おわりに

 (1) 「徳島県眉山のルチル」
      日本産鉱物50種+番外4種を集め始めて、8年目を迎えようとしている。70、80%を
     揃えるまではさほど難しいとは思わなかったが、90%の壁は厚かった。
      ようやく、それも乗り越え、残るのは、「徳島県眉山のルチル」 1種になった。

      a) もし、重品をお持ちの読者がおられたら、適価でお譲りいただきたい。
      b) 最後の1つは、『自力採集』してみたいとも思い、産地「眉山」についての情報を
        集めはじめてもいる。
        ( 眉山を”びせん”、”びさん”、”びざん”、何と読むのかも定かでない・・・・・ )

         「眉山公園」を描く絵葉書

         産地は暖かく、冬でも採集できそうなので、こちらのオフ・シーズンにでも訪れ
        たいと思っている。

 (2) 『ていねいし』それとも『ていねせき』?
      「二次鉱物読本」には、『ていねいし』、とあり、「日本の新鉱物」には『ていねせき』
     とある。「日本の新鉱物」では、鉱物名の『石』をすべて『せき』、と読ませているようだ。

      私は、『ていねいし』派だ。
        

6. 参考文献

 1) 岡本 要八郎、桜井 欽一:「あなたはおもちですか?」鉱物コレクターの資格審査
                     地学研究Vol.10 No.5,1958年
 2) 加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会編,2000年
 3) 宮島 宏著:日本の新鉱物 1934-2000,フォッサマグナミュージアム,2001年
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