山梨県塩山市竹森水晶山の水晶とチタン鉱物

山梨県塩山市竹森水晶山の水晶とチタン鉱物

1.初めに

 山梨県塩山市竹森の水晶山は、「ススキ入り水晶」「鋭錐石」など、各種の
鉱物が採集でき、しかも、東京からも近く、鉱物採集のメッカで、訪れる人が後を
絶ちません。
 2000年ころ、某グループが露頭を掘り込んで、立ち木を倒すなど山を荒らしてから
山の持ち主(雨宮 愼さん)が、「無断で水晶山に入る事禁ず」の表示を出された
との事で、今回この看板が新しくなっていたようです。
水晶山の案内板【2002年夏撮影】

 事前に雨宮さん宅に電話で入山をお願いし、許可をいただき、千葉県のYさん、F君を
案内して、6ケ月ぶりに訪れた。
 北側のズリは未だ凍結していて、表面採集がメインでしたが、草・星・硫黄などの
入った水晶と鋭錐石など、竹森の代表的な標本が採集できた。
 HPの掲示板にも書いておきましたが、必ず許可を得て入山し、いつまでも採集できる
産地にしましょう。
 雨宮さん宅の電話番号:0553-32-0966
(2003年3月採集)

2.産地

竹森は、「鉱物採集フィールドガイド」などにも、詳しく地図が掲載されており
改めて説明は不要でしょう。
小倉山の南斜面(前山)と北側のズリが産地です。
竹森のズリ【2002年夏撮影】

3.産状と採集方法

3.1 産状
  ここは、秩父古生層の砂岩や粘板岩に貫入した石英脈に水晶が生成したもので
明治初期から末期にかけて「竹森坑」として、盛んに採掘されていた。
 坑道(=水晶脈)は比較的地表近くにあり、石英脈が露頭でも見られ、広い範囲に
ズリが広がっていて、石英脈を含むホルンフェルス(花崗岩などの深成岩の貫入で
接触変成を受けた砂岩や粘板岩)の転石や石英塊がみられ、晶洞部分に水晶や
各種の鉱物があります。
 鋭錐石などのチタン鉱物は、水晶の表面に晶出していることもありますが、グライゼン化
(石英脈の形成に先立って入ってきた揮発性成分(水分、弗素など)の作用で回りの
岩石が主に石英や白雲母からなる岩石に変化すること)部分の空隙に見られます。
 ズリで拾える水晶は、採掘時の衝撃で晶洞から抜け落ちてズリ石と一緒に捨てられた
(採集する方にとっては、”ラッキー”)なものや採掘人の目にはとまったが、小さ過ぎる
あるいは、大きいが透明度が悪い、などの理由で印材など水晶加工に使えないので
捨てられたものです。
 「水晶宝飾史」によれば、
『大正初期には、県産原石の生産はきわめて微々たるものとなった。とくに一時、県下第一の
採掘量を誇った玉宮の竹森坑も、坑山(ママ)の面積が狭くなりほとんど掘り尽くされたので
当時の鉱山所有者の森川寅八、雨宮まつの等は一日5銭(今の150円位)の入山料を徴収して
自由に水晶を拾わせたが、大人が1円50銭から2円(今の4、5000円)、こどもでも50銭(1,500円)
ぐらいの日当になった。』

 とあるように、ズリは繰り返し、大勢の人によって掘り返されていると思われます。
3.2 採集方法

(1)表面採集
 1〜3cmクラスの水晶なら、女性や子供でも拾うことができます。鋭錐石などが
ついた水晶の群晶も雨水で洗われた表面採集の方が探しやすい。
(2)露頭や大きな転石を叩く
 大きな転石があり、それを叩くと、自然硫黄や母岩付きを発見することがある。
「鉱物採集に来た」という実感が湧くと思います。(成果は保証できませんが。)
(3)ズリを掘る
 熊手などでズリの斜面をベンチカットで掘り込むと、比較的良品を採集できます。
 ポイントは、採掘当時どのようにズリを捨てたかズリ石の流れを予測して、
誰も掘っていない場所(初生ズリ)を掘ることです。
 採集が終わったら、ズリを埋め戻しておくことをお忘れなく。

4.産出鉱物

(1)ススキ入り水晶【Rock Crystal with inclusion;SiO2】
水晶の中に、針状の苦土電気が入った水晶は、透明なものより多いくらいです。
小さな水晶の方が美しいものが多い。
ススキ入り水晶
(2)星入り水晶【Rock Crystal with star;SiO2】
水晶の中に、白雲母が入った星入り水晶も比較的多く見られます。
この他、緑泥石が入った「マリモ入り状」なども採集できます。
マリモ入り水晶
(3)自然硫黄【Native Sulfur;S】
今回も、いつもの石英塊から石英脈の中の自然硫黄を採集した。火山地帯なら硫黄は
極ありふれた鉱物ですが、石英脈の中の硫黄は珍しい。
 火山性のものと違い、ガラスを思わせる緻密な結晶が特徴で、Yさんは、今回
一番良い標本が採集できたと喜んでいました。
 F君は、表面採集で、硫黄入り水晶を採集した。
自然硫黄
(4)鋭錐石【Anatase;TiO2】
 神社の脇に誰かが割ったグライゼンの片割れが残っており、到着早々全員が鋭錐石を
採集した。水晶の表面や晶洞の雲母に貫入する形で、1mm程度の細長い八面体結晶が
見られる。反復双晶をなすことが多く、C軸と直角方向に筋がある。鋭錐石に伴って
六角板状の板チタン石も、ごく稀に見られる事がある。しかし、ルチルは全く見かけ
ません。これは、ルチルができるよりかなり低い温度の熱水溶液から生成したためと
考えられています。
 鋭錐石は、Danaの”The System of Mineralogy"などの古い本には、”Octahedrite"で
出ていますが、現在この名前は、隕石の一種に使われています。
 鋭錐石や板チタン石は、玉宮神社近くのズリの米水晶の間からの方が、見つけ易い
でしょう。
鋭錐石【双晶をなす】
(5)水晶【Rock Crystal;SiO2】
 初生のズリと思われる場所に、大きな水晶があった。両錐になっているが、美しさは
今ひとつである。
大水晶【12cm】

5.おわりに

(1) 竹森が採集禁止と聞いて心配したのですが、雨宮さんのご好意で幸い
まだ採集は可能です。
この日も、いくつかのグループが来て、嬉々として水晶(石英)を探していました。
しかし、山の持ち主の雨宮さんは、山が荒らされ、迷惑しておられます。
この産地がいつまでも採集できるよう、次のことをみんなで守りましょう。
a)採集前に入山許可をいただく。
b)立ち木を倒したり、山を荒らさない。
c)ズリを掘ったら必ず埋め戻す。
d)ゴミは散らかさず、必ず持ち帰る。
e)採集で怪我をしない。
f)採集が終わったら、お礼の挨拶。
(2)この日は、平沢で「ルチル」と「板チタン石」、竹森で「鋭錐石」と1日で
チタン酸化鉱物3種を制覇したのをはじめ、硫黄入り水晶など目的の標本を全て
採集することができ、参加者一同、大満足でした。
(3)これから、更に陽も長くなり、鈴庫鉱山→平沢→竹森水晶山は、1日で回るのに
ピッタリの鉱物観察コースだと思います。

6.参考文献

1)加藤昭、松原聡共著:鉱物採集の旅-東京周辺をたずねて-,築地書館,1982年
2)篠原 方泰編:水晶宝飾史,甲府市商工会議所,昭和43年
3)E. S. Dana:The System of Mineralogy 6th ed.,1920年
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