山梨県甲府市竹日向(たけひなた)の近況 −2007年7月−

  山梨県甲府市竹日向(たけひなた)の近況 −2007年7月−

1. 初めに

   ミネラルウオッチングでいろいろな産地を多くの石友と訪れる。石友、一人ひとり採集
  スタイルが違う。採集方法から、細かくは使う道具まで、それぞれこだわりが感じられ
  る。

   採集方法は、「露頭派」と「ズリ派」、大きく2つのスタイルがあるようだ。

スタイル  方   法  特    徴 産地例備 考
露頭派  露頭をタガネとハンマで叩き
晶洞などから、”ガマだし”と
称する美晶を採る
 ハイリスク・ハイリターン
”当たり、外れが大きい”
坑内
採石場
切り通し
海岸の崖
ガレ場
 叩く場所を見極める
経験と叩き続ける
体力が必要 
ズリ派  ズリ(捨て石場)を熊手などで
掘り、土砂の中から目的鉱物を
探し出す。
 ローリスク・ローリターン
そこそこのものは採れるが
採集品にはダメージが
避けられない
鉱山のズリ
造成地
坑内の捨石
 パンニング愛好者も
この仲間
 女性、子ども向き
中間派  露頭派、ズリ派をTPOで
使い分け
 そこそこのものは採れ
時として、新産地(露頭)を
発見する”大ヒット”に
つながることもある
 
 

   2007年7月、1ケ月間の私の採集記録を分類すると、次の通りである。
    露頭・・・・・・・・・2回(33%)
    ズリ・・・・・・・・・1回(17%)
    中間・・・・・・・・・3回(50%)

   この結果から、私は中間派 であろうか。

   2007年の梅雨は、例年になく雨が多かった。遠出しても雨に祟られることを考えると
  ”晴れ男”の私も、その日の天気を確かめてから出かけることが多く、ついつい近場の
  産地になってしまう。

   長島乙吉、弘三親子による『日本希元素鉱物』の中に、山梨県の希元素鉱物産地
  の1つとして、「甲府市竹日向(たけひなた)」が記載されている。HPにも記載したように
  今まで、ここを何回か訪れ、「ガドリン石」、「褐簾石」そして遂に念願の「タレン石」
  「ゼノタイム」など『日本希元素鉱物』に産出するとあるものは一通り採集し、この産地は
  ”卒業”した積りだった。

 ・山梨県甲府市竹日向町のガドリン石
 ・山梨県甲府市竹日向町の希元素鉱物
 ・山梨県甲府市竹日向のタレン石
 ・山梨県甲府市竹日向のゼノタイム
 ・山梨県甲府市竹日向のゼノタイム結晶

   しかし、今まで採集したのは全てズリやパンニングで、希元素鉱物やペグタイト鉱物
  がどこから産出したのか、その露頭を確認していないことに気付いた。
   梅雨明け間近の雨の切れ間を狙って訪れ、「ガドリン石」を露頭から直接採集でき、
  昭和23年(1948年)、長島先生が鑑定した標本の出所を特定できた。

   これで、今度こそ、山梨県の代表的鉱物産地の1つ「竹日向」を”卒業”した。
   ( 2003年4月採集、2006年2月再訪、2006年3月再々訪、2006年3月観察
     2007年7月採集 )

2. 産地

   すでに、何回か紹介しているので、詳細は割愛する。産地に向かう林道の傍らに
  山梨県名の由来に関係あるのかどうか明らかではないが、『山梨の巨木』 がたわわに
  実をつけていた。
   林の中には、道しるべの『野仏』 が緑の日差しを浴びて微笑んで、出迎えてくれる。

         
        山梨の巨木と実               野仏
                竹日向風景(2007年7月)

3. 産状と採集方法

   希元素鉱物を含むペグマタイト鉱物は、花崗岩の結晶粒が大きいペグマタイト(巨晶
  花崗岩)部分に産出する。

   花崗岩がむき出しになったガレ場や露頭を観察し、結晶粒が大きくなった部分を
  掘り崩して露頭から採集する。
   昭和24年(1949年)、長島乙吉氏がここを訪れたときに掘っていた露頭のズリが数百
  メートル下まで広がっているので、ここの転石やズリを掘り返して探す。
   露頭周辺の土砂を土嚢袋に入れ麓まで運び、沢の水でパンニングする。

         
            ガレ場                  露頭
                    竹日向の産状

4. 産出鉱物

 (1) ガドリン石【GADOLINITE-(Y):Y2FeBe2(SiO4)2O2
     長島先生の「日本希元素鉱物」には、『 白色の曹灰長石中より産す 』とあるが
    現在、露頭には細い脈があるだけである。仕方なく、文象(ぶんしょう)花崗岩〜
    巨晶花崗岩部分を叩くと、割った瞬間、”鮮緑色”の結晶が眼に飛び込んできた。
    ルーペで確認するとエメラルドグリーンの「ガドリン石」結晶である。
     これによって、昭和23年(1948年)、長島先生が鑑定した「ガドリン石」が産出した
    露頭を確定できた。
     ガドリン石には、黒色柱状の「褐簾石」と錐状の「フェルグソン石」が共生しており
    周囲の石英には”ハロ”が見られるなど、この近くの黒平との共通点も多い。

         
             母岩                   結晶
                     ガドリン石

(2) ゼノタイム【XENOTIME-(Y):YPO4
     ゼノタイムは、イットリウム(Y)を含む燐酸塩鉱物で、赤褐色錐状結晶で産出する
    ほか、「福島県川辺鉱山」などのように、球状集合体で産することもある。
     竹日向のゼノタイムは、ガドリン石の近傍に、理想的な「錐状結晶」として産出し
    それらが分離した”完全結晶”もパンニングで確認できている。
     今回、「放射状の断面を示す針状結晶の球状集合体」の”母岩付き”が得られ、
    隣接する石英には”ハロ”が見られる。

         
             母岩                   結晶
                     ゼノタイム

 (3) フェルグソン石【FERGUSONITE-(Y):NbYO4
      黒褐色、先のとがった四角錐状結晶で産する。写真のものは、2つの結晶が
     根元で一緒になり、”蝶形双晶”になったものである。

     フェルグソン石

 (4) 鉄礬ザクロ【ALMANDINE:Fe3Al2(SiO4)3
      竹日向の鉄礬ザクロは、脈状であったり、鉄錆びに覆われたりで美しいものは
     なかなかお眼にかかれない。”ガレ場”で比較的結晶の形がシッカリした紅色のが
     母岩についたものを採集できた。
      塊状の柘榴石の中や長石との境界には、「褐簾石」の柱状結晶も観察できる。

     鉄礬ザクロ石【母岩付き】

5. おわりに

 5.1 鉱物採集の楽しみ
     鉱物採集の楽しみは、採集スタイルと同様、人それぞれだと思うが、私は次の
    3ステップで、1つの産地(鉱物)をジックリと楽しむことにしている。

   (1) 本などで産地を知って、そこまで行くプランを立て、目的とする鉱物を採集した
      ”夢”を見る。
       今から100年以上前に書かれた和田維四郎の「日本鉱物誌」に書かれた産地
      や標本などには、一段と夢をかき立てられる。
       古い文献や情報を探したり、読んでいると、それだけでも楽しい。

   (2) 産地に行く道すがら、草花や景色を愛でながら自然を満喫する。一人でなく
      石友と行くと何倍か楽しい。
       そして、産地では”夢”の実現に向けて、努力する。
       ( ”夢”のまま終わることが多いのも事実 )

   (3) 採集した鉱物を整形・クリーニングして不明鉱物を鑑定し、ラベルを付けて標本
      箱に収める。
       不明な鉱物は、詳しい石友や分析機器をもつ専門家に鑑定をお願いする。
       産地の歴史、現況や採集した鉱物などを「ミネラル・ウオッチング記」として
      文章と写真で記録(HP)に残しておく。

       (1)(3)を疎かにして、”綺麗な石だけ”しかも”採るだけ”で終わってしまう
      のは、”もったいない”気がする。

 5.2  昭和23年(1948年)、長島先生が鑑定した「ガドリン石」標本が産出した露頭を確認
   できた。
    今回採集した標本は、ほとんどの人が『 要らない 』、というような代物だが、HPに
   アップするまで、1週間前後楽しませもらった。ありがたい事である。

6. 参考文献

 1)長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 2)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 3)中津川鉱物博物館編:第4回企画展 長島鉱物コレクション展
                 −希元素鉱物への探求−,同館,2000年
 4)松原 聰:日本の鉱物,学習研究社,2003年
 5)松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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