山梨県甲府市竹日向のゼノタイム結晶

    山梨県甲府市竹日向のゼノタイム結晶

1. 初めに

   長島乙吉、弘三親子による『日本希元素鉱物』の中に、山梨県の希元素鉱物
  産地の1つとして、「甲府市竹日向」が記載されている。HPにも記載したように
  今まで、ここを何回か訪れ、「ガドリン石」、「褐簾石」そして遂に念願の「タレン石」
  「ゼノタイム」など『日本希元素鉱物』に産出するとあるものは一通り採集し、この
  産地の”卒業”を宣言した積りであった。

 ・山梨県甲府市竹日向町のガドリン石
 ・山梨県甲府市竹日向町の希元素鉱物
 ・山梨県甲府市竹日向のタレン石
 ・山梨県甲府市竹日向のゼノタイム

   しかし、石友・Mさんと訪れてた際に「錐状と球状のゼノタイム」の母岩付きを
  採集したが、分離したより完全な結晶があるに違いないと思うようになった。
   2006年3月に入ると、桜の開花も例年より3日も早いだろうと予想されるほどの
  暖かい日が続き、春の風に誘われて、再び竹日向を訪れた。
   『日本希元素鉱物』の「三重県名張地方」を読むと、希元素鉱物採集のポイントが
  次のように、さりげなく書かれている。

   『 パンニングするとザクロ石の桃色のきれいなものが沢山あり、それを淘汰して
    しまうとジルコンとモナズ石が僅かに残る。ここ(産地)では、ザクロ石と一緒に
    採集し帰宅後整理した方がよい 』

   今回、パンニング皿に残った白い砂も持ち帰り、自宅で塗り物の小皿でパンニング
  し直し、爪楊枝片手に実体顕微鏡下で探したところ、ゼノタイムの”錐状完全結晶”と
  ”球状結晶” さらに変種ジルコンの”苗木石”、”傘状結晶”などを採集できた。

   これで、山梨県の代表的鉱物産地の1つ「竹日向」を”卒業”しました。
   ( 2003年4月採集、2006年2月再訪、2006年3月再々訪、2006年3月観察 )

2. 産地

   すでに、何回か紹介していますので、詳細は割愛します。
   竹日向の集落を左に見る遠方の産地周辺には、春の訪れが感じられます。今回
  産地への途中に、道しるべの野仏が春の日差しを浴びて微笑んでいるのに気付いた。

         
          産地遠望               野仏
                竹日向風景(2006年3月)

3. 産状と採集方法

   ゼノタイムの産状について、長島乙吉、弘三親子による「日本希元素鉱物」の
  「福島県川辺」の項に、次のように書かれている。これが採集のヒントでした。

   『 山梨竹日向や長野田立産も球状であるが小さい 』

    また、同書の「三重県名張地方」を読むと、希元素鉱物採集のポイントが
  次のように、さりげなく書かれているのも参考になった。

   『 パンニングするとザクロ石の桃色のきれいなものが沢山あり、それを淘汰して
    しまうとジルコンとモナズ石が僅かに残る。ここ(産地)では、ザクロ石と一緒に
    採集し帰宅後整理した方がよい 』

   今回、パンニング皿に残った白い砂も持ち帰り、自宅で塗り物の小皿でパンニング
  し直し、爪楊枝片手に実体顕微鏡下で探した。

    
     自宅での”精密パンニング”
       【塗り物皿+洗い桶】

4. 産出鉱物

 (1)ゼノタイム【Xenotime-(Y):YPO4
     ゼノタイムは、イットリウム(Y)を含む燐酸塩鉱物で、赤褐色錐状結晶で
    産出するほか、「福島県川辺鉱山」などのように、球状集合体で産することも
    ある。
     竹日向のゼノタイムは、ガドリン石の近傍に、理想的な「錐状結晶」として
    産出し、それらが分離した”完全結晶”もある。
     そのほか、「放射状の断面を示す針状結晶の球状集合体」の”分離結晶”も
    パンニングで得られることがある。

産状   結晶図(模式図)   採集標本   備考
錐状 分離完全結晶
球状     図省略 分離品

 ソロバン玉状
 断面は針状結晶が
放射状に集合し
累帯構造を示す

 (2) 変種ジルコン【Altered Zircon:(Zr,Hf,Y,etc)(Si,Nb,Ta)O4
      『日本希元素鉱物』には、変種ジルコンの産地として「竹日向」の地名が
     見え、「灰曹長石中にガドリン石、タレン石と共に産し、ゼノタイムとの
     集合が多い 」 とある。
      今回、”精密なパンニング”によって、次の2つの産状を確認した。

   
 産 状   採集標本   備考
苗木石
【Naegite】
 
ボタン状
【Button Type】
六角板状

 (3) 褐簾石【Allanite-(Ce):(Ca,Ce,Y)2(Al,Fe,Fe3+)3(SiO4)3(OH)】
      竹日向の褐簾石は、京都・白川のような細柱状のものは、破片を含めれば
     それこそ無数にある、と言って過言ではない。しかし、鉛筆大の結晶、ましてや
     母岩付きとなるとなかなかお目にかかれないが、それでも”あった!!”
      放射能の影響で周囲の石英が”ハロ”を受け、煙水晶になっているのと、”縦の
     条線”が目印です。

     褐簾石【母岩付き】

 (4) 鉄礬ザクロ【Almandine:Fe3Al2(SiO4)3
      竹日向の鉄礬ザクロは、脈状であったり、鉄錆びに覆われたりで美しいものは
     なかなかお眼にかかれない。今回、初めて結晶形がシッカリし、淡い紅色透明結晶が
     母岩についたものを採集できた。

     鉄礬ザクロ石【母岩付き】

 (5) 水晶【Rock Crystal:SiO2
      ペグマタイト鉱物産地なら何はなくても”水晶”であるが、『日本希元素鉱物』にも
     書かれている通り、竹日向は石英が割合少ない、従って、水晶と呼べるものも
     ほとんど拝むことができなかった。
      今回、頭こそないが”六角柱状”の水晶を初めて確認できた。

     水晶【情けない】

5. おわりに

 (1) 「日本希元素鉱物」にある竹日向の「ゼノタイム」はじめとする希元素鉱物と
    この産地の代表的な標本を一通りのを採集でき、山梨県の代表的な鉱物
    産地の1つ「竹日向」を”卒業”できた。

 (2) ここは、自宅から直線距離で10km足らずで、バイクでも30分、歩いて30分で
    朝出れば、昼までに戻れる裏庭みたいな産地である。
     2006年に入って、6回訪れ、この産地の産状と産出鉱物を大よそまとめることが
    できた。
     次回行くのは、石友を案内しての気楽なミネラルウオッチングになりそうです。

6. 参考文献

 1)長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 2)戸崎 龍彦:迷走ガドリン石 「水晶峠」No124 ,関東鉱物同好会,2005年
 3)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 4)中津川鉱物博物館編:第4回企画展 長島鉱物コレクション展
                 −希元素鉱物への探求−,同館,2000年
 5)松原 聰:日本産鉱物種,鉱物情報,2002年
 6)松原 聰:日本の鉱物,学習研究社,2003年
 7)地学事典編集員会編:地学事典,平凡社、昭和45年
 8)伊藤 貞市・桜井 欽一:日本鉱物誌 上巻(第3版),中文館書店,昭和22年
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