山梨県甲府市竹日向のタレン石

       山梨県甲府市竹日向のタレン石

1. 初めに

   長島乙吉、弘三親子による「日本希元素鉱物」の中に、山梨県の希元素鉱物
  産地の1つとして、「甲府市竹日向」が記載されている。HPにも記載したように
  ここには、何回か訪れ、「ガドリン石」「褐簾石」などの希元素鉱物をはじめ
  何種類かの標本を採集していた。
   しかし、「日本希元素鉱物」が著された昭和35年(1960年)ころ、竹日向が唯一の
  国内での産地とされた「タレン石」だけが採集できなかった。以来、タレン石が頭の
  片隅に引っかかり、『未練(みれん)タラタラのタレン石』になっていた。
   HPに、「”Y”のはなし」で、イットイウム(元素記号:Y)を含む希元素鉱物をまとめて
  いて、「タレン石」の虫が再び疼きはじめた。
   例年になく厳しかった2006年の冬も峠を越した感じで、4月中旬を思わせる気温の
  日があったので、冬の間に鈍った足腰のリハビリを兼ね、竹日向を訪れてみた。
  しかし、今回も、「ガドリン石」はあるのだが、これぞ「タレン石」と思えるものは採集
  できなかった。
   そんなことを石友・Mさんにメールしたら、「一緒に行きましょう」となり、3年ぶりに
  訪れた。
  今回は、今まで訪れていた「東南の尾根」だけでなく、「東の谷に面したペグマタイト
  2箇所」の内の1箇所と思われるところを探索した。
   その結果、念願の「タレン石」、1cmを超える「ガドリン石」の美晶、そして変種
  ジルコンの1種と思われる周囲の石英に”ハロ”を与える「シルト石(?)」などを
  採集でき、今年初めての本格的なミネラル・ウオッチングは、まずまずのスタートと
  なった。
   同行いただいたMさんに、厚く御礼申し上げます。
   ( 2003年4月採集、2006年2月再訪 )

2. 産地

   「日本希元素鉱物」には、希元素鉱物を産する場所が3箇所掲載されている。

   『 ここ(竹日向の部落)で長石の堀場と聞けばわかるが、主な産地は部落の
    東の谷に面したペグマタイト2箇所と部落の東南の尾根と3箇所である 』

   今まで、何回か訪れていたのは、「東南の尾根」であった。今回、GPSを持参し
  位置を確定した。
   北緯  35°**.***′
   東経  138°**.***′

    さらに、「東の谷に面したペグマタイト2箇所」の内の1箇所と思われるところを
   探索した。

         
        尾根【雪が残る】           東の谷露頭(?)
                   竹日向産地

3. 産状と採集方法

   ここは、典型的な花崗岩ペグマタイトです。しかし、黒平などに比べ、ペグマタイトは
  極めて少ない。その反面、ペグマタイトが見つかれば、何がしかの(希元素)鉱物を
  伴うことが多いようなので、黒平などに比べ、”当たり外れ”が少ないように感じる。
   採集方法は、ペグマタイト脈をハンマとタガネで掘り込んで探すのが”王道”なの
  でしょうが、冬の間に鈍った身体の”リハビリ中”の身ですので、次のような安易な
  方法を選んだ。

   @ ズリの表面をよく探す。
      「堀場」の周辺は、急斜面になっており、ズリ石は広範囲に散らばっています。
      戸崎氏は、地元の老人から、「掘り出された珪石は、下の沢に落として運び
     出した」、と聞いたと「水晶峠」誌に書いています。
      ( なお、この記事に登場する N氏、M氏は、我々とは全くの別人ですので
       念のため)
      ズリの表面をよく探すと、「ガドリン石」の母岩付きや分離結晶など、色鮮やかな
     ものは、見つけ出すことができる。
   A パンニング
      ズリの土砂を土嚢袋に入れ、下の沢まで担いで運び、そこでパンニングする。
      これだと、「ガドリン石」や「褐簾石」の分離結晶など、やや大きなものから
     ジルコンのように、1mm前後のものまで、見逃すことがない。
      また、パンニングの初期段階で洗い出したペグマタイトの長石、石英、文象
     花崗岩などは、その場で入念に見ても良いが、私は袋に入れて持ち帰り、もう
     一度洗浄・乾燥して、実体顕微鏡でのぞきます。すると、思いもかけないものを
     発見することもある。

         
        ズリの表面採集        パンニング【沢を堰き止め】
                    採集方法

4. 産出鉱物

 (1)タレン石【Thalenite:Y2Si3O10(OH)】
    今まで、タレン石が採集できなかった最大の原因は、「タレン石」がどのような
   ものか、具体的な”イメージ”が掴めていなかったことであろう。
   ( 冷静に考えれば、どんなものか、判らずに探しに行っても、見つかるはずがない)
    そこで、各種の文献に掲載されている「タレン石」の写真、産状・特徴の記述を
   一覧表にして、自分なりのイメージを固めてみた。

 産地     出    典
      【発表年】
    標 本 写 真  産    状 備 考
山梨県
竹日向
長島乙吉・弘三
「日本希元素鉱物」
【1960年】
    曹灰長石中に
嵌在し、表面は
大抵ガドリン石で
薄く覆われている。
 扁平な六角柱状の
結晶をなし、最大・・
 ほとんど白色
長石(左)が付着す
乙吉氏が
昭和25年
(1950年)
発見
中津川鉱物博物館
「長島鉱物
  コレクション展」
【2000年】
 淡褐色部分
左右約3cm
第4回
企画展
福島県
水晶山
益富地学会館監修
「日本の鉱物」
【1994年】
 卵状をなし
長石中に埋もれ
断面はガラス光沢
貝殻状の断口
一見すると煙水晶と
よく似ている
 
スエーデン
ノルウェー
ペグマタイト
平凡社
「地学事典」
【1970年】
   淡紅色

 化学式は
Y2Si2O7

 屈折率:1.74

原産地
T.Thalenに
因んで命名

    いささか、後付けの感がないでもないが、上の表の情報をもとに、私なりに『竹日向の
   タレン石』のイメージを描いてみた。

項目      採集の手がかり 備 考
「日本希元素鉱物」には、”ほとんど白”
「長島鉱物コレクション」には、”褐色”
「地学事典」には、”淡紅”
「日本の鉱物」の写真には
”ピンク”〜”紫”〜”煙(黒)”

 →白〜淡紅〜紫〜褐色〜煙〜黒
   まで、ありそう

 ガドリン石の”緑”と同じで
色が決め手と
と読んだ
似ている
鉱物
「日本の鉱物」に、”煙水晶に似る”
とある

 化学式からも、イットリウム(Y)と
珪素(Si)を等価と置き換えたものと
水晶(SiO2)を4か5倍した
ものが、近いものになりそう

 「日本の鉱物」に、”ガラス光沢”
とある。

 →水晶に似たガラス質で
  屈折率が水晶(1.55)に比べ高く
  ”キラキラ”した感じではないか?

 
母岩  どの文献にも”長石中に”
とあるが、長石の中に出ると
される竹日向のガドリン石は
石英や文象花崗岩に接した
ところにも産する

 →”ペグマタイトがあったらある”
  と思え

 
共生
鉱物
 「日本希元素鉱物」には
”大抵ガドリン石で
薄く覆われている”とある。

 今まで、採集した母岩付き
ガドリン石の周りに、タレン石らしき
ものはなかった。

 →”必ずしも、ガドリン石と共生しない”
   ことが多いのではないか?

 
結晶  「日本希元素鉱物」に、”扁平六角柱状”
とある。

 →”扁平な板状〜柱状”
   もあるのではないか?

 

   その結果、次のような各種の産状の「タレン石」を採集することができた。

        
          粒状              薄板互層状              塊状
    【緑褐色ガドリン石と共生】  【赤褐色で石英と互層をなす】   【淡い紅色〜煙水晶状】
                       タレン石の各種産状

 (2)ガドリン石【Gadolinite:Y2FeBe2(SiO4)2O2
    緑〜緑褐色〜緑黒色の入り混じった塊状(稀に自形結晶面を示す)で産出する。
   灰曹長石や石英そして希に文象花崗岩に接することがある。
    大きなものは、表面がガサガサしているが、パンニングで得られた微細なものには
   エメラルドを思わせる”透明、エメラルド色”で、緑柱石(アクアマリン)と同じように
   含ベリリウム鉱物であることを思い起こさせてくれる。
    表面のガサガサしているような部分には、イットリウム(Y)が変質してできるとされる
   白色の「テンゲル石【Tengerite-(Y):Y2(CO3)3・2_3H2O】」を思わせる鉱物があるが
   確認できていない。

        
        母岩付き結晶1        母岩付き結晶2          パンニング品
                        採集したガドリン石

    竹日向では、三重県宮妻峡で産するような完全な結晶は難しいとばかり思い込んで
   いたが、今回、結晶面がかなりわかる標本を採集できた。
    それらと、「日本希元素鉱物」に描かれた竹日向産の結晶図(2枚)と見比べて
   見ると、いずれにも似ていない。p面、o面が発達し、a面、q面などが小さくなって
   おり、むしろ蛭川産に近いような感じがする。

      
              柱状                    薄板状
           竹日向産ガドリン石結晶図【「日本希元素鉱物」から引用】

 (3)ジルコン【Zircon:ZrSiO4
    白色、半透明、ガラス〜油脂光沢そして錐面が発達した四角柱状という典型
   的な産状で、分離結晶がズリにある。
    しかし、大きさは最大でも2mm程度であり、今回のように、パンニングでなけ
   れば、採集は困難である。

     ジルコン(正常)

 (4)モナズ石【Monazite-(Ce):CePO4
    黄褐色、透明、ガラス光沢、薄板状で産する。福島県石川地方や苗木地方の
   もののような細長い板状でなく、扁平な柱状とでも称すべき形態をしている。
    結晶図としては、旧朝鮮成歓砂金地産のものに酷似している。
    モナズ石も、ジルコン同様に大きさは最大でも2mm程度で、パンニングで
   なければ採集は困難である。

      
        竹日向採集品      旧朝鮮成歓砂金地産結晶図
                      【「日本希元素鉱物」から引用】
                   モナズ石

 (5)褐簾石【Allanite-(Ce):(Ca,Ce,Y)2(Al,Fe,Fe3+)3(SiO4)3(OH)】
    赤黒褐色で縦に条線の見える結晶が採集できる、微細なものほど真っ黒に
   なる傾向がある。1mm以下のパンニング採集品には、頭付き結晶も多い。

     褐簾石

 (6)シルト石【Cyrtolite:−】
    「日本希元素鉱物」によれば、変種ジルコン(Altered Zircon)のうち、”希土類元素の
   著量を含むものをシルト石”としている。
    HP「水晶山の鉱物たち」によれば、”透明〜白い針状結晶が放射状に集合”している
   とあり、Mさんと「ああでもない、こうでもない」と苦心した挙句、到達した暫定的な答えが
   シルト石である。
    周囲の黒い石英様の鉱物は、ハロを受けた石英とも考えられるが、「タレン石」で
   ある可能性も捨てきれない。(画面、左下の赤褐色粒状結晶は「タレン石」)

     シルト石(?)

 (7)黒雲母/白雲母【Biotite/Muscovite
    :K(Mg,Fe)3(Al,Fe3+)Si3O10(OH,F)2/KAl2(AlSi3)O10(OH)2

      
       黒雲母【六角板状】    白雲母【球状・断面放射状】
                 竹日向産雲母

   このほか、「日本希元素鉱物」には、「ゼノタイム」が産出したとの記述がありますが
  未だ採集できていない。

5. おわりに

 (1) 山梨県甲府市竹日向は、昭和35年(1960年)当時、日本国内で唯一の「タレン石」
    産地と言われていた。その後、福島県水晶山などでも産出することが知られ、むしろ
    そちらの方が有名になっている。
     私としては、地元産の「タレン石」を探したく、6度目の訪山で採集することが
    できた。採集してみれば、”昔も見たことがあった”ものである。
     2003年4月のHPに、『 タレン石は、実物を見たことがない悲しさ、ヒョッとしたら
    見過ごしているかも知れません 』 と書いた、まさにその通りだったのです。

 (2) 今回、石友・Mさんと同行した。私と採集行動パターンが違うので、私が今まで
    探そうと思わなかった場所も探索した。これが結果的に大正解であった。
     私のHPを読んだ方々から、「△△の産地を教えて欲しい」 というメールが
    ひっきりなしに届く。産地をお知らせしても、”採れなかった”とガッカリ・メールが
    返ってくることも多い。
     竹日向のタレン石で、産出する鉱物の姿・形・色は一筋縄でないことを改めて
    知った。
     産地を訪れる前に、できるだけ多くの文献やHPに当たって、写真を見て、産状
    ・特徴・共生鉱物などの記述を自分のものとして、目的鉱物の自分なりのイメージを
    固めておくことが大切だと反省しきりである。

 (3) 「日本希元素鉱物」には、竹日向で「ゼノタイム」を産出するとあるが、未だ確認
    できていない。これを採集し、山梨県の代表的鉱物産地の1つ「竹日向」を
    卒業しようと考えている。

6. 参考文献

 1)長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 2)戸崎 龍彦:迷走ガドリン石 「水晶峠」No124 ,関東鉱物同好会,2005年
 3)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 4)中津川鉱物博物館編:第4回企画展 長島鉱物コレクション展
                 −希元素鉱物への探求−,同館,2000年
 5)松原 聰:日本産鉱物種,鉱物情報,2002年
 6)地学事典編集員会編:地学事典,平凡社、昭和45年
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