そんな訳で、中津川地方を訪れても、高根鉱山は訪れたことがなかった。長野県の
石友・Mさんを中津川地方に案内した2日目、逆に高根鉱山を案内していただいた。
「産地を見ておきたい」、の心算(つもり)だったが、困った性(さが)で、産地に着くと
「採集したい」に心変わりしていた。1時間弱、ズリ石を探しては叩き、小さな「自然蒼鉛」
とそれを「ザバリツキー石」、「泡蒼鉛」が同心円状に取り囲む典型的な標本をいくつか
採集できた。
小さな「自然蒼鉛」は、私のHPにもある栃木県・唐沢鉱山より簡単に採集できそうだが
大きなものは”運と根気”がないと出会えそうもない。
素晴らしい標本を恵与いただいたIさんと、産地を案内してくれたMさんに厚く御礼を
申し上げる。
( 2009年10月採集 )
鉱山跡にはズリがあるとされるが、短時間の探査では探し出せなかった。ここでの採
集は、ガイドブックにもある通り、沢の中の石英塊を探して、只管(ひたすら)割ることだ
ろう。
(1) 自然蒼鉛【BISMUTH:Bi】
ザバリツキー石【ZAVARITSKITE:BiOF】
泡蒼鉛【BISMUTITE:(BiO)2(CO3)】
「自然蒼鉛」は、へき開面で平坦に割れ”櫛歯状”に見え、その面はピンク色がか
った金属光沢を示す。モース硬度が2〜2.5と柔らかいので、針先で突くと簡単にキズ
がつく。
「ザバリツキー石」は、自然蒼鉛の周りを取り巻くように、青黒い粘土のよう、と表現
される物質として産する。
自然蒼鉛を伴わない場合、黒色粘土状の鉱物(?)がザバリツキー石なのか判断
に悩む。
「泡蒼鉛」は、ザバリツキー石の周りを、薄い黄色の皮膜状で覆っている。
「二次鉱物読本」によれば、本鉱物の炭酸基【CO3】は、今温暖化ガスで問題にな
っている空気中の炭酸ガス【CO2】が起源とある。
ビスマス(Bi)の化合物と水分(H2O)、炭酸ガス(CO2)が一緒になって沈殿すると
(BiO)2(CO3+n(H2CO3)の形のものが生成され、その後水分が蒸発すると残っ
た炭酸ガスが集まって泡を形成してから放出されるという説があるらしい。
顕微鏡で見ると、表面に泡の跡が見えることがあり、これが和名:泡蒼鉛の起源
でもある。
下の写真は、これら3種の鉱物が共存する典型的な標本だ。
ザバリツキー石
【内側:自然蒼鉛 外側:泡蒼鉛】
(2) 自分で産地を訪れてみて、「ザバリツキー石」が貴重なことを改めて認識した。大切
な標本を恵与してくれたIさん、産地を案内してくれたMさんに改めて御礼申し上げる。