茨城県七会村大正鉱山産錫石の近況

      茨城県七会村大正鉱山産錫石の近況

1. 初めに

    茨城県七会村の高取鉱山や錫高野では、鉄重石やトパーズが産出することで
  良く知られた産地です。2005年秋頃、高取鉱山が採集禁止になった、と聞いた。
   高取鉱山の西にあった大正鉱山は、自形結晶をした錫石が産出し、以前
  「鉱物同志会」による採集会も開催された。
   その後発行された、「鉱物同志会」の会誌に、堀会長が次のように報告しています。

  『 採集会実施後の産地の状況を視察するため、(1999年)9月26日にK氏の案内で
   大正鉱山に行ってきた。・・・・・・・・・・。ところが、肝心の錫石は全く見当たらず
   ほぼ採集し尽くされてしまった様子だった 』

   この情報を読み、2000年1月5日に行ったが全く採集できず、諦めきれず2月26日に
  再度訪れ、1時間余りで母岩付き標本を5ケ採集できた。
   それから、何回か石友を案内して訪れ、その度ごとに産出を確認でき、中には
  数ミリの結晶が一面についた佳品を採集した方もいた。
   その後の様子が知りたく、再び訪れ、表面採集で”母岩付き”、ズリの土砂を
  パンニングして”分離結晶”を確認できた。
   産地は、今でも健在です。
   ( 2006年1月採集 )

2. 産地

    ここは、「採集会」が開催されるなど、有名産地ですので詳細は割愛します。
   「日本鉱産誌」によれば、高取鉱山の一部として荒川鉱業鰍フ手で稼行された
   ようですが、この本が執筆された昭和30年(1955年)には休山していた。
    木立(桧?)の中につぶれたものや開口している坑口がいくつかあり、それらの前に
   ズリが広がり、谷を埋め平坦にしてある場所(マウンド)もあり、かつて鉱山があった
   ことを偲ばせてくれます。

       
          ズリ                マウンド
                  大正鉱山

3. 産状と採集方法

   「日本鉱山誌」によれば、ここの地質・鉱床は 『 高取鉱山と同じように、古生代の砂岩
  粘板岩・珪岩中の平行石英脈であるが、錫鉱床は砂鉱としてあり、石英脈中には
  ほとんど認められない 』とある。
   しかし、現実には、非常に硬い珪質砂岩に貫入した最大でも幅(厚さ?)2cm
  程度の石英脈の中に粒状で、石英の空隙に小さな水晶を伴って自形結晶で産出
  する。

   
 錫石模式標本【珪質砂岩中の石英脈に伴う】

   採集に当たっては、まず石英脈のついているズリ石を探す。表面は採り尽されてく
  おり、ズリを掘って探すと良品を発見できる可能性が高い。また、石英の表面は
  褐鉄鉱に覆われていることも多いので、慎重に探す必要がある。
   石英脈を脈に沿って割ってみると、脈の空隙に錫石の結晶を発見できることも
  あるが良品は期待できない。
   砂鉱として産出するとあるので、2005年夏に開眼した(?)パンニングにも挑戦した。
  ズリの土砂を買い物ビニール袋に入れて駐車スペース近くの道路脇を流れる小川で
  パンニングを試み、分離結晶を採集できた。(買い物袋1つから、約1グラム)

4. 産出鉱物

 (1)錫石【Cassiterite:SnO2
     白〜黄褐色〜黒色、透明〜不透明のダイヤモンド〜金属光沢で短い柱状として
    石英脈の中に粒鉱で、石英の空隙に自形結晶で産する。
     パンニングで採集した分離結晶は”川ズレ”の跡が全くなく、砂鉱の者ではなく
    採掘・選鉱時に鉱石から分離したものと思われる。
     この産地で、自形結晶を示す鉱物は、錫石と水晶だけであり、分かりやす筈だが
    白に近い色のものや宝石質透明なものもあり、”トパーズでは?”とあらぬ期待を
    抱かせられることがある。

       
         母岩付き              分離結晶
       【茶色は褐鉄鉱】         【パンニング品】
                    錫石

 (2)水晶【Rock Crystal:SiO2
     石英脈の空隙部に小さな結晶で産し、稀に錫石の結晶を伴うことがある。

    水晶

5.おわりに 

 (1) お正月を迎え、元旦に食べるお雑煮のお餅が”丸”か”四角”か地域によって
    大きく違うようです。(ちなみに、我が家は子供の頃は丸でしたが、関東に移り住み
    いつの間にか四角になっています。)
     鉱物によっては地域性があるようで、錫石は”西高東低”(まるで冬型の天気)の
    代表かも知れません。
     「日本鉱産誌」でみてみると、錫石を産する鉱山は各都道府県別に次の通りです。

 都道府県名
(鉱山数ゼロは省略)
鉱山の数代表的な鉱山【産状】
 北海道 2寿都(すっつ)
 茨城 2高取・大正
 栃木 2足尾
 新潟 1岩船【針状結晶】
 岐阜 4恵比寿・高根・苗木【砂錫】
 滋賀 1田ノ上
 京都 3大谷・鐘打
 兵庫 2明延・生野
 山口 3玖珂・喜和田・藤ケ谷
 大分 5木浦・尾平
 宮崎 5男錫(おすず)・土呂久・見立
 鹿児島 9錫山(谷山)・垂水(たるみ)・屋久島仁田

 (2) 大正鉱山は、東北、関東方面で錫石が採集できる数少ない鉱山跡の1つであり
    大切にしたいものです。

 (3) 私のHPを見た人から、高取鉱山近くにあった「岩谷鉱山」の位置を聞かれた
    ことがあった。大正鉱山一帯が「岩谷国有林」となっていることからも解るように
    岩谷鉱山は、大正鉱山の北隣にあった。
     数年前に探索したことがあったが、小さな硫化鉱物を見つけただけであった。

6.参考文献 

 1)日本鉱産誌編纂委員会編:日本鉱産誌 金・銀その他,東京地学協会,昭和30年
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