長野県南木曽町田立のアマゾナイト(微斜長石)

    長野県南木曽町田立のアマゾナイト(微斜長石)

1. 初めに

   栃木県の石友・Sさん一家を岐阜県苗木地方に案内し、娘のYさんが自分の誕生石
  の「サファイア」を自力採集したのは、既報の通りである。
   2日目に訪れる産地の候補を前もって、長野県南木曽(なぎそ)町田立(ただち)の
  「アマゾナイト(天河石・微斜長石)」産地を挙げたところ是非訪れたい、とのことで案
  内した。

   古い鉱物図鑑の「天河石」のページを見ると、必ずと言ってよいほど長野県西筑摩郡
  田立(ただち)村【現在、長野県南木曽(なぎそ)町田立】産の青緑色・両錐結晶が掲載
  してある。

    田立産天河石【原色鉱物岩石検索図鑑より引用】

   しかし、保科五無斎の長野県地学標本採集旅行記、明治42年8月21日の件に
  『 元来長石の標本は是非共無くては叶はぬものなれども、南佐久郡茂来山のものも
   西筑摩郡田立村のものも、既に採集し尽くしたるの今日・・・・』
とあり、明治末期には
   すでに採集が難しかったようだ。
   ただ、私たちが訪れた場所では現在でも採集でき、五無斎が訪れた場所と違う可
  能性もある。( 田立には、長石採掘場がいくつかあった )

   この日出会った地元の主婦に聞くと 『 昨日、三重県の男の人が来たが、青い石は
  採れずに帰った 』
、とのことで、判りにくい産地のようだ。

   今回は、女性と中学生を案内してなので、少しでも楽にと、いつもと違うコースでアプ
  ローチしたが、道を間違えてしまい、産地到着に手間取ってしまった。
   見覚えのある沢に出て間もなく、Sさんの奥さんが『綺麗!!』と叫んで、”青緑石の
  アマゾナイト”
を拾い上げた。

   産地では、Sさんの娘・Yさんが「トパズ」の分離結晶を採り、私もこの産地で初めて
  「アマゾナイトの自形結晶」を採集した。

   2日間の夏休み自由研究から自宅に戻ったYさんは、自力採集したサファイやトパズを
  取り出しては眺めて”ニコニコ”している、と喜びのメールをいただいた。

   近々、石友たちと「秋のミネラル・ウオッチング」で、ここを訪れるのを楽しみにして
  いる。
  ( 2003年4月採集、2006年3月再訪、同月訂正、2007年8月再々訪 )

2. 産地

   狭い産地なので、最初に案内していただいたS博士から、公表しないように依頼されて
  いるので割愛する。
   アマゾナイト(天河石)の産地は「やんぞれ」と呼ばれていたようだが、東京の石友・
  Mさんの話では、今では地元の年配の人でも何処なのか、分からないようだ。
   県外の遠くから、”青い石”を採りに来る人がいることは知っていても、どこで採れる
  のか知らない人がほとんどになっている。

3. 産状と採集方法

   田立は、日本3大ペグマタイト産地の1つ、中津川・蛭川に隣接するかのように位置
  しており、随所に花崗岩や風化してマサ化した箇所が見られる。
   露頭を掘った(採集者が崩した?)場所からでた、ペグマタイトの小さな塊やカケラが
  かなりの量のズリを作っている。

       
          産地                ペグマタイト模式標本
                   田立産状

    田立のアマゾナイトも、乾くと青緑色が薄れる普通の長石と見分けが付き難いもの
   が多く、沢筋など、水分を含んだ場所のズリで採集するのが良いようだ。

    産地のSさん一家

4. 産出鉱物

   ここで産出する鉱物の標本は既に一通り採集して、既にHPに記載してあるので、
  今回、Yさんと私が採集した良標本だけを紹介する。

 (1) アマゾナイト/天河石(微斜長石)【Amazonite(MICROCLINE):KAlSi3O8
     カリ長石の一種、微斜長石で白〜黄〜緑〜青色の柱状結晶で産出する。通常
    図鑑にあるような分離単結晶の採集は難しいが、今回、自形結晶を表面採集で
    きた。

      アマゾナイト(微斜長石)【私の採集品】

 (2) トパズ【TOPAZ:Al2SiO4(OH,F)2
     以前からトパズの産出は確認していたが、微細なものがほとんどで、今回Yさん
    が表面採集した5mmを超えるものは珍しい。

     トパズ【Yさんの採集品】

5. おわりに

 (1) 栃木県の石友・Sさん一家を案内しての2日間の苗木地方の鉱物巡検の締めくく
    りにふさわしい「トパズ」と「アマゾナイト(微斜長石)の自形結晶」だった。
     無事帰宅した一家の皆さんは、自力採集した「サファイア」や「トパズ」を取り出し
    ては眺め、”ニコニコ”している、と喜びのメールがあり、案内した甲斐があった。

 (2) 私たちが訪れる前日 『 三重県から来た人が手ぶらで帰った 』 ことからも判
    るように、わかりにくい産地なので、まだまだ良品が期待できそうだ。
     「露頭派」の人なら、露頭を掘って晶洞を開けるのも面白いだろう。

     「秋のミネラル・ウオッチング」で、石友たちと再び訪れるのを楽しみにしている。

 (3) 産地に行きしな、自家農園の無農薬スイカを沢水に漬けておいた。産地から帰
    って来たときには、食べごろに冷えていて、乾いた喉を十分に潤してくれた。

     スイカで休憩

6. 参考文献

 1) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 2) 佐久教育会編:五無斎 保科百助全集 全,信濃教育会出版部,昭和39年
 3) 長島 乙吉:苗木地方の鉱物,中津川市教育委員会,昭和41年
 4) 佐久教育会編:五無斎 保科百助評伝,同会,昭和44年
 5) 柴田 秀賢、須藤 俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
 6) 益富 寿之助:鉱物 ―やさしい鉱物学―,保育社,昭和60年
 7) 宮島 浩:長野県茂来山正長石 水晶 VOL.15,鉱物同志会,2002年
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