ワインと酒石酸

ワインと酒石酸

1.初めに

山梨県の骨董店で購入した「ぶどう酒物語」を読むと、”ブドウは兵器だ”
という章があります。
ぶどう酒から取れる「ロッシェル塩」には圧電現象があり、これが潜水艦や魚雷の
発する音波をキャッチする水中聴音機の素材として、昭和17年以降、急速に需要が
高まった。
贅沢品とみなされたブドウやぶどう酒を作るぶどう園が食糧増産で潰されかかって
いたが、酒石酸の需要が高まり、多くのぶどう園が助かった。
酒石酸には、”石(いし)”の字が入っているので、興味を持ち、ぶどう酒から
つくれることも初めて知った。
そんな折、2001年9月に、福島県裏磐梯吾妻珪石山に採集に行った帰り、採石場の
近くには、山葡萄がたわわに実をつけていたので、数房持ち帰り、醸造して、
酒石酸を試作した。
(2001年12月実験)

2.酒石酸の歴史

これと言って大きな化学産業がなかった18世紀まで、醸造業は、化学の発展に
大きな関わりをもっていた。ぶどう酒醸造の際の副生物である酒石酸は、当時、
大量に純粋なものが得られる数少ない物質の1つであった。

1655年   セニエット      仏の港町ラ・ロシェがロッシェル塩調製
1769年   K.W.シェーレ   酒石酸発見
1822年   ケストナ       酒石酸の異性体ブドウ酸発見
1848年   L.パスツール    酒石酸に右・左旋性があること発見
1874年   ファント・ホフ    炭素正四面体で酒石酸の立方異体を説明
1880年   キュリー兄弟     ロッシェル塩の圧電気現象を発見
1951年   バイフィート     酒石酸の絶対立体配置の決定に成功
ロッシェルの結晶【ぶどう酒物語から引用】

3.ぶどう酒の醸造法

一般にブドウからぶどう酒(ワイン)を作る手順は、以下の通りである。
(1)ブドウを容器に入れる。
ぶどうを容器にいれる
(2)ブドウを潰し果汁をだす。
ぶどうを粉砕
(3)発酵を促すため、砂糖を加える。
砂糖を加える
(5)発酵を待つ。約2週間で発酵し、炭酸ガスを盛んにだす。
発酵中のぶどう酒
(4)熟成を待つ。
熟成中のぶどう酒
(5)発酵した果汁を絞る。
これで、完成です。
この間、1ケ月あまりでしょうか。

4.”ブドウは兵器だ”

昭和17年5月、某海軍技術大佐が、イ号潜水艦でドイツから帰国した。大佐の
使命は、ドイツで開発した秘密兵器を製造するための情報収集であった。
昭和18年1月、海軍軍需工場から、サドヤに、「酒石酸加里ソーダが軍事上必要に
なった。できるだけ、大量に集めて欲しい。」旨の申し入れがあった。
5月ごろ、日本全国のぶどう酒醸造業者が酒石の結晶体の採集をはじめ、サドヤに
集め、精製した。
地上より水中のほうが早く伝わる音波を探知する兵器は、昭和17年はじめから、
各地の軍需工場で量産する段階に入った。
昭和19年、陸軍からも、南海の孤島で戦う守備隊が、海水から真水を作る脱塩剤
の主原料となる酒石酸の大量注文があった。
酒石酸は、ぶどう酒の中に0.5〜0.7%の微量しか含まれていない。酒石酸の
結晶は、酒樽の内側にこびり付いているので、タガを外して分解し、結晶を削り
取って採集した。
ロッシェル塩の精製事業は、甲府大空襲でサドヤが焼ける昭和20年7月6日まで続き、
この間精製したロッシェル塩は、20数トンに達したと言われている。

5.おわりに

(1)酒石酸を試作したが、使った容器がガラス製であったため、酒石酸の
付着など見られず、失敗でした。作った液体は、私の喉を潤してくれました。

6.参考文献

1)山梨日日新聞社編:ぶどう酒物語,山梨日日新聞社,昭和53年
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