小学生とミネラルウオッチング in 山梨 2009

      小学生とミネラルウオッチング in 山梨
                 Aug.2009

1. 初めに

   2009年7月初め、私のホームページを読んだ東京・Mさんから、初めてメールをいただいた。

    『 小学生の男の子二人(5年&2年)の夏休みの自由研究のテーマに、子供たちは
     二人そろって「石(鉱物)を調べる」を掲げ(弟は兄を真似したようで、兄弟げんかして
     おりますが)、門外漢の私は困って、ネットで検索しておりました。
      まずは、鉱物博物館(東京ですと、国立博物館やこども鉱物館)に連れて行こうと
     思っておりますが、機会があれば、鉱物採集の体験がしたいのです。

      東京近郊で、小五小二の男児がチャレンジできそうな場所、コース、施設、機関など
     がありますでしょうか。なにせ、素人が行って、できることなのか……。

      もし、お知恵をお貸しいただければと思いまして、不躾で申し訳ございませんが、とり
     いそぎ、メールでお尋ねする次第であります。                        』

   そこで、夏休みに入ってから、小学生でも無理のない、山梨県の水晶産地を案内するこ
  とにした。

   8月初旬、Mさん一家4人をJR塩山駅に出迎え、私のワンボックスカーに乗って、駐車場
  を目指した。曲がりくねった林道を走ると、長男・T君が車に酔い、分校跡のトイレで休憩し
  た。
   標高1,800mの登山道を歩き始めるとT君の体調も回復し、川に横たわる丸太を橋代わり
  にして、みんなフィールド・アスレチック気分で無事渡り終えた。

   「水晶鉱山跡」に到着すると、一面に散らばる石英を見て『水晶だ!!』の歓声が
  上がった。ここで、昼食をいただいた後、別な産地に移動した。
   そこで採集を開始すると『山入りがあった!!』『緑水晶があった!!』、と歓声が
  響いた。

      兄弟仲良く水晶探し

   私の持論の1つに、『鉱物採集は、水晶に始まり、水晶に終わる』がある。
  嬉々として水晶を探す小学生と両親を見ていて、その感を一層深くした。
   T君、I君が鉱物を通して、自然を大切にする心を養ってくれることを祈っている。
   ( 2009年8月実施 )

2. 水晶産地を目指せ!!

 (1) 登山口へ
     電車で来るMさん一家をJR塩山駅で待ちうける。初対面だが、元気のよい小学生2人
    がいたので、すぐにわかる。
     一家と初対面の挨拶の後、私の車に乗って、出発!!

     林道を登って行く。曲がりくねった林道なので、長男・T君が気分が悪くなって、吐いて
    しまった。次男・I君は、元気そのもの。
     前方の山々には中腹まで、雲がかかっていたが、私たちが駐車場に近づくにつれ
    青空も見えてきた。
     分校跡でトイレ休憩し、駐車場に到着したのは予定通り10時だった。

 (2) 難所を越えて
     産地への道は、下り→平坦→下り→川渡り→緩やかな登り、で”行きは良いヨイ”
    のコースだ。
     一面の緑の中を歩き始めると、T君の体調も回復し、元気が出てきた。
     このコースの難所は渡河だ。この季節でも、水温は10℃以下で、落ちてズブ濡れに
    なったら”風邪”だけでは済まないかもしれない。

      渡河【Mさん一家】

     私が先に渡り『見本』を示し、注意事項を伝える。怖がることもなく、次々と身軽に
    渡りきり、一安心。ここで、小休止。水に手を入れ、あまりの冷たさの切れるような痛さ
    を感じているI君だった。
     ここで、私は一仕事。中川農園のスイカを沢水に浸して冷やしておくのだ。

 (3) 「水晶鉱山跡」で水晶探し
      枯れ沢を2つ横切ると遠くから、”真っ白い水晶(石英)片”が一面に散らばる、
     「水晶鉱山跡」が見えてくる。
      こどもたちが、『 水晶だ!!』、と歓声を上げる。荷物を降ろし、思い思いの場所に
     陣取って採集を始める。
      すぐに、『水晶があった!!』の声が上がる。結晶面がいくつか見えるものでも
     大喜びだ。六角柱状で錐面もついた完全なものを探すように教える。
      「武石」が採集できることも話し、見本を差し上げる。
      お母さんも、小さいながらガラスのように綺麗な水晶を手にして、喜んでいる。
      ここで、お昼をいただき、このズリの元になっている坑道を外から見学した。

3. 「水晶産地」で水晶採集だ!!

 (1) 「水晶産地」に到着
     あまり距離はないのだが、登山道の急な坂を木の根や岩角にすがって登りきると
    最終目的地の「水晶産地」だ。ここで、記念写真をとる。

      記念写真【Mさん一家】

     この日の産地は、大賑わいで、私たちの外、少なくとも3グループがいたようだ。

 (2) 「山入り」そして「緑水晶」
     採集ポイントに移動し、半径50mの範囲に散らばり、思い思いの場所で水晶を拾って
    いる。ここでの目玉は、@ 山入り A 緑 B 黄鉄鉱入り だと説明する。

     山入り水晶のサンプルを皆さんに見てもらって間もなく、お母さんから、『山入り水晶が
    あった!!』
、と喜びの声が上がった。
     次々と、「山入り水晶」が見つかる。お父さんも、透明な山入りを自力採集しニコニコし
    ている。

     やがて、T君が「緑山入り水晶」を発見。大切に新聞紙に包んで持ち帰るようにする。

 (3) 帰りはコワイ
      皆さん産地を離れがたい思いが強いようだったが、”ポツポツ”と雨が降り出したし、
     帰りの電車の時間もあり、14時過ぎに産地を後にした。
      帰りは、来たときと違うコースで、急坂を下りる。最初、お母さんは尻込み気味だった
     が、次男・I君は”ケロリ”としている。

 (4) スイカを食べて元気回復
      行きしなに沢水に浸しておいたスイカは、野生動物に食べられることなく、食べごろ
     に冷えていた。
      持参したナイフで切り分け、塩を振りかけて食べると、ジューシィな甘さが口一杯に
     広がり、疲れが吹き飛んだ。

       スイカを食べる笑顔

 (5) 駐車場に無事到着
      川を渡り、急な登り→平坦→そして急な登り、を乗り越えて、駐車場に着いたのは、
     15:30で、JR塩山駅に着いたのは、16:40だった。

     名残惜しいが、Mさん一家とお別れの挨拶をして、私も帰路についた。

4. 後日談

 4.1 今回の観察品
      私が、大勢の皆さんを案内すると、面白い産状の標本や珍しい鉱物に出会うこと
     も少なくない。
      それらを見せていただき、デジカメで記録に残せるのは私の”役得”だろう。今回
     の観察品のいくつかを紹介したい。

鉱物種名
俗名
【英名:組成】
 産 状   標 本 写 真  説    明
石英
水晶
【QUARTZ
 :SiO2
柘榴石入り
 山入り水晶の山の
表面に、透明、暗赤色、粒状の
鉄礬柘榴石結晶の集合がある。

 ここでの「鉄礬柘榴石」の
産出報告は初めてでは
ないだろうか。

2重構造  最初にできた水晶の上を
しばらく時間を置いて後から
できた水晶が覆い、2重
構造になっている。

 これが、山入り水晶の正体

 この標本は、1層目と
2層目の間に白雲母が
介在している。

山入り  山入り水晶の1例

 ”山”というより、”雲”か

5. おわりに

 (1) 今までも20名、30名の大人数を鉱物産地に案内したことは何回もあったが、その多くが
    小学生高学年以上だった。
     今回案内したI君は小学2年生だが、弱音を吐くこともなく、全コース元気に回ってくれ
    た。

     このように、小さな子どもから大人までが楽しめる産地は、いつまでも大切にしたいも
    のだ。

 (2) お母さんからの次のようなお礼のメールをいただき、T君、I君にとって良い経験になっ
    たようだ。

      『 家族全員初めての水晶取りでしたが、お蔭様で怪我もなく素晴らしい体験ができ
       ました。
        たまたまHPを拝見して不躾にお尋ねしたばかりでしたのに、朝から車をお出し
       いただき、山道をご案内いただき、水晶についていろんなことをお教えいただき、
       ほぼ一日たっぷりお付き合いいただいて、感謝感激でした。何から何まで本当に
       どうもありがとうございました。
        昨日早速子供たちは水晶磨きをして、自分の宝物自慢をしておりました。とっても
       楽しかったようで、川で冷えたスイカがおいしかったことなども日記に書いておりま
       した。                                               』

      今回のミネラル・ウオッチングがこどもたちの良い思い出になり、いつまでも鉱物を
     通じて自然に愛着を持ってくれることを祈っている。

 (3) 今回のように、小学生など、鉱物に興味を持ち始めた人々を産地に案内する依頼が
    ここのところ毎週のようにあり、都合が付く範囲で対応させていただいている。
     これも、私の”余生の生かし方”の1つだと考えている。

6. 参考文献

 1) 谷山 四方一:鉱物鑑識の実際と鉱山探検,厚生閣,昭和14年(1939年)
 2) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年(1970年)
 3) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年(1985年)
 4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
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