私のHPを読んだK県の私立小中高一貫校のR・H先生から『クラスの小学6年生18名を
鉱物採集に連れて行きたいのだが、適当な場所を教えて欲しい』、と相談のメールを
いただいたのは、2007年9月の初めだった。
19名の小学生と引率の先生2名を山梨県の水晶産地に案内したのは、2007年10月
中旬だった。
2009年5月、同校のT先生から『今年も、6年生26名を案内して欲しい』、とのメールが
あり、山梨県の水晶産地を案内することにした。
6月初旬、小学6年生26名、T先生ほか2名の先生、総勢29名をJR塩山駅に出迎え、
貸切タクシー5台と私のワンボックスカーに分乗し、駐車場を目指した。
登山道を一列に進み、川に横たわる丸太を橋代わりにして、みんなフィールド・アスレ
チック気分で無事渡り終えた。「水晶鉱山跡」に到着すると、一面に散らばる石英を見て
『水晶だ!!』の歓声が上がった。
別な産地に移動し、昼食後、採集を開始すると『山入りがあった!!』、『緑水晶
があった!!』、と歓声が響いた。
私の持論の1つに、『鉱物採集は、水晶に始まり、水晶に終わる』がある。
嬉々として水晶を探す小学生たちを見ていて、その感を一層深くした。
このような貴重な機会を作っていただいた今回引率のT先生、そして伝統となる行事
を企画してくれたR・H先生に感謝している。
( 2009年6月実施 )
林道を登って行く。前方の山々には中腹まで、雲がかかっていたが、私たちが
駐車場に近づくにつれ薄日も射し、天気は大丈夫そうだ。
遠くに見えるアルプスの頂には真っ白い雪が見え、林道沿いには「石楠花」がピン
クの花を咲かせている。駐車場に到着したのは予定通り10時だった。
(2) 難所を越えて
産地への道は、下り→平坦→下り→川渡り→緩やかな登り、で”行きは良いヨイ”
のコースだ。
ただ、難所は渡河だ。この季節でも、水温は10℃以下で、落ちてズブ濡れになった
ら”風邪”だけでは済まないかもしれない。
私が先に渡り『見本』を示し、注意事項を伝える。怖がる生徒もなく、次々と身軽に
渡りきり、一安心。ここで、小休止。底まで見える透明で清冽な流れに歓声を上げ
水に手を入れ、あまりの冷たさに切れるような痛さを感じている子もいる。
(3) 「水晶鉱山跡」で水晶探し
枯れ沢を2つ横切ると遠くから、”真っ白い水晶(石英)片”が一面に散らばる、
「水晶鉱山跡」が見えてくる。
生徒たちの間から、『 水晶だ!!』、と歓声が上がる。荷物を降ろし、思い思
いの場所に陣取って採集を始める。
すぐに、『水晶があった!!』の声が上がる。結晶面がいくつか見えるものでも
大喜びだ。やがて、六角柱状のもの、そして錐面もついた完全なものを見つけて
見せ合っている。
「武石」が採集できることも話し、見本を示すと、それよりも立派な標本を次々に
採集する。
(2) 「山入り」「緑」そして「緑山入り」
採集ポイントに移動し、12時少し前だが、昼食にする。横たわる大木の上に並んで
昼食を食べる女子生徒の快活さには自分の小学生時代を思い出す。
( 中学生まで小柄だった私よりも、大きな女子生徒のほうが、体力・学力で上だった )
食事している生徒たちに、この産地の水晶は1,200万年前に生まれたこと、水晶の
成長が止まった時期があり、”山入り”ができたこと、インクルージョン(内包物)の
話をする。
昼食もそこそこに、半径50mの範囲に散らばり、思い思いの場所で水晶を拾って
いる。みんなの狙いは、@ 山入り A 緑 B 黄鉄鉱入り のようだ。
『山入り水晶があった!!』、と喜びの声がアチコチから起こる。
次々と、『鑑定依頼』が舞い込む。「これは、山入り」「これは緑」「これはミルキー
クオーツ(乳白色の水晶)」、「これは雲入り(山ほどハッキリしないモヤモヤとした)」
そして「まりも(球状の角閃石や緑閃石)入り」、と息つく暇もないほどの大忙しだ。
やがて、女子生徒が持ってきたのは、20cmほどの母岩に頭付き水晶が10本ほど
ついていた。大きすぎるというので、ハンマとタガネで小割りしてあげると、数人で分け
分け合っていた。
さらに、女子生徒が「○○さんが緑水晶の素晴らしいのを採集した」、と自分のこと
のように喜んでいる。見せてもらうと、3cmほどで大きくはないのだが、薄緑色で”テリ”
もある逸品だった。
(3) 帰りはコワイ
皆さん産地を離れがたい思いが強いようだったが、帰りの電車の時間もあり、
13:30に産地を後にした。
帰りは、来たときと違うコースで、急坂を下りる。最初、尻込み気味だったが
下り始めると”ケロリ”とした顔の元気な子供たちだった。
むしろ、先生たちのほうが・・・・・・・・・・・。
(4) 難所も無事に越え
緩やかな下り→急な登り→平坦→そして急な登り、を乗り越えて、駐車場に着い
たのは、14:30で、迎えのタクシーを予約した時間ピッタリだった。
途中、トイレ休憩した後、JR塩山駅に着いたのは、電車の時間まで20分あまりある
15:30だった。
私の車には、女子4名(帰り5名)、男子2名が乗った。行きも帰りも皆さん元気
一杯で、曲がりくねった林道で気分が悪くなる子もいなかったので安心だった。
( 3人の子どもが息子ばかりの私には、”孫娘””孫息子”と一緒の楽しい車中
だった )
名残惜しいが、生徒たち、先生たちとお別れの挨拶をして、私も帰路についた。
4.2 『私の宝物』
自宅の郵便受けに、分厚い封筒があった。差出人はT先生だった。封を切ると中から、前の
週、水晶産地を案内したこどもたちの感想文がでてきた。
ひとり1人の感想文を読むと、それぞれがお気に入りの標本を手にできた喜び、母親も
行って見たいと言った事、そして兄弟に標本を見せて欲しいとせがまれたことなどが鋭い
観察眼で描いたイラストとともに綴ってあった。
Tさんのイラストには、水晶の”条線”も正確に描かれ、こどもたちの観察眼の素晴ら
しさには感心した。
豊かな自然の中で、素晴らしい体験ができたことを本人だけでなく、家族も喜んでい
る様子が目に浮かび、案内させていただいた私も嬉しくなった。
今回送ってもらった感想文も『私の宝物』 だ。
@ 安全
万一、事故があったら、楽しさが吹き飛んでしまう。
特に、川を渡るときや急坂を下りるときなどは緊張し、一瞬たりとも目が離せない。
A 全員が標本を採集できる
”採れないと面白くない”ので、採れていない生徒には私が採集した『見本』
を差し上げた。
( こどもたちのほうが、私が驚くような良品をズリで採集し、やはり大勢の眼は
スゴイ!! )
B 天候
雨が降ったりすると、産地への往復、採集も大変。しかも、標高1,800mの
産地は寒く、風邪を引くなどの副作用も心配
”晴れ男”復活か、今回も天候にも恵まれた。
(2) 幸い、事故もなく、天候にも恵まれ、こどもたちは採集した「水晶」や「武石」などを大切に
持ち帰った。
こどもたちが、いつまでも鉱物を通じて自然に愛着を持ってくれることを祈っている。
(3) 2009年4月、千葉県の電子部品メーカーさんで技術コンサルタントの仕事を無事終え
山梨県の自宅に戻った。
山梨県のパソコン・ボランティアとして、障害をお持ちの方々のPCのトラブルを
解決するお手伝いをさせていただく傍ら、今回のように、小学生など、鉱物に興
味を持ち始めた人々を産地に案内することも、私の”余生の生かし方”の1つだと
考えている。