小学生とミネラルウオッチング in 山梨

      小学生とミネラルウオッチング in 山梨

1. 初めに

   

   私のHPを読んだK県の私立小中一貫校のR・H先生から『クラスの小学6年生18名を
  鉱物採集に連れて行きたいのだが、適当な場所を教えて欲しい』
、と相談のメールを
  いただいたのは、2007年9月の初めだった。
   19名の小学生と引率の先生2名を山梨県の水晶産地に案内したのは、2007年10月
  中旬だった。

   2008年9月、同校のT先生から『今年も、6年生16名を案内して欲しい』、とのメールが
  あり、山梨県の水晶産地を案内することにした。
   9月中旬の下見には、来年以降の下見を兼ね、5年生や1年生の担任の先生も同行し
  学校の伝統行事になりそうだ。

   10月初旬、小学6年生16名、T先生とN先生、総勢18名をJR塩山駅に出迎え、貸切
  タクシー3台と私(正確には妻)の車に分乗し、駐車場を目指した。
   登山道を一列に進み、川に横たわる大木を橋代わりにして、みんなフィールド
  アスレチック気分で無事渡り終えた。「水晶鉱山跡」に到着すると、一面に散らばる
  石英を見て、『水晶だ!!』の歓声が上がった。
   別な産地に移動し、昼食後、採集を開始すると『山入りがあった!!』『緑水晶
  があった!!』
、と歓声が響いた。

   当初予定した日は雨のためこの日に延期になり生徒たちはガッカリしていたようだが
  この日は、久々の快晴で、T先生にも、”晴れ男”と言っていた約束が果たせた。

   私の持論の1つに、『鉱物採集は、水晶に始まり、水晶に終わる』がある。
  嬉々として水晶を探す小学生たちを見ていると、その感を一層深くした。
   このような貴重な機会を作っていただいた今回引率のT先生、そして伝統となる行事
  を企画してくれたR・H先生に感謝している。
   ( 2008年10月実施 )

2. 水晶産地を目指せ!!

 (1) 登山口へ
     電車で来る一行をJR塩山駅で待ちうける。T先生が遠くから手を振ってくれ、
    すぐにわかる。
     生徒たちと初対面の挨拶の後、4台の車に分乗し、出発!!

     林道を登って行く。前方の山々には中腹まで、雲がかかっていたが、私たちが
    駐車場に近づくにつれ抜けるような青空が広がり、天気は大丈夫そうだ。
     「ななかまど」の実が真っ赤に熟し、紅葉も始まっている。駐車場に到着したのは
    予定通り10時だった。

 (2) 難所を越えて
     産地への道は、下り→平坦→下り→川渡り→緩やかな登り、で”行きは良いヨイ”
    のコースだ。
     ただ、難所は渡河だ。この季節、水温は10℃以下で、落ちてズブ濡れになったら
    ”風邪”では済まないかもしれない。

      渡河【下見のときのT先生一行】

     私が先に渡り『見本』を示し、注意事項を伝える。怖がる生徒もなく、次々と身軽に
    渡りきり、一安心。ここで、小休止。底まで見える透明で清冽な流れに歓声を上げ
    水を飲みその冷たさと美味しさを味わっている生徒もいる。

 (3) 「水晶鉱山跡」で水晶探し
      枯れ沢を2つ横切ると遠くから、”真っ白い水晶(石英)片”が一面に散らばる、
     「水晶鉱山跡」が見えてくる。
      生徒たちの間から、『 水晶だ!!』、と歓声が上がる。荷物を降ろし、思い思
     いの場所に陣取って採集を始める。
      すぐに、『水晶があった!!』の声が上がる。結晶面がいくつか見えるものでも
     大喜びだ。やがて、六角柱状のもの、そして錐面もついた完全なものを見つけ
     見せ合っている。

      「武石」が採集できることをT先生に聞いたのを生徒たちは覚えていて、1辺が
     5cmもある立派な標本を採集した生徒もいた。

         
               産地           「武石」(○君採集)
                      水晶鉱山跡

 (4) 水晶坑道見学
      ここには、水晶坑道が残されている。生徒、特に男子は坑道の中に入って見た
     いらしい。
      坑道の安全性は事前に確認してあるので、生徒たちを坑道内に案内する。
     16名の生徒とT先生が入っても未だまだスペースがあり、さらに奥まで続いている
     坑道の広さに驚嘆の声が上がる。
      花崗岩に入った石英脈の晶洞(ポケット)に水晶が生まれている様子を観察し
     またまた驚きの声があがる。

3. 「水晶産地」で水晶採集だ!!

 (1) 「水晶産地」に到着
     あまり距離はないのだが、登山道の急な坂を木の根や岩角にすがって登りきると
    最終目的地の「水晶産地」だ。

 (2) 「山入り」「緑」そして「緑山入り」
     採集ポイントに移動し、12時少し前だが、昼食にする。横たわる大木の上に並んで
    昼食を食べる女子生徒の快活さには自分の小学生時代を思い出す。
     ( 中学生まで小柄だった私より大きな女子生徒のほうが、体力・学力で上だった )

     食事している生徒たちに、この産地の水晶は1,200万年前に生まれたこと、水晶の
    成長が止まった時期があり、”山入り”ができたこと、インクルージョン(内包物)の
    話をする。

     昼食もそこそこに、半径50mの範囲に散らばり、思い思いの場所で水晶を拾って
    いる。みんなの狙いは、@ 山入り A 緑 B 黄鉄鉱入り のようだ。

    『山入り水晶があった!!』、と喜びの声がアチコチから起こる。

     次々と、『鑑定依頼』が舞い込む。「これは、山入り」「これは緑」「これはミルキー
    クオーツ(乳白色の水晶)」、「これは雲入り(山ほどハッキリしないモヤモヤとした)」
    そして「まりも(球状の角閃石や緑閃石)入り」、と息つく暇もないほどの大忙しだ。

     やがて、女子生徒が持ってきたのは、10cmほどの母岩に頭付き山入りが10本
    ほどついた見事な群晶だった。あまりの見事さに、周りの生徒から、羨望のため息
    が出る。これは、このまま保存するように、とアドバイスする。
     ( こんな良品がズリで採集できるなんて、やはり大勢の眼はスゴイ )

     さらに、女子生徒が「○○さんが山入りの素晴らしいのを採集した」、と自分のこと
    のように喜んでいる。見せてもらうと、3cmほどで大きくはないのだが、”くっきり”と
    山が入った逸品だ。

 (3) 帰りはコワイ
      皆さん産地を離れがたい思いが強いようだったが、帰りの電車の時間もあり、
     14:20に産地を後にした。
      帰りは、来たときと違うコースで、急坂を下りる。最初、尻込み気味だったが
     下り始めると”ケロリ”とした顔の元気な子供たちだった。
      むしろ、先生たちのほうが・・・・・・・・・・・

       急な坂【下見のときのT先生と同僚】

 (4) 難所も無事に越え
     緩やかな下り→急な登り→平坦→そして急な登り、を乗り越えて、駐車場に着い
    たのは、14:30で、迎えのタクシーを予約した時間ピッタリだった。

     途中、トイレ休憩した後、JR塩山駅に着いたのは、電車の時間まで20分あまりある
    15:30だった。

     私の車には、往復とも同じ女子3名、男子1人が乗った。行きも帰りも皆さん元気
    一杯で、曲がりくねった林道で気分が悪くなる子もいなかったので安心だった。
     ( 3人の子どもが息子ばかりの私には、”孫娘””孫息子”と一緒の楽しい車中
      だった )

     名残惜しいが、生徒たち、先生たちとお別れの挨拶をして、私も帰路についた。

4. 後日談

 (1) 今回の観察品
      私が、大勢の皆さんを案内すると、面白い産状の標本や珍しい鉱物に出会うこと
     も少なくない。
      それらを見せていただき、デジカメで記録に残せるのは私の”役得”だろう。今回
     の観察品のいくつかを紹介したい。

         
       緑水晶【高さ15mm】    山入り群晶【高さ30mm】

         
     電気石入り【高さ30mm】   透明水晶【高さ45mm】

         
            鋭錐石              板チタン石

                      観察品

5. おわりに

 (1) 今までも20名、30名の大人数を鉱物産地に案内したことはあったが、その多くが
    中学生以上で、子どもには親が付き添っていた。
     今回は、小学6年生が16名、引率の先生2名で、いつもより緊張しながら、案内した。

     @ 安全
        万一、事故があったら、楽しさが吹き飛んでしまう。
        特に、川を渡るときや急坂を下りるときなどは緊張する。
     A 全員が標本を採集できる
        ”採れないと面白くない”ので、採れていない生徒には私が採集した『見本』
        を差し上げた。
        ( 私のより良品を子どもたちが次々と発見し・・・・・・・ )
     B 天候
        雨が降ったりすると、産地への往復、採集も大変。しかも、標高1,800mの
        産地は寒く、風邪を引くなどの副作用も心配
        T先生の”テルテル坊主”が効いたか、はたまた”晴れ男”か、今回も天候にも
        恵まれた。

 (2) 幸い、事故もなく、天候にも恵まれ、皆さん採集した「水晶」や「武石」などを大切に
    持ち帰った。
     T先生からのメールで、「月曜日、お気に入りの標本をクリーニングして学校に持って
    くるように」、との宿題がでたようだ。月曜日、クラスの賑やかさが容易に想像できる。
     生徒たちが、いつまでも鉱物を通じて自然に愛着を持ってくれることを祈ってい
    る。

     同じメールに「△△先生から、来年度もよろしく」、とのことなので、学校の伝統行事に
    なりそうだ。

 (3) 現在、2009年3月までの予定で千葉県の電子部品メーカーさんで技術コンサル
    タントとして忙しくも楽しい日々を送っている。しかし、いずれは第一線をリタイアする
    日を迎えることになる。
     山梨県のパソコン・ボランティアとして、障害をお持ちの方々のPCのトラブルを
    解決するお手伝いをさせていただく傍ら、今回のように、小学生など、鉱物に興
    味を持ち始めた人々を産地に案内することも、私の”余生の生かし方”の1つだと
    考えている。

6. 参考文献

 1) 谷山 四方一:鉱物鑑識の実際と鉱山探検,厚生閣,昭和14年(1939年)
 2) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年(1970年)
 3) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年(1985年)
 4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
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