2018年春、神奈川の私立一貫校のK先生から、「6年生と7年生(中学1年生)の鉱物の授業で、案内して
欲しい」と連絡があり、6月下旬に案内することになった。2学年が一緒なので、人数が44名といつもの倍多い
のが気がかりだった。
2018年5月のGWには山で遭難した親子や6月の大阪北部直下型地震では登校途中の小学生が塀の下敷き
になる痛ましい事故が相次いだ。『こういう時こそ、篤く行え』、と教えられているので、入念に事前の下見と準備
をした。
お蔭で事故もなく、最後に子どもたちが「楽しかった!!」、と喜んでくれ、疲れが一挙に吹き飛んだ。7月にも
別な学校から依頼が来ており気を緩めずに対応する心算だ。
( 2018年6月 実施 )
一番危険が潜んでいるのは「貯鉱場」との往復で渡河する梓川(あずさがわ)だ。過去には、雨が降り続き
濁流が渦巻き渡河するのは危険と判断し延期したことがあったほどだ。
流木を利用した仮設の橋を作っておいたのだが、1年以上行っていないのでどうなっているか解らない。「2018年
月遅れGWミネラル・ウオッチング」でここを訪れた長野・MTさんにメールすると「橋の釘が出ていた」、と教えてくれた。
橋の横木も流されている可能性があるので、材木、釘を買って大工道具と一緒に持参し、橋の補修をする
ことにした。
現地に行くと、橋の横木はほとんどが流され、ただ2本の流木が横たわっているだけだった。流木も撓(たわ)ん
で揺れ、歩きにくそうなので、川の中ほどに大きな石を積んで「橋げた」をこしらえ、たわみを支えることにした。
流木の間隔を広げ、横木を釘で打ち付けると”ガッシリ”してきた。手前側に持参した杭を大ハンマーで打ち
込み、橋の横木を釘で打ち付けた。
この杭と中州にある立木の幹の間にロープを”ピン”と張ると「手すり」が完成だ。子どもなら、ぶら下がっても大丈夫
なくらい、シッカリしている。
まるまる2時間がかりの補修作業だった。Nさんの奥さん、これで楽に渡れますよ。
湯沼鉱泉に行くと、社長の車がなく、社長もお姐さんも不在だった。子ども達に食べてもらう大き目のスイカ
2つを置いていると、若い2人連れがきた。「水晶洞を見学したい」、というので、料金600円のところ、お釣りが
面倒なので500円×2=1,000円を預かって置く。
「水晶洞」の出口にいつものサプライズを仕掛けに行くと、先ほどの2人の姿が見えない。仕掛けを終えて事務
所に戻ろうとすると2人が登ってくるのに出会った。
愛知県から来たという2人は、「せっかく来たので水晶を採集したいが、朝飯前で採集できますか」、と聞いて
きた。私はここ2、3年行っていないが、多くの人が「1日やれば、何本かは採れる」、と言っているから、採れるだろ
うが、何度も行っている人が迷うくらいだから初めての人が行けるか不安なので案内することにした。
採集道具は何も持っていないので、社長の熊手などを無断で借りる。道が悪いので4WDでないと無理なので
私の車に乗ってもらう。車高140ミリの私の車には過酷すぎる農道で、路肩の大きな石を車から降りてどかしたり
しながら進む。時々”ザザー”、と車の底を擦る不気味な音がする。
何とか草むらに駐車してそこから歩くこと15分ほどで産地に到着だ。ここの歴史や採集方法、そして採集できる
鉱物をレクチャーして採集開始だ。
褐鉄鉱に覆われた芋虫のような水晶を採集してもらう。ここのは、蓚酸や塩酸を使って褐鉄鉱を溶かし去ると
細い針状の「角閃石」がインクルージョンになったものや、「鋭錐石」や「板チタン石」などのチタン鉱物が表面に
結晶した水晶が現れるのだ。
1時間ほどで、そこそこの数が採れたので、引き揚げた。
事務所に戻ると社長とお姐さんが帰っていた。社長は「愛知ナンバーの車があったので、朝飯前まで行ったが
サプライズ用に準備して置いた「△△△」産の煙水晶を2人に差し上げると喜んでくれ、社長から「儲けたな」、と
お姐さんに「明日、子ども達が水晶洞から戻ってきたタイミングでスイカを出してもらい、前庭で食べる」段取りを
「野辺山のJR最高地点は国道わきの駐車場に停める」、と説明すると少しは安心したようだった。
(2) 野辺山「JR最高地点」でイレ休憩
事前に時刻表で調べると、10時少し前に小淵沢行きの列車が来るはずだが来ない。待ってもしかたがない
出発前にドライバーが、「県道○○号線を通って行くのでしょうか」、と聞いてくるが、普段は県道名など意識
再びJR小海線の踏切を渡り、川上村に入る。未明から始まった特産のレタスの収穫作業はほとんど終わっ
(3) 甲武信鉱山貯鉱場跡
駐車スペースに一行が到着し、ここから梓川沿いに「貯鉱場」を目指す。カラマツ林が切り倒されたので
@ 昭和25年ごろまで、ここから500mほど標高が高い位置に鉱山があって、そこで採掘した
踏み分け道の脇にある白に黒い斑(まだら)模様の岩石を掻いてクイズだ。「この岩石の名前は?」。
さて、問題の梓川の渡河だが、前日の下見で気づいたが川の水量は今までになく少ない。いつもの水位
(4) 「貯鉱場」でミネラル・ウオッチング
@ 表面を見て回り、「方解石」、「水晶」、「柘榴石」などを探す。大きすぎる標本は、持参
パンニングの実演をすると、比重の大きい重い鉱物がパンニング皿の底に残る。
今回も「鉱物図鑑」代わりに、ここで採集できる鉱物の特徴や産出頻度を一覧表にまとめた『甲武信鉱山
採集開始すると、すさまじい勢いで質問攻めだ。「これは何ですか」、と採集した鉱物の名前を聞いてくる。
しばらく質問が続いたので、「これ何でしょう」、と聞きにくる子には逆に「何だと思う。こっちから見ると断面
素晴らしい標本を採集した子がいると全員に集まってもらい、鉱物名や特徴をなどと解説する。透明で
(5) 「金だ!!」
「黒雲母が風化して金色に見える。金と間違う人がいるので『愚か者の金』という」と解説するとその子は
子どもたちは、パンニングの有効性に気付いたようで、大勢が安全な”淀み(よどみ)”に集まってパンニング
40分ほどたち、「チェックリスト」に採集済みの”〇”も増えたので、ちょうど12時10分過ぎなので昼食にする。
1) 誕生した当時の状態で観察できる『草入り日本式双晶』
2) 個人で建てた博物館
3) 貴重な川上犬
「水晶洞」に向かって歩くと、ケージの中で飼育している川上犬が1匹だけ”ノソノソ”と近寄ってくる。以前は、
陸橋を渡って「水晶洞」に向かうと、灰色をした大小の岩がある。これらは「大理石(方解石)」だ。この
「水晶洞」に入ると、外の暑さが嘘のように”ヒンヤリ”と涼しいのを通り越して肌寒いくらいだ。
磁鉄鉱に磁石を近づけて鉱物の「磁性」を体感したり、日本式双晶の2枚の水晶がなす角度が色や形が
いつもの事だが、意外と人気なのが「蛍光鉱物」だった。懐中電灯の光では”ただの石ころ”にしか見えない
先生を含め46名を「水晶洞」内の狭い通路で解説するには、小グループに分けて同じことを何回も繰り
”一人1つ”というルールにしたので、3つも4つも採って、どれにするか悩んでいる子もいる。大きな群晶や
事務所に戻り、「水晶洞」を見学して感じたことを社長に一人ひとり報告してもらう。前庭では、次なる
駐車場に戻り、皆さんに聞くと「楽しかった!!」と喜んでくれた。後始末のある私は、子ども達とここでお別
私の持論の1つに、『ミネラル・ウオッチング(鉱物採集)は、水晶に始まり、水晶に終わる』がある。嬉々として
(2) MH農園のスイカ
これまでのところ、2018年のMH農園の作物の成長・収穫は順調だ。昨年種を植えた「ニンニク」、種から育て
現在は、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、インゲン、ナス、キュウリ、トマト、オクラ、トウモロコシ、かぼちゃ
( Minerals from Yunuma " Asameshimae " , Kawakami Village , Nagano Pref. )
車が見当たらなかった。どこに停めた」、と聞かれるほど絶好の隠し場所に停めたようだ。
いつものセリフが出た。
お願いした。
この日は、下見・準備そして予定外の朝飯前の案内で、歩数計は1万歩を超えていた。
3. 甲武信鉱山「貯鉱場」でミネラル・ウオッチング
(1) 「須玉IC」で合流
8時半に「須玉IC]で合流することになっているが、時間になっても子ども達を乗せたバスが到着しない。
8時45分ごろになってK先生から「事故渋滞で現在双葉SAを出た」、とスマホに入る。
IC出口でのトイレ休憩はなくし、野辺山「JR最高地点」を目指したいのだが、「バスのドライバーが打合せ
したい」と言うのでバスの到着を待つ。
大型バスのドライバーは女性だった。今日、驚くほどではないのかも知れない。”水晶採り”に行くバスの
ドライバーの身になってみれば、どんな悪路を走らせられるか不安に思い打ち合わせしたいと言うのは当然だ
ろう。
梅雨時が嘘のような快晴で、空は”全部、青い”。清里を過ぎ、野辺山の「JR最高地点」でトイレ休憩だ。
ここで、子ども達と初対面の自己紹介だ。ここには、「幸せの鐘」があるのだがこれを鳴らすのが意外と難しい。
”幸せを掴むということは簡単ではない”というとことを教えてくれているようだ。
学年別の記念写真を撮る。
野辺山「幸せの鐘」
ので出発だ。
しないで走っているから聞かれても答えようがない。
「目的地は、『町田市自然休暇村』で、全行程舗装され、2車線あるし大型バスも走っている」、と話し、
ここまでと同じように後ろについて走ってもらうことにして出発だ。
たようで、レタス畑の人影はまばらだ。夏の日差しが畑のビニールに反射してまぶしい。それでも気温は20℃と
甲府よりは5、6℃低いようだ。
秋山集落の手前から、梓川沿いに進むと『町田市自然休暇村』の施設がある。大型バスはここまでしか
入れないので、子ども達と先生にはここから歩いてもらう。私の車に2人の男児を乗せ、ジャンケンで負けた
方から分岐路で降ろし「道案内」する役目を与え、私は先行する。
甲武信鉱山(梓金山)があった辺りが見えるところで、次のような説明をさせていただいた。
品位の高い鉱石を索道(ケーブル)で「貯鉱場」まで運んでいた。
A 甲武信鉱山は「スカルン(接触交代)鉱床」と呼ばれ、南の海で生まれた珊瑚礁などが
起源の石灰岩と山梨県側に水晶をもたらした花崗岩とのコラボレーションでいろいろな
鉱物が生まれた。
B それは、今から1,200万年くらい前だった。
こどもたちから異口同音に「花崗岩!!」、と元気な答えが返る。
硬い花崗岩が”ボロボロ”になって、眞砂(マサ)になるので、起こり得ないようなことが起きた時に『まさか』
という語源だとも話す。(「諸説あり」、というのも付け加えた)
より40センチ以上低い気がする。ロープが張ってあるので先生や私が手助けしなくても、子どもたちは”スイ
スイ”橋を渡ってくる。
ただ、橋は一人が渡り終えたら次の人、というルールにしたので、一人当たり30秒前後かかる。46名全員
渡り終えるのに30分近くが掛かり、全員ズリに着いたのは11時半ごろだった。
荷物をおろして、ここでの採集方法は、つぎのように3通りあることを説明し、実演して見せる。
した金槌(かなづち)で小さく割る。このとき、眼鏡(めがね)やゴーグルを着けるのを忘れ
ないように。
A 川岸には崖になっている場所があり、そこを熊手で掘ると水晶などが次々に出てくる。
B 私が持参した8つのパンニング皿を交代で使って土砂をパンニングすると、「自然金」や
「Bi(蒼鉛)−Te(テルル)鉱物」そして「灰重石」など、比重の大きな重たい鉱物
が採集できる。
泥を洗って採集するので、「緑水晶」なども見つけやすい。
の鉱物チェックリスト』を一人ひとりにバスの中で配っておいた。
『甲武信鉱山の鉱物チェック・リスト』
「方解石」、「緑水晶」・・・・・・・、と次々に答える。
母岩に付いた「灰重石」を採集した子がいたので、持参した風呂敷で暗幕を張った下で、ミネラライトで
照らすと青白く『蛍光』することを観察してもらう。
は六角だよ」、と特徴を説明すると、自信なさそうに小さな声で「水晶・・・・・・・」、と正解だ。すかさず、
「良く解ったね。」、と褒めてあげる。
厚みのある方解石を採集した子がいたので、さらに劈開させて「複屈折」して一本の線が2本に見える角度
があることを説明する。
「金がありました!!」、と一人の子が興奮気味に叫ぶ。「ここに一杯落ちている」と、水面を指差す。確か
に水の中に金色にキラキラ光る粒が見える。
金色にキラキラ光る砂金(?!)
納得したが、その後も同じような質問を何人かの子から受けた。
皿を揺すっている。パンニングの最後の仕上げを頼まれて「灰重石」などの重い鉱物の揺り分け方を実演す
る。こうして、念願の「ホセ鉱A」を手にした子もいた。
淀みでパンニング
だが、昼食を摂らずにパンニングを続けている子もいる。「お昼を食べないの?」と聞くと、「こっちの方が楽しい
から、続ける」、というので、私も昼食抜きでお付き合いする。
12時半になって「貯鉱場」を後にした。実は、われわれより先に私と同じ年恰好の男性4人が”黙々と”採集
していた。何を採集しているのか聞きもしなかったが、ズリを大規模に掘り起こしていた。
( 「貯鉱場」や「朝飯前」は、子ども達のために残しておいて欲しいと思うのだが・・・・・ )
渡河
3. 湯沼鉱泉「水晶洞」見学
(1) 湯沼鉱泉にGo!!
湯沼鉱泉に着き、社長とお姐さんにご挨拶だ。社長から湯沼鉱泉と『水晶洞』の特徴・見どころを説明
してもらう。後で私が次のように補足説明する。
およそ1,200万年前、できた透緑閃石の針が入った水晶、しかも2枚の水晶が蝶の羽
のように84度33分の角度で合わさった日本式双晶を誕生した当時の状態で観察できる
貴重な展示施設だ。
川上村で観察できる鉱物の一級標本を余すところなく展示しているのと日本各地、
そして外国産の鉱物まで展示している。
鉱物を展示している博物館は全国にあるが、それらのほとんどは国・都道府県・市などが
税金を使って建てたものだ。
「水晶洞」は、社長が個人のお金〇億円をかけて、そのほとんどを自分が重機を動かして
建設したものだ。
湯沼鉱泉では、この地方で猟犬として育てられていた川上犬の保存にも力を注いでいて
飼育している川上犬の中には、「狼爪」が残っているものもいて、オオカミに近い犬とされて
いる。
少なくても5、6匹は元気に駆け寄ってきたのだが・・・・・・・・・・・。「川上犬」と子どもたちの出会いが味気
なくなってきているのは残念だ。
地域には石灰岩が多い。何億年か前、南の暖かいサンゴ礁がプレートに乗って北上し日本列島にくっついた
ものだ。(地学で言う「付加体」)
地下深くでできた花崗岩が吹き上がり、接触した石灰岩は融けてユックリ冷えて結晶の大きな方解石に
なり、石灰岩のカルシウムを受け取った石英分がザクロ石などに変化したことを説明する。
変わっても一定なことの不思議さに驚いている。
全国の石人が寄贈した都道府県の鉱物を前に、「夏休みにおじいちゃんやおばあちゃんの家に遊びに行っ
たら、鉱物採集を楽しむ」ことをアドバイスする。
やはり見どころの『緑水晶の日本式双晶』、『甲武信鉱山貯鉱場の自然金』などに人だかりがしている。
「緑水晶日本式双晶」晶洞に見入る子どもたち
山口県喜和田鉱山産の「灰重石」とアメリカ・フランクリン鉱山産の「珪亜鉛鉱」が紫外線を浴びるとカラフル
に蛍光するその変化が面白いようだ。
返し話すことになり、心配した”渋滞”が起きて列が先へ進まない。ようやく洞を出ると、『水晶さがし』のサプ
ライズが待っている。
過去のミネラル・ウオッチングでガマから採集し、「標本玉手箱」で引き取り手のなかった泥や褐鉄鉱に
覆われた水晶を預かって塩酸で洗浄し、前の日に隠しておいてそれを探してもらおうという趣向だ。
サプライズ「水晶さがし」
「両錐」の水晶を採った子もいる。
サプライズの「スイカ」が待っている。
サプライズ2 「スイカ」
れし、バスを見送った。
5. おわりに
(1) 今回のように、小・中学生から大学生、そして鉱物に興味を持ち始めた人々を産地に案内する依頼が舞い
込んでくるが、できるだけ都合をつけて対応させていただいている。
とりわけ、湯沼鉱泉に宿泊したり、「水晶洞」を見学してくれる方は最優先だ。
水晶を探す小中学生と教育関係者を見ていて、その感を一層深くした。参加した皆さんが、鉱物を通して、
自然を大切にする心を養ってくれることを祈っている。
おもてなしをしてくれた、湯沼鉱泉の社長とお姐さんに感謝している。
もう少し遅い時期だとMH農園のスイカを味わっていただけるのだが、6月初旬2017年の同じ時期に苗を買った
店に行ったがすでに売り切れてなかった。しからば、自分で苗を作りしかないと種を播いてみたが畑に定植でき
るのは、一週間後になりそうだ。
つまり、2017年よりも約1ケ月生育が遅いのだ。収穫まではあと2ケ月はかかりそうだから、スーパーで買った
スイカで代用だ。
MH農園のスイカ(6月下旬)
た苗を植えた「赤玉ねぎ」は無事冬越しでき、6月に収穫した。今までにない良い出来映えだった。
ニンニク 赤玉ねぎ
ゴーヤ、ピーマンなどの夏野菜が育っている。
6. 参考文献
1) 谷山 四方一:鉱物鑑識の実際と鉱山探検,厚生閣,昭和14年(1939年)
2) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
同委員会,昭和45年(1970年)
3) 益富 壽之助:鉱物 −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年(1985年)
4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年