小学生とミネラルウオッチング 2012年9月







        小学生とミネラルウオッチング 2012年9月

1. 初めに

    2011年、神奈川の小中高一貫校・A校の生徒と保護者を山梨県の水晶産地に案内させてい
   ただいた。これが、同校恒例の行事になり、2012年は1泊2日の計画で、1日目は長野県川上村
   でミネラル・ウオッチングの後、「湯沼鉱泉」に宿泊し、2日目は山梨県で水晶・ウオッチングを楽
   しんでもらおうという寸法だ。

    2012年9月、「須玉IC」で、3台の車に分乗した責任者のY先生と同僚、生徒そして保護者と
   合流し、4台の車で長野県川上村の甲武信鉱山貯鉱場を目指した。

    全員長靴を持参したので、”手を切る”ならぬ”足を切る”冷たい梓川の流れを難なく渡り切った。
    貯鉱場跡で「方解石」、「緑水晶」、「ざくろ石」そしてパンニングで「砂金(山金?)」や「灰重石」
   を採集し、皆さん大喜びだった。

    暑い時期のミネラル・ウオッチング恒例の冷えた『スイカ』も皆さんに大好評だった。

    「湯沼鉱泉」に着き、社長とお姐さんに挨拶して、各部屋で荷物の整理の後、タップリ時間をか
   けて「水晶洞」の鉱物を観察してもらい、最後に、「水芭蕉園」や「湯沼大池」を散策してもらった。

    入浴・夕食の前に、採集した鉱物の鑑定を行い、生徒たちは持参したラベルに鉱物の名前を
   記入し、『名無しの権兵衛』はなくなった。

    夕食の後は、駐車場での花火大会だ。そして、就寝前には、この日採集した『思い出の標本』を
   ひとり1つずつ紹介すると、あちこちから『スゴイ!!』などと感嘆の声が上がった。

      「湯沼鉱泉」記念写真

    翌朝、朝食の後、社長を囲んで記念写真を撮った。この日は、信州峠を越えて山梨県に入った。
   現在、山梨県で水晶を観察できる場所は限られ、私が再発見した産地に案内した。

    「水晶鉱山跡」に到着すると、一面に散らばる石英を見て『水晶だ!!』の歓声が上がった。
   ほとんどの生徒や保護者にとって、初めての水晶拾いで、「石英」と「水晶」の区別がつかなかっ
   たが、やさしく『鉱物学』の初歩を説明すると、皆さん区別できるようになった。

    私の持論の1つに、『鉱物採集は、水晶に始まり、水晶に終わる』がある。嬉々として水晶を
   探す小学生と保護者そして教育関係者を見ていて、その感を一層深くした。
   参加した皆さんが、鉱物を通して、自然を大切にする心を養ってくれることを祈っている。
    ( 2012年9月 観察 )

2. 甲武信鉱山貯鉱場でミネラル・ウオッチング!!【1日目】

 (1) 「須玉IC」に集合だ
      2012年9月、3台の車に分乗した責任者のY先生と同僚、生徒たち、そして保護者たち、総
     勢19名と「須玉IC」で合流した。高速道は空いていたが、それに乗る手前の一般道の渋滞で
     1時間ほど遅れて到着だった。

      初対面の挨拶の中で次のような話をした。

      @ 鉱物は、植物、動物と違って再生しない。
        未来の子供や孫にも残せるよう、余分に採らない。採った標本は、洗浄・整理して記録
        (ラベル)に残し、家族にも見せて楽しんでもらおう。
      A 自然は美しい。
        しかし、危険が潜んでいるので引率の先生の注意を守って、事故のないようにしよう。

 (2) 川上村を目指せ
      清里を通り、長野県に入り、川上村に入ると曇り空ながら気温は17℃と高原の爽やかさだ。
     社会科で学んだ川上村の特産・レタスを中心とした高原野菜の畑が続く光景に眼を見開いて
     いた。
      甲武信鉱山に至る林道は最近整備されたのか、普通車でも貯鉱場の入口までは行けた。
      全員長靴を持参したので、”手を切る”ならぬ”足を切る”冷たい梓川の流れを難なく渡り切
     った。

 (3) 甲武信鉱山貯鉱場でミネラル・ウオッチング
      貯鉱場の跡に立って、次のような説明をさせていただいた。
      @ 昭和10年代まで、ここから500mほど標高が高い位置に鉱山があって、そこで採掘した
        品位の高い鉱石を索道(ケーブル)でここまで運んでいた。
      A 甲武信鉱山は「スカルン(接触交代)鉱床」と呼ばれ、南の海で生まれた珊瑚礁などが
        起源の石灰岩と山梨県側に水晶をもたらした花崗岩とのコラボレーションでいろいろな
        鉱物が生まれた。
      B それは、今から1,200万年くらい前だった。

      ここでの採集は、つぎのように3通りあることも説明した。
      @ 表面を見て回り、「方解石」、「水晶」、「柘榴石」などを探す。大きすぎる標本は、持参し
        た金槌(かなづち)で小さく割る。このとき、眼鏡(めがね)やゴーグルを着けるのを忘れ
        ないように。
      A 川岸には崖になっている場所があり、そこを掘ると水晶などが次々に出てくる。
      B 私が持参した5、6ケのパンニング皿を使って土砂をパンニングすると、「自然金」や
        「Bi(蒼鉛)−Te(テルル)鉱物」そして「灰重石」など、比重の大きな重たい鉱物が採
        集できる。

       パンニングで砂金(山金)さがし

      さっそく、思い思いの場所で採集を開始した。「水晶」と「石英」の違いが判らない子どもが
     多い。ましてや、「石英」と「方解石」の違いなどわかるはずがない。『結晶面の有無』や『硬度』
     の違いなどを使って鑑定する事を説明すると納得してくれた。
      私のところには、次々と鑑定依頼が舞い込んでくる。一人の女子生徒が持ってきた水晶は、
     甲武信鉱山を代表する『両錐水晶』で、子どもたちの間から歓声が上がった。

       「両錐水晶(ダブル・ポイント)」

      パンニング組の中には、「自然金」や「ホセ鉱」を採集できたと大喜びだった。こうして、皆さ
     ん思う存分ハンマーを叩いたりパンニング皿を振るったりして、この産地を代表する鉱物を採
     集できた。

      貯鉱場から再び梓川を渡って駐車場に戻ると、夏のミネラル・ウオッチング恒例の冷えた
     『スイカ』が待っていた。これを切り分けて食べていただくと、皆さんに大好評だった。
      ( 2012年、最後のスイカだろう )

       冷えたスイカを食べる

 (4) はじめての「湯沼鉱泉」
      車に乗って、今夜の宿・「湯沼鉱泉」に向かった。宿では社長が一行を出迎えてくれた。挨
     拶の後、部屋割に従って各自の部屋で荷物の整理をしてから、いろいろなイベントが消灯時
     間まで続く。

       湯沼鉱泉で御挨拶

 (5) 「水晶洞」見学
      15時過ぎから、一行を湯沼鉱泉の「水晶洞」に案内した。ここでの見どころは何と言っても
     『露頭にあったまま展示してある緑水晶の日本式双晶』、そして『川上村の鉱物』の展示だ。
      主な標本を説明して回るだけでゆうに1時間を超えていた。

       世界唯一「緑水晶双晶」露頭展示

      外に出ると、そこには社長が掘り崩した露頭が荒々しい姿を見せ、都会の風景しか見馴れ
     ていない子どもたちや保護者そして先生にとって別世界(異次元?)のように映ったようで、
     子どもたちは走り回っている。
      ここでは、水晶や柘榴石などが拾えるので、皆さんの眼は、地面に釘づけだ。

       ここでも、水晶探し

      この後、水芭蕉の湿原や「湯沼大池」などを見て事務所に戻ったのは、16時ごろで、タップ
     リ2時間楽しんだことになる。
      途中の犬小屋に飼われている『川上犬』も動物好きな子どもたちにとっては格好の遊び相
     手になったようだ。

       『川上犬』と遊ぶ

 (6) 「鉱物鑑定会」
      この日採集した鉱物で名前がわからないものを空白のラベルと一緒に私の所に持ってきて
     もらい、「鉱物鑑定会」だ。
      鉱物の名前や見分け方(特徴)などを、ひとり一人に説明する。1時間ほどかかって、全員が
     終わった。
      これで、『名無しの権兵衛』はなくなったはずだ。

      生徒たちが入浴している間に私は翌日山で食べるミカンの買出しにナナーズに走る。戻っ
     て間もなく夕食だ。

 (7) 夕食の後もイベントが続く
      夕食の後、最初のイベントは『花火大会』だ。川上犬を驚かさないよう犬小屋から最も離れ
     た駐車場で音の出ない花火を楽しむ。
      普通なら花火のフィナーレは、大きな音がする打ち上げ花火だが、ここでは締めは「選鉱」
     でなくて「線香花火」だ。
      火を点けて、しばらくして”チカ、チカ”と光り、そして盛んに”パチ、パチ”と火花を飛ばし、
     やがて大きな火の玉ができ、それが落ちると”The End”だ。線香花火を見ていると人の一生
     を思わずにいられない。

       花火

 (8) 「思い出の標本」
      この日採集した中で一番思い出になった標本を一人1つづつ持ってきて、宿の大広間の舞
     台でみんなに紹介した。あちこちから『スゴイ!!』などと感嘆の声が上がった。

       「思い出の標本」紹介

      こうして、湯沼鉱泉の夜は更けていった。入浴して、布団にもぐりこんだのは、12時近かった。

3. 山梨県でミネラル・ウオッチング!!【2日目】

 (1) 2日目のスタートだ!!
      生徒たちの話し声で6時前に起き、6時半から朝食だ。シッカリ2膳おかわりをして、社長を
     囲んで記念写真を撮る。宿の皆さんにお礼を言って、山梨県の水晶産地に向けて出発だ。

      この日は、信州峠を越えて山梨県に入った。現在、山梨県で水晶を観察できる場所は限ら
     れ、私が再発見した産地に案内した。

 (2) 水晶鉱山跡で水晶拾い
      「水晶鉱山跡」に到着すると、一面に散らばる石英を見て『水晶だ!!』の歓声が
     上がった。ほとんどの生徒や保護者にとって、初めてみる水晶鉱山跡でのの水晶拾いだ。
      「石英」と「水晶」の区別がつかなかった人たちも、やさしく『鉱物学』の初歩を説明すると、
     皆さん区別できるようになった。

         
                斜面を移動                  記念写真
                             水晶産地

 (3) 駐車場に無事到着

      この日は台風の接近が伝えられ、早めに産地を後にして、駐車場に戻った。トイレ休憩で
     立ち寄った甲府市の施設の木々は紅葉が始まっていて、秋の訪れを感じさせてくれた。

       紅葉が始まった木々

      甲府の市街地に戻り、皆さんとお別れした。

4. 過去の観察品

    私が、大勢の皆さんを案内すると、面白い産状の標本や珍しい鉱物に出会うことも少なくない。
    それらを見せていただき、デジカメで記録に残せるのは私の”役得”だろう。過去の観察品の
   いくつかを紹介したい。

鉱物種名
俗名
【英名:組成】
 産 状   標 本 写 真  説    明
石英
水晶
【QUARTZ
 :SiO2
山入り    
 透明水晶に真っ白い山が
入った典型的な標本
黄鉄鉱入り      最初にできた水晶の表面に
結晶した黄鉄鉱がしばらく時間を
置いて後からできた水晶で
覆われている。
 成長が止まった時間が長かった
のか、酸化性の環境だったのか、
黄鉄鉱が「武石」に変化している
標本もある。
チタン鉱物と
共生

           鋭錐石


         板チタン石

   
           全体

 赤黄色、透明、ガラス光沢の
チタン鉱物が2種見られる。
 普通、黒色、不透明の
ものが多いのだが、今回採集
したものは、鉄(Fe)が少ない
のか(?)

 @ 鋭錐石【ANATASE:TiO2
     ピラミッドを2つ合わせた
    ような8面体で、反復双晶
    した際に生じたくびれ(条線)
    が見られる。


 A 板チタン石【BROOKITE:TiO2
     四角い薄板状で、表面に
    条線が見られる。








 根元とてっぺん附近の
赤く見える部分にチタン鉱物が
集合している。









     今回、私の観察品は、「水晶」1点だけだった。

       「水晶」

5. おわりに

 (1) 私の宝物
      2012年7月、初めて生徒たちを1泊2日のミネラル・ウオッチングに案内した。大都会の喧騒
     や暑さから隔絶した別世界での体験は、生徒たちだけでなく保護者や先生方にも好評だった
     ようだ。
      その話しが伝わり、今回2回目の1泊2日のミネラル・ウオッチングになった。鬼が笑うが、
     2013年に開催したいと東京の学校からも1泊2日での申し込みがあった。

      ミネラル・ウオッチングが終わって1ケ月近く経って、単身赴任先に分厚い封筒が転送され
     てきた。差出人は案内したA校のY先生だ。封を開くと、こどもたちの感想文があった。

         
                  感想文                絵入り感想文【M君】

      一人ひとりの絵入りの感想を読むと、「楽しかった」、「鉱物の見分け方ができるようになった」
     などと喜びの声が綴られていた。病気などで参加できなかった子からは、「友達から水晶を見
     せてもらい、行きたかった」、と残念がる声もあった。

      これらの手紙は、私の宝物だ。

      次なる「私の宝物」は、孫娘だ。満3歳の誕生日を前に、一足早く七五三を祝った。写真屋
     で写真を撮ってもらい、自宅近くの氏神様に嫁さんの御両親とお参りし、これからも健やかに
     成長するのを祈った。

       孫娘七五三

6. 参考文献

 1) 谷山 四方一:鉱物鑑識の実際と鉱山探検,厚生閣,昭和14年(1939年)
 2) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年(1970年)
 3) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年(1985年)
 4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
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