山梨県鈴庫鉱山のカニュク石

山梨県鈴庫鉱山のカニュク石

1.初めに

 「鉱物採集の旅-東京周辺を訪ねて-」には、塩山市の北にある鈴庫鉱山の
「カニュク石」が記載されています。「カニュク石」はチェコ(今は?)の
クトナホラとここでしか発見できない希産鉱物です。
 約10年前には、ズリ一面に”鶯色”の「カニュク石」があったのですが
最近2回の訪山では、何れも空振りだった。
 今回、千葉県の石友、Yさん、F君と訪れ、時ならぬ、雪の中での採集だったが
「カニュク石」の産地を突き止め、全員採集できた。
 今回私は、初めて坑道内の探索も行った。F君は目標のカニュク石のほか
樹枝状の自然銅などを採集したが、雪が降る悪条件で、短時間しか採集でき
なかったのが、心残りのようでした。
(2003年3月採集)

2.産地

塩山市街から北に411号線を柳沢峠に向かって走り、竹森の水晶山を右に
見て坂道を登って行くと左手に「山女魚釣堀」があります。この先約300mで、
道は2手に分かれ、右の鈴庫林道を進みます。(左は、平沢)
 今年の冬は例年になく寒く、3月中旬でも途中は、残雪がアイスバーン状態で
ソロリ、ソロリと安全運転で通り抜ける。新しい林道が分岐していますが、左、左と
進み、約3km走ると、左に大きく曲がるカーブがあり、カーブのネック部に橋が
あります。”水”の標識がありました。
橋の手前左に、2〜3台駐車できるスペースがあり、ここに車を停めます。
 右手の沢から、鈴庫鉱山の坑道からの湧き水が流れ込んでおり、右岸を沢沿いに
約100m登って行くと、第1のズリの下端に着く。
 ズリの急斜面を約30m登ると平坦になっており、その右手に坑道が口を開けている。
第1ズリの平坦部の突き当たりの水が流れている沢を登ると、第2のズリがある。
鈴庫鉱山の第1ズリ

3.産状と採集方法

 「日本鉱産誌」によれば、黒雲母花崗岩中の金銀石英脈で、方鉛鉱、硫砒鉄鉱
黄銅鉱、黄鉄鉱、閃亜鉛鉱などを採掘していたが、1950年には休山していた。
日本では珍しい花崗岩中の低温生成の鉱脈である。
 「日本鉱山総覧」によれば、昭和10年、「鈴庫鉱山」を宮部武雄氏が稼行し
この年、金鉱368tを産出、準重要鉱山に名を連ね、従業員は45名であった。
同じ年、隣接鉱区の「朝日鉱山」を谷口乙蔵氏ほかが稼行し、金鉱を83t産出した。
 後に、両鉱区とも日本鉱業(株)の手に移り、改めて「鈴庫鉱山」と命名し
稼行したが、その後衰え、普通鉱山となり、上記のように戦後間もなく休山した。
 坑道は、30m程入ると、ほぼ直角に左に折れ、更に70m先で崩落している。
その先も坑道は続いていますが、水深が深そうなので、ここから先の探査は断念
しました。
 入口付近に水溜りがあるだけで、坑道の中は立って歩けるほどの広さがあり
歩きやすく、一部には、鉱石運搬トロッコのレールなども残っています。
 約10年前には、「カニュク石」は、ズリの表面を特有のウグイス色で覆っていた
のですが、現在表面には全く見かけません。昔採集したことがある周辺を掘って
見ると、新鮮な”ウグイス色”が目に飛び込んでくる。ようやく、産地を探し当て
案内人の役目を果たせ、”ホッ”とする。
採集中のF君【白いのは、雪、雪、雪】
 石英脈の入ったズリ石を探し、割ってみると、ここの主要な鉱物であった方鉛鉱
硫砒鉄鉱、黄銅鉱などの新鮮な部分を採集できます。
 ズリでは、硫砒鉄鉱が分解したスコロド石、珪孔雀石などの青緑色の2次鉱物が
ついたズリ石が目につき、これらの表面を良く観察すると、自然銅も採集できます。

4.産出鉱物

(1)カニュク石【Kankite:FeAsO4・3.5H2O】
 3価の鉄を含む含水砒酸第二鉄で、硫砒鉄鉱が起因と考えられる。国内では山梨県
鈴庫鉱山産が加藤博士ほかによって1984年にMineralogical Journalに紹介されたのが
初めてであった。山梨県を代表する、鉱物の1つと言えるものです。
 黄緑(ウグイス)色の皮膜・ぶどう状小球の集合で石英の上やズリの土塊の隙間に
産出する。スコロド石とは、水分子数が違うだけです。
 @可逆的な変化をするとすれば、ズリの水環境が変わる度に生成したり、消滅したり
  しているのか。
 A濁沸石が脱水するとボロボロに変質するように、カニュク石が脱水するとスコロド石を
  経て、さらに砒素も抜け、全く違った鉱物(酸化鉄?)に変化するのか。
  良く分かりませんが、後者のような気がします。
カニュク石【黄緑(ウグイス)色部分】
(2)スコロド石【Scorodite:FeAsO4・2H2O】
 硫砒鉄鉱が分解して生成したもので、緑灰色の皮膜・小球の集合でズリの土の表面に
産出する。
スコロド石
(3)硫砒鉄鉱【Arsenopyrite:FeAsS】
 表面に条線のある菱餅状結晶で、石英脈の中に脈をなしたり、離れ小島状に埋没して
産出する。
 新鮮な破面は銀白色であるが、永年ズリにあったものは、表面が錆びて
金色〜赤茶色になっている。カニュク石、スコロド石は、これが分解して
生成したものである。
硫砒鉄鉱【自形結晶】
(4)方鉛鉱【Galena:PbS】
 石英脈の中に、硫砒鉄鉱、黄銅鉱、閃亜鉛鉱などと共生し、特有のサイコロ状
へき開を示す。ズリにあったものは、表面が真っ黒で、硫酸鉛鉱が生じている
場合もありますが、新鮮な破断面は、銀白色金属光沢ですぐ分かります。
 方鉛鉱と石英や他の鉱物との境目には、へき開と違う反復双晶をなす「車骨鉱」や
長柱状の「ブーランジェ鉱」が産する、とありますが、簡単には見つかりません。
方鉛鉱【中央黒色部、金〜赤銅部は硫砒鉄鉱】
(5)自然銅【Native Copper:Cu】
 坑道内の鉄片の周囲に青緑色の珪孔雀石ができ、その上に樹枝状の自然銅が
成長したものを採集した。鉄片に伴うので、還元銅と呼ぶべきかも知れません。
 硫砒鉄鉱が錆びると、自然銅と紛らわしい赤銅色を呈するので、間違わないよう
注意が必要です。
自然銅【珪孔雀石を伴う】
(6)このほか、金属鉱物では、磁硫鉄鉱、輝水鉛鉱があると言われますが
量は極めて少ないようです。
 2次鉱物では、青緑色の珪孔雀石のほかに、緑色のものはブロシャン銅鉱と
されています。また、赤紫色の斑銅鉱もみられます。
珪孔雀石【緑色はブロシャン銅鉱?】

5.おわりに

(1)3度目の正直で、今回ようやくカニュク石を採集することができた。
  どこの産地でも同じですが、一度採集すると眼が慣れ、産状も飲み込める
  せいか、割合簡単に見つかります。
(2)長島 乙吉氏は、ここの坑道内のペグマタイトから、四周完全な褐簾石を
  採集した、と「日本希元素鉱物」にありますが、閉山して50年以上が経ち
  坑道内では、簡単にペグマタイト脈を探せませんでした。
  次回は、ジックリ探してみたいと思います。

6.参考文献 

1)日本鉱産誌編纂委員会編:日本鉱産誌T-a,東京地学協会,昭和30年
2)長島 乙吉・長島 弘三:日本希元素鉱物,日本鉱物趣味の会,1960年
3)加藤 昭・松原 聰:鉱物採集の旅 東京周辺を訪ねて,築地書館,1982年
4)松原 聰:日本産鉱物種,鉱物情報,1992年
5)澤田 久雄:日本鉱山総覧,日本書房,昭和15年
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