茨城県城里町錫高野の「ティンティナ鉱」

1. 初めに

   千葉県の石友・Mさんが、私のHPの「産地情報」で採集(恵与・交換・購入含む)
  した、と記載した鉱物種について調べてくれ、それらをまとめて、レポートして
  くれた。
   そのポイントは、次のとおりであった。

  (1)亜種名や俗名等の重複を除く鉱物種は、2007年1月26日現在、214種
  (2)鉱物名やその化学組成式、産地名等はその時代毎に変遷が見られ現在では
     使われていない名前で記述しているものがある。
  (3)水晶の分類は、形状、包含物、色などで重複しているものがある。
  (4)亜種名または俗名で記述してあるものがある。
  (5)採集(産出)鉱物を 【俗名、和名、英名、化学式】の順で記述すれば
     ”デカイ”Databaseになる可能性がある。

   私が約20年間で採集した鉱物 214種は、2005年12月末時点で、日本国内で産
  出が確認されている鉱物種 1,139種の20%にも満たず、日本産鉱物の完全収集
  などは夢のまた夢である。もっとも、”苔”、”皮膜”のような標本まで集める気は
  毛頭ないのだが。とは言いながらも、1種でも増えることは満更でもない。

   2007年2月、栃木県の石友・Sさん一家と大正鉱山、錫高野を回った。Sさんの娘
  中学1年生のYさんは、2006年の夏休みの自由研究にミネラルウオッチングを選び
  採集品を校内で展示したところ、先生の推薦で栃木県芳賀郡の「理科展」に出品
  された。こんなこともあって、ますます鉱物が好きになってくれている。

   大正鉱山では、Yさんのお尻の下から母親が錫石の良品を採集し、気分良く
  錫高野に向かった。ゲートの前から、捨て犬と思われる2匹の子犬も連れ添い
  選鉱場、採石場跡そして○○○沢を回った。若くて、目が(目も?)良いYさん
  は、「蛍石」や「 Topaz on Quartz 」を表面採集でいとも簡単に見つけてしま
  う。私も負けてはならじと、ハンマを揮った。割った石英の破面に黒っぽい
  ”モヤッ”とした部分があり、ルーペでのぞくと ”毛状”の見慣れない鉱物が
  あった。
   「毛鉱」か「ブーランジェ鉱」かと思ったが、帰宅後、高取鉱山(錫高野)の
  産出鉱物を調べ直すと、「ティンティナ鉱」ではないかと思い始めた。しかし
  実物を見たことのない悲しさ、東京の石友・Mさんに写真を送ったり、インター
  ネットで調べてみた。やがて、Mさんから、『 おめでとうございます 』 
  メールがあり、ティンティナ鉱だと確認できた。

   ティンティナ鉱の産出が日本国内で最初に報じられたのは、ここ、高取鉱山で
  1983年と、ごく最近のことである。国内ではほかに産出を聞かない。それだけ
  稀産ということで、今回採集したと同程度のものに、インターネットのミネラル
  ショップでは、12,000円という値段が付いている。

   これで、標本箱に新たな鉱物種を1種加えたことになる。きっかけを作ってく
  れた千葉の石友・Mさん、鑑定してくれた東京の石友・Mさんそして同行してくれ
  た栃木の石友・Sさん一家に厚く御礼申し上げる。
  ( 2007年2月採集 )

2. 産地

   錫高野は、日下先生の「鉱物採集フィールドガイド」に詳しく記述されている
  ので、詳細は省略する。
   前のHPに書いた、ゲート前の「案内板」が参考になるはずである。

   注意が必要なのは、ズリまで約30分の歩き(ほぼ平坦な遊歩道)を覚悟しなけ
  ればならない。

3. 産状と採集方法

 3.1 産状
     ティンティナ鉱は、石英塊の中の水晶の結晶面に囲まれた「負晶」のような
    空隙に産出するようだ。硫化鉱物の1種なのだが、今回採集したものには黄
    鉄鉱などが全くみあたらない、”真っ白い”石英塊である。インターネット
    ショップに掲載されている標本も同じような真っ白い母岩で、普遍性がある
    のか、採集・観察例が少ないので断定はできない。
     空隙を埋めるように、あるいは空隙の壁面に張り付いた状態で産出する。

 3.2 採集方法
     石英塊を探し、ひたすら割り、真っ黒い”モヤッ”とした部分をルーペで
    のぞき確認する。この繰り返しである。
     1つ発見できれば、その石英塊には点在しているので、全周を丹念に観察し
    なければ小さく割っていけば、いくつかの標本が得られるだろう。
     ( 今回、1つの石英塊から、5つの標本を得た )

     Sさん一家と子犬2匹

4. 採集鉱物

 (1)ティンティナ鉱【TINTINAITE:Pb22Cu4(Sb,Bi)30S69
     真っ黒で金属光沢をもつ、極めて細い 毛〜針状の結晶の集合体で産出する。
    毛状の結晶は、湾曲したりカールしている場合もある。
     似たような産状の「毛鉱」「ブーランジェ鉱」「コサラ鉱」との区別は肉眼
    では難しい、とされるが、この産地では『 空隙の中の毛状結晶は、ティン
    ティナ鉱 』
とされている。

         
     全体【赤丸内がティンティナ鉱】         拡大
                  ティンティナ鉱

 (2)このほか、簡単に採集できる「鉄マンガン重石」「水晶」以外に、「錫石」
    「蛍石」そして「 Topaz on Quartz 」 が採集できた。

5. おわりに

 (1)ティンティナ鉱の鑑定
     冒頭にも書いたように、私はそれまでティンティナ鉱の現物を見たことが
    なかった。自分が採集したものが本当にティンティナ鉱なのか、その鑑定に
    は悩まされた。
     なぜなら、似たような化学組成で、似たような産状を示す鉱物がいくつか
    存在するからである。

鉱物名英語名化学式備考(有名産地)
毛鉱JAMESONITEPb4FeSb6S14秩父鉱山
ブーランジェ鉱BOULANGERITEPb5Sb4S11秩父鉱山
コサラ鉱COSALITEPb7Bi8CuS20関東の萩平鉱山
甲信の乙女鉱山
西の富国鉱山

     これらの化学式を見比べて見ると、ティンティナ鉱は、「鉛(Pb)と銅
    (Cu)と蒼鉛(ビスマス:Bi)を含むコサラ鉱」 と 「鉛(Pb)とアンチモニ
    (Sb)を含むブーランジェ鉱」 が混じったような組成をしており、両者と似
    たような産状を示し、鑑別しにくい。

     私のようなアマチャ(甘茶)には、『 空隙の中の毛状結晶は、ティン
    ティナ鉱 』
とするしかなさそうである。

     このように鑑定が難しいこともあってか、ティンティナ鉱がカナダのTintina
    銀鉱山で初めて発見されたのは、1968年とあまり古い話ではない。

 (2)私のHPのバックナンバ
     千葉県の石友・Mさんが、私のHPに記載した採集鉱物種について調べてくれ
    た。以下、引用させていただく。

    『 ホームページの第一回目より、もう一度全部拝見しました。

     1)気づいたこと

      @ 鉱物名やその化学組成式、産地名等はその時代毎に変遷が見られます。
        野外名としては使いにくい鉱物名がまた増えました。
        『日本産鉱物型録』に拠ると、透緑閃石は透がとれて緑閃石に統一
        されました。菫青石【Cordierite】、菫泥石【Kaemmererite】は俗名
        とされます。モナズ石は【Monazite-(Nd):(Nd,La,Ce)PO4】と
        【Monazite-(Ce):CePO4】に分かれています。
         また、化学式の面ではガドリン石【Gadolinite-(Y):Y2FeBe2Si2O10
        フェルグソン石【Fergusonite-(Y):YNbO4】、モンモリロン石
        【Monmorillonite:(Na,Ca)0.33(Al,Mg)2Si4O10(OH)2・nH2O】

      A 「ガイロル沸石」は「ガイロル石」で「沸石」ではありません。

     2)重複しているとした水晶の分類について

      @【形状】
        松茸水晶/逆松茸/寄生松茸/松茸状両錐/曲り水晶/平行連晶
        /日本式双晶(単一双晶)/V字形(蝶形、ハート型、軍配形など一般
        的な双晶/Y字形/X字形/日本式3連双晶/キの字形/鳥形(60°形、120°
        形)/貫入形/日本式4連双晶/松茸水晶の日本式双晶
      A【包含物】
        気泡/黄鉄鉱/山入り/草入り/雲母/緑閃石/緑泥石/電気石
        /その他角閃石
      B【色】
        透明/紫/緑/煙/その他候補(黄/赤/茶/黒/白)

     3)その他について

      @【亜種名又は俗名】
        いぼ石/しのぶ石/銀花石/玄能石/子ぶり石/饅頭石/桜石/武石
        /アマゾナイト/苗木石(Naegite)/手代木石(Ilmenorutile)
        /菫青石【Cordierite】/菫泥石【Kaemmererite】
      A亜種名や俗名等の重複を除く鉱物種名数は、2007.1.26現在214種でした。

     4)採集(産出)鉱物の記載に際し、【 俗名 和名 英名 化学式 】の
       順を恒例としていただければ、何れ
”デカイ”Databaseが構築
       できるでしょうね                               』

6. 参考文献

 1)松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 2)山田 滋夫:日本産鉱物五十音配列産地一覧表,クリスタルワールド,平成16年
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