茨城県城里町高取鉱山・錫高野の鉱物

        茨城県城里町高取鉱山・錫高野の鉱物

1. 初めに

   茨城県城里町(旧桂村)にある錫高野(すずごや)は、高取鉱山の北方にあり
  高取鉱山の一部として、選鉱場があったり、鉱山で働く人たちの住宅などもあっ
  た、ということを今回訪れて初めて知った。

   以前訪れた時、錫高野の入口には、チェーンが張ってあったが、営林署によっ
  て、それが頑丈なゲートに付け替えられていた。これは、ミネラルウオッチン
  グに訪れる人々を締め出すためではなさそうである。
   なぜなら、ゲートのすぐ内側に、真新しい「高取鉱山跡遊歩道案内図」が建て
  られ、ゲートから先は一般の人たちのための『遊歩道』であることを示している。
  さらに、次のような記述もある。

   『 石英を割ると、水晶やトパーズがでるかも・・・・!! 』

    案内板

   妻と一緒に、案内板を参考に、鉱山遺跡や”ズリ”を見て回りながらミネラル
  ウオッチングを楽しんだ。

     
        井戸【縦坑ではない】       火薬庫
               錫高野 鉱山遺跡の一部

   ある場所で、妻が『 変なのがある !? 』と私を呼んだ。近寄ってみると
  C面が発達した「底面式」と呼ばれる錫高野に多いタイプのトパズ(黄玉)の群
  晶で大きなものは直径10mm近くあった。
   このほかにも、「輝蒼鉛鉱」「硫砒鉄鉱」など、錫高野らしい標本を確認でき
  近いうち、再訪せねば、と思っている。
  ( 2007年1月採集)

2. 産地

   錫高野は、草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」に詳しく記載されている
  ので、詳細は省略する。
   冒頭に書いたように、ゲート前の「案内板」が参考になるはずである。

   注意が必要なのは、ズリまで約30分の歩きを覚悟しなければならないことで
  ある。

3. 産状と採集方法

 3.1 高取鉱山の歴史
    高取鉱山の歴史は古く、佐竹氏、徳川藩時代から錫鉱を採掘し、明治41年
   (1908年)に、池内氏が重石の露頭を発見し、高取鉱山と称した。
    明治44年(1911年)に三菱の手に移り、増産に努めたが、第一次大戦後の
   不況と鉱況の不振で大正10年(1921年)に休山した。
    その後、大正14年(1925年)から昭和5年(1930年)まで細々と稼行した。
   昭和19年(1944年)以降、小規模に稼行を開始し、第2次大戦後も細々と出
   鉱し、昭和25年(1950年)、荒川鉱業(株)の経営に移り、昭和61年(1986年)
   ごろ閉山したらしい。
    私がはじめて高取鉱山を訪れた平成元年(1889年)ごろ、採掘は既に止めて
   いたが、鉱山長はじめ何人かの方が残っておられ、鉱山案内パンフレットをい
   ただいた記憶がある。
    高取鉱山で働いていた人の話では、高取鉱山の「上二」の坑道が錫高野に通じ
   ていたとの事なので、同じ鉱山とみなして良いだろう。

 3.2 高取鉱山の地質・鉱床
    高取鉱山の重石、銅、錫などの鉱床は、砂岩・粘板岩・珪岩からなる「高取
   系」の裂罅を充填した石英脈に伴うものと、その2次的生成物である砂鉱の2種
   類があった、とされている。
    高取鉱山は古生代の砂岩、粘板岩、チャートの中の鉱脈で、鉄マンガン重石
   錫石そして黄銅鉱などを採掘した。「日本鉱産誌」によれば、昭和29年(1954年)
   には、出鉱量350t/月で、ほかに、WO3 を40t/年とある。
    粗鉱出鉱品位は、Cu 0.3〜1.0%,WO3 0.2〜1.0%とある。
    ただ、ここのタングステン鉱は、不純物の除去が難しく、電球のフィラメント
   などには使えなかった、と聞いた事がある。

 3.3 採集方法

  (1)ズリでの採集
     約25分歩くと、右手に大きな砂防ダムが見える。この上流一帯が、幅50m
    以上あるズリになっている。ここの斜面側に「選鉱場」があった、と「案内
    板」に書いてある。

     ズリは、枯沢と平坦な部分と山際の斜面で構成されているが、良いものは
    枯沢で発見できる可能性が高い。
     なぜなら、大雨が降るたびに、枯沢が濁流で洗われ、新鮮(?)なズリが
    表面に現れるからである。また、行きに左岸を見て、帰りに右岸をみるように
    すると良品発見のチャンスが増える。
     ここでは、水晶、白い石英塊や石英脈が付いた粘板岩〜砂岩系の母岩を探す
    のがポイントである。錫石は水晶表面や内部にあることが多く、鉄マンガン
    重石や硫化鉱物は石英塊にあり、黄玉(庇面式、底面式トパズ)は母岩に薄く
    付いた石英脈の晶洞内にあるからである。
     熊手のようなもので、表面の石を掘り起こしながら探すのも有効である。

     「選鉱場跡」前のズリ

  (2)採石場での採集
      枯れ沢の上流には、水がこんこんと湧き出している場所がある。(ただ
     今回訪れた時には、水は全く流れていなかった) この手前の右岸にある
     高さ約1.5mの壁になったような場所では、水晶や鉄マンガン重石が採集で
     きる。
      ここから、道路に上がり、約50m進むと、右側のブッシュの奥に採石場
     の跡がある。
      ここが、螢石の産地であった。(過去形)しかし、今でも、取り残した螢
     石、雲母などが採集できることがある。ポイントは、露頭右下の掘り込まれ
     た部分の前の地面で、ここを注意深く探すと、螢石の分離結晶や母岩付きが
     見つかることがある。
      ここの、雲母は、球状に結晶しており面白い形である。螢石は、一部絹雲
     母化した部分にも含まれている。

  (3)植林されたズリ
      採石場から更に約150m奥に進むと、左に入る小道があり、ここを進むと
     左側一帯には、杉の木が植林されている。この表土の下が、一面ズリである。
      私が、最初に錫高野を訪れた10年以上前には、2mくらいの背丈であった
     が、今では、5m以上に成長しており、昔の面影と全く違い、久しぶりに訪
     山すると、面食らってしまう。
      表土を剥ぎ、下のズリ石の中から、水晶や石英を探す。杉の木は、絶対傷
     つけない事と表土は必ず埋め戻すことが大事である。

      ズリ

4. 産出鉱物

   今回、採集できた標本の主なものは、下記のとおりである。

No鉱 物 名
(英語名)
【化学式】
 説 明標本写真備考
1鉄マンガン重石
(WOLFRAMITE)
【(Fe,Mn)WO4
 黒色で金属光沢
へき開が明瞭で葉片状に
石英塊に入っている。
 比重 7.3と大きく
手に持つとズシリ感じる
周辺に「重石華」が
見られる
ケースもあり
2黄玉(トパズ)
(TOPAZ)
【Al2(SiO4)(F,OH)】
 無色〜黄色
透明〜白濁した短柱状や
粒状結晶が石英脈や水晶の
上に結晶している
 水晶に比べ、屈折率が高く
(キラキラ輝く)、結晶面に
細かい条線見られる

      庇面式

  
     庇面式結晶図


      底面式


     底面式結晶図

庇面式は”f面”が発達し
屋根が合わさったように
先端が尖っている
 細かい条線がある
柱面(m面)がキラキラ
光る

 底面式は”c面”が発達し
菱型の面が大きく見える

3輝蒼鉛鉱
(BISMATHITE)
【Bi2S3
 石英塊の中に
鉛灰色の繊維〜針状
結晶の集合で産する
輝安鉱に似る
4硫砒鉄鉱
(ARSENOPYRITE)
【FeAsS】
 銀白色、菱形の
自形結晶がごく稀に
見えることがある
多くの場合
割った時の衝撃で
へき開してしまう
5錫石
( CASITTERITE )
【SnO2
 小さな粒状結晶が
水晶の上に晶出
していることがある
 
6石英/水晶
( QUARTZ/Rock Crystal )
【SiO2
 ズリの中から産するが
白濁し透明感が低く
頭付きの完全なものが
少ないので
水晶単体では魅力が
少ない
    表面や内部にトパズや
錫石が結晶している
ことがある

5. おわりに

 (1) 錫高野(高取鉱山)で産出した鉱物として、次のようなものが報告されている。
    私が、今までに入手できたものを○数字と()で示す。(恵与品含む)

    @.鉄マンガン重石    A.錫石     B.硫砒鉄鉱
    C.黄鉄鉱        D.白鉄鉱   E.螢石
    F.重石華       G.赤鉄鉱    H.黄銅鉱
    10.閃亜鉛鉱      J.方鉛鉱    12.黄錫鉱
    13.自然蒼鉛      M.輝蒼鉛鉱   15.輝銅鉱
    16.赤銅鉱        P.石英     Q.黄玉
    R.白雲母        20.リシヤ雲母 (21).菱マンガン鉱
    22.菱鉄鉱       (23).孔雀石    (24).珪孔雀石
    25.ティンティナ鉱    26.自然銅    27.弗素燐灰石

     興味のある鉱物種でまだ手にしていないものが多く、再訪を期している。

 (2) 今回、砂鉱のトパーズや錫石を狙ってパンニング皿を持参してみたがいつもの
    場所に水が全くなく、空振りに終わった。雨の多い季節にでも訪れ、ぜひトライ
    したいと思っている。

6. 参考文献 

 1)南部秀喜:南部鉱物標本解説(復刻版),茨城県自然史博物館,平成8年
 2)山田滋夫:日本産鉱物五十音配列産地一覧表,クリスタル・ワールド,平成16年
 3)松原 聰:日本産鉱物種 第5版,鉱物情報,2002年
 4)松原 聰:日本の鉱物,株式会社 学習研究社,2003年
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