茨城県桂村錫高野の鉱物

茨城県桂村錫高野の鉱物

1.初めに

2001年正月に、茨城県自然博物館で、南部 秀喜著「南部鉱物標本解説」を
みかけた。是非入手したいと思い、色々手を尽くして、ようやく入手できた。
この本には、各地の鉱山の地質、産状、産出鉱物が手書き原稿と鉱物の精密なスケッチ
(鉛筆画)で詳しく紹介されており、その中に高取鉱山の章がある。
錫高野のズリは、大雨が降るとズリ石が洗われ、良品がヒョッとして顔を出すのでは
と考えると、私の寮から車で1時間と近いこともあり、休日出勤を昼で切り上げ
出かけてみた。
(2001年6月採集)

2.産地

錫高野は、「鉱物採集フィールドガイド」に詳しく記載されていますので、
詳細は省略します。
注意が必要なのは、以前は、ズリの近くまで車で行けたのですが、今では、入口に
営林署がチェーンを張り、ズリまで歩かねばなりません。
特に日曜日は、県道のところにチェーンが張られ、ズリまで、約40分歩きました。

3.産状と採集方法

3.1 高取鉱山の歴史
高取鉱山の歴史は古く、佐竹氏、徳川藩時代から錫鉱を採掘したが、明治41年に
池内氏が重石の露頭を発見し、高取鉱山と称した。
明治44年に三菱の手に移り、増産に努めたが、第一次大戦後の不況と鉱況の不振で
大正10年に休山した。
その後、大正14年から昭和5年まで細々と稼行した。昭和19年以降、小規模に
稼行を開始し、第2次大戦後も細々と出鉱し、昭和25年荒川鉱業(株)の経営に
移った。
3.2 高取鉱山の地質・鉱床
高取鉱山の重石、銅、錫などの鉱床は、砂岩・粘板岩・珪岩からなる「高取系」の
裂罅を充填した石英脈に伴うものと、その2次的生成物である砂鉱の2種類があった。
ここで、産出した鉱物には、次のようなものがあった。今でも、ズリで採集可能な
ものを○数字で示す。
@.鉄マンガン重石 A.錫石 3.硫砒鉄鉱
C.黄鉄鉱 D.白鉄鉱 E.螢石
7.重石華 8.赤鉄鉱 H.黄銅鉱
10.閃亜鉛鉱 J.方鉛鉱 12.黄錫鉱
13.自然蒼鉛 14.輝蒼鉛鉱 15.輝銅鉱
16.赤銅鉱 P.石英 Q.黄玉
R.白雲母 20.リシヤ雲母 21.菱マンガン鉱
22.菱鉄鉱
3.2 錫高野の採集方法
(1)ズリでの採集
林道入り口から約40分歩くと、右手に大きな砂防ダムが見える。この上流一帯が、
幅50m以上あるズリになっている。ズリは、枯沢(夏〜秋の雨が多い時期には水が
ある。)と平坦な部分と山際の斜面で構成されているが良いものは、枯沢で発見
できる可能性が高い。
錫高野の沢
なぜなら、大雨が降るたびに、枯沢が濁流で洗われ、新鮮(?)なズリが表面に現れる
からです。また、行きに左岸を見て、帰りに右岸をみるなどすると良品発見のチャンス
が増える。
ここでは、水晶、白い石英塊や石英脈が付いた粘板岩〜砂岩系の母岩を探すのがポイント
です。錫石は石英(水晶)表面や内部にあることが多く、鉄マンガン重石や硫化鉱物は
石英塊にあり、黄玉(庇面式トパーズ)は母岩に薄く付いた石英脈の中にあるからです。
熊手のようなもので、表面の石を転がしながら探すと効率的です。
(2)採石場での採集
枯れ沢の上流には、水がこんこんと湧き出している場所がある。この手前の右岸にある
高さ1.5mの壁になったような場所では、水晶や鉄マンガン重石が採集できる。
ここから、道路に上がり、約50m進むと、右側に採石場の跡が見えます。
ここが、螢石の産地であった。(過去形)しかし、今でも、取り残した螢石、雲母などが
採集できる。ポイントは、露頭右下の掘り込まれた部分の前の地面で、ここを注意深く
探すと、螢石の分離結晶や母岩付きが見つかる。
ここの、雲母は、球状に結晶しており面白い形です。螢石は、一部絹雲母化した
部分にも含まれている。
しかし、最近は露頭を叩く人がなく、良品は難しいでしょう。
(3)植林されたズリでの採集
採石場から更に約150m奥に進むと、左に入る小道があり、ここを進むと左側一帯は、
杉の木が植林されている。この表土の下が、一面ズリです。
私が、最初に錫高野を訪れた10年以上前には、2mくらいの背丈であったが、今では、
10m以上に成長しており、昔の面影と全く違い、久しぶりに訪山すると、面食らってしまう。
表土を剥ぎ、下のズリ石の中から、水晶や石英を探す。杉の木には、絶対傷つけない事と、
表土は必ず埋め戻すことが重要です。

錫高野の杉林での採集

4.産出鉱物

(1) 鉄マンガン重石【Wolframite;(Fe,Mn)WO4】
石英塊に、黒色で金属光沢を持ち、へき開がハッキリしている鉱物が葉片状に入っている。
比重が、7.3と大きく、手に持つとズシリとする。
へき開がハッキリしているため、逆に完全な柱状結晶は無理ですが、石英の晶洞には、
小さな頭付き結晶も見られ、錫石と共生する場合もある。

錫高野の鉄重石左:採集品右:頭付き結晶【南部鉱物標本より引用】
(2) 水晶【Rock Crystal;SiO2】
ここの水晶は、大きいのがありますが、透明感が低く、頭付きの完全なものが少ないので、
水晶単体では余り魅力的とは言えません。
しかし、今回、白雲母と共生する水晶を発見した。
白雲母と共生する水晶(長さ5cm)
(3)黄銅鉱と孔雀石【Calcopyrite and Malachite;CuFeS2/Cu2(CO3)(OH)3】
網目状の黄銅鉱とその2次鉱物として、(珪?)孔雀石が採集できた。
黄銅鉱と孔雀石
(4)トパーズ(黄玉)【Topaz:Al2(SiO4)(F,OH)】 ここのトパーズは、庇面式で柱面がハッキリしていないのが多いのですが、
今回石英の晶洞の中に結晶を発見した。

錫高野のトパーズ左:採集品右:【南部鉱物標本より引用】

5.おわりに

(1)私が働く半導体産業は、最先端の技術を駆使しており、純水を1日に
数千トンも使います。そこで、自嘲気味に半導体は「水商売」と語ることもある位です。
茨城県は、4月に雨が極端に少なく、水戸地方気象台が明治6年に観測を開始
して以来の少ない降水量でした。工場の工業用水は、那珂川から取り込んでいますが、
異常渇水で流量が少なくなり、海に近いため、満潮時には塩分(半導体の大敵)が
入り込む恐れも出てきて4月28日には、メノウで有名な玉川の近くにある静神社に
雨乞い祈願に行ってきいました。霊験あらたかで、翌々日には雨が降り、その後も
まとまった雨があり、梅雨入りです。
半導体産業は、天気頼みの「農業」だと揶揄される所以です。
(2)これだけ雨が降ればズリの様子も変わっているだろうと、訪れてみました。
林道入り口から40分も歩いたのですが、途中で野いちごを食べたり、写真に
撮ったり、リフレッシュできた採集でした。
錫高野の野いちご
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