小学生とミネラルウオッチング in 水晶峠

      小学生とミネラルウオッチング in 水晶峠

1. 初めに

   私の持論の1つに、『鉱物採集は、水晶に始まり、水晶に終わる』がある。これは
  釣人の間で、「釣りは、鮒(ふな)に始まり、鮒に終わる」、と言われているのを聞き
  それをもじったものである。

   この意味は、”何たって、水晶はいい”、という、至極単純明快なもので、鉱物採集
  を始めたきっかけを聞くと、『道端で拾った水晶が美しかったから』、などと答えて
  くれる石友も多い。

   私のHPを読んだK県の私立小中一貫校のR・H先生から『クラスの小学6年生18名を
  鉱物採集に連れて行きたいのだが、適当な場所を教えて欲しい』、と相談のメールを
  いただいたのは、2007年9月の初めだった。

   一昔(10年)前なら、「塩山市(現在甲州市)竹森の水晶山」と即座に答えられたが
  入山禁止になっており、私のHPにある「水晶峠」をお勧めした。
   林道への大型車乗り入れ規制などあるものの、多くの生徒たちが大好きな「水晶」を
  安全・確実に、採集できることから「水晶峠」と決まり、10月初めに、R・H先生と同僚
  2名、そして私たち夫婦の5名で下見を行い、『見本』も採集した。

   10月中旬、小学6年生19名、R・H先生と同僚、総勢21名をJR塩山駅に出迎え、貸
  切ワンボックスカー2台と私の車に分乗し、金峰山登山道の駐車場を目指した。
   登山道を一列に進み、荒川にかかる丸木橋も無事渡り終え、「バッタリ鉱山跡」に
  到着すると一面に散らばる石英を見て、『水晶だ!!』の歓声が上がった。
   水晶峠の標識を見て、昼食後、採集を開始すると『山入りがあった!!』『緑水晶
  があった!!』
、と歓声が響いた。

   この日は、午後から90%雨の予報だったので、早めに産地を後にし、駐車場に戻
  ると同時に、雨が降り出し、見る間に雨脚が強まった。
   ( R・H先生に、”晴れ男”と言っていた約束が果たせた )

   予定より少し早めにJR塩山駅に到着し、皆さんとお別れした。翌週、R・H先生から
  の封筒が届いていたので開いてみると、先生と生徒たちの礼状があり、生徒ひとり
  一人が、素晴らしい体験ができたことや本人だけでなく、両親や兄弟姉妹までが水
  晶の美しさに感嘆し、それを分かち合って喜んでいる様子が読み取れた。
   案内させていただいた私にも、皆さんの喜びが伝わってきて、嬉しくなった。この
  ような貴重な機会を作っていただいた、R・H先生に感謝している。
   ( 2007年10月実施 )

2. 水晶産地を目指せ!!

 (1) 金峰山登山口へ
     電車で来る一行をJR塩山駅で待ちうける。R・H先生が遠くから手を振ってくれ、
    すぐにわかる。
     生徒たちと初対面の挨拶の後、3台の車に分乗し、出発!!

     道の駅「まきおか」で、トイレ休憩の後、杣口(そまくち)林道を登って行く。前方
    の山々には中腹まで、重い雲がかかっていて、天気が心配だ。
     乙女湖(琴川ダム)を左に見て、クリスタルラインに入り、「乙女鉱山」入口を左
    に見て、林道を進む。「ななかまど」の実が真っ赤に熟し、紅葉も始まっている。
     金峰山登山道の駐車場に到着したのは、予定通り10時だった。

 (2) 難所を越えて
     水晶産地への道は、下り→平坦→下り→川渡り→緩やかな登り、で”行きは良
    いヨイ”のコースだ。
     ただ、難所は荒川(アコウ沢)の渡河だ。この季節、水温は10℃以下で、落ちて
    ズブ濡れになったら、”風邪”では済まないかもしれない。

    渡河【下見のときのR・H先生】

     私が先に渡り『見本』を示し、注意事項を伝える。怖がる生徒もなく、次々と身
    軽に渡りきり、一安心。

 (3) 「バッタリ鉱山跡」で水晶探し
      枯れ沢を2つ横切ると遠くから、”真っ白い水晶(石英)片”が一面に散らばる、
     「バッタリ鉱山跡」が見えてくる。
      生徒たちの間から、『 水晶だ!!』、と歓声が上がる。荷物を降ろし、思い思
     いの場所に陣取って採集を始める。
      すぐに、『水晶があった!!』の声が上がる。結晶面がいくつか見えるものでも
     大喜びだ。やがて、六角柱状のもの、そして錐面もついた完全なものを見つけ
     見せ合っている。このようにして、水晶の理想形を現場で現物を見ながら理解し
     て行く生徒の能力の高さには眼を見張った。

         
             産地遠望             採集風景
                    バッタリ鉱山跡

      やがて、一人の生徒が茶褐色の大きな塊を発見し、鑑定に持ち込んできた。
     一部、金色の黄鉄鉱が残っており、『黄鉄鉱が変化した武石(ぶせき)』、と説明
     すると、あちこちから『武石があった!!』の声が上がる。

 (4) 水晶坑道見学
      ここには、水晶坑道が残されている。生徒、特に男子は坑道の中に入って見た
     いらしく、何人かから「中はどうなっている?」、「入ったことある?」などと質問が
     次々に飛び出す。安全を考慮し、外からの見学のみとする。
      持参した、ハンマとタガネで、石英脈を崩し、こうして坑道をから水晶を掘り出し
     たことや皆が水晶を拾ったのは、小さくて「印鑑」などに使えない水晶を捨てた
     ”ズリ”だったことなどを理解してもらう。

3. 「水晶峠」で水晶採集だ!!

 (1) 「水晶峠」に到着
     あまり距離はないのだが、登山道の急な坂を木の根や岩角にすがって登りきると
    最終目的地の「水晶峠」だ。

      水晶峠【下見のとき】

 (2) 「山入り」「緑」そして「緑山入り」
     採集ポイントに移動し、12時少し前だが、昼食にする。昼食を食べていた女子が
    『山入り水晶があった!!』、と喜びの声を上げた。
     「山入り水晶」を知っているのが私には驚きだった。下見のとき採集した『見本』
     をR・H先生が事前に説明してくれたから、と知った。
     昼食もソコソコに、皆んな産地に散らばった。『山入りがあった!!』、とあちこち
    から声がする。まだ採っていない生徒には、私の採集品を渡す。

     やがて、『緑水晶があった!!』、と元気な男子の声がする。大事そうに手に持った
    標本は、小さいが紛れもない”緑水晶”だ。皆、緑水晶を掘り出した周辺に集まる。
    この後、『緑山入り』なども飛び出した。

 (3) 帰りはコワイ
      着いたときには奇跡的に青空が見えたのに、雲が厚くなり、気温も低下してき
     た。遠くで鳴く鹿の声も物悲しい。予定通り、13時に、産地を後にした。
      帰りは、来たときと違うコースで、急坂を下りる。歴史で勉強した、源義経の
     ”ヒヨドリ越え”さながらの急な坂を注意深く下りる。
      『4本足の鹿が下りられるなら、馬が下りられないはずがない』、など単なる
     ”知識”でなく、”経験に裏付けられた知恵”になってくれたようだ。

       急な坂【下見のときのR・H先生と同僚】

 (4) 難所も無事に越え
     緩やかな下り→急な登り→平坦→そして急な登り、を乗り越えて、駐車場に着い
    たのは、14:15だった。
     車で待機してくれた2名の運転手さんに、お土産の水晶を渡す。生徒たちのため
    このような場合に備え掘りためておいた「水晶峠の水晶」と「甲武信鉱山の石榴石」
    をまとめてR・H先生にお渡しする。
     全員が車に乗り込むや否や、雨が降り出し、あっと言う間に雨脚が強まった。ク
    リスタルラインを下り、「牧丘の千貫岩」を車窓から見学した。

      「千貫岩」

     塩平集落でトイレ休憩の後、雨脚がさらに強まり、「乙女湖(琴川ダム)」も車窓
    から見学し、JR塩山駅には予定より少し早い、15:20ごろ到着した。

     私の車には、往復とも同じ女子4名が乗った。行きは、皆さんおとなしくしていた
    せいか、曲がりくねった林道で気分が悪くなる子もいた。しかし、帰りは、4人が
    喋りっぱなしの賑やかさで、車酔いなどスッカリ忘れた様子で、安心した。
     ( 3人の子どもが息子ばかりの私には、”孫娘”と一緒の車中だった )
     名残惜しいが、生徒たちとお別れの挨拶をして、私も帰路についた。

4. 後日談

 (1) 生徒たちからの手紙
      「水晶峠」での鉱物観察が終わった翌週、郵便受けにR・H先生からの手紙が
     あった。中には、先生と生徒たちからの「水晶」や「紅葉」のイラストも入った手
     紙が入っていた。

        
                手紙                  水晶のイラスト
                      先生・生徒たちからの手紙

      一人、ひとりの手紙を読ませてもらうと、生徒全員が、素晴らしい体験ができた
     ことや、本人だけでなく、両親や兄弟姉妹までが水晶の美しさに感嘆し、それを
     分かち合って喜んでいる様子が読み取れた。

      これらの手紙は、”私の宝物”だ。

 (2) 今回の観察品
      私が、大勢の皆さんを案内すると、面白い産状の標本や珍しい鉱物に出会うこと
     も少なくない。
      それらを見せていただき、デジカメで記録に残せるのは私の”役得”だろう。今回
     の観察品のいくつかを紹介したい。

        
       緑山入り水晶【高さ55mm】            武石【長辺40mm】
                        観察品

5. おわりに

 (1) 今までも20名、30名の大人数を鉱物産地に案内したことはあったが、その多くが
    中学生以上で、子どもには親が付き添っていた。
     今回は、小学6年生が19名で、いつもより緊張しながら、案内した。

     @ 安全
        万一、事故があったら、楽しさが吹き飛んでしまう。
     A 全員が標本を採集できる
        ”採れないと面白くない”ので、採れていない生徒には私が採集した『見本』
        を差し上げた。
     B 天候
        雨が降ったりすると、産地への往復、採集も大変。しかも、標高1,800mの
        産地は寒く、風邪を引くなどの副作用も心配
        R・H先生の”テルテル坊主”が効いたか、はたまた”晴れ男”か。

 (2) 幸い、事故もなく、天候も持ってくれ、皆さん採集した「水晶」や「武石」などが楽
    しい思い出になった様子が「感想文」から読み取れた。
     生徒たちが、いつまでも鉱物を通じて自然に愛着を持ってくれることを祈ってい
    る。

 (3) 現在、県のパソコン・ボランティアとして、障害をお持ちの方々のPCのトラブルを
    解決するお手伝いを週に1、2回やらせていただいている。
     今回のように、小学生など、鉱物に興味を持ち始めた人々を産地に案内する
    ことも、私の”余生の生かし方”の1つだと考えている。

6. 参考文献

 1) Edward S. Dana: A System of Mineralogy 6th Edition
               John Wiley & Sons, INC ,1920年
 2) 谷山 四方一:鉱物鑑識の実際と鉱山探検,厚生閣,昭和14年(1939年)
 3) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 4) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年(1970年)
 5) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年(1985年)
 6) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
 7) 松原 聡:日本の鉱物,滑w習研究社,2003年
 8) 加藤 昭:鉱物種一覧,小室宝飾,2005年
 9) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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