2004年ミニ鉱物採集会「山梨県水晶峠の日本式双晶を求めて」

     2004年ミニ鉱物採集会
   「山梨県水晶峠の日本式双晶を求めて」

1.初めに

 日本分県地図を何気なく眺めていると、日本のいたるところに「水晶岳」
「水晶沢」など、”水晶”を冠した地名が多いのに気が付きます。
 山梨県にも、今では採集が難しい「竹森の水晶山」と並んで鉱物採集で有名な
「水晶峠」があります。
 「水晶峠」は、その名に違わず「山入り」「緑」「武石付き」「黄鉄鉱入り」など
各種水晶のバリエーションが採集できることは知られていますが
アプローチが今ひとつ不便(良く分からない)などで、「竹森の水晶山」ほど
一般的ではありません。
 私のHPを見た千葉のIさんから、水晶峠を案内して欲しいとのメールがあったので
「鉱物採集会」に参加していただいた方々に声を掛け、2004年9月の[「ミニ採集会」を
開催した。
 名古屋のSさん一家、埼玉のA・Sさん、愛知のHさん、群馬のTさん、東京のKさんなど
定連組のほかに、初参加の東京・Hさん夫妻、神奈川・Uさんも加わり、総勢13名での
賑やかな採集会になった。
 8月末になって、山梨は何回か大雨があり、それによってズリが洗われ、しかも
最近誰も採集に訪れた形跡が無く、表面採集で女性や子どもでも簡単に採集できた。
 しかし、ジンクスどおり、14時ごろから強い雨が降りだし、予定より1時間早く
撤退を決めた矢先、初参加の神奈川・Hさんが「日本式双晶」を採集した。
 皆さん後ろ髪を惹かれる思いだったようでした。
(2004年9月採集)

2.産地

  以前の「水晶峠採集会」のページに詳しく掲載してありますので、割愛します。
  しばらくの間、柳平集落の先で道路と擁壁工事をしており、時間を限ってしか通行
 できませんので、通れる時間帯を調べて行かないと、とんだ無駄足になりかねません。
  登山ガイドなどにもある「水晶峠」を目指せば、迷わずに行けるはずです。

   「水晶峠」標識前で参加者
  

3.産状と採集方法

  黒平の古老に聞くと、水晶峠では、マサ化した花崗岩に挟まれたペグマタイト脈の
 晶洞から水晶を掘ったようです。「バッタリ鉱山」も近く(境界がよく分からず人によって
 呼び名がオーバーラップしていた?)、ズリも広範囲に広がっています。
  御堂川沿いには、比較的堅い(他の産地に比べるとはるかに脆いが)花崗岩が残っており
 そこに坑道を掘っての採掘も行われた。

      
    坑道【中の光はA・Sさん】          露頭
              水晶峠の産状

  ここでの採集は、ズリを掘るのが一般的です。危険な場所が少なく、手軽に採集でき
 ますので、女性や子供向きです。

  ズリの表面が白くなるほど、石英のかけらが落ちています。今回のように雨上がりには
 表面採集でもそこそこの標本が期待でき、クマ手などでちょっと掘っても面白いでしょう。
 (今回、良標本のほとんどは、表面採集で得られたものだった。)

   採集風景

4.産出鉱物

   ここで採集できるのは、@水晶 A武石がメインです。
  水晶には、「山入り」「緑山入り」「武石入り」「黄鉄鉱入り」など各種インクルー
  ジョン入りのほか「武石」「鋭錐石」などの付いたもの、並行連晶や日本式双晶が
  採集でき、これらの組み合わせもあります。

 【今回の採集品】

(1)山入り(ファントム)水晶【Phantom Quartz:SiO2】
    英語の”Ph(F)antom”には、幽霊、お化けと言ったチョット不気味な意味があり、
   日本語の「山入り」のほうが親しみやすいと思う。
   オーソドックスな「真っ白」から「緑色」まで文字通り色々です。
   東京・Kさんが、透明感のある緑山入りの佳品を採集した。

     
       白山             緑山
             山入り水晶

    山の部分が何なのか、角閃石、緑簾石それとも気泡か。どのようにして
   山の部分が不透明でその外側が透明な山入り水晶ができたのか、不思議です。
    冷蔵庫で作る氷に透明な部分と不透明な(白い)部分があるのがヒントのような
   気がするのですが・・・・・・・・・・。

(2)緑水晶【Green Quartzl:SiO2】
    微細な角閃石が水晶全体に分布し、全体が緑色になったものがあります。Uさんに
   言わせると”目の醒めるような鮮やかな緑色”の逸品をA・Sさんが採集した。

     
       全体に緑         緑雲
             緑水晶

(3)白〜緑針入り水晶【Rock Crystal including Hedenbergite :SiO2】
    白〜緑色の細い針状結晶を含む水晶があり、針が濃集している部分は黄色〜緑色に
   見えます。

   針状角閃石入り

(4)鉄電気石入り水晶【Rock Crystal including Schorl :SiO2】
    真っ黒い鉄電気石が毬栗状に集合したものが含まれている。

   鉄電気石入り

(5)緑泥石入り水晶【Rock Crystal including Chlorite :SiO2】
    透明感の強い水晶の中に、緑泥石と思われる緑黒色の球の集合体が入った水晶がある。

   緑泥石入り

(6)武石【Limonite :酸化・水酸化鉄】
    黄鉄鉱が結晶の形を残したまま酸化・水酸化鉄に変化した武石がアチコチで採集
   できる。2cm位の全周完璧なサイコロ状や、いくつかの面を残した5cmを超える
   ものがあり、破断面をみると黄金色に輝く黄鉄鉱が脈状に残っていて、コントラストが
   美しい。名古屋・Sさんの息子・Y君がこの種の標本を採集して大喜びでした。

   武石

 【過去の採集品】

(1)日本式双晶【Rock Crystal Japanese Twin :SiO2】
    初参加の東京・Hさんが日本式双晶を採集した。ここで産出する日本式双晶には
   2つのタイプがあります。

    @平板タイプ
     子持ち水晶【水晶の上に水晶が族生しているもの】で、こどものいくつかが
    平板双晶になっているもので、今回Hさんが採集したものもこのタイプです。
    A傾軸タイプ日本式双晶
      今まで、頭がついたものは採集できず、両方の頭が晶洞の壁にくっ付いた
     俗に”猿股(さるまた)”双晶と呼ばれるものです。
      Hさんの奥さんは、”猿股”の意味が理解できず、Hさんが翻訳していましたが
     下の写真を見ていただければ、直に理解できると思います。

       
        単一【5mm】      5ケの双晶集合【最大5mm】
            平板タイプ日本式双晶
    左のものは、黄鉄鉱入り水晶の上にあり、仙台の石友・Tさんの理論を裏付けています。

   
   ”猿股”双晶と呼ばれ
   縫合部分周辺だけが見える
       【20mm】
     傾軸タイプ日本式双晶

    今まで、自分自身で採集したり、同行した人が採集したのを見ると、80%以上が
   タイプ@ですので、日本式双晶を探す人は、子持ち水晶がねらい目でしょう。

(2)黄鉄鉱入り水晶【Rock Crystal including Pyrite :SiO2】
    武石入りは比較的多いのですが、錆びていないものは少なく、しかも六面体の結晶を
   含むものは極めて少ない。

   黄鉄鉱入り水晶

(3)鋭錐石付き水晶【Rock Crystal with Anatase :SiO2】
    辛うじて肉眼で見える八面体の結晶を持つ鋭錐石が特有の銀白色光沢で探すことが
   できた。

   鋭錐石付き水晶

5.おわりに

(1)今回で「水晶峠」での採集会は5回目を数え、甲武信鉱山や小川山と並び、人気の高い
   産地です。
   他の産地では産出が稀な山入りや緑水晶などが、初心者でも比較的簡単に採集でき
   ベテラン垂涎の的の「日本式双晶」もズリで採集できる、などがその理由でしょう。
(2)神奈川・Uさんは、お会いしてみて古い石友であることが判った。
   Uさんによれば、『水晶峠の日本式双晶は、乙女鉱山のものを間違って水晶峠産と
   した』という誤った学者の説が流布していたようだ、とのこと。今回Hさんが
   眼の前で採集し、私自身も過去に数個体採集していることから、この学説が誤りである
   ことは明白です。
(3)水晶峠は、広い範囲にズリが残されているのが、それらを掘った坑道や露天堀の跡が
   全く残されていない、私にとって不思議な産地でした。今回埼玉のA・Sさんが
   坑道を発見して坑内採集や露頭採集など、水晶峠での新しい採集スタイルを
   開拓してくれた。これを見ていると、ここでの水晶採掘当時の有様がなんとなく
   想像でき、疑問も解消しつつあります。
(4)別な趣味である絵葉書収集で、郷里の骨董店に入ったところ、”きかは便郵”
   「上州四萬温泉風景・水晶山」と題する1枚を入手した。

    四万温泉・水晶山

    宛名面の下1/2に宛名と通信文の仕切り線があり、大正7年(1918年)4月1日以降で
   ”きがは便郵”となったのは、「濁点楠公」と呼ばれる昭和8年(1933年)2月15日
   以降なので、この間(大正〜昭和初期)のものらしい。
    群馬県四万(しま)温泉は、噴火で今話題の浅間山の北東約30kmにあり、ここで
   水晶が産出するのか知りたいと思っています。

6.参考文献

1)中川 清:山梨県の水晶,水晶Vol.11 No.1,1998年
2)(財)日本郵趣協会カタログ委員会編:日本切手専門カタログ,日本郵趣出版,2000年
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