山梨県産 水晶印材コレクション - その15 -

1. 初めに

    2003年3月に甲府市で開催された骨董市で水晶印材を出品しているお店があり、早速8本ま
   とめて購入した。
    この中に、インクルージョン入りが6本、その内、水晶峠産と思われる『山入り』のものは1本
   だけだった。

     「山入り」【2003年3月入手】

    それ以来、ネット・オークションや山梨県は無論、各地の骨董市、骨董店そして古書店を訪れ
   る毎に、山梨県産の水晶製品とそれに関連するものに眼を光らせていた。
    その結果、既に150本あまりの水晶印材と「櫛」、「かんざし」、「帯留」そして「壺」などが集ま
   り、入手の経緯とコレクションを中心に「山梨県水晶細工【印材】のミニ歴史」についてHPに
   何回か記載した。

   ・山梨県産 水晶印材コレクション
   ・
   ・
   ・山梨県産 水晶印材コレクション-その14-

    2010年4月の週末、久々に単身赴任先から山梨に戻り、地元で開催された骨董市をのぞくと、
   五重塔が浮かび上がって見える水晶製の印材があったので入手した。
    単身赴任先に戻る途中、立ち寄った骨董市で、「甲斐物産商会」のラベルがついた桐箱に入
   った同じ五重塔印があり入手した。

    五重塔が浮かび上がって見えるアイディアは、今でも山梨県の観光土産品にみられ、水晶
   細工の技(わざ)が連綿と引き継がれているようだ。特に、昭和30年代から、伝統的な五重塔
   や松食い鶴だけでなく、かわいらしい少女をデザインしたものなどがペンダント・トップとして
   人気を博したようだ。その時代のものを自宅近くにある「山梨水晶館 ドルジェ コレクション」の
   桑原社長から譲っていただいた。

    ここには、乙女鉱山産の「日本式双晶」や「ライン鉱」はじめ、県内産の水晶・鉱物6,000点の
   一部が常時展示してある。また、甲府の研磨職人の手による水晶製品を展示・販売している。
    事前に予約すれば、無料で見せてもらえるので、山梨方面の観光やミネラル・ウオッチング
   のついでに立ち寄ると良いだろう。

     「山梨水晶館 ドルジェコレクション」

     受付時間:9時〜17時
     TEL    :055-254-6069
     E-mail  :info_1@dolje.com

    ここのところ、毎月のように印材ネタでお茶を濁している。しかし、このようにしながら、山梨
   県の特産である水晶製品の加工・販売に関する資料をまとめて現物と共に後世に伝えるのも
   私の余生の生かし方だと思っている。
   ( 2010年4月入手 )

2. 「五重塔印」

    すでに、「五重塔時計提(とけいさげ)印」を入手し、HPで報告している。

    ・山梨県産 水晶印材コレクション - その12 -
     ( QUARTZ Seals from Yamanashi Pref. - Part 12 - )

    明治末期〜大正初期と思われる古い水晶細工品のカタログを見ると、五重塔が浮かび上が
   って見える水晶製品がある。

          
         「五重塔」 水晶細工
     【冨士屋水晶部カタログから引用】

    今回入手した印材は、五重塔の根元部分が楕円形になっていて、名前が刻印できるように
   なっている。

         
          全体              印面
                五重塔印材

    東京で入手した印材は、桐箱に納められていた。桐箱には、「合資会社 甲斐物産商会」の
   ラベルが貼ってある。

    『 本格的な水晶細工の通信販売は、明治36年(1903年)、「甲斐物産商会」の石原宗平に
     よって開始された。
      彼は、ぶどう酒醸造販売業・土屋一郎、西島和紙取り扱い店・名取一作と図り、「甲斐物
     産商報」を発行し、甲州水晶、ぶどう酒、手漉き和紙を並べて宣伝した。
      明治38年(1905年)日露戦争の勃発で、石原が出征、三者共同の宣伝は中断した。石原
     が凱旋し、明治39年(1906年)、単独で「甲斐物産商報」を発行した。同年4月6日付で、
     第3種郵便物の認可も得て、4月10日に第1号を全国各地に発送し、販路開拓に大きな成
     果を収めた。
      これにならって、各水晶店でも、同じようにカタログによる通信販売に力を入れるようにな
     った 』
、とあり、山梨県の水晶細工通信販売のパイオニアだった。

         
         桐箱に入った状態             桐箱ラベル
                   甲斐物産商会 五重塔印

    以前入手した「甲斐物産商会」のチラシには、『商会主 石原 宗平』の名があり、印章だけ
   でなく、幅広く水晶細工を扱っていたことがわかる。

      
                  甲斐物産チラシ【明治35年〜40年】

    「甲斐物産商会」は現在「シャルム」と社名を変え、宝飾業界の中心的な企業になっている。
    同社のHPから、社史の一部を引用させてもらう。

    明治 6年9月 創業者石原宗平 生まれる
       34年   東京本郷に甲斐物産商会を創業
       35年   本社を甲府市常磐町に移し、
             塩山市の竹森山の水晶採掘権を取得
       38年   「甲斐物産商報」が第3郵便物として認可
       40年   甲斐物産商会を合名会社に法人化
    大正 5年   水晶ネックレスの大量生産を図り、最初の輸出
       13年   水晶原石(株)を有志と設立、ブラジルより原石を輸入
    昭和 5年   株式会社に組織変更
       15年7月 有志と共に(株)日本特殊研磨工業所(軍事工場)を設立

    チラシには、『篆刻部主任 中村 蘭台』の名がある。初世と2世の蘭台がいるようだ。初代は
   明治36年9月に山梨県の韮崎を訪れたと記録があり、チラシにあるのは初代だろう。初代は、
   明治35年に脳出血で倒れた、ともある。

    これらから、甲斐物産のチラシは合名会社になる以前で、明治35年から40年ごろのものと
   考えられる。
    一方、桐箱に入った五重塔印は、合名会社になった明治40年以降で、株式会社になる昭和
   5年以前のものと考えられる。

3. 水晶細工の技の系譜

    ドルジェの桑原社長から、単身赴任先に、「五重塔などを彫った水晶細工を古い水晶細工所
   から探しだしたので、欲しければキープして置く」、のメールが入った。もちろん、キープしていた
   だくようお願いし、2週間後に甲府に戻った時に、妻と見に行った。

    「五重塔」だけでなく、「松食い鶴」や「かわいらしい女の子」などを五重塔印と同じような原理
   で見えるように彫ったもので、一部はペンダント・トップとして作られたようで、上の方に小さな
   丸孔が貫通している。

         
             正面から              「松食い鶴」彫刻面
                   五重塔印と同じ水晶細工

    一目見た妻は、「手が込んでる!!」、と感嘆していたが、その仕掛けは意外とシンプルで、
   加工の手間もさほどかからなかっただろう。
    桑原社長の話では、「昭和30年代に作られたもの」、とのこと。

4. おわりに

 (1) 「山梨水晶館」
      家の近く、歩いて5分の所に「山梨水晶館」があるのに気付いたのは、2009年夏、疾風の
     散歩や畑への往復のときだった。広い駐車場の奥にある建物の前には、1m近い花崗岩
     の晶洞が置いてあるのは遠くからも見えた。
      2010年3月、湯沼鉱泉社長、お姐さん、そして小Yさんが訪れるというので、一緒に訪れた
     のが最初だった。

      建物2階の応接間に、山梨県産の水晶を中心とする鉱物が展示してある。もちろん、乙女
     鉱山の日本式双晶の手のひらサイズを含めいくつか飾ってある。

         
               水晶展示                乙女鉱山産日本式双晶
                      「山梨水晶館」 展示の一部
                        【同館カタログから引用】

      ここには、乙女鉱山産の「日本式双晶」以外にも「ライン鉱」など、県内産の水晶や鉱物
     6,000点の一部が常時展示してある。また、甲府の研磨職人の手による水晶製品を展示・
     販売している。
      事前に予約すれば、無料で見せてもらえるので、山梨方面の観光やミネラル・ウオッチン
     グのついでに立ち寄ると良いだろう。
      

 (2) ラベルのない標本
      千葉県に来て地元や東京の骨董市を見て回る事が多い。以前なら、飛びついて買った
     水晶細工を目にすることが多いのだが、最近は慎重になった。水晶細工の古いものなら
     90%以上の確率で山梨県産と言えるだろうが、できるだけ、「箱」や「ラベル」がついている
     ものを買うようにしている。
      ”ラベルのない標本は価値がない”を実践し始めたところだ。

5.参考文献

 1) 甲斐物産商会編:水晶美術カタログ,同社,明治35年〜40年ごろ
 2) 甲府停車場前冨士屋水晶部編:甲斐国名産水晶美術細工品畧(略)図,同社,
                         大正〜昭和
 3) 山梨県水晶商工業協同組合編纂:水晶宝飾史,甲府商工会議所,昭和43年
 4) 山梨水晶館編:ドルジェコレクション カタログ,同館,2010年


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