山梨県産 水晶印材コレクション - その12 -

1. 初めに

    2003年3月に甲府市で開催された骨董市で水晶印材を出品しているお店があり、早速8本ま
   とめて購入した。
    この中に、インクルージョン入りが6本、その内、水晶峠産と思われる『山入り』のものは1本
   だけだった。

     「山入り」【2003年3月入手】

    それ以来、ネット・オークションや山梨県は無論、各地の骨董市、骨董店そして古書店を訪れ
   る毎に、山梨県産の水晶製品とそれに関連するものに眼を光らせていた。
    その結果、既に150本あまりの水晶印材と「櫛」、「かんざし」、「帯留」そして「壺」などが集ま
   り、入手の経緯とコレクションを中心に「山梨県水晶細工【印材】のミニ歴史」についてHPに
   何回か記載した。

   ・山梨県産 水晶印材コレクション
   ・
   ・
   ・山梨県産 水晶印材コレクション-その11-

    2010年1月、甲府市で開催された骨董市をのぞくと、五重塔が浮かび上がって見える水晶製
   の「時計提印(とけいさげいん)」が3本並んでいたので、まとめて入手した。

    五重塔が浮かび上がって見えるアイディアは、今でも山梨県の観光土産品にみられ、水晶
   細工の技(わざ)が連綿と引き継がれているようだ。

    ハンコの町・六郷町(現市川三郷町)から来たという骨董商の話では、昨今の経済状況から、
   廃業・転業に追い込まれる印章店もあるようで、今が貴重な印章資料を入手できる最後の機
   会なのかも知れない。
    このようにしながら、山梨県の特産である水晶製品の加工・販売に関する資料をまとめて
   現物と共に後世に伝えるのも、私の余生の生かし方だと思っている。
   ( 2010年1月入手 )

2. 「時計提(とけいさげ)印」とは

    大正〜昭和期の水晶製品の通販カタログをみると、小ぶりの水晶印の上に紐を通す穴が明
   いた「時計提印」と呼ばれるものがある。

     

 最初、骨董店で見かけたとき
見慣れない形なので、勝手に
形が似ている『銅鐸(どうたく)印』
と名付けていた。

 その後、各種のカタログを入手して、
「時計提印」、という正式な名前が
あることを知った。

                 ↑
               時計提印
        【冨士屋水晶部カタログから引用】

    「時計提印」は過去にも何個か入手したことがあり、すでにHPでも紹介した。

    ・山梨県産 水晶印材コレクション-その8-
     ( Seals made of Quartz from Yamanashi -Part 8- , Yamanashi Pref. )

3. 「五重塔 時計提印」

    今回入手したものは、簡単な細工なのだが、正面から見ると五重塔が浮かび上がって見える
   優れもので、巧みな創意工夫が感じられる。

       
          正面             裏面
                   横筋が数本入っているだけ
            「五重塔 時計提印」



           光
     

 水晶印材の形が上から見ると
”コーナー・キューブ”のような
三角形をしていて、正面から
入った光のほとんどが戻ってくる。

 『反射板』と同じ仕掛けだ。

         五重塔 時計提印 【印面】

     

 入手した3本の水晶印の大きさは
マチマチで、山梨県産水晶が枯渇し
はじめた時期(明治末〜大正初)に
採掘した原石を最大限活用しようとした
意図が感じられる。

          各種の五重塔 時計提印

4. おわりに

 (1) 水晶細工の技の系譜
      古い水晶細工品のカタログを見ると、五重塔が浮かび上がって見える水晶製品がある。

          
         「五重塔」 水晶細工
     【冨士屋水晶部カタログから引用】

      このアイディアは今でも山梨県の水晶土産品に引き継がれていて、高さ7cmくらいのも
     のが5,000円前後で売られている。
      以前、マレーシアの工場幹部が甲府を訪れたとき、お土産に差し上げたら、大喜びだった。

      こうして、水晶細工の技(わざ)が連綿と引き継がれているようだ。

5.参考文献

 1) 甲府停車場前冨士屋水晶部編:甲斐国名産水晶美術細工品畧(略)図,同社,
                         大正〜昭和
 2) 山梨県水晶商工業協同組合編纂:水晶宝飾史,甲府商工会議所,昭和43年
 3) 六郷町印章誌編さん委員会編:合併二十周年記念誌 六郷 第二部 六郷町印章誌
                        六郷町,昭和50年


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