山梨県産 水晶印材コレクション-その7-

1. 初めに

   2003年3月に甲府市で開催された骨董市で水晶印材を出品しているお店があり
  早速何本か購入した。
   それ以来、山梨県は無論、各地の骨董市や骨董店を訪れる毎に、山梨県産の
  水晶製品に眼を光らせていた。その結果、既に80本前後の水晶印材が集まり
  その経緯と「山梨県水晶細工【印材】のミニ歴史」については、HPに何回か記載
  した。

 ・山梨県産 水晶印材コレクション
 ・山梨県産 水晶印材コレクション-その2-
 ・山梨県産 水晶印材コレクション-その3-
 ・山梨県産 水晶印材コレクション-その4-
 ・山梨県産 水晶印材コレクション-その5-
 ・山梨県産 水晶印材コレクション-その6-

   茨城県ひたちなか市にある、最先端半導体工場から技術コンサルタントとして
  招請され2006年7月に赴任した。
   仕事が軌道に乗るまでは、『ハンマに封印』してという決意で赴任したが
  最初の1週間の現状分析で、改善策提言の粗筋が読め、2週間目の週末には骨董市や
  ミネラルウオッチングで産地を回る余裕も出てきた。
   関西の石友たちの間では、『Mineralhuntersのことだから、ハンマの封印は
  3ケ月持たないだろう』
、と噂されていたらしいが、3ケ月どころか、3週間も
  持たなかったことになる。
   2006年7月、北関東の骨董市をのぞくと、「草(ススキ)入り水晶実印」があった
  ので早速購入した。
   以前入手した水晶印の通信販売カタログに、「草入水晶印」は、”珍品水晶印章”
  として、茶水晶のものと並んで、透明水晶製の約2倍の価格であったと書かれていたが
  氏名が彫られ、実際に使われたものを手にするのは初めてであった。

   試行錯誤を重ねながら、かつて山梨県の名産の1つであった、水晶印章の本当の姿に
  一歩一歩、近づきつつある、と感じている。
   これからも資料を収集した結果をまとめて、現物とともに後世に残したいもの、と
  思っている。
     ( 2006年7月入手 )

2. 草(ススキ)入り水晶実印

   草入り水晶実印は、一目見て、山梨県塩山市(現甲州市)竹森の草(ススキ)入り
  水晶を加工したものであることがわかった。
   印面には、”林晋吾”と姓名が彫られ、実印として使われたものと想像される。
   また、印面の周縁部には、”欠け”が見られ、長い間使いこまれたものであること
  をうかがわせている。

             
    ススキ入り水晶印39mm(1寸3分)  印面・長径12mm(4分)

3. 草入水晶

   益富先生の「鉱物 −やさしい鉱物学−」の「草入水晶」の項に、次のように竹森の
  ものが紹介されている。

   『 甲府東方の塩山市竹森の草入水晶は、土地の人は薄(ススキ)入りと称し、日本
    では草入りの典型とされている。
     この薄なるものは、実は電気石の針状結晶で、結晶が非常に細くなっているため
    光を通し、褐色や緑色にみえる 』

4. 草入水晶印の価値

 4.1 草入水晶印のカタログ
    2006年に入手した水晶製品の通販カタログ「山梨物産会社商報」を読むと、「草入り
   水晶印を『珍品水晶印章』としてPRしており、立派な商品であることが分かった。

   「山梨物産会社商報」の『珍品水晶印章』のページを「高級水晶印」のページと比較
  して示す。

       
            珍品水晶印章              高級水晶印

 4.2 草入水晶印のキャッチ・フレーズ
    『珍品水晶印章』のタイトルのもと、次のようなキャッチ・フレーズがついて
    いる。篆刻師の名前が載っているのは、紫水晶印と草入水晶印の2種類だけで
    ある。

  (1) 草入水晶印
     ■ 茶水晶同値段
     ■ 篆刻師 宮澤 華城先生刀
     ■ 草入水晶は茶水晶共も天然に出来たる珍
       品で立派なる品であります。下等品は時に
       は地方へも行ますが上等品の御求めが難
       事ですから當社へお申越下さい

 4.3 草入水晶印の価値
    「高級水晶印」とされる白(透明)水晶を使ったものと、「草入水晶印」のカタ
    ログ価格を、今回購入した実印、長さ39mm(1寸3分)に近い長さ(丈:たけ)の
    もので、比較してみる。

 印 材カタログ価格
(昭和8〜9年発行)
現在の価格備   考
白水晶3円50銭約 11,700 円  物価指数は
郵便料金の比較から
3,333倍とした
草入水晶(上等品) 8円約 26,700 円
草入水晶(優等品)14円約 46,700 円

     この表にある価格は、「サック(印章入れ)」を含んでいるので、印章単体の
    カタログ価格とは単純に比較することはできない。
     しかし、下表のように「サック」の価格は1円以下で、この表の価格はほぼ水晶
    印材と篆刻料と考えられる。

 材質カタログ価格 備  考
ワニ皮  70銭  
印伝  40銭  
マブル  30銭  

    (1) 「草入水晶印」は茶水晶製と同じように、”珍品水晶印章”として、上等品でも
       白(透明)水晶製の約2倍、優等品なら約4倍の価格であった。
    (2) 価格差が大きくなっているのは、大きな「草入水晶」は、得難かった、
       ことによるのだろう。

5.おわりに

 (1) 今まで、骨董市などで入手した印材をみて、古い文献にもとずいた推測や一部の
    水晶加工に携わる人々の意見を聞き、HPに継続的に記載している。
     2006年3月に「ススキ入り水晶印」、そして今回「草入り実印」を入手して、以前

     『 ススキ入りなどインクルージョンの入った印材は、商品価値がなく、”屑
      水晶”を使った商品見本として使われた 』 と書いたが、これは訂正する
      必要がありそうだ、との認識をもつようになった。

 (2) さらに、「山梨物産会社商報」のカタログを入手し、次のようなことが明らかに
    なった。

     @ 「草入水晶印」は、”珍品水晶印章”として、茶水晶のものと並んで、透明
       水晶製の約2倍の価格であった。

 (3) 試行錯誤を重ねながら、一歩一歩、かつて山梨県の名産の1つであった、水晶
    印章の本当の姿に近づきつつある、と感じている。
     これからも資料を収集した結果をまとめ、現物とともに、後世に残したいもの
    と思っている。

 (4) 骨董市から山梨に戻る途中、北関東のある都市の街角に「水晶印」の看板がある
    のが目に入り、記念として撮影・記録した。
     山梨の宝飾業者は、通信販売や出張所を設けたりして、全国各地に水晶製品を
    売り込んだと記録されている。
     それらの品物が、全国各地に残されているはずであり、これからも各地の骨董市
    などで買い求めたいと考えている。

            
            水晶印看板                拡大

6.参考文献

 1)山梨物産会社編:山梨物産会社商報,同社,昭和8〜9年
 2)山梨県水晶商工業協同組合編纂:水晶宝飾史,甲府商工会議所,昭和43年
 3)益富 寿之助:鉱物 −やさしい鉱物学−」,保育社,昭和60年
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