山梨県産 水晶印材コレクション-その5-

1. 初めに

   2003年3月に甲府市で開催された骨董市で水晶印材を出品しているお店があり
  早速何本か購入した。
   それ以来、山梨県は無論、各地の骨董市や骨董店を訪れる毎に、山梨県産の
  水晶製品に眼を光らせていた。その結果、既に60本を越える水晶印材が集まり
  その経緯と「山梨県水晶細工【印材】のミニ歴史」については、HPに何回か記載
  した。

 ・山梨県産 水晶印材コレクション
 ・山梨県産 水晶印材コレクション-その2-
 ・山梨県産 水晶印材コレクション-その3-
 ・山梨県産 水晶印材コレクション-その4-

   2006年2月、北関東で開かれた骨董市購入した、私が「銅鐸形」と名付けた印材
  には全て「ススキ」、「星」あるいは「まりも」が入ったものであった。これらが本当に
  印材なのか、またどのような人がどのように使ったのか、などについて詳しく知りたい
  と思っていた。
   2006年2月末、甲府市にある地場産業製品の展示・即売会場「かいてらす」で
  雨畑硯、印章など地場産業の加工実演・展示・即売が行われた。

     印章実演体験コーナー

   印章手彫り実演・体験コーナの係の方に、この印材をお見せし、いろいろと教えて
  いただいた。その結果、次のようなことがわかった。

  (1) 「銅鐸形」のものは印材で、戦前の一時期流行ったが、この形は少ない。
  (2) 「ススキ入り」は、”自然、天然”の証拠で、印材として愛好する人も多かった。
      したがって、価格も安くはなかった。
  (3) 穴に房をつけて財布に入れたり、紐を通して根付(ねつけ:今でいうキー
     ホルダーかストラップ)のように使う人もあった。
  (4) 男女、どちらも使ったが、どちらかと言えば女性が多かった。

   これで、今までの疑問が氷解するとともに、私見で「ススキ入りなどインクルージョンの
  入った印材は、商品価値がなく商品見本として使われた」、と書いたが、これは訂正
  する必要がありそうだ。
   また、展示、即売には、立派な水晶印材が並んでおり、根強いファンがあるそうで
  結構高い価格で売られている。したがって、「印材として水晶がもてはやされた時代は
  とうに過ぎ去り、今後作られることも少ない」も撤回する必要がありそうです。
   ただ、山梨県はじめ国産の水晶を使ったものは皆無で、今まで入手したものは大切に
  保管するとともに、機会があればその都度入手したい。
   ( 2006年2月調査 )

2. 「銅鐸形印材」

   20006年2月に入手した「銅鐸形」と仮称した印材は、次のようなものである。その前に
  銅鐸について説明しておこう。銅鐸は、弥生時代に作られた青銅器で、出土するのは
  近畿地方が中心で、中部以東や九州地方からの出土は極めてまれである。
   祭祀に用いられたとされているが、詳しくはわかっていない。

     銅鐸【「図説日本史」から引用】

   「ススキ(苦土電気石)」「星(雲母)」「まりも(緑泥石)」が入ったもので、一見して
  山梨県甲州市(旧塩山市)竹森産の水晶を加工したものとわかる。
   断面は長径9〜12mm(3〜4分)、短径7mm(2分余り)の楕円柱状で、長さは21mm
  〜23mm(約7分)で、頂上部分は面取りがされ、紐を通す小さな孔(径約1mm)が
  穿たれている。

    
      長径方向      短径方向
           銅鐸形印材

3. 「銅鐸形水晶印材」の調査結果

 3.1 「銅鐸形印材」
     印章の係の方(年配の女性)と宝石、貴金属加工の職人さん(年配男性)の2人に
    手にとって見てもらいながら、お話をいろいろ伺った結果、次のようなことが明らかに
    なった。

   (1) 「銅鐸形」のものは間違いなく印材である。戦前の一時期(職人さんは昭和初期
      (1930年頃)ではないかとのこと)に流行ったが、この形は少ない。
   (2) 「ススキ入り」は、”自然、天然”の証拠で、印材として愛好する人も多かった。
       したがって、価格も安くはなかった。
   (3) 穴に房をつけて財布に入れたり、紐を通して根付(今でいうキーホルダーか
      ストラップ)のように使う人もあった。
   (4) 男女、どちらも使ったが、どちらかと言えば女性が多かった。

     これらのお話をもとにして、当時の使われ方を”復元”してみた。私の手作りの
    ”房”と”ひも”なので真っ白だが、実際は、房は赤や青などの目立つ色、紐は黒
    などの落ち着いた色に染められていたと考えられる。

       
           房つき              根付風
             銅鐸形印材の使われ方【復元】

 3.2 印材としてのインクルージョン入り水晶
    上の話の中にあるように、インクルージョン入り水晶は、”天然水晶”の証しとして
    珍重された。( 好き嫌いがあるのも事実らしい )
     会場で配布していた「甲州手彫印章」というパンフレットには、各種水晶印材の
    写真が掲載されている。その中の1本が、明らかに「ススキ入り」であり、印材とし
    商品価値を持っていた(いる)ことが明らかになった。

    
 各種水晶印材(右上がインクルージョン入り)
    【「甲州手彫印章」から引用】

4. 水晶印材の価格

   会場では、各種材料の印章(印鑑)が、展示・販売されていた。

  (1) 印材
      印章の材料(印材)としては、つぎのようなものが使われ、”水晶”は現在でも
     使われている。

 系 類       印   材   名備  考
鉱物水晶透明水晶、インクルージョン入り水晶 
青田石、寿山石 
変り石メノウ、虎目石、ひすい 
動物象牙、マンモス牙、鯨牙、河馬 
シープホーン(山羊角)、(水)牛角白、(水)牛角黒 
木質植物つげ、黒檀、紫檀、オノオレカンバ 

  (2) 水晶印材の価格
       展示・即売されていた水晶製印章の写真を見ていただこう。水晶印材の太さ
      長さ、実印と認印での彫る文字数の違いなどで”ピンからキリまで”あるが
      おおよそ、2万〜5万円である。
       この価格には、文字を彫る工賃、ケースの値段などが含まれ、水晶印材
      そのものの価値は、全体の1/5前後と思われるが、それにしても安くはない
      ことが理解いただけるだろう。

          
      例@(約4万5千円)        例A(約3万円)        例B(約2万円)
                          水晶印章

4.おわりに

 (1) 今回、私が仮に「銅鐸形」と名付けた面白い形をした水晶細工品は、間違いなく
    印材であった。
     水晶印章や宝石加工に携わる人々のお話をうかがい、また、展示・販売されている
    現物を見て、水晶印材に対する認識を深め(改め)ることができた。

    (1) インクルージョン入り水晶をつかった印材は、”天然”の証しとして、珍重される
       ことが多かった。
    (2) 現在でも、水晶の印材が作られているが、水晶はブラジル産で、加工だけを
       甲府周辺でやっている。従って、山梨県や国産の水晶、ましてインクルージョン
       入り水晶をつかった印材は、極めて貴重なもの。

 (2) 今も甲府周辺で印材の加工をやっているので、自分で採集した水晶を「印材」などに
    加工してもらえるルートを開拓してみたいと考えている。

5.参考文献

 1)山梨県水晶商工業協同組合編纂:水晶宝飾史,甲府商工会議所,昭和43年
 2)山梨県印章店協同組合編:甲州手彫印章パンフレット,同組合,2006年
 3)木村 清治ほか編:新総合 図説日本史,東京書籍,1995年
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