滋賀県大津市田上新免の錫石

         滋賀県大津市田上新免の錫石

1.初めに

 古い地学関係の雑誌を読むと、滋賀県大津市田上新免で錫石が採集できるとあり
滋賀県鉱物巡見の旅の初日に訪れた。
 人家からさほど離れていない沢筋(小川)が産地で、ここの花崗岩崩落土砂をパンニングして
重鉱物を探すと、最大1cm止まりであるが、小さなものまで数えると1回のパンニングで
数十粒の錫石が採集できた。
 また、ここでは、モナズ石、フェルグソン石、コルンブ石などの希元素鉱物も採集できた。
 さらに、「ヒンガン石」が採集できるという情報を帰宅後に知ったが、今回は錫石などの
”重鉱物”だけを狙ったため、錫石に比べ比重が小さい「ヒンガン石」は全部捨ててしまった
ことを知ったが後の祭りであった。
 また、再訪を期したい。
(2005年4月採集)

2. 産地

   滋賀県大津市の田上地方は、日本3大ペグマタイト産地の1つで、田上新免は
  田上花崗岩帯の北端に位置している。
   ここから、北に向かって流れる沢筋(小川)が産地である。

    田上新免産地

3. 産状と採集方法

   田上新免地区の沢(小川)の底には、白亜紀後期とされる花崗岩が風化して堆積した
  砂礫層があり、そこには、トパーズ、希元素鉱物や錫石を主体とする小規模な重砂鉱床が
  形成されている。
   これらの砂礫をパンニングして、錫石を採集する。最初、京都府・行者山での錫石採集と
  同じように、”フルイ掛け”を試みたが、フルイに引っかかるような大きなサイズのものは
  殆どなく、結局パンニングに落ち着いた。

    パンニングによる採集

4. 採集鉱物

 (1)錫石【Cassiterite:SnO2】
     ここでは、分離結晶と石英の母岩についたものが採集できるが、母岩付きは少ない。
     酒黄色透明〜赤褐色半透明〜黒色不透明で、ほとんどがピカピカ光沢の結晶面を有し
    大きさは5mm止まりで、ごく稀に1cm程度のものがある。殆ど”川擦れしていない”
    ところから、花崗岩が崩落したまま堆積したと推定される。
     結晶は、複雑な集形や双晶をなし、”教科書”にあるような、スッキリした単晶は少ない。

           
             単晶               双晶               母岩付き
                           各種の錫石標本

 (2)モナズ石【Monazite:(Ce,La,Y,Th)PO4】
     希元素鉱物の中で最も豊富に産出するのがモナズ石である。黄褐色、半透明で樹脂光沢を
    有し、1mm以下の大きさのものがほとんどである。
     a面(100)が大きく現れた短柱状をなし、稀に完全な結晶のものも見られる。
       一般にモナズ石は、強い放射性を示すとされるが、今回採集した約30粒程度では
    自作ガイガーカウンターに全く反応しない。

    モナズ石

 (3)フェルグソン石【Fergusonite:(Y,Ca,Fe)(Nb,Ta,Ti)O4】
     黒色、湾曲した柱状で、表面は光沢を失っている。今回、1個体のみ採集でき、産出は
    多くないと思われる。

    フェルグソン石

    (4)コルンブ石【columbite:(Fe,Mn)(Nb,Ta)2O6】
     黒色、厚板状、多数の平行連晶の集合体として産出する。真っ黒い外観やこの産地では
    磁鉄鉱を産することから判断し、「鉄コルンブ石」と考えられる。

    コルンブ石

5.おわりに

 (1)日本の3大ペグマタイト産地の1つ、田上地方で、パンニングにより、錫石と希元素鉱物を採集した。
    ここは、危険性も少なく、採集会の候補の1つと考えています。

 (2)「ヒンガン石」は、「ガドリン石」の”Fe”を”2H”で置換したもので、1981年に発見された”新鉱物”とも
   言える鉱物である。
    日本では、岐阜県蛭川村田原で産出が確認されている程度で、稀産鉱物である。
    今回、採集方法を誤り、全く採集できなかったので、次回を期したいと考えている。

 (3)大津市内に出て、「三井寺」を訪れると、桜が満開で、今年何回目かの花見を楽しむ
    ことができた。

    三井寺の桜吹雪

   

6.参考文献

1)高田雅介、松原聰:滋賀県田上新免産・ヒンガン石,地学研究第38巻1〜3合併号,1989年
2)長島乙吉、長島弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,昭和35年
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