長野県富士見町信濃境の普通角閃石

長野県富士見町信濃境の普通角閃石

1.初めに

普通角閃石は輝石と並んで造岩鉱物の代表的なもので、「信濃境の角閃石」は鉱物教科書や
鉱物図鑑にたびたび登場します。
信濃境と言っても広く、産地の字名は「先達(せんだつ)」や「池袋」だったようです。
そのくらい有名なので、私のHPを見た人から、「今でも採集できますか」との問合せを
頂くことがあり、産地の状況を確認するため、約8年振りで訪れ、母岩付きと分離結晶を
採集できた。
(2001年9月採集)

2.産地

中央道小淵沢ICでおり、国道20号線に向かって坂を下り、県道17号「七里岩ライン」を
右折する。JR中央線の下をくぐり、甲六川にかかる「甲六橋」を渡ると長野県富士見町に
入り、字名も「先達」となり、産地が近いことを思わせます。
さらに500mも進み送水管(?)の下をくぐると、道は緩やかな下りになり、大きく左に
カーブしている場所がありる。
小さな石碑の手前を右に入ると左前方に別荘風の建物があり、その手前左手斜面で角閃石が
採取できここを仮に「先達」の産地と呼ぶことにします。
「先達」産地

3.産状と採集方法

角閃石の産地一帯は標高1000m近くあり、八ヶ岳の南麓にあたり、約40万年前の
古八ヶ岳の噴火に伴って流出した角閃石輝石安山岩に斑晶として含まれていた角閃石が
母岩の風化で分離し、風化土壌の中に見られる。
風化が進んでいない部分では、母岩付きも見られる。
約8年前には、土取場は遠目にもそれと分かる赤茶色の山肌をあらわにしていたが、今では
潅木や雑草が生い茂り、わずかに上のほうに赤茶色の山肌が見えるだけです。
道路の面から高さ約1〜4m位の範囲に、角閃石輝石安山岩とその風化物が見られ
ここを熊手で掘り返して分離結晶を採集します。母岩も風化が進み軟らかいので
ハンマで少し叩くと簡単に割れます。

5.採集鉱物

(1)普通角閃石【Hornblende:(Ca,Na,K)2(Mg,Al,FeU・FeV)5(Al,Si)8O22(OH2)】
六角断面を示す柱状で産する。ここの角閃石は、3価の鉄またはチタンの含有量が多く
酸化角閃石(Oxyhornblende)または玄武角閃石(Basaltic Hornblende)と呼ばれる。
オパサイト縁をつくる磁鉄鉱が風化し、赤い褐鉄鉱で覆われているものが殆どで
風化土壌の中から容易に見分けられます。
C軸方向に完全なへき開があり、へき開面は真っ黒な真珠光沢を示す。
細長柱状のものからほとんど柱面が発達していないものまで軸方向の長さはまちまちです。

 分離結晶【最大10mm】    母岩付【16mm】
         信濃境産角閃石
普通角閃石と似た産状を示す鉱物に普通輝石があります。断面の面角が違うほか
普通角閃石が六角柱状なのに対して普通輝石は八角柱状なのが見分けるポイントです。
輝石と角閃石【女子鉱物界より引用】

5.おわりに

(1)もう一つの産地の「池袋」で土木工事中のひとに、角閃石の産地を聞いたところ
「六角石か。このあたりの何処でも出るが民有地で、教えると大勢人が来て踏み荒らすから
教えられない」とのこと。
文献を見ると、信濃境の駅東側に「池袋」の産地の1つがあったようですが、今では畑になり
角閃石は見当たらなかった。
「池袋」の昔の産地
(2)明治・大正時代の鉱物の本には、普通角閃石の代表的な産地は、加賀(石川県)白山
肥前(長崎県)温泉嶽(うんぜんだけ:雲仙岳)などで、信濃境が有名になったのは
それ以降のようです。

6.参考文献

1)柴田秀賢、須藤俊男共著:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
2)加藤武男;女子鉱物界教科書,富山房,昭和3年
3)秋山蓮三:受験学習 参考鉱物学,受験研究社,昭和2年

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