鉱物名 | 化学式 | 産 地 | 標 本 | 備 考 | 磁鉄鉱 (Magnetite) | FeFe'''2O4 | ブラジル |
標本1 標本2 |
八面体完全結晶 |
2.2 測定個所
下図に示す三角形の錐面(o面、o'面)同士がなす角(o∧o' 4個所/1標本)について
各1回測定した。
2.3 測定結果
測定結果を下表に示す。
測定個所 (記号) | 標本 | 測定値(実角:度) @〜Cは仮に設定 | 備 考 | @ | A | B | C | 平均 | 標準偏差 (σ) |
(o∧o') | 標本1 | 109.1 | 110.1 | 108.1 | 110.0 | 109.3 | 1.0 | 標本2 | 107.9 | 107.8 | 109.1 | 108.1 | 108.2 | 0.6 | - | - | - | - | 108.8 | - | 理論値 109度28分44秒 (109.5度) |
- | - | - | - | - | 0.9 |
2つの錐面のなす角はおおよそ109度、標準偏差は1度以内とバラツキも少ない。
また、標本1と標本2での面角の差は、約1度で、磁鉄鉱でも『面角一定の法則』が
成り立っている。
測定結果から分かったことを整理してみると次の通りである。
(1) 稜ABと稜AB'のなす角はほぼ90度で、それぞれの長さはほぼ等しい。
(2) 従って、∠AOB と ∠AOB'は等しく、90度 側軸(a軸とb軸)が直交
(3) ∠CDC' はおおよそ109度であり、∠CDOはその1/2≒54.5度になる。
上下軸(c軸)は、2つの側軸(a軸:OAの方向、b軸:OBの方向)に直角
3軸直交
(4) 従って、OCの長さは、OD×tan54.5となり、ODの長さの1.40倍になる。
(5) △OAD はOAを底辺とする二等辺三角形で、OAの長さはODの長さの
√2=1.41倍となり、OCの長さと等しい。
(6) ゆえに、OA=OB=OCとなり、主軸・上下軸(c軸:OCの方向)と2つの側軸
の単位の長さは同じである。
3軸等長
これらの条件に合致する結晶系を下表から探してみると、 『等軸(立方)晶系』 である
ことがわかる。
結晶形 | 軸 の 数 | 軸の交わり方 | 軸の長さ | 備 考 | 上下軸 | 側軸 | 合計 | 等軸晶系 | 2 | 1 | 3 |
2軸は水平面上で 互いに直角に交わり かつ上下軸とも互いに 直角に交わる | 3軸とも等長 | 正方晶系 | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 |
側軸は同長 上下軸は側軸より 長いか、短いか (等しくない) | 斜方晶系 | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 | 3軸とも長さが違う | 単斜晶系 | 同上 | 同上 | 同上 |
側軸は互いに直角に 交わり、その内の1つは 上下軸と直角に交わるが 他の1つは上下軸と斜交する | 同上 | 三斜晶系 | 同上 | 同上 | 同上 | 3軸互いに斜交する | 同上 | 六方晶系 | 3 | 1 | 4 |
側軸は水平面上で 互いに60度で交わり 上下軸は側軸のいずれとも 直角に交わる |
側軸の長さは皆等しく 上下軸は側軸より 長いか、短いか (等しくない) |
3.2 軸率
軸率とは、側軸の長さに対する上下軸の長さの比率で、「等軸晶系」と「正方晶系」の
違いは、軸率が1.0であるか否かである。
磁鉄鉱の場合、OCとOA(叉はOB)の長さは等しく、1.0となり、等軸晶系である有力な
根拠となる。
3.3 結晶面指数
3.3.1 結晶面の表し方
鉱物の結晶学が難解でとりつき難いものだ、と思われるもう1つの理由が結晶の面を
表す(110)とか(111)が何を意味するかが理解できないためではないだろうか。
結晶面が、結晶軸をそれぞれの単位長さの何倍のところで切るか【指数という】を
決めれば結晶面は一義的に決まることになる。
しかも、『面角一定の法則』と並んで結晶形態学の重要な法則である『有理指数の法則
( Law of Simple Rational Indeces ) 』 によって、その倍数(指数)は、小さな自然数
(0,1,2,3など)で表すことができる。( 1.32 とか 2.6とか半端な数はあり得ない )
面指数を表すやりとして、いくつかの方法があるが、主なものは、次の3つである。
現在では、ミラー指数で表されているが、古い文献などを読む場合に、ミラー指数以外も
知っておく必要がある。
(1) ワイス(Weiss)の記号(指数)
ライプチヒ大学やベルリン大学の教授であったC.S.Weiss(1780〜1856)が1818年に
提唱した方法で、a軸、b軸、c軸をそれぞれ、p、q、rで切るとき即ち結晶面 pa:qb:rc を
b軸の指数を1として、ma:1:ncで表現する。
( このとき、m=p/q、n=r/q )
明治時代の鉱物学教科書以外で、使われているのを殆ど眼にしていない。
(2) ナウマンの記号法
K(C?).F.Naumann(1797〜1873)が彼の著書< Elemente der Mineralogie > に用いて
使用をすすめた。
( ちなみに、ナウマン象やフォッサマグナで日本人にも馴染の深いドイツ人の
ナウマン( Heinrich Edmund Naumann )とは別人です )
この方法は、結晶面 pa:qb:rc を (p/q)a:b:(r/q)c と変形する。( ここまでは
ワイスの記号法と同じ )
”O”または”P”の左下にcの指数(r/q)、右下にaの指数(p/q)を書き添える。この
とき”1”は省略できる。(省略する)。ある軸と平行な面は”∞”で表す。
”O”と”P”は、結晶系、結晶面などによって使い分けられていたようでのですが
ここで解説できるだけ勉強できていません。
添字は、Pよりも小さく書くのだが、パソコンの制約から、このHPでは、Pと同じ文字
高さで書くことをご承知ください。
明治37年(1904年)和田 維四郎によって著わされた「日本鉱物誌」はナウマンの
記号法でや大正5年(1916年)、神保 小虎、瀧本 鐙三、福地 信世によって著わ
された「日本鉱物誌(第2版)」などでは、ナウマンの記号とミラー指数が併記され
昭和以降の鉱物書は、ミラー指数だけになっている。
(3) ミラー指数(Millor's index/indeces)
W.H.Miller(1801〜1880)によって提唱された新しい形式のもので、現在、結晶面は
殆どの場合、この表記法で表される。3軸をそれぞれの軸率(単位の長さ)で切る面を
(111)と表現する。その他の面指数は、それぞれ単位長を切る逆比(逆数)でしめす。
”比”で示すところから”指数(Index)と呼ばれる。
結晶面 pa:qb:rc は、p、q、rの最小公倍数 ”m” を使い p/ma:q/mb:r/mc と
変形でき、逆数をとるとm/pa:m/qb:m/rc となる。これを( h k l )として表現する。
h=m/p k=m/q l=m/r
水晶など、六方晶系では側軸が3つ、上下軸が1つ計4つの結晶軸があるため
( h k i l )で表す。
ある軸に平行な面は、1/∞、つまり”0”となり、マイナス軸で切る場合には、数字の上に
”−(バー)”つけて表現するが、同じようにパソコンの制約から、このHPでは、”−(マイナス)”
をつけて表現する約束にする。
3.3.2 面指数の具体例
いくつかの具体例について、それぞれの面指数を算出してみよう。
結晶面 (説明) | ナウマンの記号法 | ミラー指数 | 備 考 | 錐面の例 p:a軸を切る点=2 q:b軸を切る点=3 r:c軸を切る点=6 |
2a:3b:6c となり
従って 2P2/3 |
2a:3b:6c となり
従って (321) | 平面の例 p:a軸を切る点=3 q:b軸を切る点=2 r:c軸を切る点=∞ (c軸とは交わらない) |
3a:2b:∞c となり
従って ∞P3/2 |
3a:2b:∞c となり
従って
(230) |
結 晶 面 (説明) | ナウマンの記号法 | ミラー指数 | 備 考 | 磁鉄鉱結晶図
p:a軸を切る点=1 |
1a:1b:1c となり
従って
O
”O”の両側の |
1a:1b:1c となり 従って (111) |
錐面の1つo面のミラー指数は(111)であることが分かった。しからば、o’面は(11−1)
と表現することもでき、o面の左隣の面は(1−11)面と表現できる。このように、8つの面は
(111)から(−1−1−1)まで、その組み合わせは8通りある。しかし、すべての結晶面は
対称の関係にあり、すべての面を(111)と表現する。
つまり、磁鉄鉱の属する等方晶系では、すべての面は”等価”として取り扱うということです。
(2) それにしても、ワイスやナウマンの面指数の複雑さ、その上、書いてある本によって
定義が違うなど、分かりにくさには閉口した。
その点、ミラー指数は、単純で、現在でも使われている理由がよくわかります。
(3) われらの”五無斎”こと保科 百助が「通俗滑稽信州地質学の話」の緒言で次の
ように述べているその気持ちが、良く判りました。
『 学者とは、何の九もなき事を八釜しく七六かしく五も一つ事を二三遍繰り返しても
四ろうとには分からぬように説明するものなり 』