接触測角器 その2−結晶形態学入門(2)−

   接触測角器 その2 −結晶形態学入門(2)−

1. 初めに

   冬が近づくにつれ、フィールドでのミネラルウオッチングから古書店や骨董市での
  鉱物・鉱山関係の資料を入手するのに主眼が移っている。骨董市で掘り出した
  接触測角器を使って、山梨県水晶峠と長野県甲武信鉱山産の水晶について面角
  (実際は実角)を測定してみた。
   その結果、
   (1) 頭の中でしか理解できていなかった 『 面角一定の法則 』 を実感できた。
   (2) 測定精度については、接触測角器では、こんなものか、と考えていた。

   しかし、技術士の資格をもつエンジニアの端くれとして、「錐面同士がなす角」の誤差が
  異常に大きいのが気になっていた。
   面角の定義をもう一度反芻してみると、測定方法を誤っていたことに気付き、慌てて
  再測定してみた。
   その結果、測定誤差は2度以下であることが判明し、充分実用になることを確認できた。
  ( 2004年12月 再調査 )

2. 錐面同士のなす角

   錐面( z面、r面 )同士のなす角【 記号:z∧r】の測定方法の違いを下表にまとめて
  示す。
   ( 前回、面角を示す記号を ”∩” で表したが、 ”∧” を探し出せたので、以降
    これに統一する )

     誤った測定法  (前回)     正しい測定法(今回)  備 考

       錐面と線で接触

       錐面と面で接触
  の線は
それぞれ接触測角器の
腕木(ハサミ)の
接触面(線)を示す

3. 再測定結果

    前回測定したと同じ標本を用いて、「錐面同士がなす角」を再度測定した。その結果を
   下表に示す。( それ以外は、前回の測定値のまま )

    (1)標本1【長野県甲武信鉱山産水晶】について

測定個所
 (記号)
測定回数
 (回)
  測   定   値 (実角:度) @〜Eは仮に設定した備   考
@∧AA∧BB∧CC∧DD∧EE∧@全体   
 (m∧m')   1119.3119.8120.0119.4119.1119.1 -  
  2119.3120.0121.0119.9118.8119.4 -  
  3120.1119.0119.7119.1119.8119.0 -  
平均119.6119.6120.2119.5119.2119.0119.5  
標準偏差
 (σ)
 0.4 0.4 0.6 0.3 0.4 0.4 0.5  
測定個所
 (記号)
測定回数
 (回)
  測   定   値 (実角:度) @〜Eは仮に設定した備   考
  @  A  B  C  D  E全体   
 (m∧z)
 (m∧r)
  1141.0142.6144.1143.2144.9143.4 -   
  2141.3143.1145.0143.2145.5143.1 -   
  3140.3143.1146.0144.3145.0143.2 -   
平均140.9142.9145.0143.6145.1143.2143.5  
標準偏差
 (σ)
 0.4 0.2 0.8 0.5 0.3 0.1 1.5  
測定個所
 (記号)
測定回数
 (回)
  測   定   値 (実角:度) @〜Eは仮に設定した備   考
@∧AA∧BB∧CC∧DD∧EE∧@全体   
 (z∧r)
【再測定】
  1134.0135.0134.0133.3132.8135.4 -   
  2132.0132.3134.5133.2134.1136.0 -   
  3133.0133.6134.5133.1134.0132.8 -   
平均133.0133.6134.3133.2133.6134.7133.8  
標準偏差
 (σ)
 0.8 1.1 0.2 0.1 0.6 1.4 1.0  

    (2)標本2【山梨県水晶峠産水晶】について

測定個所
 (記号)
測定回数
 (回)
  測   定   値 (実角:度) @〜Eは仮に設定した備   考
@∧AA∧BB∧CC∧DD∧EE∧@全体   
 (m∧m')   1118.3110.0124.0118.1119.6119.6 -   
  2123.8111.8123.1120.9120.4122.8 -   
  3124.5125.6120.2121.3118.4118.0 -   
平均122.2115.8122.4120.1119.5120.1120.0  
標準偏差
 (σ)
 2.8 7.0 1.6 1.4 0.8 2.0 3.7  
測定個所
 (記号)
測定回数
 (回)
  測   定   値 (実角:度) @〜Eは仮に設定した備   考
  @  A  B  C  D  E全体   
 (m∧z)
 (m∧r)
  1144.0144.0149.6143.9148.7145.0 -   
  2143.1145.0148.0142.2145.2146.1 -   
  3140.3142.0146.6145.1146.1146.7 -   
平均142.5143.7148.1143.7146.7145.9145.1  
標準偏差
 (σ)
 1.6 1.2 1.2 1.2 1.5 0.7 2.3  
測定個所
 (記号)
測定回数
 (回)
  測   定   値 (実角:度) @〜Eは仮に設定した備   考
@∧AA∧BB∧CC∧DD∧EE∧@全体   
 (z∧r)
【再測定】
  1143.0134.2134.2133.0127.5133.5 -   
  2130.0131.5132.0128.1131.0131.1 -   
  3133.2130.0133.0129.1131.1132.3 -   
平均135.4131.9133.1130.1129.9132.3132.1  
標準偏差
 (σ)
 5.5 1.7 0.9 2.1 1.7 1.0 3.0  

4. 測定結果のまとめ
 4.1 測定結果
     改めて、測定結果と理論値を比較して下表に示す。

 測定個所    説    明 理論値(度)    実 測 値 (度)備   考
 項目 標本1 標本2
 (m∧m')隣り合う柱面
(m面)のなす角
 120.0
(120°00')
平均 115.0 120.0  
標準偏差
 (σ)
 0.5 3.7
 (m∧z/r)柱面(m面)と錐面
(z面,r面)のなす角
 141.8
(141°47')
平均 143.5 145.1  
標準偏差
 (σ)
 1.5 2.3
 (z∧r)隣り合う錐面
(z面,r面)のなす角
 133.7
(133°44')
平均 127.8 114.7 前回
標準偏差
 (σ)
 4.6 5.9
平均 133.8 132.1 今回
【再測定】
標準偏差
 (σ)
 1.0 3.0

 4.2 測定精度の検証
     それぞれの測定個所の理論値と測定平均値の差を下表に示す。

測定個所 誤差(理論値-測定値)単位:度 備 考
  標本1  標本2
 (m∧m')  0.5  0.0  
 (m∧z/r) -1.7 -3.3  
 (r∧z) -5.9 -19.0 前回
 -0.1  1.6 今回
【再測定】

    (1) 隣り合う錐面の測定誤差は、最大20度であったものが、2度以下となり、充分
       実用に耐えられると考える。

    (2)標準偏差(測定のバラツキ)も1/2〜1/5に低減し、安定した測定ができている。

5. おわりに

 (1) 骨董市で入手した接触測角器を使い、水晶の面角を測定し、ステノが350年近く前に
    発見した『面角一定の法則』を改めて実感することができた。
     また、再測定の結果、接触測角器は、充分実用に耐えることも判明した。

 (2) 今回の再測定で、ようやく「結晶形態学」の入口に到達できたので、今回の測定結果を
    使って結晶のいろいろな性質について、『−結晶形態学入門(3)−』以降にまとめて
    見たい。

6.参考文献

 1)稲葉 彦六:簡易 鉱物実験手引,光風館,昭和2年(1927年)
 2)木下 亀城、青山 信雄:輓近鉱物学,総合科学出版協会,昭和14年(1939年)
 3)益富 壽之助:実験・鑑定 物象鉱物学,高桐書院,昭和21年(1946年)
 4)地団研・地学事典編集委員会編:地学事典,平凡社,昭和45年(1970年)
 5)益富 壽之助鉱物:−やさしい鉱物学−,保育社,昭和60年(1985年)
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