
あらためて、鉱物関係の蔵書を紐解いてみると、いくつかの本に「接触測角器」の
目的・使い方が記述されていた。
| 書 名 | 著 者 | 発行年 | 備 考 | 簡易 鉱物実験手引 | 稲葉 彦六 | 昭和2年(1927年) | 教師用 | 輓近鉱物学 | 木下 亀城・青山 信雄 | 昭和14年(1939年) | 高等専門学校 (現在の大学)の 教科書・参考書用 |
実験・鑑定 物象鉱物学 | 益富 壽之助 | 昭和21年(1946年) | 鉱物秘境探検の ガイドブック |
地学事典 | 地団研・地学事典編集委員会 | 昭和45年(1970年) | 鉱物 −やさしい鉱物学− | 益富 壽之助 | 昭和60年(1985年) |
これらによると、接触測角器はもともと、かの有名な鉱物学者・ステノが明らかにした
『面角一定の法則』を実地に学ばせるための簡便な道具として普及したものであった。
今回、一番ありふれた鉱物である「水晶」を対象に、接触測角器で面角を測定し
結晶形態学の第一歩を記してみた。
外形が全く違う水晶でも『面角が一定』の法則にしたがっていることを測定してみて
実感でき、鉱物というか自然は単純なルールに従っていることにあらためて驚嘆を
覚えた。
( 2004年12月調査 )
『 Steno Nicolaus は、一般にステノと呼ばれているが、本名は Niels Stensen
(ステンセンであるがここでは通説通り”ステノ”としておく) 1638年デンマークの
コペンハーゲンに生まれコペンハーゲン大学で医学を学び、オランダ、ドイツ
フランスを旅行。1665年にフェルディナンド2世の侍医として(イタリア)フィレンツェに
行き、長く滞在し医学と地質学を研究。
< De solido intra solidum naturaliter contento dissertationis purodromusu
(1669) >で、初原海水から一次的に析出した始原岩層と後生的な二次岩層を識別
上下の地層の新旧関係を成因的に考察して累重の法則の基礎をつくり、地層は
本来水平に堆積するという前提から(イアリア)トスカナ地方の地史を6段階に分けて
説明した。
また、水晶の結晶を研究し、面角安定の規則性を認めた。(これは、1669年のこと)
地質学の体系の基礎をつくった最初の人。1686年に亡くなっている。 』
ステノの肖像【「鉱物」より引用】
2.2 面角一定(安定)の法則
これは、結晶形態学についての第一番目の”経験則”で、
『 同一種の結晶は同一の外界の条件のもとでは対応する面角はつねに等しい 』
2.3 面角とは?
一般的には、「面角(Interfacial Angle)」とは、隣接している2面のなす角を指し、別名
「2面角」と呼ばれる所以である。下図は、水晶の断面を示したもので、柱面1と柱面2が
稜(線)を挟んでなす角には、「内角」「外角」「補角」の3つが考えられる。
「面角」説明
私のような素人は、面角は内角(つまり実角)を指すものだとばかり思っていたが
上記の書籍での「面角」の定義はばらばらで、「外角」「内角」「補角」を「面角」としており
混乱してしまった。
結論から言えば、鉱物学の本に記載されている面角とは「補角」のことである。何故
ならば、鉱物学で一般的に測角に用いられる反射測角器で直接測定できるのが
「補角」だからである。
| 項目 | 接触測角器 ( Contact Goniometer ) | 反射測角器 ( Reflection Goniometer ) | 備 考 | 発明者 | ロメ・ド・リール (Rome de l'Isle) | ウォラストン (Wollaston) | 発明年 | 1783年 | 1809年 | 測定器械 の外観 | ![]() 角度目盛りのついた半円盤 (分度器)に”2つの腕木”(ハサミ)が ついている。 角度目盛りは、実角とその補角 つまり「面角」の両方を表示している。 (入手した2社のものがそうなって いるので、一般的だと思う) | ![]() 【「輓近鉱物学」より引用】
角度目盛りのついた円盤の | 測定原理 |
分度器からハサミを外し、ハサミを開き 結晶に押し当て、ネジをしめハサミを 固定する。 ![]()
ハサミを分度器にあてて角度を読む。 |
結晶の角(以下∠で表示)ABCを測る ケースについて説明する。 ここで、∠ABCは測ろうとする2面が 交わる稜Bに直角な断面であるとする。 光源Lからの光をBC面のB点近傍で 反射させ、これをE点に目をおき一番 明るく光るところを観察し角度目盛りを 読む。 この後、稜Bを回転中心として、結晶を 時計方向に回転させると、再び明るく 反射する個所が現われる。 このとき、BAは点線で示したBA'の位置に あり、BAともとのBCとの面は一致する (平行になる) ここで、再び角度目盛りを読む。この 角度の読みの差が∠ABA'となり ∠ABCの補角(図のγ)となっている。
| 測定対象 | 1cm以上の大きな結晶 | 1cm以下の小さな結晶 | 測定精度 | 低い 1〜2度程度 | 高い 秒単位 | 価格 | 廉い | 高価 |
3.2 ステノはどうやって測角したか?
以上のことを調べていて、ステノはどうやって面角を測定したのか? という
疑問に突き当たった。なぜなら、一番簡単な接触測角器が発明されるのは、ステノが
亡くなって1世紀近い97年後だからである。当然、ステノは接触測角器を使わ(え)ない
ので、何か代替手段をとったらしい。
ステノはいろいろな結晶形態をした水晶の断面を作り、それを紙に写して
重ね合わせるなどして、見掛けが違う水晶でも「面角」が同じであることを見つけ
出したと思われる。
4.1 測定対象
測定対象はステノと同じように”水晶”として、見掛けの形が極端に違うものを
敢えて選んでみた。
| 測定対象 | 外 観 | 産 地 | 特 徴 | 備 考 | 標本1 | ![]() 左からBCD面 | 甲武信鉱山(長野県) | 六角柱状 平均幅40mm | 2005年10月採集 | 標本2 | ![]() 左からE@A面 | 水晶峠(山梨県) | 平板状 平均幅17mm | 2005年11月採集 |
4.2 測定個所
測定個所は、接触式測角器でも測定が可能と考えた次の図に示す3箇所とした。
| 測定個所 | 説 明 | 説 明 図 | 備 考 | (m∩m') | 隣り合う柱面(m面)のなす角 | ![]() 錐面の結晶面【「鉱物」より引用】 | (m∩z/r) | 柱面(m面)と錐面(z面,r面)のなす角 | (z∩r) | 隣り合う錐面(z面,r面)のなす角 |
4.3 測定上の考慮点
(1)2面のなす稜に直角にハサミを当てる・・・・・・・・・・・・・測定誤差の最小化
(2)同じ個所を3回測定し、その平均値をとる・・・・・・・・・・測定精度向上
1標本あたり、6箇所×3回=18回測定
4.4 測定結果
各面の測定結果を下表に示す。
(1)標本1について
| 測定個所 (記号) | 測定回数 (回) | 測 定 値 (実角:度) @〜Eは仮に設定した | 備 考 | @∩A | A∩B | B∩C | C∩D | D∩E | E∩@ | 全体 | (m∩m') | 1 | 119.3 | 119.8 | 120.0 | 119.4 | 119.1 | 119.1 | - | 2 | 119.3 | 120.0 | 121.0 | 119.9 | 118.8 | 119.4 | - | 3 | 120.1 | 119.0 | 119.7 | 119.1 | 119.8 | 119.0 | - | 平均 | 119.6 | 119.6 | 120.2 | 119.5 | 119.2 | 119.0 | 119.5 | 標準偏差 (σ) | 0.4 | 0.4 | 0.6 | 0.3 | 0.4 | 0.4 | 0.5 | 測定個所 (記号) | 測定回数 (回) | 測 定 値 (実角:度) @〜Eは仮に設定した | 備 考 | @ | A | B | C | D | E | 平均 | (m∩z) (m∩r) | 1 | 141.0 | 142.6 | 144.1 | 143.2 | 144.9 | 143.4 | - | 2 | 141.3 | 143.1 | 145.0 | 143.2 | 145.5 | 143.1 | - | 3 | 140.3 | 143.1 | 146.0 | 144.3 | 145.0 | 143.2 | - | 平均 | 140.9 | 142.9 | 145.0 | 143.6 | 145.1 | 143.2 | 143.5 | 標準偏差 (σ) | 0.4 | 0.2 | 0.8 | 0.5 | 0.3 | 0.1 | 1.5 | 測定個所 (記号) | 測定回数 (回) | 測 定 値 (実角:度) @〜Eは仮に設定した | 備 考 | @∩A | A∩B | B∩C | C∩D | D∩E | E∩@ | 平均 | (z∩r) | 1 | 126.5 | 134.1 | 133.5 | 132.2 | 121.1 | 127.0 | - | 2 | 127.0 | 132.8 | 129.5 | 129.5 | 119.2 | 130.0 | - | 3 | 125.6 | 132.1 | 127.5 | 128.1 | 118.0 | 127.0 | - | 平均 | 126.4 | 133.0 | 130.2 | 129.9 | 119.4 | 128.0 | 127.8 | 標準偏差 (σ) | 0.6 | 0.8 | 2.5 | 1.7 | 1.3 | 1.4 | 4.6 |
(2)標本2について
| 測定個所 (記号) | 測定回数 (回) | 測 定 値 (実角:度) @〜Eは仮に設定した | 備 考 | @∩A | A∩B | B∩C | C∩D | D∩E | E∩@ | 平均 | (m∩m') | 1 | 118.3 | 110.0 | 124.0 | 118.1 | 119.6 | 119.6 | - | 2 | 123.8 | 111.8 | 123.1 | 120.9 | 120.4 | 122.8 | - | 3 | 124.5 | 125.6 | 120.2 | 121.3 | 118.4 | 118.0 | - | 平均 | 122.2 | 115.8 | 122.4 | 120.1 | 119.5 | 120.1 | 120.0 | 標準偏差 (σ) | 2.8 | 7.0 | 1.6 | 1.4 | 0.8 | 2.0 | 3.7 | 測定個所 (記号) | 測定回数 (回) | 測 定 値 (実角:度) @〜Eは仮に設定した | 備 考 | @ | A | B | C | D | E | 平均 | (m∩z) (m∩r) | 1 | 144.0 | 144.0 | 149.6 | 143.9 | 148.7 | 145.0 | - | 2 | 143.1 | 145.0 | 148.0 | 142.2 | 145.2 | 146.1 | - | 3 | 140.3 | 142.0 | 146.6 | 145.1 | 146.1 | 146.7 | - | 平均 | 142.5 | 143.7 | 148.1 | 143.7 | 146.7 | 145.9 | 145.1 | 標準偏差 (σ) | 1.6 | 1.2 | 1.2 | 1.2 | 1.5 | 0.7 | 2.3 | 測定個所 (記号) | 測定回数 (回) | 測 定 値 (実角:度) @〜Eは仮に設定した | 備 考 | @∩A | A∩B | B∩C | C∩D | D∩E | E∩@ | 平均 | (z∩r) | 1 | 123.2 | 111.0 | 116.0 | 123.0 | 117.0 | 111.2 | - | 2 | 123.0 | 105.0 | 114.3 | 119.5 | 112.4 | 109.0 | - | 3 | 123.9 | 110.1 | 114.8 | 116.8 | 106.5 | 108.3 | - | 平均 | 123.4 | 108.7 | 115.0 | 119.8 | 112.0 | 109.5 | 114.7 | 標準偏差 (σ) | 0.4 | 2.6 | 0.7 | 2.5 | 4.3 | 1.2 | 5.9 |
4.5 測定結果のまとめ
測定結果と理論値を比較して下表に示す。
| 測定個所 | 説 明 | 理論値(度) | 実 測 値 (度) | 備 考 | 項目 | 標本1 | 標本2 | (m∩m') | 隣り合う柱面 (m面)のなす角 | 120.0 (120°00') | 平均 | 115.0 | 120.0 | 標準偏差 (σ) | 0.5 | 3.7 | (m∩z/r) | 柱面(m面)と錐面 (z面,r面)のなす角 | 141.8 (141°47') | 平均 | 143.5 | 145.1 | 標準偏差 (σ) | 1.5 | 2.3 | (z∩r) | 隣り合う錐面 (z面,r面)のなす角 | 133.7 (133°44') | 平均 | 127.8 | 114.7 | 標準偏差 (σ) | 4.6 | 5.9 |
以上の結果をまとめてみると次の通りである。
(1)面角一定の法則を実感できた。
見掛けが大きく違う甲武信鉱山産と水晶峠産の水晶だが、隣り合う柱面
(m面)のなす角度は、相互の平均値の差、そして理論値との誤差が共に
0.5度以内であり、ほとんどピッタリと言ってよいほど合致している。
頭の中でしか理解できていなかった 『 面角一定の法則 』 を実感できた。
(2)測定精度の検証
それぞれの測定個所の理論値と測定平均値の差を下表に示す。
| 測定個所 | 誤差(理論値-測定値)単位:度 | 備 考 | 標本1 | 標本2 | (m∩m') | 0.5 | 0.0 | (m∩z/r) | -1.7 | -3.3 | (r∩z) | -5.9 | -19.0 |
@隣り合う柱面の測定誤差は、0.5度以内と極めて精度が高い。
A柱面と錐面の測定誤差は、2〜3度で、少し精度の低下がみられるが
許容範囲と考える。
B隣り合う錐面の測定誤差は、6〜20度 となり、接触測角器の応用範囲の
限界を示している。
接触測角器の”ハサミ”の先端は、厚みがあるため、左右のハサミが接触
する錐面の高さが違ってしまい、誤差が生じやすい。
錐面測定時の誤差要因
C全般的にみて、標本1の測定結果に比べ標本2の方が誤差が大きい。
これは、”平板状”で厚みが薄い(一部の柱面の幅が狭い)ため、測定誤差が
大きくなりやすいためである。
D標準偏差は、測定のバラツキを示すが、これは、次のように考えられる。

隣り合う柱面の測定結果から分かる通り測定器そのもののバラツキは少ない
ので標本のばらつきが大きい。実際、水晶峠の標本は、曲り水晶ではないかと
思われるように柱面が湾曲し、稜線はねじれている。
従って、精度良く測定するためには、平滑でできるだけ広い結晶面を
持ったサンプルを選ぶことが必要である。