2015年秋 福井県中竜鉱山仙翁坑の鉱物









        2015年秋 福井県中竜鉱山仙翁坑の鉱物

1. はじめに

    2015年秋、能登半島で開かれた「鉄道郵便車フェスティバル」に参加し、その後「恋路海岸」で、
   「霰石(あられいし)」などを採集した。

    ・ 郵便物逓送用 封鉛(ふうえん:Sealing Lead)の研究(4)
     鉄道郵便車フェスティバル 2015年秋
     ( Study of Japanese Postal Sealing Lead - No4 -
       Railway Post Festival ,Fall 2015 at Notonakajima Station , Ishikawa Pref. )

    翌日、福井県福井市の赤谷鉱山を訪れ、素晴らしい「メタ輝安鉱」などこの産地を代表する鉱
   物を一通り採集し、産地を後にしたのはまだお昼前だった。

   ・ 福井県赤谷町赤谷鉱山 2015年秋
    ( Current information of Akadani Mine , Fall 2015 , Fukui Pref. )

    この後どうしようか迷ったが、いつものように自然と中龍鉱山仙翁坑に車は向かっていた。
  ( 2015年9月採集 )

2. 産地

    越前大野市から国道157号線を南下、いくつかのスノーシェードやトンネルを抜けると左手に麻那
   姫(まなひめ)湖がみえる。以前、「若生子大橋」が”ワイヤー破断”で、通れなかったダムの堰堤の
   上を通り、仙翁谷を目指す。前回通ったときと様変わりで、通る車も少ないせいか林道の両脇から
   雑草や灌木の枝がはみ出していて、車体を”キー、キー”と擦る。何とか「仙翁橋」まで”藪コギ”し、
   ここから○.○kmで駐車スペースに到着する。
    ズリの急斜面をよじ登り、「水鉛鉛鉱(モリブデン鉛鉱)」の産地に到着する。

     
              産地遠望

3. 産状と採集方法

    「日本鉱産誌」によれば、仙翁坑は、中竜鉱山の一部として、明治中期に盛況を迎えたが、この
   本が出版された昭和31年(1956年)には、休山していたようだ。
    同書には、丸山(太平)鉱山が隣接していたとの記述もあり、もしかしたら、丸山鉱山なのかも知
   れない。
    古生代の粘板岩・石灰岩の互層とこれを貫く角閃安山岩からなり、鉱床はレンズ状をなしていた。
   閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱などを採掘し、それらのズリが、夏でも草木も生えない真っ黒い姿を曝
   (さら)け出している。

4. 採集鉱物

 (1) モリブデン鉛鉱/黄鉛鉱(水鉛鉛鉱)【WULFENITE:MoPbO4
      モリブデンと鉛が酸化してできた2次鉱物で、透明、キャラメル色の四角な薄板〜厚板状結晶
     で産する。オーストリアの鉱物学者・Frantz Wulfen(フランツ ウルフェン)にちなんで命名された。
      日本では、ここ仙翁坑と洞戸鉱山杉原坑でのみ産出が知られていたが、その後、兵庫県新井
     (にい)鉱山、栃木県銀山平、そして岐阜県五加鉱山などでも確認され、五加鉱山と銀山平
     は、私のHPにも記載してある。

      ・ 岐阜県五加(ごか)鉱山の2次鉱物
       ( Secondary Minerals from Goka Mine , Gifu Pref. )

      ・ 2013年10月 北関東ミネラル・ウオッチング
       ( Mineral Watching in Northern Kanto Area , Oct. 2013 )

      この産地の「水鉛鉛鉱」の産出状況として、次の2つのタイプがある。

      @ 異極鉱の上に生成したもの
         この場合、「モリブデン鉛鉱」の上を「異極鉱」が覆っており、生成の順序が「異極鉱」
        →「水鉛鉛鉱」→「異極鉱」だったことを暗示している。
         白い異極鉱がついた鉱石を片っ端からルーペで覗きながら探すと良いだろう。また、ズリ石
        をハンマで叩いて割ると、「異極鉱」で覆われた晶洞の中に発見することもある。

      A 閃亜鉛鉱や方鉛鉱の塊を覆う茶褐色の”ヤケ”の上や晶洞の中に生成したもの。
         ズリ石の表面を舐めるように見回し、太陽光で「モリブデン鉛鉱」の結晶が”キラリ”と光る
        のを見逃さないようにする。

      各産地の標本を手にして比べてみると、やはりここ「仙翁坑」のものが日本一で、今回発見し
     たものは、晶洞の中の純白の異極鉱の上に生成したものなので文句なしに『お気に入りの逸品』
     だ。

        
                   全体                            部分拡大
                                  水鉛鉛鉱

 (2) 方硫カドミウム鉱【HAWLEYITE:CdS】
      閃亜鉛鉱の中に、副成分として含まれるカドミウム(Cd)が、鉱床の露頭付近やズリで雨水の
     作用を受けて2次鉱物として生成したものである。
      「硫カドミウム鉱【GREENOCKITE:CdS】」ろ組成(化学式)は同じだが、方硫カドミウム鉱は
     「等軸晶」なのに対して、硫カドミウム鉱は「六方晶系」と結晶系が違う、『同質異像』関係にあ
     る。両者は共存する場合もあり、鉄(Fe)を含む真っ黒い閃亜鉛鉱、いわゆる「鉄閃亜鉛鉱」に
     伴うことが多い。

      絵の具としても使われる、鮮やかな黄色”カドミウム・イエロー”の粉状や皮膜状で産する。
     しかし、カドミウムは”イタイイタイ病”鉱害の元凶でもある。

     
              方硫カドミウム鉱【黄色い粉状】

5. おわりに 

 (1) 「面谷鉱山」への新ルート
      晴れていた天気が崩れそうなので、下山することにした。行きと同じ”藪コギ”をする気にはなれ
     ず、湖の東岸を時計回りに回ると林道は整備されていて走りやすい。最初からこちらを回れば
     よかったのだが、後の祭りだ。
      道路地図を見ると「若生子大橋」を渡った先を南に行って、九頭竜湖を目指せばアップダウン
     が少なくて158号線(美濃街道)にもどるより近道のような気もするし、「面谷鉱山」の入り口も
     通るはずだ。

     
                  面谷鉱山への2つのルート

      初めて通る道なので、崖崩れなどで途中から引き返すことになるのではと一抹の不安はあったが
     「通行止」の表示もないし、ごくまれだが対向車も来るので大丈夫だろうと進む。道が狭くなり
     対向車が来たらすれ違う場所を探さねばならないくらいだ。笹生川湖を通り過ぎ、「伊勢峠
     (767m)」を越えると下り坂だ。
      九頭竜湖が見えるようになると、見たことのある雰囲気で、面谷橋の西を南に入れば、「面谷
     鉱山」だ。ここまで1時間と少しだから、所要時間はどちらを回っても同じようなものだが、新しい
     ルートを開拓したのは気持ちいいものだ。

      最近、骨董市で「面谷鉱山」にちなむ品を何点か入手したので、鉱山の近況を写真に撮って
     おきたかったのだが、薄暗くなり始めていたので断念した。
      ( 仮に撮ってきたとしても、PCのHDDが壊れてしまったので、データが消えてしまったので結果は
       同じだった。)

6. 参考文献

 1) 東京地学協会編:日本鉱産誌(BT-b),砧書房,昭和31年
 2) 地学団体研究会地学事典編集委員会編:地学事典,平凡社,1970年
 3) 益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂,1994年
 4) 加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年
 5) 加藤 昭:鉱物種一覧 2005.9,小室宝飾,2005年
 6) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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