福井県中竜鉱山仙翁坑の鉱物

        福井県中竜鉱山仙翁坑の鉱物

1. 初めに

   以前のHPで紹介した『犬・猿・鳥 桃太郎の家来』のように、私のミネラル・ウオッ
  チングには、何人かの石友とご一緒することが多い。
   2人以上で行く場合、”2C”の関係が生じる。

   @ Collaboration(協同)
      新産地の開拓などでは、「産地情報」の読み方(解釈のしかた)は人によって
     違い、『3人寄れば文殊の知恵』で目的地にたどり着けることが多い。
      大きな岩を動かすのは一人ではとても無理
   A Competition(競争)
      産地に到着すると、石友は、”競争相手”に変身する。誰よりも良い標本を
     採集したいと思うのは、人情だろう。

   「2000年9月 北陸ミネラル・ウオッチング」 の第3日目に、石友・Mさん、Yさんと
  福井県大野市中竜鉱山仙翁坑を訪れた。
   今回で5回目かの訪山になる。今回は石友2人を案内し、あわよくば、今まで採っ
  た以上の「水鉛鉛鉱(モリブデン鉛鉱)」が採集できれば、と思っていた。

   この産地が初めての2人のためにサンプルをと思ったが、最初の1つが、なかなか
  見つからない。ようやくサンプルを発見し、2人に”異極鉱に伴う”産状を飲み込んで
  もらった。

   やがて、Yさんが『 あった!!』 と叫んで、見せてくれたのは、”キラキラ”光る
  結晶が肉眼でもわかる、リッチな標本だった。
   やがて、私も同じ場所で、産状が似た、今まで採集した中で、一番の「水鉛鉛鉱」の
  標本を手にした。

   正に、『 負うた子(案内した人)に浅瀬(ポイント)を教えられ 』、であった。
  ( 2007年9月採集 )

2. 産地

   大野市から国道157号線を南下、いくつかのスノーシェードやトンネルを抜けると
  左手に麻那姫(まなひめ)湖がみえる。
   以前は、湖に沿ってさらに南下し、「若生子大橋」を渡り、仙翁谷を遡ったのだが
  2003年には「若生子大橋」の”ワイヤー破断”で、通れなかった。
   そこで、ダムの堰堤の上を通り、仙翁谷を目指す。「仙翁橋」から○.○kmで駐車
  スペースに到着する。
   ズリの急斜面をよじ登り、「水鉛鉛鉱(モリブデン鉛鉱)」の産地に到着する。

        
              遠望           ズリ【Yさん】
                       産地

3. 産状と採集方法

   「日本鉱産誌」によれば、仙翁坑は、中竜鉱山の一部として、明治中期に盛況を迎え
  たが、この本が出版された昭和31年(1956年)には、休山していたようだ。
   同書には、丸山(太平)鉱山が隣接していたとの記述もあり、もしかしたら、丸山鉱山
  なのかも知れない。
   古生代の粘板岩・石灰岩の互層とこれを貫く角閃安山岩からなり、鉱床はレンズ状を
  なしていた。
   閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱などを採掘し、それらのズリが、夏でも草木も生えない
  真っ黒い姿を山腹に現わしている。

   「水鉛鉛鉱」の産出状況として、次の2つのタイプがある。
   @異極鉱の上に生成したもの
     この場合、「モリブデン鉛鉱」の上を「異極鉱」が覆っており、生成の順序が
    「異極鉱」→「水鉛鉛鉱」→「異極鉱」だったことを暗示している。
     白い異極鉱がついた鉱石を片っ端からルーペで覗きながら探すと良いだろう。

   A閃亜鉛鉱や方鉛鉱の塊を覆う茶褐色の”ヤケ”の上や晶洞の中に生成したもの。
     ズリ石の表面を舐めるように見回し、太陽光で「モリブデン鉛鉱」の結晶が
    ”キラリ”と光るのを見逃さないようにする。

   もし、次回訪れることがあるとすれば、採集方法の”秘策”を考えている。

4. 採集鉱物

 (1) モリブデン鉛鉱/黄鉛鉱(水鉛鉛鉱)【WULFENITE:MoPbO4
     モリブデンと鉛が酸化してできた2次鉱物で、透明、キャラメル色の四角な薄板
    〜厚板状結晶で産する。
     オーストリアの鉱物学者・Frantz Wulfenにちなんで命名された。
     日本では、ここ仙翁坑と洞戸鉱山杉原坑でのみ産出が知られていたが、その後
    兵庫県新井鉱山、栃木県銀山平、そして岐阜県五加鉱山などでも確認され、五加
    銀山平は、私のHPにも記載してある。

     各産地の標本を手にして比べてみると、やはりここ「仙翁坑」のものが日本一で
    とりわけ、今回発見したものは、文句なしに『お気に入りの逸品』だ。

        
          全体【横11cm】           部分拡大
                    水鉛鉛鉱

 (2) 緑鉛鉱【PYROMORPHITE:Pb5(PbO43Cl】
     緑褐色、短柱状の結晶が”毬栗(いがぐり)状”に集合したものが「水鉛鉛鉱」に
    伴って見られることがある。しかし、産出は希で、採集したのは今回が初めてに
    なる。

      緑鉛鉱【毬栗状】

 (3) 方硫カドミウム鉱【HAWLEYITE:CdS】
     閃亜鉛鉱の中に、副成分として含まれるカドミウム(Cd)が、鉱床の露頭付近や
    ズリで雨水の作用を受けて2次鉱物として生成したものである。
     絵の具としても使われる、鮮やかな黄色”カドミウム・イエロー”の粉状や皮膜
    状で産する。
     しかし、カドミウムは”イタイイタイ病”鉱害の元凶でもある。

      方硫カドミウム鉱【黄色い粉状】

 (4) 異極鉱【HEMIMORPHITE:Zn4Si2O7(OH)2・H2O】
     白色の皮膜状で、部分的に半球状や鍾乳状をなして産する。晶洞部分には、
    半透明ガラス光沢の板状結晶が見られることがあり、結晶の両端で形が違う
    ”異極像”を示し、この鉱物の和名の由来がわかる。
     異極鉱の破面は、”累帯構造(層状)”を示し、まれに「水鉛鉛鉱」が見られ、
    生成の順番が「異極鉱」→「水鉛鉛鉱」→「異極鉱」だったことを暗示している。
     部分的に”天青色”に色づいた標本は、含まれる銅イオンのためと考えられ
    る。

        
       層状【黄色:水鉛鉛鉱】          ブルー
                     異極鉱

5. おわりに 

 (1) ”WULFENITE”の和名
     このページをまとめる段になって、”WULFENITE”の和名には困惑させられた。
    参考にした本によって、和名が違うからである。

 書   名 著  者発行年”WULFENITE”の和名 備    考
鉱物種一覧加藤 昭2005年黄鉛鉱 
日本産鉱物型録松原 聰
宮脇 律郎
2006年水鉛鉛鉱(黄鉛鉱) ( )の意味不明

      このHPでは、「水鉛鉛鉱(モリブデン鉛鉱)」としておいたが、われわれ”甘茶”
     が日常使っている、”モリブデン鉛鉱”なる用語は正式な名前ではないようだ。

      同姓同名で混乱が起こることがあるように、鉱物名は、”1物1名”にしていた
     だかないと、混乱が発生するだろう。
      企業などでは、”用語の統一”など”標準化”が日常業務として進められている
     のに習っていただきたい、と思うのは私だけではないだろう。

 (2) 今回、3人で訪れたが、”ズリ”での採集スタイルは、”三者三様”である。どの方
    法が一番良いのかは、その時によって変わるようだ。
     ”運”のようなものが作用することもあり、これがミネラル・ウオッチングを楽しく
    している要因の1つかも知れない。

6. 参考文献

 1) 東京地学協会編:日本鉱産誌(BT-b),砧書房,昭和31年
 2) 地学団体研究会地学事典編集委員会編:地学事典,平凡社,1970年
 3) 益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂,1994年
 4) 加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年
 5) 加藤 昭:鉱物種一覧 2005.9,小室宝飾,2005年
 6) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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