福井県大野市中竜鉱山仙翁坑のモリブデン鉛鉱-その2-
福井県大野市中竜鉱山仙翁坑のモリブデン鉛鉱-その2-
1.初めに
2003年7月に、「仙翁坑」を目指したが、視界100m以下の悪天候に阻まれ
ズリの場所を特定できず、スゴスゴ引き返した。
2003年9月採集会で、赤谷鉱山の自然砒を採集し、愛知県の石友Hさんと別れた後
「仙翁坑に行くべきか、行かざるべきか。」、私の心は揺れていた。
@行っても産地は、夏草に覆われて採集できないのではないか。
Aモリブデン鉛鉱を採集する手懸りの1つは、太陽の光に照らされて”キラキラ”と
輝く結晶面で、台風一過の雲ひとつないこの日が、千載一遇の好機。
結局、”捲土重来”を期して、行くことに決めた。
10年ぶりに、見覚えのあるズリを探し当て、 ”キャラメル色の透明薄板結晶”が
ついた「モリブデン鉛鉱」の他にも、「ミメット鉱」「方硫カドミウム鉱」などが
採集できた。
ようやく、”麻那姫”は微笑んでくれました。
麻那姫像【微笑んでいる?】
(2003年9月再訪)
2. 場所
大野市から国道157号線を南下、いくつかのスノーシェードやトンネルを抜けると
左手に麻那姫湖がみえ、”麻那姫”像が見える。湖に沿ってさらに南下すると
対岸に、仙翁谷が遠望できる。
仙翁谷遠望
「若生子大橋」を渡り、仙翁谷を遡れば、「モリブデン鉛鉱」を産するズリが
見える。
今回は、2003年7月の轍を踏まないよう、私が某誌に寄稿した10年前の採集記録を
読み返し、産地入口までの”キロ数”を確認しながら、仙翁谷を遡った。
10年前に撮影した写真と見比べると、山の形がソックリで、ここに間違いなし。
ズリの急斜面をよじ登り、見覚えのある、「モリブデン鉛鉱」の産地に到着した。
仙翁坑ズリ
3. 産状と採集方法
「日本鉱産誌」によれば、仙翁坑は、中竜鉱山の一部として、明治中期に盛況を迎えたが
この本が出版された昭和31年には、休山していたようです。
同書には、丸山(太平)鉱山が隣接していたとの記述もあり、もしかしたら、丸山鉱山
なのかも知れません。
古生代の粘板岩・石灰岩の互層とこれを貫く角閃安山岩からなり、鉱床はレンズ状を
なしていた。
閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱などを採掘し、それらのズリが、夏でも草木も生えない
真っ黒い姿を山腹に現わしている。
産出状況として、次の2つのタイプがある。
@異極鉱の上に生成したもの
この場合、モリブデン鉛鉱の上を異極鉱が覆っており、生成の順序が
モリブデン鉛鉱→異極鉱であったことがわかります。
白い異極鉱がついた鉱石を片っ端からルーペで覗きながら探すと良いでしょう。
平成5年には、20ケに1ケ位の確率で発見できました。
A閃亜鉛鉱や方鉛鉱の塊を覆う茶褐色の”ヤケ”の上や晶洞の中に生成したもの。
ズリ石の表面を舐めるように見回し、太陽光で「モリブデン鉛鉱」の結晶が
”キラリ”と光るのを見逃さないことです。
HPなどを見ると、その後訪れる人が多かったようで、1時間半で、標本と呼べるものは
2個体しか採集できませんでした。
4. 採集鉱物
(1)モリブデン鉛鉱【Wulfenite:MoPbO4】
和名では、”黄鉛鉱”と呼ばれ、モリブデンと鉛の酸化による2次鉱物で、透明で
キャラメル色の四角な薄板結晶で産する。
オーストリアの鉱物学者・Frantz Wulfenにちなんで命名された。
日本では、ここ仙翁坑と洞戸鉱山杉原坑の産出が知られ、その後、兵庫県新井鉱山でも
ミメット鉱と共生するものが産出し、標本を入手したが、仙翁鉱産に比べ、貧弱なものです。
杉原坑は、採集不可能な状態ですので、仙翁坑は、良品を採集できる唯一の産地でしょう。
モリブデン鉛鉱
(2)ミメット鉱【Mimetite:Pb5(AsO4)3Cl】
黄緑(ウグイス)色六角柱状で、異極鉱に半ば埋もれる形で産出する。隣接した部分に
モリブデン鉛鉱があり、これも異極鉱で覆われている。
写真のものは、”V字形の双晶”をなしている。
ミメット鉱
(3)方硫カドミウム鉱【Hawleyite:CdS】
閃亜鉛鉱の中に、副成分として含まれるカドミウムが、鉱床の露頭付近やズリで雨水の
作用を受けて2次鉱物として生成したものである。
絵の具としても使われる、鮮やかな黄色”カドミウム・イエロー”の粉状や皮膜状で
産する。
方硫カドミウム鉱
(4)異極鉱【Hemimorphite:Zn4Si2O7(OH)2・H2O】
白色の皮膜状で、部分的に半球状や鍾乳状をなして産する。
晶洞部分には、半透明ガラス光沢の板状結晶が見られ、結晶の両端で形が違う
”異極像”を示し、この鉱物の和名の由来がわかります。
異極鉱
5.おわりに
(1)仙翁坑のモリブデン鉛鉱は、採集がかなり難しく、稀産と呼ぶべき鉱物ですが
絶産ではないと感じました。
2次鉱物ファンにとって、ジックリ採集すれば、面白い産地です。
6.参考文献
1)東京地学協会編:日本鉱産誌(BT-b),砧書房,昭和31年
2)地学団体研究会地学事典編集委員会編:地学事典,平凡社,1970年
3)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂,1994年
4)加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年