アルフォンス・ミュシャと「黄道十二宮」

    アルフォンス・ミュシャと「黄道十二宮」

1. 初めに

   私のHP『アルプスの水晶 フルリーナと山の鳥』のページを見た愛読者の一人
  静岡県のKさんから初めてのメールをいただいた。
   私が、柄にもなく、お気に入りのテレビ番組の1つが「新 日曜美術館」だと書い
  たので、鉱物と絵が好きだと思われ、アルフォンス・ミュシャのポスターに「黄道
  十二宮」という1枚があると教えてくれた。
   添付された絵には、黄道十二宮の星座を背景に、宝石(星座石)で飾った女性
  描かれていた。宝石の中には、アルプス産と思われる細長い水晶の群晶や
  単晶も描かれている。
   2006年1月、東京で開催された鉱物同志会に参加する列車の中で、岩田裕子
  著の「宝石物語」を読んでいた。そには、私が知っていた「誕生石」とは違う
  「星座石」なるものがあると書かれ、その薀蓄が語られていた。いつか「星座石」を
  HPにまとめてみたいと考えていたが、そのキッカケがなかなか掴めなかった。
   Kさんから頂いたメールで、キッカケがつかめたので、このページをまとめて
  みた。
   アルフォンス・ミュシャとその絵の存在を知らせていただいた、Kさんに厚く御礼を
  申し上げます。
  ( 2006年3月 情報 )

2. ミュシャの人と作品

 2.1 きっかけ
     静岡県G市に住むKさんは、私のHPを楽しく見て下さっていると、ポスターの
    絵を添付し、次のようなメールを送ってくれた。

    『・・・・さて今回ご連絡したいと思ったのは、アルプスの水晶 「フルリーナと山の鳥」を
     観た時でした。鉱物に関連する事なら興味が有り、又NHKの新日曜美術館が好きと
     ありましたので、すでにご存じかも知れませんが mailする事にしました。
      私の好きな絵にアルフォンス・ミュシャ(ALPHONSE MUCHA 1860〜1939) の
     描いたポスターが有ります。その中の「Zodiac」 黄道十二宮という作品がある
     のですが、この作品は私の観たところ女性の身につけている装飾品にどう見ても
     水晶をモチーフとしている部分が有ります、実際にこんな長い形状の水晶が存在
     するかは知りませんが、私には水晶に見えます。下記に映像を付けますので観て
     下さい。
     ・・・・・・ 山梨県立美術館の島田館長は熱心なミュシャ作品の研究者です 』

      
       「黄道十二宮」 アルフォンス・ミュシャ作

 2.2 アルフォンス・ミュシャ
     Kさんから、「新 日曜美術館」で、アルフォンス・ミュシャの特集が放送されたことも
    あると、教えていただいたが、あいにく見逃していたらしく、メールをいただいて初めて
    ミュシャの名前を知った。彼のことを、インターネットで調べてみて、次のようなことが
    わかってきた。
     アルフォンス・マリア・ミュシャ ( Alfons Maria Mucha )は、1860年モラヴィア
    (現チェコ)に生まれ、中学校時代、所属する聖歌隊の歌集の表紙を描くなど、絵が
    得意だった。19歳でウイーンに行き、昼間働きながら夜間のデッサン学校に通った。
    25歳のときエゴン伯爵の支援で、ミュンヘン美術アカデミーに入学、卒業後28歳のとき
    パリのアカデミー・ジュリアンで美術を学ぶ。
     彼(私は、ミドルネームが”マリア”なので、女性と思い込んでいた)の出世作となった
    のは、1885年、舞台女優サラ・ベルナールの芝居のために作成した「ジスモダン」の
    ポスターで、一躍”アール・ヌーヴォー”の旗手となった。
     ポスター以外でも、「白い象の伝説」をはじめとする、挿画家としても独自の輝かしい
    業績を残している。
     成功を収めた彼は、1910年故国チェコに帰り、20年をかけ20点の絵画からなる連作
    「スラブ叙事詩」を制作した。1918年第一次世界大戦が終結、チェコが独立すると財政
    難の国のため、国章、紙幣そして切手などを無償でデザインした。
     1939年、ナチスドイツによってチェコが解体され、侵攻したドイツ軍によってミュシャは
    逮捕され、厳しい尋問を受けた。釈放後、体調を崩し、帰らぬ人となった。

3. アルフォンス・ミュシャと「黄道十二宮」

     Kさんに送っていただいた「黄道十二宮」の絵には、宝石(貴石)で飾られた冠か
    テイアラ(髪飾り)とネックレス(首飾り)つけた女性の横顔が描かれ、背景には
    牡羊座に始り魚座までの十二宮が時計回りに描かれている。
     Kさんが言うように、女性が身に付けているのは、「黄道十二宮」に因んだ”星座
    石”だろうと思われる。
     ちょうど、イヤリングのように、耳の下にある、一際大きい群晶は”水晶”で、小さ
    なものが、その右上にも見られる。
     水晶の大きい群晶の上のほうに、雪の結晶をあしらったものもあり、ミュシャは
    水晶=氷(雪)の結晶という、ヨーロッパの人々が抱いているイメージを表したかった
    のかも知れない。
     また、ネックレスについている、先の尖った細長い石は、水晶の単晶だろうと思う。
     このように、先が尖った、細長い水晶は、「緑水晶」と並んで、アルプス辺りで産
    する水晶の特徴でもある。
     後から、一覧表にも示すが、水晶が星座石になっている星座は、次の通りである。

     黄水晶・・・・・・・双子座
     煙水晶・・・・・・・水瓶座
     紫水晶・・・・・・・魚座

4. 星座石

   誕生石は、少々荒っぽい言い方をすれば、「4月生れはダイヤモンド」 のように
  生れた月によって”幸運をもたらす石”が、アメリカの宝石業界の販売促進策として
  決められたものであろう。もちろん、その論拠となるような”もっともらしい伝説”が
  ベースにあったのだろうが。
   ”星座石”について、岩田 裕子著の「宝石物語」には、次のような説明がある。

   『 光のささやき・星座石
     星座石は、夜空からのメッセージ
     誕生石は好みじゃない人、こちらを守護石にしてみては!? 』

    ”!”(ビックリマーク)と”?”(疑問符)がついているのは、意味ありげです。

   信じる、信じないは、その人の自由ですので、”星座石”とはどのようなものかを、「宝石
  物語」から抜き出して、一覧表にまとめてみた。

  星  座
【生れた月日】
 星座石
 【英語名】
  和  名 その他の星座石  宝石ことば
牡羊
【3.21〜4.19】
ガーネット
【Garnet】
ざくろ石ルビー
ダイヤモンド
権力・優雅・勝利 
牡牛
【4.20〜5.20】
サファイア
【Sapphire】
青玉エメラルド
アクアマリーン
慈悲・誠実・徳望 
双子
【5.21〜6.21】
シトリン
【Citrine】
黄水晶トパーズ
サファイア
輝き・生命力 
蟹(かに)
【6.22〜7.22】
真珠
【Pearl】
真珠月長石
 (ムーンストーン)
エメラルド
純粋無垢・健康 
獅子
【7.23〜8.22】
ダイヤモンド
【Diamond】
金剛石ルビー
ガーネット
不屈・純潔 
乙女
【8.23〜9.22】
トパーズ
【Topaz】
黄玉(おうぎょく)サファイア
めのう
友情・希望・潔白 
天秤
【9.24〜10.22】
エメラルド
【Emerald】
緑柱石オパール
マラカイト
 (孔雀石)
幸福 
蠍(さそり)
【10.23〜11.22】
ルビー
【Ruby】
紅玉トパーズ
トルマリン
 (電気石)
情熱・威厳・勇気 
射手
【11.23〜12.21】
ラピスラズリ
【Lapislazuli】
青金石
瑠璃(るり)
アメシスト
ルビー
真実・高貴 
山羊
【12.22〜1.19】
ターコイズ
(トルコ石)
【Turquoise】
土耳古石ガーネット
琥珀
成功 
水瓶
【1.20〜2.18】
オパール
【Opal】
蛋白石サファイア
煙水晶
安楽 

【2.19〜3.20】
アメシスト
【Amethyst】
紫水晶アクアマリーン
翡翠(ひすい)
平静・高貴 

      この表をみると、”その他の星座石”を含めると、ルビー、サファイアが各4回
     トパーズ、ガーネットも各3回登場するなど、”誕生石”に比べ、取り決めが緩や
     かな感じがする。

5. おわりに

 (1) 岩田 裕子著の「宝石物語」を読んで、「星座石」についてまとめて見たいと考えて
    いた。HPにまとめるキッカケが全くなかったわけではなく、2005年にポーランドから
    「黄道十二宮」を描く12種の切手がシートになったものが発行され、これと絡めて
    と思って注文したら売り切れで、機会を逸してしまった。

 (2) アルフォンス・ミュシャとその絵の存在を知らせていただいた静岡県のKさんから
    のメールがこのページをまとめるキッカケとなった。ここに、改めて御礼申し上げ
    ます。
     Kさんとは、「ミネラルウオッチング」で、鉱物や絵について語り合えるのを楽しみ
    にしています。
     インターネット社会は、”ガセネタ事件”に代表されるような、危険で後味の悪い
    こともあるが、見知らぬ方から貴重なご意見や情報をいただき、交流の輪が広が
    るという、良い面も持ち合わせている。
     どちらにするのかは、私たちの”良識”の問題であろう。

 (3) ミュシャの「黄道十二宮」に描かれた水晶の群晶を見た瞬間、2005年秋に某産地
    で採集したものと同じ結晶形態なので驚いた。(HP未公開)

6. 参考文献 

 1)岩田 裕子:宝石物語,大和書房,1996年
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