湯之奥金山博物館 - 2011年砂金掘り大会 -










              湯之奥金山博物館
            - 2011年砂金掘り大会 -

1. 初めに

    2011年7月末、山梨県身延町(旧下部町)にある湯之奥金山博物館の小松学芸員から
   メールをいただいた。「砂金掘り大会の申し込み締め切りですが、参加しますか?」、とい
   う内容だった。
    ここのところ、仕事が1つの山を迎え、土日も出勤している程の忙しさで、砂金掘り大会の
   ことをスッカリ失念していたのだ。慌てて、「1名参加!!」、をお願いした。

    湯之奥金山博物館では、年間を通して、いろいろな催しを企画していて好評だ。夏休み
   に開催される行事の1つに、2001年に始まり、今年で11回目を迎えた「砂金掘り大会」が
   ある。

     嵐(競技)の前の静かな会場

    「砂金掘り大会」は、世界大会も開催されるほどで、外国では人気の高い趣味(スポーツ?)
   だ。湯之奥金山博物館の小松学芸員は、国際大会で世界チャンピオンになっている事から
   も解るように、湯之奥金山博物館主催のこの大会のレベルは高い。

    私は、博物館応援団の団員でもあり、ボランティア+競技者として第3回から欠かさず参
   加している。今年も、PCを使った競技結果の記録・集計と順位決定のボランティアとベテラ
   ンの部の競技者として参加した。
   ( 参加費用 500円、小中学生 300円 )

    私の成績は、ベテランの部・参加28名中22位で、2010年より10もランクダウンしたが、
   『 実戦のMineralhunters 』 としては、これが実力だろう。

    今回も、小松学芸員の”意地悪”(本人の性格ではないことをお断りしておく)なたくらみで
   小石と多量の砂鉄を含んだ土砂の中から砂金をパンニングするのには苦戦を強いられた。
    それでも、楽しい1日を過ごさせて頂き、谷口館長、小松学芸員はじめ湯之奥金山博物
   館の関係者に深く感謝している。
   ( 2011年8月体験 )

2. 「砂金掘り大会」のルール

    砂金掘り大会は、主催者が砂の中に隠した砂金を、”早く”しかも”見逃しなく、正確に”
   パンニングする技を競う。
    湯之奥金山博物館の砂金掘り大会のルールは、基本的に「国際ルール」に従い、今回、
   ベテランの部は、次の通りである。

    (1) 砂の量:15kg( ジュニアは6kg、男女初心者は10kg )
    (2) 砂金の数:競技終了まで秘密(部門別に違うことがあり、今回は下表の通り)
    (3) 制限時間:15分( ジュニア、男女初心者は10分 )
    (4) 順位の決め方:
      @ 館長の「ピーー、ピ!」という笛の合図から、競技者が砂金回収ビンにフタをして
        手を挙げ終了を宣言するまでの時間
         + (見落とし砂金数×3分) の合計時間が短いほうが上位

      【例】
       Aさん:9分で全部見つけた(見落とし0ケ)=9分 +(0×3)= 9分
       Bさん:7分で1ケ見落とした=7分 +(1×3)= 10分
       この場合、Aさんが、上位になる。
       実際の競技では、下の競技結果からもわかるように、秒単位の争いになることも
      あるため、1/100秒まで記録している。

      A制限時間内(10分)で終了しなかった人は、”Time Over"として最下位。
    (5)競技部門:ジュニア(小中学生)、男女初心者、男女ベテランの3部門
    (6)パンニング皿:口径40cm以下であれば、マイ・パンの持込可能(ジュニア、初心者)
                ベテラン部門は、全員館で準備したスチール・パン(2009年から)

    競技開始に先立ち、博物館応援団の団員による模範演技を通して、小松学芸員から競
   技ルールの説明があった。
    今年から、「電光掲示板」が導入され、競技の残り時間が一目でわかるようになり、ペー
   ス配分に役立つようになった。

       
             模範演技                   「電光掲示板」

3. 競技風景

    今回も競技結果のタイムと採集した砂金の数をPCのEXCELシートに入力し、並べ替えを
   して”仮の順位”を出し、それを印刷したものを速報として掲示板に発表するのに追われ、
   ていた。
    しかし、何回かに1回、大きな水槽に溜まった砂を取り除く水の入れ替えがあり、この時は
   ”ホッ”と一息つけ、競技者の写真を撮る余裕が生まれる。

       
            女子高校生                     ジュニア
                           競技風景

4. 競技結果

    各部門の上位入賞者と私の記録を、湯之奥金山博物館のHPから引用させていただく。

順位   ジュニアの部(砂金数:6ケ)   初心者の部(砂金数:8ケ)   ベテランの部(砂金数:12ケ)
時間(分) 砂金数 総合
(分)
時間(分) 砂金数 総合
(分)
時間(分) 砂金数 総合
(分)
1 4.1128 6 4.1128 4.1045 8 4.1045 12.1090 12 12.1090
2 5.0420 6 5.0420 3.3208 7 6.3208 9.4080 11 12.4080
3 5.3897 6 5.3897 6.3351 8 6.3351 13.1994 12 13.1994
22
MH
 11.4000 629.4000

    初心者の部では、2位と3位の差は2秒足らずで、1/100秒単位の争いになることもある。

5. おわりに

 (1) 上位入賞の条件
      上の表を眺めてみると、上位入賞の条件が浮き彫りになる。

      @ 『パーフェクト』
          各クラスの1位は、全員が”見落とした砂金ゼロ”『パーフェクト』達成者で
         占められている。
          1ケ見落とすごとに、3分のペナルティが加算され、私のように、6ケも見落とすと
         18分のペナルティが加算され、入賞は絶望的だ。

      A 『スピード時代』に突入
          ベテラン部門の上位入賞者は、砂の量が多く、しかも”リッフル”と呼ぶ砂金流失
         防止の突起がない”スチールパン”が導入されので、2009年は8分、9分掛けて
         ”ジックリ”パンニングしても上位入賞できたが、2010年は、3分台から4分台でな
         いと上位入賞が難しい、『スピード時代』に突入したようだ。

          しかし、2011年のベテランの部は、土砂の量が多かったのと混ぜられた砂鉄の
         量も半端でなく皆さん慎重にパンニングしたようだ。
          しかし、Kさんの奥さんは、4分台のチャレンジングなタイムを記録し、惜しくも入
         賞は逃したが、来年以降はこれが当たり前のタイムになる予感がする。

          この傾向は、ジュニア、初心者の部に顕著なようで、この大会が『世界レベル』
         なっていることの証だろう。

 (2) 2011年の”仕掛け”
      毎年、ベテランの部には、小松学芸員の”仕掛け”が潜んでいる。2009年から始まった
     ”ツルツル”のスチール・パンもその1つだ。
      競技が始まって、最初の皿の仕上げにかかろうかと思ってパンニング皿の底を見ると
     ”まっ黒い砂鉄”が山のように残っているのには正直ビックリした。

       多量の砂鉄に苦戦するMH

      1cmくらいの厚さがあり、砂金粒が見えないのだ。フィールドでの採集なら磁石を使え
     ば簡単に砂鉄は取り除けるのだが、競技では砂鉄を洗いながら砂金を浮かび上がらせ
     なければならず、”技”が試される。
      砂金が何粒か見え始めてまたまた驚いた。いつもの競技用の”葉片状”の砂金と真ん
     丸い”粒状”の2種類が混じっているのだ。

       2種類の砂金粒

      2012年は、どのような難問が待っているのか、今から楽しみだ。

 (3) ”水に浮かぶ砂金”
      負け惜しみではないが、同行した誰よりも目聡(めざと)く「砂金」や「サファイア」をパン
     ニングで採集し、フィールドでは見逃すことが無い、と自信を持っているつもりだが、いざ
     砂金掘り大会となると2011年は半分の砂金を見逃していたことになる。

      その原因の1つが、”水に浮かぶ砂金”だ。比重が20、つまり同じ体積の水よりも20倍
     も重い砂金が水に浮かぶなんて。今どきの若い人なら『ウッそ〜』、と叫ぶだろうし、私に
     近い年代の人なら、『そんな馬鹿な(関西なら、「そんあアホな」?)』、と言うだろう。
      しかし、現実に砂金が水に浮かぶのをこの目で見て、写真撮影に成功したのだ。

       ”水に浮かぶ砂金”

      この仕掛けは、次のように説明できる。競技会に使われる砂金は、某貴金属会社製
     のもので1粒が○十円らしい。
      葉片状のものは、線材をある長さに切って押しつぶして平らにしたもののようだ。丸い
     粒のものは、昔、散弾銃(ショット・ガン)の弾を作るのに使われた『ショット・タワー法』で
     作られたものだろう。つまり、溶けた金を”ポタ”、”ポタ”と液体の中に落として冷やし固
     めたものだろう。
      工業製品なので、製造過程で”油”などが付着し、それが水を弾く(はじく)【専門用語
     では、疎水性あるいは撥水性になる】結果、水に浮かぶことがあるようだ。

      こうなると、比重の大きな砂金と言えども、苗木地方で苦戦したサファイア同様「波乗
     り小僧(小娘?)」よろしく、パンニングを始めて早い段階で皿の外に流れだしてしまって
     いる可能性が高い。

      ・岐阜県苗木地方の「スター・サファイア」
       ( Star Supphire from Naegi Area , Nakatsugawa City , Gifu Pref. )

      選鉱学の文献を読むと、砂金の中に、水銀と接触させてもアマルガムを作らず回収で
     きない『錆金(rusty gold)』、と呼ばれものがあるようだ。その対策方法も載っているの
     で、2012年はこれを試してみる積りだ。【鬼が笑う】

6.参考文献

 1) 山田 賀一:金属鉱物の選鉱法,岩波書店,昭和8年
 2) 国立科学博物館、毎日新聞社編:金GOLD 黄金の国 展示図録
                         科学博物館、毎日新聞社,2009年
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