初日、某大とのコラボで訪れた水晶産地では、午前中の苦戦が嘘のように撤収寸前になってガマ
(晶洞)が開き、皆さんお気に入りの標本をいくつか手にされたようだ。夜の部の「オークション」も0時
過ぎまで盛況で、過去最高の売り上げを記録し、湯沼鉱泉の浴場整備に全額寄付させていただ
いた。
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2015年月遅れGWミネラル・ウオッチング
( Mineral Watching Tour , Jun. 2015 , Nagano Pref. )
2日目のクロム鉱山跡では、プレアナウンスした通り「宝石級灰クロムざくろ石」が出るなど、この日
も盛り上がった。
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2015年月遅れGWミネラル・ウオッチング 【その2】
( Mineral Watching Tour - Part 2 -, Jun. 2015 , Nagano Pref. )
参加できななかった人たちから「2日目の産地に行きたい」という声が寄せられたので、フォーローア
ップを兼ねて「ミニ・ミネラル・ウオッチング」を開催した。
女性2人を含め、5人の少人数で、クロム鉱山跡と古い鉄山跡での採集を楽しみ、この日も「宝
石級」やすばらしい「灰クロムざくろ石」の標本が採集でき、産地が健在なことを確認できた。夏の
ミネラル・ウオッチング恒例の沢水で冷やした”甘いスイカ”を食べ、産地を後にした。
参加者から、「□月に△△△でガマ開けしたい」という新たなリクエストもあり、ミニ・ミネラル・ウオッチ
ングを開催する予定だ。
( 2015年7月 開催 )
鉄山跡での『天然磁石』探しには、「ホチキスの針」が不可欠だ。今回は、茨城・K弟が雑誌の
背を止めているホチキスの針をバラして参加者に配ってくれた。
茨城・K弟が採集した大きな「クロム苦土鉱」の周囲に鮮緑色〜濃緑色の灰クロムざくろ石が
ついた標本は、 ” 裏表のない ” O弟の性格そのままの逸品だ。
(2) 菫泥石【Kaemmererite:Cr(クロム)を含む
クリノクロア石【CLINOCHLORE:(Mg,Fe)5Al(Si3Al)O10(OH)8)】】
菫泥石は、「クロムを含む緑泥石の一種」と覚えていたが、最近では、「クロムを含む菫(すみれ)
色のクリノクロア石(Cr-bearing Violet CLINOCHLORE)」、という表現が使われている。
「菫色をした緑泥石」、というおかしな日本語を正す流れも背景にあるのだろう。
クロム苦土鉱に伴って、紫色の雲母に似た外観で産出する。この産地のものは、湾曲した雲母、
セリサイト(絹雲母)そして紫色の透明滑石様の部分からなる。まれに、ミリサイズの”自形結晶”が
母岩に埋没しているのが観察できる標本もある。
2週間前の『月遅れGWミネラル・ウオッチング』では、奈良・Yさんが、「菫泥石、菫泥石」とご執心
だったその理由(わけ)を聞きそびれてしまった。下にも書いたように、この産地のものは、『正真
正銘の菫泥石』ですので、喧伝(けんでん)しても大丈夫です。
古い鉱物雑誌を読むと、「長野縣〇〇鉱山産菫泥石の化学成分」と題する論文があり、
化学式を導き出しているので紹介する。
『 東北帝大理学部 岩石鑛物鑛床学教室 北原 順一 昭和21年12月5日
分析結果及び分子比、原子比は次表の如くである。
上表より化学式を求めると、
J.Orcelは化学成分より
Orcelの説により、s=10/3〜11/3の範囲にあるから、Clinochlore pennineに属し
又、J.OrcelはCr2O3 0.85〜4.16% 含有するものは
本産地のものは、Cr2O3 3.90%であって、Orcelの 3SiO2・(Al,Cr)2O3・5MgO・4H2O
10SiO2・3(Al,FeV,Cr)2O3・15(Mg,FeU)O・12H2O
なる化学式を導くことができる。 』
長野縣南佐久郡〇〇鑛山の蛇紋岩中に産する塊状のクロム鉄鑛を粉砕すると、鮮美な
紫紅色の真珠光沢を帯びた鉱物と淡緑色の蛇紋石が、クロム鉄鑛に随伴しているのがよく
分る。
細粒、純質な紫紅色鑛物を双眼顕微鏡下に選別したもの約0.5瓦(グラム)を採って、
110℃に乾燥し、化学分析試料に供した。
重量% 分子比 原子比 原子比(0=1800) SiO2 33.85 564 Si 564 319 Al2O3 14.15 139 Al 278 158 Fe2O3 0.58 4 FeV 8 5 Cr2O3 3.90 26 Cr 52 29 FeO 2.18 30 FeU 30 17 MgO 33.27 832 Mg 832 471 H2O 12.24 680 H 1360 771 O 3177 1800 合計 100.17
H7.71(Mg,FeU)4.88(Al,FeV,Cr)1.92Si3.19O18.00となり、W.E.Fordの与えた
Pennine【現在のペナント石、Pennantite:(Mn,Mg)を含む緑泥石の一種】、及び
Clinochlone【Clinochloreの誤植】の化学式
H8(Mg,FeU)5Al2Si3O18 に近い。
s=SiO2/R2O3 r=RO/R2O3 h=H2O/R2O3 c=Cr2O3/Al2O3
を算出し、緑泥石類を分類した。
ここに、 R2O3=(Al,FeV,Cr)2O3 RO=(FeU,Mg,Mn)O である。
Orcelに従い計算すると
s=3.337 r=5.10 h=4.0 c=0.187 の値を示す。
クロームを含む緑泥石はClinochlore及びPennineであって、s=2.0〜3.7の範囲に
あり、c>0.1の値を示すを以って、本産地の紫紅色鉱物を菫泥石と呼び得る。
s=SiO2/R2O3=3/1 であって、化学式を
3SiO2・(Al,Cr)2O3・5MgO・4H2O
にて示している。
0.55%の少量のCr2O3を含むものは、(s=)10/3で
10SiO2・(Al,Cr)2O3・16MgO・11H2O
なる式で、11.72%の如く含量の多いものでは
10SiO2・3(Al,Cr)2O3・17MgO・13〜14H2O
なる化学式で示している。
に近い化学式を示すが、前記した如く s=3.337 であるから寧(むし)ろ
(3) クロム苦土鉱【MAGNESIOCHROMITE:MgCr2O4】
クロム鉄鉱【CHROMITE:Fe2+Cr2O4】
蛇紋岩の中に黒色で塊状、帯状、あるいは層状で産する。比重が石英の2倍近いので、手に
持つと”ずしり”と重い。磁石を近づけると、ユックリと吸い付けられ弱い磁性がある。
日本のクロム鉱床は、東北、関東、甲信越には少なく、北海道(八田鉱山、糠平鉱山)、
中国(鳥取・若松鉱山)、四国(愛媛・赤石鉱山)、そして北九州(熊本・猫谷鉱山)に偏在
している。
このような意味で、長野県にあるクロム鉱山跡は貴重な存在だ。
クロムを含む鉱物には、「クロム鉄鉱」、「クロム苦土鉱」、そして「紅鉛鉱」がある。「鉱物採集
フィールドガイド」の巻頭にあるタスマニア産の「紅鉛鉱」の写真に魅入られた鉱物ファンは私だけ
ではあるまい。
これらのうちクロムに富むものがクロムの鉱石鉱物として利用されている。クロムの含有量は「クロ
ム苦土鉱」のほうが「クロム鉄鉱」よりも若干多いのだが、精錬の容易さなど総合的に見てどちら
がクロムの鉱石として優れていたのだろうか。
鉱物名(和名) | 鉱物名(英名) | 結晶系 | 化学組成 | 含Cr量 (重量%) |
---|---|---|---|---|
クロム鉄鉱 | CHROMITE | 等軸 | Fe2+Cr2O4 | 46.4 |
クロム苦土鉱 | MAGNESIOCHROMITE | 等軸 | MgCr2O4 | 54.1 |
紅鉛鉱 | CROCOITE | 単斜 | PbCrO4 | 16.1 |
わが国で産出するのは、「クロム鉄鉱」と「クロム苦土鉱」で、これらは連続固溶体をつくり、
スピネル/尖晶石【SPINEL:(Fe2+,Mg)Al2O4や磁鉄鉱【MAGNETITE:Fe2+Fe3+2O4とも固溶体を
つくり、全体として(Fe2+,Mg)(Cr,Fe3+Al)2O4の多成分を含んでいる。
クロム苦土鉱そのものは、磁性をもたないが、この産地のクローム苦土鉱中に混合している磁
鉄鉱の分子が多いため、少し磁性を帯びているものと推察できる。
この産地のクロムを含む黒くて重たい鉱物は、「クロム鉄鉱」と言われていたが、堀先生の分析
結果では、「クロム苦土鉱」と鑑定された。
堀先生が分析したサンプルはマグネシウム(Mg)が100%だったわけではなく、Mg > Fe2+ だった
ので、「クロム苦土鉱」になったようだ。
古い鉱物雑誌を読むと、「長野縣〇〇鉱山一番坑産クロム鉄鑛」「長野縣〇〇鉱山20番
坑産クロム鉄鑛」と題する論文があり、それぞれの坑のクロム鉄鉱の顕微鏡観察と化学分析に
よる化学式を導き出した結果を記載しているので紹介する。
この文献がでた昭和22年(1947年)ごろには、採掘は止めたものの、坑道(露天掘り?)は
残っていた可能性がある。しかも、1番から20番まで、連続してあったかどうかは判らないが、坑
道もいくつかあったようでだ。
項 目 | 一番抗産 | 20番抗産 |
顕微鏡観察 | 細粒斑状鑛に属する | 集塊状鑛に近い細粒斑状鑛に属する |
随伴鉱物 | 蛇紋石2、菫泥石5 | 蛇紋石1、菫泥石3 |
化学式 | (62FeU,38Mg)O・(5FeV,37Al,58Cr)2O3 | (58FeU,42Mg)O・(8FeV,40Al,52Cr)2O3 |
この分析結果では、 化学式の先頭にある鉄(Fe)とマグネシウム(Mg)の百分率が Fe2+ > Mg
だったので、「クロム鉄鉱」になったようで、堀先生の分析結果と違っている。
昭和22年当時の分析の精度が現在に比べ大幅に劣っていたとも考えられないし、堀先生が
同じサンプルを使ったわけでもなく、ましてこの産地の全てのサンプルを分析した結果でもないこと
などを考え併せると、『 この鉱山跡ではクロム鉄鉱とクロム苦土鉱が産出する 』と考えるのが
科学的だろう。
(4) コーリング石【COALINGITE:Mg10Fe3+2(CO3)(OH)24・2H2O】
案内した石友のほとんどは、、緑色の鮮やかな「灰クロム柘榴石」に眼が行ってしまうようだが、
古い石友・Tさんによれば、『 「灰クロム柘榴石」よりも茶褐色で雲母様の「コーリング石」の方が
国内では稀産なので採集すべきとの意見だ。
なお、「コーリング石」と組成がよく似ていて産出してもおかしくないと思われる「パイロオーロ石」
【PYROAURITE:Mg6HFe3+2(CO3)(OH)16・4H2O】は、分析の結果では産出が確認されいない
というレポートがある。
『月遅れGWミネラル・ウオッチング』に参加したMさんからは、「・・・・(貴重なものだと)知らず、
雲母だと思って捨てていた」とのメールをいただいた。
「コーリング石」の良品が採れたポイントが植林で埋められてしまったのは残念だが、ほかのポイ
ントでも探せば見つかる。
(5) 「天然磁石」
クロム鉱山跡からの帰り、古い鉄山跡を訪れ、「天然磁石」を採集した。皆さんが標本を自力
で採集できたし、私も2寸(6cm)釘は無理だったが、ホチキスの針(0.02グラム)より約20倍重
いゼムクリップ(0.36グラム)を何本か吸い付ける標本を採集できた。「天然磁石」をお持ちの方は
ゼムクリップで試してみてください。
この結果から、ここも産地は健在だ。
誰しも関心があるのは、「なぜ天然磁石ができたか」だ。日本各地に「磁石山」や「磁石岩」
あるいは「磁石石」と呼ばれ、磁気を帯びていて方位磁針が正しい方角を示さなくなる場所が
ある。
最も有名なのは、山口県萩市須佐町にある須佐高山(すさこうやま:標高532m)の「磁石
石」だ。斑れい岩の山で、山頂付近は「磁鉄鉱」を含み磁針を岩石に近づけると正しく南北を
指さなくなるほど強い磁気を帯びていることからこの名前が付けられた。昭和11年(1936年)
12月6日に、国の天然記念物に指定されている。
「原因は、落雷によるものなどいろいろな説があるが、今だにハッキリしていない」、ようだ。
磁鉄鉱のような「強磁性体」は磁場をかけて磁化させさせると、磁場を取り除いた後も分極が
残り永久磁石となる「残留磁化」と呼ばれる現象がある。石友・Mさんが磁石を磁鉄鉱に接触
させたら磁石になってしまったのはこの現象だ。
また、「強磁性体」ではキュリー温度(鉄では770℃)より高い温度では、「強磁性体」の性質
が失われ、磁石の性質を失うところから、この産地は高温のマグマと接触してできたスカルン鉱床
であるから、磁鉄鉱が生まれたときは磁石になっていなかったと考えられる。
そうなると、磁鉄鉱鉱床ができた後、長い年月の間に上を覆っていた岩石が風化しむき出しに
なったところに落雷などで電流が流れ、それによって生じた磁界で瞬間的に「天然磁石」になっ
た考えるのが一番考えやすいのだ。
1年ほど前、骨董市で「磁石(針磁石・電磁石・棒磁石)セット」なるものがあったので購入し
ておいた。小学6年生か中学生向けの理科教材で、電磁石を自分で作るのに必要な鉄芯、
絶縁用の赤いビニール管(チューブ)、エナメル線、そしてエナメル線の巻き始めて終わりを決める
コイル止めなど一式が入っているキットだ。
電磁石の作り方や実験方法などを解説した「説明書」もついている。
電磁石の作り方や実験方法の部分を抜き出してみる。エナメル線を巻いたコイルに電流を流
すと磁力線が発生し、鉄芯は電磁石になる。電磁石の強さが強ければ、電流を切っても鉄芯は
磁石になったままで、これが「天然磁石」のできる理由と考えられる。
磁力(磁石)の強さはコイルの巻き数と流れる電流の積(A×T)に比例する。電池の数が1つよ
り2つ、巻き数が少ないより多い方が強い磁石なる。
【道草】
「巻き数が多いほうが磁石は強い」は誤解が起こりやすい。H製作所時代の同僚・W氏から
少年時代に電磁石を作ったときの失敗談を聞いた。
W少年は、友人たちよりも細い銅線で何倍か巻き数が多い電磁石を作った。しかし、出来
上がった物は強くなるどころかほとんど電磁石とは呼べない代物だった。なぜか?
それは銅線の抵抗を無視していたからだった。銅線の抵抗Rは、長さ(L)に比例し、断面積
(∝太さの2乗)に反比例するのだ。
磁石の強さ∝(電流×巻き数)だから、半分の太さの銅線で巻き数を3倍にしたとすると、
=電流{太さの影響1/2×1/2×長さの影響1/3)}×巻き数(×3)=1/4
つまり、W少年のは友人の電磁石の強さの1/4になってしまったのだ。
さて、電磁石と「天然磁石」の原理はお解りいただけたと思うが、はたしてこのような現象が
この鉱山で起こりえただろうか。
絶縁チューブに包まれた鉄芯は、方解石(石灰岩)に包まれた磁鉄鉱の塊、電池は落雷に
よる電流で容易に想定できるが、コイルの機能を何が果たしたのか想像もつかない。
こんなところが、「天然磁石」の成因を「落雷説」だけでは説明できない背景なのだろう。
益富先生も書いているように、『気に入った標本を手にするまでには、同じ産地に何回か通う』
ことも必要なようだ。
(2) 「いつまでもあると思うな産地と鉱物」
今回訪れた地域にはいくつかの鉱物産地があって、それらのいくつかに皆さんを案内したことが
あった。
産地が再発見されて間もない時期だったので、参加者の多くが満足できる標本を手にし、
中には人も羨やむ素晴らしい標本をゲットした人もいた。
フォローアップとしてそれらの産地のいくつかを回ってみたが、「入山禁止」の看板が出ていたり
テープが張り巡らされ、産地が消滅した場所もあった。
今回同行したMs.Tさんは、何年か前に案内した、「△△△の〇〇を採れなかった。あそこなら
いつでも行けると思っていたら、採集禁止になってしまった」、と残念がっていた。
そんなこともあって、タイトルにした次第だ。