第1日目・・・・・・・長野県川上村川端下(かわはけ)、梓(甲武信)鉱山
MWが終了して1週間たったころ、妻が「皆さんを2日目に案内した紫水晶産地はまだ行っ
産地に着くと、居合わせた先行者が「ズリがカチンカチンに凍っていて、熊手など全く役
何とか、大きな岩蔭の柔らかい土砂の場所を探して掘り返すと、短時間だったが「紫水晶」
産地で泥まみれの水晶を拾い上げたとき、水晶の中に『水(気泡)』のようなものがあ
12月に入ると林道が通行止めになり、産地は来年の初夏まで永い冬の眠りに入る。
秋月先生の「山の結晶」に、水晶の液体包有物についての1章があるので、引用さ
『 (1) 液体包有物の分類と成因
・ 液体包有物の分類
・ 液体包有物の成因 (2) 水晶の液体包有物
水晶の中の管状(棒状)液体包有物が重力と平行に伸びていた(上が空
@ 液体包有物が生じたときは、包有物は液体のみ
・ 充填温度
・ デクレピテーション温度
(3) 水晶の包有物
・ 液相・気相・固相の共存
( 例えば水は、私たちが生活している大気圧(1気圧)の元では、0℃
・ 液体包有物の分析例
以上のような予備知識をもって今回の採集品を観察してみた。
栃木県足尾町鉛沢で採集した水入り(液体+気泡)紫水晶にも『負晶(骸晶)』が見ら
液体包有物の形は、周辺が溶けているが『板状』の痕跡を残しており、水晶表面と平行
過去の採集記録を見ると『水(気泡)』の入った水晶は、山梨県では甲府市黒平・向山
別に、妻にも教えないマル秘産地でもないので今回案内したところ、スコップで掬っ
参加した多くの方(家族)から、「よくよく見たら『紫水晶』があった」、とのメールをいた
(2) この日は、絶好の秋晴れで、「金峰山」が手に取るように間近に見え、遠くの南アルプ
「金峰山」は、山梨県側の人は”きんぷさん”と呼び、長野県側の人は”きんぽうさん”
12月に入ると林道は通行止めになり、産地は来年6月まで永い冬の眠りにつく。
( Digest Version of Mineral Watching Tour , Nov. 2008 , Yamanashi and Nagano Pref. )
鉱物の宝庫、『古泉に水枯【涸】れず』
第2日目・・・・・・・山梨県金峰山
松茸紫水晶新産地、古典的水晶産地
てないので行きたい」、と言う。私もその後の産地の様子を知りたいので、2人で訪れた。
に立たない」、と言う。なるほど、ズリの表面が氷の塊のようになっている。どうやら、1週間
前のMWが2008年採集のラスト・チャンスだったようだ。
「松茸水晶」そして「水入り水晶」が採集できた。
るのに気付いた。帰宅後、蓚酸で洗い、実体顕微鏡で確認すると、”『気泡』が動く!!”
松茸水晶を傾けるたびに、頭部にできた空隙の中を上の方に『気泡』が移動する。つまり、
液体で充満した空隙の中の『気泡』なので、水晶を傾けると高い(地面から遠い)方に動く
のである。
気泡が動くのを確認できる今回採集した標本は、この産地はむろん、山梨県で最初の
報告になるのではないだろうか。
( 2008年11月採集 )
2. 産地
ここは、知る人ぞ知る産地なので、詳細は割愛する。
3. 産状と採集方法
産状については以前のHPに詳しく書いてあるので参照して欲しい。熊手で赤土の中
から水晶を掘り出すので、女性や子どもでも楽しめるはずだ。
4. 採集鉱物
(1) 水入り水晶【QUARTZ:SiO2】
せていただく。(一部、私なりの注釈を入れてある)
・・・・水晶は、何万年も何百万年もの昔、誰も知らない地下の深いところで
生まれ育って結晶である。・・・・・どのような化学組成の液体の中で成長した
ものか、また何度くらいの温度で生じたものか、全くわからない。
しかし、それらを知る手がかりはある。水晶を光に透かしてみてみよう。
・・・・・・岩石に付着している(いた)付近は白くにごっていることが多い。この
濁った部分をルーペや顕微鏡で見ると、小さな球状、棒状または板状の液
体や気体が見える。これを液体包有物と呼んでいる。
液体包有物は、下の図のように
液体包有物の分類
【直線は水晶表面と目に見えない成長縞を表す】
記号 呼 称 説 明 備 考 A 初生(液体)包有物
1つ1つが独立しており
成長縞と平行に並ぶことが
あっても、交差してならぶことは
ない
これは結晶面のくぼみに
液体が取り残されてできた
B 擬2次(液体)包有物
結晶の割れ目に液体が
しみ込んでできたもの
結晶が成長している途中で
割れ目が生じて、それに液体が
封じ込められてできた
液体包有物はこの結晶を
作った液体C 2次(液体)包有物
結晶の割れ目に液体が
しみ込んでできたもの
結晶の表面から内部に向かって
並んでおり、結晶の成長が停止した
後に薄い割れ目ができ、それに地下水
などが入り込んで生じた
液体包有物はこの結晶と
無関係な地下水などであるかも
知れない
・ 液体包有物の成長過程
2次液体包有物も擬2次液体包有物も、初めは板状であるが、時間と共に
棒状に分裂し、さらに細かい球状に分かれる。
@ A B C
液体包有物と気泡の関係
【「山の結晶」の図を修正】
下が地下を向いていた)、と考える。
A 温度が下がると管状包有物の上部に気泡ができる
B この時点で分裂が起こる(進行している)と、上の包有物は
「気相」と「液相」の2相からなり、下の包有物は液相だけ
C さらに温度が低下すると、上の(液体)包有物の気相(気泡)は
さらに大きくなり、そして下の包有物にも気泡(気相)が現われる
たとえ、上下の包有物の体積が同じでも、両者で液相と気相の
体積比が異なる
光学顕微鏡に加熱装置をつけて、加熱しながら包有物を観察してみよう。
温度の上昇と共に、水溶液は膨張して気泡は小さくなり、やがて消えてなく
なる。この温度を「充填温度」という。
このようにして、水晶の生成温度を知ることができる。このとき、結晶が
成長したときの圧力を見積もって、(温度を)補正しなければならない。
加熱して気泡が消えた包有物を、さらに加熱し続けると、水溶液の膨張で
結晶は破裂する。小さく砕いた水晶を加熱していくと、パチパチと弾ける音が
する。この音の発する温度を「デクレピテーション温度」、といい、気泡のなく
なった温度「充填温度」より高温側に偏る。これも鉱物の生成温度を知る手
がかりとなる。
水晶(鉱物)の液体包有物の中に、サイコロ状のNaCl(食塩)の結晶が
見られることがある。この鉱物を作った水溶液にはNaClが多量に含まれて
いたことを示す。
したがって、この包有物は気体・液体・固体の3相からなり、加熱と共に
固体が消え、次に気泡が消える。
(融点/凍結点)で液体(水)←→固体(氷)、100℃(沸点)で液体←→気
体(水蒸気)になる。富士山の頂上のような高い(気圧が低い)場所では
沸点が下がることから判るように、気圧が低くなると沸点は0℃に近づい
てくる。融点や凍結点は気圧によってあまり変化しない。その結果特別な
温度(0.01℃)、気圧(0.06気圧)では氷・水・水蒸気が共存する「3重点」
がある )
3重点
水溶液の分析結果、純粋な水からなるもの、Na、K、Ca、Cl、SiO4やCO2で
飽和したものまである。
特徴的な微量成分として、NH3(アンモニア)、H2S(硫化水素)、Nが知られて
いる。 』
全体の形は、いわゆる松茸水晶【Scepter QUARTZ】である。松茸水晶としても、姿・形が
良く、今回の採集品のなかで、満足の行く『一品』だと思っている。水(液体包有物)と気
泡が入っているのは、一段と太くなった松茸の『傘』の部分である。
この水晶の特徴の1つは、水晶表面に『負晶』が多いことである。水晶表面に平行なも
のと交差するものの2種が見られる。
全体 負晶
【長さ 45mm】 【面に平行】
れ、『負晶』があることが水入りができやすい1つの条件になっているようだ。
( Amethyst of Namarisawa including Water & Gas , Ashio Town , Tochigi Pref. )
になっている点から、『初生(液体)包有物』と考えられる。
上の「液体包有物と気泡の関係」の図の@とAの間にあるようだ。狭まった部分の隙
間が気泡の直径より小さいと気泡は自由に動けないのだが、かろうじて気泡が通り抜け
できている。
左 右
気泡の移動
鉱山で採集したことがあったが、狭い空隙に液体と気体が封じ込められているので、気
体(気泡)は動かないものばかりだった。
気泡が動くのを確認できる今回採集した標本は、この産地はむろん、山梨県で最初の
報告になるのではないだろうか。
5. おわりに
(1) 妻にも教えないマル秘産地?
妻に言われて、この紫水晶産地を教えていないことに気付いた。下見のときは、この
産地を探して山を駆け回っている私を林道で2時間待ち、MWではMチャン(0歳)の
乳母として、車の中で待機していたのだから知らない訳だ。
てあげた土砂の中から水晶を発見し、大喜びだった。
だき、案内のし甲斐があったと喜んでいる。
スや富士山の頂は真っ白な雪に覆われ、本格的な冬の到来を知らせていた。
と呼ぶと深田久弥の「日本百名山」にある通りである。
( この本の中で、黒平に”くろびら”、と振り仮名があるが”くろべら”が正しい )
金峰山 南アルプス
6. 参考文献
1) 深田 久弥:日本百名山,新潮社,昭和43年
2) 秋月 瑞彦:山の結晶 −水晶の鉱物学−,裳華堂,1997年
3) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年