2008年晩秋MW フォローアップ 金峰山の「水(気泡)入り水晶」

       2008年晩秋MW フォローアップ
       金峰山の「水(気泡)入り水晶」

1. 初めに

   私のHPを見て頂き、産地の情報を提供したり、案内して差し上げた人たちと年に数回
  ミネラル・ウオッチングを開催するようになって8年目を迎えた。
   2008年11月 「湯沼鉱泉社長激励MW」と題して、長野県川上村湯沼鉱泉に宿泊し
  山梨県、長野県のマル秘産地を1泊2日で、延べ58名の皆さんと訪れた。

   ・2008年晩秋ミネラルウオッチング 【ダイジェスト版】
    ( Digest Version of Mineral Watching Tour , Nov. 2008 , Yamanashi and Nagano Pref. )

   第1日目・・・・・・・長野県川上村川端下(かわはけ)、梓(甲武信)鉱山
              鉱物の宝庫、『古泉に水枯【涸】れず』
   第2日目・・・・・・・山梨県金峰山
              松茸紫水晶新産地、古典的水晶産地

   MWが終了して1週間たったころ、妻が「皆さんを2日目に案内した紫水晶産地はまだ行っ
  てないので行きたい」、と言う。私もその後の産地の様子を知りたいので、2人で訪れた。

   産地に着くと、居合わせた先行者が「ズリがカチンカチンに凍っていて、熊手など全く役
  に立たない」、と言う。なるほど、ズリの表面が氷の塊のようになっている。どうやら、1週間
  前のMWが2008年採集のラスト・チャンスだったようだ。

   何とか、大きな岩蔭の柔らかい土砂の場所を探して掘り返すと、短時間だったが「紫水晶」
  「松茸水晶」そして「水入り水晶」が採集できた。

   産地で泥まみれの水晶を拾い上げたとき、水晶の中に『水(気泡)』のようなものがあ
  るのに気付いた。帰宅後、蓚酸で洗い、実体顕微鏡で確認すると、『気泡』が動く!!”
  松茸水晶を傾けるたびに、頭部にできた空隙の中を上の方に『気泡』が移動する。つまり、
  液体で充満した空隙の中の『気泡』なので、水晶を傾けると高い(地面から遠い)方に動く
  のである。
   気泡が動くのを確認できる今回採集した標本は、この産地はむろん、山梨県で最初の
  報告になるのではないだろうか。

   12月に入ると林道が通行止めになり、産地は来年の初夏まで永い冬の眠りに入る。
   ( 2008年11月採集 )

2. 産地

   ここは、知る人ぞ知る産地なので、詳細は割愛する。

3. 産状と採集方法

    産状については以前のHPに詳しく書いてあるので参照して欲しい。熊手で赤土の中
   から水晶を掘り出すので、女性や子どもでも楽しめるはずだ。

4. 採集鉱物

 (1) 水入り水晶【QUARTZ:SiO2

     秋月先生の「山の結晶」に、水晶の液体包有物についての1章があるので、引用さ
    せていただく。(一部、私なりの注釈を入れてある)

     『 (1) 液体包有物の分類と成因
           ・・・・水晶は、何万年も何百万年もの昔、誰も知らない地下の深いところで
          生まれ育って結晶である。・・・・・どのような化学組成の液体の中で成長した
          ものか、また何度くらいの温度で生じたものか、全くわからない。
           しかし、それらを知る手がかりはある。水晶を光に透かしてみてみよう。
          ・・・・・・岩石に付着している(いた)付近は白くにごっていることが多い。この
          濁った部分をルーペや顕微鏡で見ると、小さな球状、棒状または板状の液
          体や気体が見える。これを液体包有物と呼んでいる。

         ・ 液体包有物の分類
            液体包有物は、下の図のように
(A,B,Cの)3種類に分類される。

            
                      液体包有物の分類
             【直線は水晶表面と目に見えない成長縞を表す】

         ・ 液体包有物の成因
記号  呼      称     説          明    備        考
A初生(液体)包有物  1つ1つが独立しており
成長縞と平行に並ぶことが
あっても、交差してならぶことは
ない  これは結晶面のくぼみに
液体が取り残されてできた
    
B擬2次(液体)包有物  結晶の割れ目に液体が
しみ込んでできたもの
 結晶が成長している途中で
割れ目が生じて、それに液体が
封じ込められてできた
 液体包有物はこの結晶を
作った液体
C2次(液体)包有物  結晶の割れ目に液体が
しみ込んでできたもの
 結晶の表面から内部に向かって
並んでおり、結晶の成長が停止した
後に薄い割れ目ができ、それに地下水
などが入り込んで生じた
 液体包有物はこの結晶と
無関係な地下水などであるかも
知れない

       (2) 水晶の液体包有物
         ・ 液体包有物の成長過程
            2次液体包有物も擬2次液体包有物も、初めは板状であるが、時間と共に
           棒状に分裂し、さらに細かい球状に分かれる。
           ( この過程は、模式的に下図のように説明できる )

            
             @     A     B     C
                液体包有物と気泡の関係
                【「山の結晶」の図を修正】

             水晶の中の管状(棒状)液体包有物が重力と平行に伸びていた(上が空
            下が地下を向いていた)、と考える。

             @ 液体包有物が生じたときは、包有物は液体のみ
             A 温度が下がると管状包有物の上部に気泡ができる
             B この時点で分裂が起こる(進行している)と、上の包有物は
                「気相」と「液相」の2相からなり、下の包有物は液相だけ
             C さらに温度が低下すると、上の(液体)包有物の気相(気泡)は
               さらに大きくなり、そして下の包有物にも気泡(気相)が現われる
                たとえ、上下の包有物の体積が同じでも、両者で液相と気相の
               体積比が異なる

         ・ 充填温度
            光学顕微鏡に加熱装置をつけて、加熱しながら包有物を観察してみよう。
           温度の上昇と共に、水溶液は膨張して気泡は小さくなり、やがて消えてなく
           なる。この温度を「充填温度」という。
            このようにして、水晶の生成温度を知ることができる。このとき、結晶が
           成長したときの圧力を見積もって、(温度を)補正しなければならない。

         ・ デクレピテーション温度
            加熱して気泡が消えた包有物を、さらに加熱し続けると、水溶液の膨張で
           結晶は破裂する。小さく砕いた水晶を加熱していくと、パチパチと弾ける音が
           する。この音の発する温度を「デクレピテーション温度」、といい、気泡のなく
           なった温度「充填温度」より高温側に偏る。これも鉱物の生成温度を知る手
           がかりとなる。

       (3) 水晶の包有物

         ・ 液相・気相・固相の共存
             水晶(鉱物)の液体包有物の中に、サイコロ状のNaCl(食塩)の結晶が
            見られることがある。この鉱物を作った水溶液にはNaClが多量に含まれて
            いたことを示す。
             したがって、この包有物は気体・液体・固体の3相からなり、加熱と共に
            固体が消え、次に気泡が消える。

            ( 例えば水は、私たちが生活している大気圧(1気圧)の元では、0℃
             (融点/凍結点)で液体(水)←→固体(氷)、100℃(沸点)で液体←→気
             体(水蒸気)になる。富士山の頂上のような高い(気圧が低い)場所では
             沸点が下がることから判るように、気圧が低くなると沸点は0℃に近づい
             てくる。融点や凍結点は気圧によってあまり変化しない。その結果特別な
             温度(0.01℃)、気圧(0.06気圧)では氷・水・水蒸気が共存する「3重点」
             がある )

             3重点

         ・ 液体包有物の分析例
             水溶液の分析結果、純粋な水からなるもの、Na、K、Ca、Cl、SiO4やCO2
            飽和したものまである。
             特徴的な微量成分として、NH3(アンモニア)、H2S(硫化水素)、Nが知られて
            いる。                                        』

     以上のような予備知識をもって今回の採集品を観察してみた。
    全体の形は、いわゆる松茸水晶【Scepter QUARTZ】である。松茸水晶としても、姿・形が
    良く、今回の採集品のなかで、満足の行く『一品』だと思っている。水(液体包有物)と気
    泡が入っているのは、一段と太くなった松茸の『傘』の部分である。
     この水晶の特徴の1つは、水晶表面に『負晶』が多いことである。水晶表面に平行なも
    のと交差するものの2種が見られる。

         
             全体                         負晶
          【長さ 45mm】                    【面に平行】

     栃木県足尾町鉛沢で採集した水入り(液体+気泡)紫水晶にも『負晶(骸晶)』が見ら
    れ、『負晶』があることが水入りができやすい1つの条件になっているようだ。

     ・栃木県足尾町鉛沢の気泡入り紫水晶
      ( Amethyst of Namarisawa including Water & Gas , Ashio Town , Tochigi Pref. )

     液体包有物の形は、周辺が溶けているが『板状』の痕跡を残しており、水晶表面と平行
    になっている点から、『初生(液体)包有物』と考えられる。
     上の「液体包有物と気泡の関係」の図の@とAの間にあるようだ。狭まった部分の隙
    間が気泡の直径より小さいと気泡は自由に動けないのだが、かろうじて気泡が通り抜け
    できている。

        
            左                   右
                   気泡の移動

     過去の採集記録を見ると『水(気泡)』の入った水晶は、山梨県では甲府市黒平・向山
    鉱山で採集したことがあったが、狭い空隙に液体と気体が封じ込められているので、気
    体(気泡)は動かないものばかりだった。
     気泡が動くのを確認できる今回採集した標本は、この産地はむろん、山梨県で最初の
    報告になるのではないだろうか。

5. おわりに

 (1) 妻にも教えないマル秘産地?
      妻に言われて、この紫水晶産地を教えていないことに気付いた。下見のときは、この
     産地を探して山を駆け回っている私を林道で2時間待ち、MWではMチャン(0歳)の
     乳母として、車の中で待機していたのだから知らない訳だ。

      別に、妻にも教えないマル秘産地でもないので今回案内したところ、スコップで掬っ
     てあげた土砂の中から水晶を発見し、大喜びだった。

      参加した多くの方(家族)から、「よくよく見たら『紫水晶』があった」、とのメールをいた
     だき、案内のし甲斐があったと喜んでいる。

 (2) この日は、絶好の秋晴れで、「金峰山」が手に取るように間近に見え、遠くの南アルプ
    スや富士山の頂は真っ白な雪に覆われ、本格的な冬の到来を知らせていた。

     「金峰山」は、山梨県側の人は”きんぷさん”と呼び、長野県側の人は”きんぽうさん”
    と呼ぶと深田久弥の「日本百名山」にある通りである。
     ( この本の中で、黒平に”くろびら”、と振り仮名があるが”くろべら”が正しい )

        
              金峰山               南アルプス

     12月に入ると林道は通行止めになり、産地は来年6月まで永い冬の眠りにつく。

6. 参考文献

 1) 深田 久弥:日本百名山,新潮社,昭和43年
 2) 秋月 瑞彦:山の結晶 −水晶の鉱物学−,裳華堂,1997年
 3) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
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