2005年秋のミネラル・ウオッチング - 山梨・長野の有名産地をを訪ねて - 【ダイジェスト版】

         2005年秋のミネラル・ウオッチング
  - 山梨・長野の有名産地を訪ねて - 【ダイジェスト版】

1. 初めに

  私のHPを見て頂き、産地の情報を提供したり、案内して差し上げた人たちと春と秋に
 ミネラル・ウオッチングを開催するようになって5年目を迎えた。
  今回は、「山梨・長野の有名産地を訪ねて」と題して、山梨県の水晶峠と長野県の
 甲武信鉱山を訪れた。
  参加者は、関東各都県、奈良、滋賀、愛知と広範囲で、いつもの定連さんの他に
 新しい参加者も加わり、和気藹々(わきあいあい)の会となった。

    湯沼鉱泉前で記念写真【撮影:滋賀・Oさん】

  晴れ男の”ジンクス”通り(?)、100%雨を予想した初日も、小雨がパラついた程度で
 照り映える紅葉の中、女性や年配者にはやや厳しいコースも一部あったが、今回も
 疲れを忘れさせる”発見”があった。
  初日の水晶峠では、またまた滋賀・Oさんが「緑水晶」の逸品を発見したのを皮切りに
 甲武信鉱山では、初参加の埼玉・Tさんが「Y字型松茸水晶」を採集し、「新緑水晶産地」では
 愛知・Kさんと妻が松茸水晶の群晶を見つけるなど、これだけの人数で訪れると色々な
 ”発見”があった。
  夜は、定宿となっている長野県川上村の湯沼鉱泉で、「松茸ご飯」や「岩魚の生き造り」
 など地元の旬の素材を生かした料理に舌鼓を打った。
  食後は、お待ちかね、恒例となった「標本玉手箱」と「オークション」も大盛況で、全国の
 産地の標本が並び、格安で貴重な標本を入手でき、その売上高は、参加者に還元できた。
  その後、「大人の時間」では、持ち寄った各地の銘酒を酌み交わし、楽しいひと時を過ごした。
  2日間、事故もなく、無事帰宅のメールと共に、また参加したいという声が大勢寄せられた。
 これも役員の皆様のお力添えと参加者のご協力の賜物と厚く御礼申し上げます。
  次回も皆様とお会いできるのを楽しみにしています。
 ( 2005年10月開催 )

2. 【第1日目】

 (1)「焼山峠」に集まれ!!
    朝7時、家を出ようとすると電話が鳴り、「滋賀のTです。寝坊して、今起きたところです。
   欠席させてください」 とのこと。Tさんらしい一コマです。私たち夫婦が奈良・Yさんを
   甲府駅でピックアップし、集合場所に着いてみると、集合1時間前なのに既に愛知・KOさんが
   いた。やがて、千葉・Yさん一家、Kさん、東京・Tさん一家、愛知・Sさん一家、滋賀・Oさん
   愛知・Kさん、初参加埼玉・Wさん夫妻、そして自他共に認める(?)”雨男”愛知・Hさんが
   到着した。さっきまで晴れ間が見えていたのに、雨雲がかかりだし、一同Hさんに恨めしげな
   視線を送る。

 (2)バッタリ鉱山跡
    集合30分前だが全員集合したので、簡単に自己紹介をした後、出発。乙女鉱山入口を
   横目に見て、金峰山登山口に到着。身支度を整えていると、ますます雲行きが怪しくなり
   用心深い人はカッパを着て登山道を行く。しかし、雨が降る気配もなく、カッパを着ている
   人は、蒸し暑さに耐え切れず脱ぎだす有り様。
    難所の荒川も難なく渡りきり、”バッタリ鉱山”跡に到着し、坑口の前に広がるズリで
   基本の表面観察。
    ( 水晶峠の水晶鉱山とバッタリ鉱山の境界は判然としないが、水晶峠の南、荒川と
     その支流・御堂川近くにあったところを、”バッタリ鉱山”と表示している文献がある )

       
難所の渡河作戦【撮影:滋賀・Oさん】  バッタリ鉱山跡表面観察

    ここでは、小さいながら透明度の高い水晶や武石が見られ、初参加のWさんが、日本式
   双晶の片割れを思わせる「平板水晶」の佳品を発見した。

 (3)水晶峠の緑水晶
     「水晶峠」に到着、まずは記念写真。

    「水晶峠」標識前で

    標識のあるあたりからものの10mも下ると、 ズリの表面が白くなるほど、石英のかけらが
   落ちている。荷物を降ろすやいなや、滋賀・Oさんが「こんなのがありました」と差し出したのは
   3cm近い”品のある緑水晶”であった。
    最初に、水晶峠の最大の特徴である「山入り(ファントム)水晶」の産地に案内した。その周辺の
   それぞれ思い思いの場所に散らばって、産状を確認できたようであった。やがて、ポツポツと
   雨が降ってきたが、雨具が欲しいほどでもない。
    昼食を済ませ、水晶峠産のもう1つの特徴である「緑水晶」産地に案内する。なかなか大きな
   ものは、観察できないようだが、私の妻が良品をシッカリ(チャッカリ?)とチェックしていた。
    いつも、新たな産状を開拓してくれる東京・Tさんが不参加なので、千葉・Yさんが代わって
   アチコチ探し回ってくれ、古い坑道跡を発見した。人1人がようやく入れる斜坑で、往時の水晶
   採掘の様子を思い出させる貴重なものであった。

    採掘斜坑

    Yさんと、「昔みたいに大きなものは観察できないネ」 という話になり、私も新たな産地を求め
   アチコチ歩き回り、ある場所で、一通りの産状を確認することができた。小さくて写真に撮れな
   かったが、「鋭錐石」の付いたものも観察できた。
    ( 次回以降、ここを案内する予定です )


       山入り

      緑山入り

      角閃石入り

      2重山入り

       曲り

     黄鉄鉱入り

    東京・Tさんから、奥さんと娘さんの観察品の中にも「黄鉄鉱入り」があった、とメールを
   いただいた。

 (4)宿泊組は目指せ「湯沼鉱泉」
    皆さん一通りの産状を確認できたようなので、14:30に現地を出発。帰りはショートカットで
   「一の谷」か「倶利伽羅峠」かという急坂を慎重に降り、16時前に全員無事駐車場に
   戻った。
    初日のみ参加の皆さんとはここでお別れ、宿泊組は「大弛峠」に向かう。数年前までは
   山梨県側も悪路だったが、今では全面舗装され快適な山岳道路になっている。
    大弛峠で女性陣のためのトイレ休憩の後、長野県側に入るといきなりダートの悪路。
   その先も悪路は延々と続き、たまに20mくらい舗装されているかと思えば、そこは橋だった。
    ( オリンピックのツケが尾を引いているらしい )
    17時過ぎに、湯沼鉱泉に到着。ここから合流する愛知・Sさん、東京・Kさんは既に到着して
   いた。
    夕食までの間に、「玉手箱」係の奈良・Yさん、愛知・KOさん、「オークション」係の千葉・Yさん
   が準備を進めてくれる。
    役員の皆さんの手際よい進行で、これらの準備も順調に終わり、まだ夕食まで間があるので
   入浴を済ませ、サッパリとする。
    参加者の中には、「湯沼水晶洞」を見学し、最近加えられた「乙女鉱山」や「甲武信鉱山」の
   大きな日本式双晶などを見て、眼を輝かせていた。

 (5)湯沼鉱泉の夜は深けて

  @「懇親会」
    はまり役、宴会部長の愛知・H氏の名司会で、19時から17名参加の大懇親会がスタートした。
    奈良・Yさんの音頭でビールで乾杯(中学生はもちろんジュース)。「松茸ゴハン」「岩魚の生造り」
    など地元・川上村の旬の食材を生かした料理に舌鼓を打つ。
    宴たけなわとなり、近況報告と宴会部長から事前に出された課題の報告が始まる。その間も
    次々と料理が運ばれ、眼は欲しがっているが、腹が受け付けない。最後に鍋にウドンを入れ、
    ツルツルといただき、スッカリ出来上がった。

    乾杯!!

     参加者のお目当ては、次に控えている、「標本玉手箱」と「オークション」で宴会が終わると
   そそくさと標本玉手箱会場に移動する。

  A「オークション」
    恒例となっている「オークション」は、私の所属する「鉱物同志会」で採用されている
   「逆ブービー方式」と呼ばれ、2番目に高い値段を付けた人が、落札する権利を得ます。
   これは、悪戯に、価格を引き上げないための配慮です。
    オークションの進め方は、次の通りです。

     「標本玉手箱」に提供された標本の中から、オークション担当のYさん一家が28点の標本を
    選んでくれた。同等の標本でも、数の制限から「玉手箱」に回った標本もあった。

    オークション【撮影:滋賀・Oさん】

    オークション品(入札品)の主なものは、次の通りである。
    【これらの標本のいくつかは、”採集禁止になる前”のものであることをお断りしておきます】

 No     鉱物名     産地  出品者
綺麗なザクロ石・群晶奈良県滋賀・Oさん
綺麗なザクロ石・ケース入り(4組)奈良県滋賀・Oさん
綺麗なザクロ石・袋入り(5組)奈良県奈良・Yさん
藍銅鉱栃木県・小来川鉱山東京・Mさん(不参加)
水晶長野県・佐久穂町東京・Mさん(不参加)
輝水鉛鉱愛知県・田口鉱山愛知・KOさん
園石ほか愛知県・田口鉱山愛知・KOさん
パイロファン石愛知県・田口鉱山愛知・KOさん
藍銅鉱新潟県・三川鉱山東京・Tさん(不参加)
10 黄鉄鉱岩手県・和賀仙人鉱山愛知・KOさん

    オークション品(ジャンケン品:300円〜100円)は、次の通りである。

 No     品名     場所  出品者
綺麗なザクロ石・絵葉書3枚セット(3組)奈良県滋賀・Oさん
会の集合写真手札版(3組)石川県・遊泉寺滋賀・Oさん
会の集合写真四つ切版(3組)長野県・湯沼鉱泉滋賀・Oさん

    オークショナーのYさんと記録係奥さんの息の合ったコンビで、次々と落札者が決まり
   「おめでとう!!」の掛け声とともに、”鐘”(実は空のやかん)が鳴らされた。
   オークションの売上高は、約15,000円となり、一人あたり約1,000円宿泊費が安くなった。

  B「標本玉手箱」
     故益富寿之助博士が始められたと同じように、参加者が採集した重品を持ち寄り、欲しい
    人に無料配布する「標本玉手箱」を今回も開催した。
     今回の担当は、奈良・Yさんと愛知・KOさんにお願いした。
    ここには、「オークション」に入れてもおかしくない、「○○鉱山の紫水晶」など、隠れた名品も
    並び、参加者の”目利き度”が試されます。

    玉手箱下見【撮影:滋賀・Oさん】

     あれだけ並んだ標本もいつの間にか参加者の手元に納まり、1時間あまりで終了した。

  C「大人の時間」
     大きな部屋に集まると、初参加のWさん夫妻から岩手県玉山金山近くの「にごり酒」と
    この日天気が悪かったのは自分のせい(?)と、愛知県・某地酒同好会の副会長を
    務めるHさんから愛知県・田口鉱山近くの地酒が差し入れられ、一同で味わう。
     ” 歯にしみとおる ” とは、このことか。
    和やかな談笑のうち、気がつけば22:30。翌日のハードな行程を考え、お開きとする。
    部屋に戻ると、今日一日の採集の疲れと酒の酔いもあり、たちまちZzzz・・・・

3. 【第2日目】

 (1)朝飯前の採集会はお休み
     前の晩、初めて参加の方々に確認すると朝飯前の採集会はパスとのこと。私もゆっくり
    朝寝させていただく。

 (2)イザ、出立!!
    7:00から朝食の後、会計担当の愛知・Kさんが持ち込んだPCを使って、一人当たり
   一家あたりの参加費をたちどころに計算。余った820円は私が預かり、次回に回させて
   いただきます。
    当日参加の埼玉・Tさん、Sさん、長野・Tさんそして東京・Hさん夫妻も続々と到着。個々に
   入山料を支払って、準備完了。ただ、千葉・Y君が風邪気味で、甲武信鉱山のハードな
   行程は無理との両親の判断で、湯沼鉱泉で待機することになったのは残念であった。
    これも恒例となった、記録係の滋賀・Oさんによる湯沼鉱泉前での記念撮影、新たな
   参加者を加え簡単な自己紹介の後、この日の訪問地・甲武信鉱山に向け出立だ!!

 (3)ベスブのズリへ
    登山口に到着、登りはじめる。急な坂を角閃石のズリ、磁鉄鉱のズリと登り、3ステップの
   仕上げが、ピカピカのベスブ石の産地である。ここは、標高1,800mを超えている。
    落ち葉を掻き分け、母岩付きや分離結晶など、ピカピカのベスブ石を全員が採集した。
    愛知・Sさんは1cmを超える良品を採集。数年前に千葉・Yさんの息子Y君が袋に入れ
   ようとして失ったものか。Yさんの奥さんに確認してもらうが、標本には”Y”の名前はなく
   Sさん一家のものとなった。

 (4)松茸水晶ズリ
    松茸水晶のズリに取り付き、皆さんここぞと思う場所で、採集を始める。その途端、初参加
   埼玉・Tさんが叫んだ。確か、『 こんなことがあって良いのか!!』 だった。手元を見ると
   5cmを超える頭付き緑水晶を手にしていた。ものの1分も経たないうち、同じTさんがまた叫んだ。
   『今日はツイている』 だったと思う。またまた手元を見ると6cmを超える2叉になった水晶の
   それぞれの頭と柱に透明水晶が付いた”Y字型松茸水晶”の佳品であった。
    早々に、Tさんがその場所を譲ってくれ、初参加長野・Tさんが取り付いて間もなく、『あった!!』
   と叫び、2cm位の透明な典型的松茸水晶を手にしていた。相前後して、あちこちから、同じような
   声があがった。結局、2人に1本くらいの割で出たようだ。この産地が発見された当初から知っている
   KAさんも『まんだ、採れるんだ』 と驚くこの日の成果であった。

 (5)新緑水晶ズリ
     湯沼鉱泉を出るときに、社長から「新しい緑水晶のズリがあるから、寄って行け。大勢でやれば
    面白いものがあるかもしれない」 と教えられた新産地に行く。
     そこは、今まで何回となく通っていた場所で、最近掘り返された跡が残っている。荷物をおいて
    思い思いの場所で採集する。愛知・Kさんが早々と松茸水晶を発見、続いて私の妻が松茸水晶が
    7、8本付いた群晶を発見。
     まだまだ、何があるか分からない、何が出てきてもおかしくない甲武信鉱山の奥の深さを思い
    知らされた一行であった。

       
         採集風景           採集品【群晶の一部】
                   新緑水晶ズリ

 (6)元新産地「緑水晶ズリ」
     ここは、1年余り前に奈良・Aさんが発見した産地で、昔から知られていた緑水晶産地の
   ものより結晶が大きく、頭付き群晶も多産した。今回新たな緑水晶産地が発見されたことで
   ”元新産地”と呼ばれる羽目になった。
     時間も12時になり、昼食を摂ることにし、終わり次第ズリに取り付くが小さな産地なので
   ここを訪れるのが初めての人を優先に採集していただいた。初参加の埼玉・Sさんが、狭い
   範囲で7、8cmはあろうかという頭付きを筆頭に、素晴らしい標本を多数手にして、思わず
   口元が緩んでいた。
    愛知・Sさんは、名前と同じ「みどり水晶」を何本か自分の手で掘り出し、感激の面持ち
   であった。

 (7)砒鉄鉱、灰重石産地
    砒鉄鉱と灰重石の産地へ向かう。古い試掘坑の脇にあり、着いて間もなく、愛知・Sさんの
   息子・Y君が柘榴石の間に自形結晶を示す灰重石を発見。試掘坑の中で紫外線で結晶が
   青白く光ることを皆さんに確認してもらう。
    そこから、急斜面を慎重に登り、砒鉄鉱産地に到着。ズリに落ちていた”見本”を見て貰い
   同じものを探してもらう。やがて、男性陣は、露頭から直接採集に移る。
    この産地独特の”自形結晶”を示す砒鉄鉱は、ほぼ全員採集できた。

    砒鉄鉱の自形結晶【蓚酸でクリーニング後】

 (8)緑双晶坑
     最後の採集地、「緑双晶坑」へ移動する。ここは、戦前に”金”を目的に採掘した坑道で
    大きな坑が残されている。その中の特定の部分に双晶を含むズリ石があり、それを
    外に運んで、双晶を見つけ出す。
     愛知・Sさんが大黒様よろしく、土嚢袋にズリ石を入れて運び出し、早々と1cmを超える
    立派な双晶を発見、愛知・KOさんも晶洞の中に4つ双晶が付いたものをゲット。
     東京・Hさん夫妻は、坑口前から面白い水晶を採集した。
     15時を回り、下山を開始する。鉱山で働いていた人たちが使っていた”九十九折れ”の
    比較的なだらかな道を下る。
     色付いた木々の間を、ゆっくり下山しながら、深まり行く秋を満喫できたようです。

    紅葉の間を下山

 (9)また、会う日まで
     まだ明るい16時過ぎに全員無事下山。初参加のWさん夫妻は、私より年長で
    大丈夫かと心配したが、永年鉱物採集で鍛えただけに、”ノー・プロブレム”であった。
     また皆さんとお会いするのを楽しみに、解散した。

4. おわりに

 (1)秋のミネラル・ウオッチングも5年目を迎え、今回は、山梨・長野にまたがる広い範囲を
    回った。狭い林道の車での移動や比較的険しい山登りもあったが、参加者の安全意識が
    高いこともあり、事故もなく終了することができた。
    ( 今回も、救護係の愛知・Sさんの奥さんの出番は、ありませんでした。)

 (2)「もう見られないだろう」と言われた産地でも、大勢の眼でさがすと結構あるもので、数々の
    良標本を確認できた。
    新しい緑水晶の産地を教えていただいた、湯沼鉱泉社長には厚く御礼申し上げます。

5. 参考文献

 1)中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
 2)益富 寿之助:鉱物 −やさしい鉱物学−,保育社,昭和60年

 3)中村 宏樹:甲府北部深成岩体の地質及び水晶鉱床の研究 山梨地学第36号
          山梨地学会,1994年
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