2004年7月ミニ鉱物採集会【ダイジェスト版】     奈良県白倉谷の灰鉄柘榴石巨晶と<BR>     田上山のペグマタイト鉱物を求めて

  2004年7月ミニ鉱物採集会【ダイジェスト版】
    奈良県白倉谷の灰鉄柘榴石巨晶と
    田上山のペグマタイト鉱物を求めて

1.初めに

  2004年5月に、奈良県の石友・Aさんに案内して頂き、天川村白倉谷で灰鉄ザクロ石の
 巨晶を採集することができた。
  この産地は、奈良県の一部の人たちが再発見した産地で、今までその場所の公開は
 差し止められていたが、この度、メンバーの了解も得られたので、ミニ採集会を開催する
 ことを案内したところ20名近い皆さんが参加してくれた。
  女性3名を含め、高校生から60歳近くまで、老若男女取り混ぜて、19名が参加し
 それぞれ、今まで採集したことがない大きさの柘榴石を採集できた。
  帰途には、川迫(こうせ)鉱山に立ち寄り、ほぼ全員が”レインボー(虹色)”柘榴石を
 採集できた。初参加の奈良県の石友・Hさんと、神奈川の石友・Mさんが”緑水晶”の良品
 採集し、羨望の的となり、初日の採集会を締めくくった。
  宿泊組は、奈良市新大宮のホテルに宿をとり、日中汗で失われた水分を生ビールで補給し
 翌日に備えた。
  2日目は、地元彦根市の石友・Nさんと言う心強い案内人を加え、滋賀県田上山での採集となり
 名古屋の石友・Iさんも駆けつけ、中澤晶洞の前で、トパーズや煙水晶を採集できた。
  田上山の裏山「不動寺」に移動する前に、突然夕立が来たが、兵庫の石友・Nさんの
 奥さんのご託宣(祈り?)通り、すっきりと雨は上がり、トパーズ、電気石入り水晶などを
 採集できた。われわれ夫婦は、いつもながら、後ろ髪を引かれる想いで産地を後にし
 栗東ICから高速に乗り、甲府の自宅に23時過ぎに帰ってきた。
  案内いただいた奈良・Aさんと彦根市・Nさんに厚く御礼申し上げます。
 (2004年7月採集)

2. 白倉谷の灰鉄柘榴石巨晶と川迫のレインボー柘榴石を求めて【第1日】

 (1)道の駅「大淀iセンター」に集合!!
    金曜日の仕事を終え、早めに夕食を摂り、しばし仮眠。23:30に目が醒め、早速出発。
   甲府をジャスト0時に発ち、韮崎IC→小牧ICで名神→名古屋高速→東名阪と走り、針ICで
   降り、榛原を目指す頃には、夜も白々と明けはじめ、道の駅「大淀iセンター」に、5:00
   到着。走行距離420km余り。平均時速84km。
    ここで、しばし仮眠をとる。

 (2)朝市に負けず、「早朝標本玉手箱」
    やがて、朝市に農産物や地元の産品を持ち込む、人々で周囲が騒がしくなりはじめる。
   まずは、腹ごしらえ、と近くのコンビに走り、朝食と昼食を買い込む。
    そうこうする内に、初参加の愛知のITさん、案内人のAさん、兵庫のNさんご夫妻
   神奈川のMさん、愛知のHさん、京都のNさん、Yさんコンビ、滋賀のOさん、Nさんご夫妻
   そして愛知のKさん親子が到着する。
    全員が到着するまで、恒例の「早朝標本玉手箱」を開催する。

   兵庫のNさんご夫妻・・愛媛保土野のエクロジャイト、布賀のスパー石・ゲーレン石
   滋賀のNさん・・・・・秋田県川原毛の含鉛重晶石
   神奈川のMさん・・・・唐沢鉱山、妙見山、久良沢、平澤、裏半田など関東、東北の有名標本
   京都のNさん・・・・・木津川の高師小僧、稗田野の桜石、京都府道奥谷鉱山の緑重晶石
              鐘打鉱山の鉄マンガン重石
   愛知のITさん・・・・・照山のドロマイト、相木村の磁鉄鉱
   私・・・・・・・・・・利賀村の鋼玉(サファイア)、丹沢の疣石、ベスブ石

     
          朝市        「早朝標本玉手箱」
            早朝の「大淀iセンター」風景

 (3)目指せ白倉谷!!
    集合時間の8:00を過ぎても、初参加の愛知県・Oさんが来ない。この採集会は
   集合時間にパンクチュアルなのも、1つの特徴なのにおかしい。近鉄の駅に集合している
   グループもあり、いつまでも待つ訳にはいかないが、8:15迄待つことにする。
    しかし、現れない。仕方なく、出発。
   (愛知県・Oさんから、お嬢ちゃんの具合が悪くなり、急遽欠席、とのメールが入って
    いたのを帰宅後に知った。文明の利器、”携帯”を持たねばダメか・・・・・・。)
    近鉄「下市口駅」で、奈良のYさんと京都のKさんをピックアップし白倉谷に向かう。

 (4)白倉谷鉱山

    @産地
     静岡県の石友・Kさんが送ってくれた1986年発行の「京都地学会会誌」の抜刷りに
    よれば白倉谷鉱山には、第1鉱床と第2鉱床があった。今まで標本が出回っていたのは
    第1鉱床産の大きな灰鉄柘榴石で、第2鉱床の存在は知られていたものの、このように
    フィーバーしたのは、今回が初めてらしい。

   白倉谷鉱山

     白倉谷にそって、林道を進むと、林業用のモノレールがある。これに捉まりながら
    急斜面を150mものぼると等高線に沿った平坦な作業用の道がある。
     滋賀県のOさんが、1週間ほど前に、子連れの月の輪熊を見たとのことで
   『熊注意』の看板が杉木立に結わえてある。
     300mも進み、踏み分け道を100mも登ると、もう1本作業用のほぼ平坦な道が
    あり、100mも行って、沢を直登して、尾根を目指す。
     急坂になっている尾根を250mも行くと産地である。

     
    レールに捉まりながら       「熊注意」に脅えながら
            白倉谷を目指す参加者

    A産状と採集方法
     ここは、植林された桧林で、表面にはズリ石らしいものも殆んど見られず、鉱山跡の
    様には思われません。
     ここでは、表土の下にある、露頭が崩落したガレを掘り返して採集します。場所によって
    ”ザラザラ”と”ピカピカ”の柘榴石があるようです。
     行動力のある神奈川・Mさんが付近一帯を歩き回って探査した結果、柘榴石が採集できる
    のは、この西側斜面にだけのようです。

        
      ”どないでっか”        巨晶のはずなのに??    心地良い風を受け休憩
                       採集風景

     B採集鉱物
     ここで採集できるのは、灰鉄ザクロ石【Andradite:Ca3Fe2(SiO4)3】と、ごくごく稀に
    米水晶だけです。
     柘榴石は”ザラザラ”と”ピカピカ”の2通りあり、圧倒的に”ザラザラ”が多い。
    愛知のHさんから、『洗ったら綺麗になるかと思ったが、ダメ』とのメールをいただいた。
    滋賀県のNさんからは、『ピカピカの群晶が1つ』との葉書をいただいた。
    大勢訪れているため、大きなものは、メッキリ少なくなり、完全12面体採集に
    方針変更した方が多かった。

     
        ”ピカピカ”           ”ザラザラ”
                 灰鉄ザクロ石

 (5)川迫のレインボー柘榴石を求めて
     集合した時点で、案内人のAさんから見せていただいた「レインボー柘榴石」は
    今まで見たり聞いたりしていたものと、全く違っていた。
     今まで、レインボー柘榴石は、結晶粒界面や結晶のひび割れで生じた隙間での光の
    干渉で、”遊色”を示すものだと思い込んでいた。
     しかし、見せていただいたものは、光を全反射して、銀白色に見え、あたかも
    ”真珠”を思わせる光沢を示していた。

    @産地
     静岡県の石友・Kさんが送ってくれた1986年発行の「京都地学会会誌」の抜刷りに
    よれば川迫(こうせ)鉱山への道順は、次のように記されている。

     『布引谷と小坪谷の合流点にある吊橋を渡り、小坪谷右岸の行者還岳への登山道を
      約15分進むと、谷は二股に分かれる。東南側は本流の小坪谷で、東北側は
      水の無い薄暗い支谷であり、登山道は後者の谷に沿って登っていく。
      鉱山はこの二股付近にあったらしいが、施設の跡やズリらしいズリは無い。
      しかしこの二股近くになると、登山道には柘榴石の分離結晶がころがっており
      このあたり一帯には灰鉄輝石の大塊や柘榴石、磁鉄鉱などが点々と見られる。』

    A産状と採集方法
     「京都地学会会誌」にもある通り、ここは、鉱山施設の跡やズリらしいズリは無い。
     従って、試掘的に露頭を掘った、自然に露頭が崩落した、あるいは鉱物採集者が露頭を
     掘ったの何れかでしょう。
      レインボー柘榴石は、明らかに最近鉱物採集者(達?)が掘り崩した露頭とその
     ズリ周辺でのみ採集できます。
      従って、ここでの採集は、先人が掘った露頭を続けて叩くか、新しい露頭を自力で
     発見するか、はたまたズリ(自然崩落?)と思しき場所で表面採集するかです。

     B採集鉱物
    ここでは、灰鉄ザクロ石、灰鉄輝石、緑水晶、そして珪灰鉄鉱などが採集できる。
    レインボー柘榴石なるものは、極限られた場所でのみ採集可能である。

       
         採集風景        レインボー柘榴石
              川迫(こうせ)採集

    神奈川・Mさんと初参加の奈良・Hさんが、緑水晶の素晴らしい群晶を採集し、参加者の
   垂涎の的となったが、これは、Mさんの行動範囲の広さと初参加Hさんの”ビギナーズ・ラック”
   の賜物でしょう。

 (6)奈良の夜は更けて
     川迫の産地で解散し、宿泊組(兵庫・Nさんご夫妻、愛知・H氏、京都・K氏と我々夫婦)は
    Aさんの先導で、奈良市新大宮の宿に向う。
     ホテルでチェックインの後、近くの中華料理店で、生ビールを飲み、今日一日で失った
    水分を補給する。
     ホテルに戻ると、早朝出発の睡眠不足と採集の心地よい疲れで、Z z z z z 。

3. 田上山のペグマタイト鉱物を求めて【第2日】

 (1)「田上公園」に集合
    奈良を7時に発ち、京滋バイパスの「石山」でおり、「田上公園」に8時チョット過ぎに
   到着した。しかし、私のイメージしていた「田上公園」と違う。どうやら、田上公園は
   天神川を挟んで2箇所あるらしく、「キャンプ場」(左岸)と「田上公園」(右岸)に
   分かれて皆さんの集合を待つことにする。
    私は、待ち時間の間に、鉱物採集フィールドガイドに載っている「田上鉱物博物館」
   の様子を見に行ったところ、最近、開館しているのか、不明の状態であった。

   「田上鉱物博物館」

    やがて、当日集合組の滋賀のNさん、名古屋のIさんが到着、参加不確定だった三重の
   Mさんは、来ないものと判断し、出発する。

 (2)「中澤晶洞」での採集

   @産地

    天神川に沿った道を上流に向かうと、ゲートがあり、その手前に駐車し、そこから林道を
   約3.5km歩く。その途中で、年配者に引率された地元の平均年齢20歳台のグループに追い
   越される。平均年齢50歳超の我々一行としては、競争できる相手ではない。
    ほぼ、中間点あたりに、遠くに琵琶湖を望む景色の良い場所があり、ここで休憩をとる。
   (実際は、ここまで来る間に既に何回も休憩している。)

   参加者一行【琵琶湖を望む】

    林道の終点から、一旦谷に降り、沢筋を上流に向かうと、ペグマタイトのカケラがアチコチに
   散乱している。目を凝らして探すと、トパーズ、煙水晶、チンワルド雲母が見つかる。
    やがて、急な坂を登ると「中澤晶洞」がポッカリと口をあけて、出迎えてくれた。

   中澤晶洞

    晶洞の大きさにビックリ。中澤氏が、数100kgの標本を運び出したというが、納得。
   われわれがひと採集終えて昼食を食べていると、我々を追い越した若者グループが
   晶洞前に到着。話を聞くと道を間違えて違った尾根まで行って戻って来た、とのこと。
    やはり、若さも大事だが”年の功”が勝る事を知り、一段と元気付いた50歳台グループ。
   余裕で、若者達にトパーズと水晶の見分け方を講釈してあげた。
    これも、産地を熟知しているAさんとNさんの案内のお蔭と、改めて感謝する次第であった。

   A産状と採集方法
    晶洞の前には、ズリが広がっており、そこでトパーズ、煙水晶、各種の雲母などの
   ペグマタイト鉱物を採集できます。晶洞の中も見たたが、採集は晶洞前のズリの
   方が良さそうです。

   B採集鉱物
    ペグマタイト鉱物が一通り採集できます。とりわけ、トパーズに人気が高いようです。

   晶洞からでたと思われるガマ粘土が薄っすら残った煙水晶もあります。
    他の産地では見つけるのが大変なチンワルド雲母は、掃いて捨てるほどあります。

     
    トパーズ【頭付き】       煙水晶
         田上山・中澤晶洞の採集品

 (3)不動寺での採集
    皆さん目的のトパーズを採集し、意気揚揚と引き上げた、と言いたいが、3.5kmの
   林道は長い。林道脇の涌水で喉を潤し、”ヘロヘロ状態”で駐車場に戻る。
    車に乗り込むやいなや、大粒の雨が降り出した。一旦、「田上公園」に戻りトイレ休憩。
   兵庫の石友・Nさんの奥さんのご託宣(祈り?)通り、すっきりと雨も上がり、このあたりを
   自分の庭のように熟知している彦根のNさんの先導で、私も真っ青のものすごいスピードで
   不動寺に向かう。

    @産地
     産地の詳細については、他のHPにも掲載されていますので、割愛させていただきます。
     ここには、2つの産地が近接してあり、大分走ったように感じていたが、帰宅して
     「ペグマタイト」誌に掲載された地図をジックリ見てみると、中澤晶洞から直線距離で
     1km余りしかない。

                  産地A:トパーズとマンガノコルンブ石
      産地B:電気石入り水晶

       
  産地Aの坑道【名古屋・Iさん】         産地B
         不動寺のペグマタイト鉱物産地

    A産状と採集方法
     いずれも、花崗岩中のペグマタイト脈で、先人が掘り崩したズリの土砂をフルイ掛けや
     パンニングで目的の鉱物を探します。
     産地Bには、”川流れ”の大きな水晶や煙石英塊が落ちており、付近を探査すれば
     面白いものもありそうである。

   不動寺採集風景

       B採集鉱物

       
  コルンブ石【現金採集品】    トパーズ
           産地Aの標本

   電気石入り水晶【産地Bの標本】

(4)いざ帰りなん
    やがて、辺りも薄暗くなり、ここで、2日間の採集会の幕を閉じることになった。
   いつもながら、後ろ髪を引かれる想いで産地を後にし、栗東ICから高速に乗り、多賀SAで
   夕食を摂り、甲府の自宅に23時過ぎに帰ってきた。
  

4. おわりに

(1)最近、ご当地の皆さまに、地元の産地を案内していただくスタイルが定着しつつある。
   前回の中部支部(?)主催の「戸沢鉱山と蛭川村」に続いて、今回は関西支部主催の
   ミニ採集会であった。
    自分の庭のように熟知しているメンバーの案内で、その産地の代表的な標本を全員が
   採集でき、さらにこれだけの人数で訪れると、地元の方でも眼にすることが稀な佳品を
   誰かが採集し、それを見て、”眼の保養”をさせていただくとともに、採集意欲を掻き
   立てられた。
    案内いただいた、地元奈良のAさんと彦根のNさんに、改めて御礼申し上げます。
(2)10年近く前に訪れ、長石のカケラと雲母片しか採集できなかった田上山で「中澤晶洞」を
   訪れることができ、感謝しています。
    これで、日本の3大ペグマタイト産地と呼ばれる「福島県石川地方」「岐阜県中津川
   蛭川村」そして「滋賀県田上山」を全て訪れることができた。
(3)今回は、ダイジェスト版を作成しましたが、それぞれの産地の詳報を逐次掲載する予定です。
(4)次回は、甲信越支部(?)主催の「甲武信鉱山と川端下の鉱物を訪ねて」でお会いできるのを
   楽しみにしています。

5. 参考文献

1)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂,1994年
2)京都地学会会誌,1986年
3)高田雅介:滋賀県田上山にトパーズを求めて−その1‐,ペグマタイト,2004年
4)高田雅介:滋賀県田上山にトパーズを求めて−その2‐,ペグマタイト,2004年
5)草下英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
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