2004年6月 ミニ鉱物採集会「ベルチェ鉱の古里と蛭川村の有名・無名鉱山を訪ねて」<BR>                  【ダイジェスト版】

           2004年GW鉱物採集会
    「ベルチェ鉱の古里と蛭川村の有名・無名鉱山を訪ねて」
             【ダイジェスト版】

1.初めに

 私のHPを見て頂き、産地の情報を提供したり、案内して差し上げた人たちと
採集会を開催するようになって、4年目を迎えた。
 最近では、参加メンバーが新たに開拓した産地を案内していただくスタイルに
変貌しつつある。
 2004年6月ミニ鉱物採集会は、「ベルチェ鉱の古里と蛭川村の有名・無名鉱山を訪ねて」と
題して、愛知県の石友・HさんとIさんに案内していただいた。
 案内人のHさんから参加者には、次のようなメールが入っていた。

 「雨男」が御案内させて頂きますので、まず”雨”の採集会に成ると諦め下さい。
 「”テルテル坊主”」を軒下に吊るして、少なくとも前前日から「曇り空」に成ることを
  皆さんとお祈りしたい・・・。

 事実、台風4号が近づいており、90%以上雨の覚悟でいたが、名古屋の石友・Sさんも
”晴れ男”とのことで、霧雨が降ることはあったが、時折晴れ間も見えるほどで、相変わらず
”晴れ男健在”でした。
 ベルチェ鉱の古里とは、「恵那山」の長野県側山麓”高野谷”沿いにある「戸沢鉱山」で
この鉱物が日本で最初に発見された産地です。
 「ベルチェ鉱」は全員採集できたと思います。露頭では晶洞の中から柱状結晶も採集できた。
 蛭川村の有名鉱山として「遠ヶ根鉱山」「恵比寿鉱山」そして愛知・Iさんが発見した無名鉱山を
訪れた。
 無名鉱山では、名古屋・Sさんの奥さんが素晴らしい「平板水晶の上のトパーズ」を採集し
”エヘン”ものです。
 遠ケ根鉱山の「砒鉄鉱」も全員採集できたと思います。これは、有名鉱山の標本なので1つ
持っていれば十分でしょう。
 恵比寿鉱山では、神奈川・Mさんが鉄マンガン重石を伴う晶洞の中のトパーズの良品を発見し
文字通り”ヱビス顔”でした。これは、Mさんの行動力(産地での嗅覚)の賜物でしょう。
 17時過ぎ、恵比寿鉱山で、次回の採集会でお会いするのを楽しみに、お別れした。
 案内いただいた、HさんとIさんに改めて、御礼申し上げます。
(2004年6月採集)

2. 園原IC出口に集合

   園原ICは、高速道路でも変わったICで、名古屋方面は乗り降りできるが、東京(諏訪)方面
  は乗り降りできないとのこと。私たち夫婦は、4:30に甲府の自宅を出発し、茅野→
  高遠→伊那→飯田→昼神温泉→園原ICと、下道を走り、7:30に到着した。
   既に案内人のHさん、神奈川・Mさん、木曾福島・Iさんが到着している。
   Iさんが、「中川に見て欲しい標本がある」と取り出したのは「小川山の水晶」で、薄っすら紫色で
  何処となく「紫水晶」に近い。太陽光の下ではハッキリしないが、蛍光灯の下では間違いなく
  薄紫色とのこと。これで3人が「小川山の紫水晶」を採集したことになる。
   程なくして、名古屋・Iさんそして名古屋・Sさん家族も到着する。
   参加者全員9名が揃い、今日の案内人HさんとIさんから予定が発表され、直ちに戸沢鉱山に
  向かって出発する。

3.戸沢鉱山のベルチェ鉱

 3.1 産地
    戸沢鉱山は、岐阜県との境、長野県阿智村「赤なぎ沢川」沿いにあった幾つかの鉱山の
   総称のようです。
   「赤なぎ沢川」に沿って林道(黒沢山林道?)を上流に向かうと、ゲートがありその手前に
    駐車します。
     ゲート脇には、最近建てられたと思われる『戸沢鉱山跡について』という看板が
    あり、鉱山の歴史、産状、産出鉱物について記述してあります。

    『戸沢鉱山跡について』

    ここから、林道を歩き、約25分で、産地Aの沢の入口に到着します。

    産地A入り口

 3.2 産状と採集方法
     産地Aは、坑道前のズリが沢に流れ込んだと思われ、銀黒様の黒い筋が入った 珪質塊を
    只管(ひたすら)叩き割って、輝安鉱(ベルチェ鉱)を探します。
     産地Bでは、看板の説明にあった粘土を挟む石英脈が見られ、石英脈の中に輝安鉱の脈や
    極稀に晶洞が見られます。

       
          産地A       産地B【白いのはほぼ垂直な石英脈】
                 戸沢鉱山採集風景

 3.3 採集鉱物
        ここで採集できるのは、輝安鉱(ベルチェ鉱)とそれらが変質した2次鉱物の黄安華です。
    輝安鉱とベルチェ鉱は肉眼での鑑定は困難で、戸沢鉱山で採集したもので、何となく
    ”赤錆”を伴うものは、ベルチェ鉱と判断して良いと思います。

       
 輝安鉱(ベルチェ鉱)【柱状結晶】        黄安華
                戸沢鉱山標本

3.蛭川村の無名鉱山

 3.1 産地
    再び「園原IC」に戻り。中央道にのる。恵那山トンネルをくぐり、「神坂(みさか)PA」で
   休憩。ベルチェ鉱と輝安鉱を見分ける実験を行うが、うまくいかず。
    (HPに、見分け方を掲載する予定です。)
    中津川ICを出て、愛知・Iさんの案内で、「無名鉱山」に向かう。林道を登り、見晴らしの良い
   開けた場所にあった。ここで、昼食を摂りながら、1時間の予定で採集にかかる。
    ここは、行政区域としては、中津川市になるようです。
    みなさん、ここぞと思う場所に狙いを定め、試合開始。私は、前半30分を露頭叩き
   後半30分をズリ堀りと決めてかかる。
   (このように時間を決めて採集すなど、我ながら珍しい行動パターンだな、と思っていました。)

       
             露頭       ズリ【愛知・Sさんご夫妻】
                無名鉱山採集風景

 3.2 産状と採集方法
    ここには、石英脈を含む露頭があり、それらを珪石を目的に採掘したか、林道工事に
   伴って崩されたのか良く分かりませんが、ズリ石が林道下に広がっています。
    露頭には、ほぼ水平の石英脈があり、その赤褐色に汚れた部分に「鉄マンガン重石」が
   含まれていることが判明した。
    この部分を、タガネとハンマーで掻きとります。

    鉄マンガン重石を含む石英脈

     30分経って、ズリに移動すると、Sさんの奥さんが、「見て欲しいものがある」と
    差し出したのは、平板水晶の上に生成したトパーズで、輝き、バランスが何とも言えない
    まさに逸品である。

 3.3 採集鉱物
    ここで採集できるのは、水晶、トパーズなどの珪酸塩鉱物と鉄マンガン重石などの
   タングステン酸鉱物を含む、所謂「ペグマタイト鉱物」である。

 (1)トパーズ【Topaz:Al2SiO4(F,OH)2】
     1cm未満の柱状結晶で水晶の上などに産出する。C軸に並行に条線があることと
    水晶と違った透明感、輝き(高い屈折率)で区別できます。

    トパーズ【採集,撮影:Sさんの奥さん】

 (2)水晶【Rock Crystal:SiO2】
     水晶には、透明〜茶〜黒まであり、「山入り」もあった。

    水晶【子持ち】

 (3)鉄マンガン重石【Wolframite:(Fe,Mn)WO4】
     外側は赤褐色の鉄錆が見られ、劈開が強く、割れ口は黒色・亜金属光沢を示す。
    採集した標本を、参加者に手に持ってもらいその”重さ”から、「重石」の名前の由来を
    体感してもらった。

    鉄マンガン重石

4.遠ケ根鉱山
 4.1 産地
    加藤・松原・野村先生による「鉱物採集の旅 東海地方を訪ねて」に記載してある有名な
   産地ですので、場所はこれらの文献を参考にしてください。
    しかし、近年道路が新しくできて、昔の地図は役に立たないかも知れません。

 4.2 産状と採集方法
    ここは、石英斑岩の中の石英脈に砒鉄鉱、鉄マンガン重石などを産出した。案内のHさんに
   よれば、それらのズリ石が、3ケ所にあり、そのどこでも同じような鉱物が採れる様です。
    ズリ石のうち石英を含むものを叩き割って、新鮮な結晶面を出します。

    採集風景【ズリC】

 4.3 採集鉱物
    ここで採集できるのは、砒鉄鉱とその2次鉱物のスコロド石、鉄マンガン重石、自然蒼鉛
   などで、砒鉄鉱はふんだんにありますが、蒼鉛鉱物は採集できなかった。

 (1)砒鉄鉱【Loellingite:FeAs2】
     ズリにある表面には黄褐色の鉄錆が見られ、割ると劈開が強く、新鮮な面は銀白色で
    金属光沢を示す。硫砒鉄鉱と似ているが、ここのものは、「砒鉄鉱」としておきます。

 (2)鉄マンガン重石【Wolframite:(Fe,Mn)WO4】
     外側は赤褐色の鉄錆が見られ、劈開が強く、割れ口は黒色・亜金属光沢を示し
    大きなものは数cmの長さがある。砒鉄鉱と石英を挟んで共生するものもあり
    生成のプロセスを暗示しています。

    砒鉄鉱と鉄マンガン重石

 (3)スコロド石【Scorodite:FeAsO4・2H2O】
     砒鉄鉱のように砒素(As)を含む鉱物が分解してできる2次鉱物で、普通は皮膜状で産出
    することが多いが、石英や砒鉄鉱の晶洞部分に、灰緑色をした結晶がみられることがある。

    スコロド石【自形結晶】

5.恵比寿鉱山
 5.1 産地
    ここも「鉱物採集の旅 東海地方を訪ねて」に記載してある有名な産地です。

 5.2 産状と採集方法
    ここは、石英斑岩の中の石英脈に鉄マンガン重石、輝水鉛鉱などを産出した。案内のHさんに
   それらのズリの1つに案内して頂き、ズリの表面採集やズリを掘りながらの採集です。

    採集風景【Sさんの奥さんと愛知・Iさん】

 5.3 採集鉱物
    輝水鉛鉱は比較的ふんだんにあり、鉄マンガン重石はやや少なく、蛍石、トパーズが稀にあり
   緑柱石も確認しています。

 (1)輝水鉛鉱【Molybdenite:MoS2】
     石英の上に、板状結晶が重なり合って褶曲した集合体としてみられ、鉛灰色で軟らかく
    指で触れると、”スベスベ”した感触で、指先が黒く汚れる。

    輝水鉛鉱

 (2)鉄マンガン重石【Wolframite:(Fe,Mn)WO4】
     石英脈や晶洞の中に、黒色・板状の結晶として見られる。

    鉄マンガン重石

 (3)トパーズ【Topaz:Al2SiO4(F,OH)2】
     頭の尖った柱状結晶で産出する。鉄マンガン重石を伴う晶洞には高い確率で、トパーズが
    見られる。
     Mさんが採集したトパーズの良品もそのような産状を示す。
     C軸に並行に条線があることと”キラキラ”と特有の輝き(高い屈折率)で区別できます。
    愛知・Iさんは、石英塊の中に、小さな庇面を示すトパーズを発見した。

    トパーズ【採集,撮影:Mさん】

 (4)蛍石【Fluorite:CaF2】
     脈状あるいは結晶として産する。色は無色と紫がある。木曾福島・Iさんが採集したものは
    紫色で、私の妻が後々まで言っていた、綺麗な標本である。

    蛍石【採集,撮影:木曾福島・Iさん】

6.おわりに

 (1)2003年6月のミニ採集会は、「ベルチェ鉱の古里と蛭川村の有名・無名鉱山を訪ねて」で
    それぞれの産地で、誰かが良品を採集でき、案内していただいたHさんとIさんに厚く
    御礼申し上げます。
 (2)私たち夫婦は、採集会の後、蛭川村の「紅岩山荘」に宿泊した。次の日、私だけ朝4時に起き
    「恵比寿鉱山」を再度訪れ、トパーズや「地学研究」に報告のある緑柱石など
    代表的な標本を一通り採集できた。(別途HPに報告予定)

7.参考文献

1)益富地学会館編:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
2)加藤昭・松原聡・野村松光:鉱物採集の旅 東海地方を訪ねて,築地書館,1983年
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