レア・アース狂想曲











                 レア・アース狂想曲

1. はじめに

    新年明けましておめでとうございます。


    2011年も、皆様にとって良い一年になるよう、祈っています。

     
                2011年新春の富士
                【自宅の庭から】

    2010年のわが家の出来事を振り返ってみると、2月2番目の孫娘誕生、3月千葉県へ
   の2度目の単身赴任に始まり、11月初孫の1歳の誕生祝いなどなど、相変わらずにぎや
   かな一年だった。

    そんな訳で、2010年の採集品の主なものが、『現金採集品』 になってしまった感は否
   めず、年賀状もそれを反映したデザインになった。

     
               2011年 鉱物年賀状

    2010年の鉱物は、私の蒐集ジャンルの1つ「希元素鉱物」と一部重なる『レア・アース
   (希土類元素)』
だと思っている。

    2010年10月、尖閣列島の日本領海に侵入した中国漁船の船長逮捕を受け、中国が日
   本向けのレア・アース(希土類元素)の輸出をストップするという対抗措置にでた。
    レア・アース産出量の90%(正確には97%、つまりほとんど)を中国が占めている、と
   言われる。
    レア・アースを止められると、日本の最先端技術に支えられた輸出産業は大打撃を受け
   ることになり、中国人船長を釈放せざるを得なかったようだ。
    政府は秘密扱いで公開しないと言ったにもかかわらず、中国船が巡視艇に衝突する様
   子を写したビデオ画像が、海上保安官の手でネット上に流出したのは、皆さんご承知の
   通りだ。

    レア・アースが騒がれるようになって間もない2010年10月、千葉県の県立高校のT先生
   から、「生徒たちを、レア・アースを含む「希元素鉱物」が採れる場所に連れて行きたい」、
   と相談のメールがあった。

    「希元素鉱物」の産地として、@ 福島県石川地方 A 岐阜県苗木地方 が双壁だが、
   千葉県から交通の便の良い B 茨城県高萩地方 をお勧めした。

    間もなく、不明標本の画像と共に、産地を訪問した結果のメールをいただいた。鑑定結
   果、標本は「鉄礬ザクロ石」で、どれが希元素鉱物なのかハッキリしなかったようだ。
    そこで、私の単身赴任先に来ていただき、@ パンニングによる重鉱物の採集デモ
   A 実体顕微鏡を使っての希元素鉱物の鑑定・選別 などを見ていただき、B 以前
   採集した代表的な希元素鉱物標本を差し上げた。
    地方の高校の先生が、生徒たちと一緒に現地を訪れ、現物を通して「レア・アース」を理
   解させようと努力しているのに、何かお役に立ちたかったからだ。

    鉱物学者と呼ばれる人たちは、このレア・アース騒ぎの中で、何か有用な発信をしてい
   るのだろうか。中国人船長逮捕・釈放をめぐって露呈した稚拙な外交交渉能力しか持ち合
   わせていない無能、責任は他部署に押しつける無責任な政治家・官僚と同じ体質がこの
   国を覆っていないか、気になる2010年だった。
    ( 2011年1月 情報 )

2. レア・アースとは

    レア・アースとは、希土類元素(きどるいげんそ、rare earth elements)のことで、スカン
   ジウム 21Sc、イットリウム 39Y、ランタン 57La からルテチウム71Lu までの「ランタノイド」
   と呼ばれる17元素からなるグループである(元素記号の左下は原子番号)。
    周期表の位置では、第3族のうち第4周期から第6周期までの元素である。希土類・希
   土とは、希土類元素の酸化物である。

    
                  元素の周期律表

   レア・アースと呼ばれる元素名と原子番号を下の表に示す。

     「レア・アース」

    これを見ていただくと、Y(イットリウム)とその兄弟(姉妹?)が多数含まれているようだ。
   これらについては、暇があれば、次のページを読んでいただきたい。

    ・” Y ”のはなし
     ( Story of " Y " ( Yttrium ) , Yamanashi Pref. )

3. レアアースは本当にレアか?

 3.1 希元素の定義
   長島乙吉、弘三氏による「日本希元素鉱物」では、”希元素”を次のように定義している。
   (1) 地殻中の存在量の少ない元素
   (2) 存在量はやや多くても、まとまった鉱床を造ることが少ない元素

 3.2 元素の存在度
    アメリカの地球化学者・クラーク(1847-1931)は、多くの火成岩、堆積岩、海底堆積物
   などの分析例から、それらの化学組成をを定め、地殻の化学組成を推定した。地下16q
   までの元素の重量百分率を”クラーク数( Clarke number )”という。当時は、地殻の定義
   が不明確であったことなどから、現在ではあまり使われていない。
    彼の考え方はその後も引き継がれ、現在では、”元素の存在度”から、より厳密な存在
   量を知ることができる。

    ここに、「元素の存在度」を一部引用してみる。

区分 原子番号 元素記号 元素名 地殻の存在度(ppm) 金と比較した
存在比(倍)
レア・アース 21 Sc スカンジウム 22 5500
39 Y イットリウム 33 8250
57 La ランタン 30 7500
58 Ce セリウム 60 15000
59 Pr プラセオジム 8.2 2050
60 Nd ネオジム 28 7000
61 Pm プロメチウム (人工的に存在)
62 Sm サマリウム 6 1500
63 Eu ユロピウム 1.2 300
64 Gd ガドリニウム 5.4 1350
65 Td テルビウム 0.8 200
66 Dy ジスプロシウム 4.8 1200
67 Ho ホロミウム 1.2 300
68 Er エルビウム 2.8 700
69 Tm ルリウム 0.5 125
70 Yb イッテルビウム 3 750
71 Lu ルテチウム 0.5 125
貴金属 78 Pt 白金(プラチナ) 0.01 2.5
79 Au 0.004 1

    この表から、次のようなことが判る。

    @ レア・アースと呼ばれている元素は、私たちが、稀少なるが故に価値を見出している
      金(Au)に比べ数100倍〜数万倍も多く地殻に含まれている。
       そういう意味では、”希な元素ではない。”

       金は、殻中の存在度は少ないにもかかわらず、砂金として漂砂鉱床を形成したり、
      石英の中に銀黒脈として濃集しているので、比較的容易に採掘できている訳で、知
      らず知らずのうちに、自然の営みの恩恵を受けている。

    A 問題なのは、”偏在”していることだろう。日本は狭い国土の割に、『金銀国日本』
      と呼ばれた時期があり、金・銀・銅などは輸出するほどだった。
       しかし、レア・アースのほとんどを輸入に頼っている。中国は世界の生産量の97%を
      占めており、インド、北アメリカ、旧ソ連諸国、アフリカなどにも豊富な埋蔵量がある
      ようだ。
       このように、偏った地域にあるのは、地球が生まれてから数十億年の歴史がそう
      させている訳で、如何ともしがたい。

4. レア・アースの用途と代表的な鉱物

    これだけ騒がれているレア・アースなのだが、それらがどのような用途に使われている
   のか、ご存知ないかたも多いはずだ。(不肖、私もその1人)
    下の表に、レア・アースの用途、レアアースを含む代表的な鉱物をまとめてみた。

元素記号 元素名        用          途 代表的な鉱物
Sc スカンジウム                  
Y イットリウム 赤色蛍光体、2次電池電極 フェルグソン石-(Y)
La ランタン 光学レンズ、セラミックコンデンサー、蛍光体 La弘三石
Ce セリウム ガラス研磨剤、UVカットガラス Ceフローレンス石
モナズ石-(Ce)
Pr プラセオジム Nd焼結磁石         
Nd ネオジム Nd焼結磁石、セラミックコンデンサー Nd弘三石
Pm プロメチウム                  
Sm サマリウム SmCo磁石         
Eu ユロピウム 赤色蛍光体         
Gd ガドリニウム 光学ガラス、原子炉の中性子遮蔽材 ガドリン石
Td テルビウム 緑色蛍光体、Nd焼結磁石         
Dy ジスプロシウム Nd焼結磁石         
Ho ホロミウム レーザー関係、磁性超伝導体         
Er エルビウム クリスタルガラス着色剤         
Tm ルリウム レーザー関係         
Yb イッテルビウム レーザー関係         
Lu ルテチウム シンチレーション         

    用途を見ると、電池、磁石などはハイブリッドカーや携帯電話などの通信に、研磨剤は
   半導体や光学レンズ製造、蛍光体は各種ディスプレイに、そのほか、原子炉、超電導体
   など最先端産業や研究に使われている。
    宝飾品に使われる金や白金などと違い、どこに使われているか言われなければ判らな
   い、『裏方』に徹している。

    ミネラル・ウオッチングになじみがあるのは、「ネオジム磁石」と呼ばれる強力な磁石だ
   ろう。「ネオジム磁石」と呼んでいるが、「ジスプロシウム」や「プラセオジム」を混ぜて焼き
   物のように焼き固めて作るようだ。

    レア・アースを含む鉱物を思いつくままに上げてみたのだが、Y(イットリウム)やCe(セリ
   ウム)を含む鉱物は何種類か思いつくが、それ以外の元素では全く思いつかないものが
   ほとんどだ。
    国内では、レア・アーを含む鉱物そのものが希産なことから、埋蔵量もごくわずかなこと
   が理解できるだろう。

    つい2ケ月ほど前、テレビで北アメリカのレア・アース鉱床を放映していたが、古い時代の
   堆積岩の中にレア・アースが含まれているようだ。
    北アメリカの鉱床もそうだが、放射性元素のトリウム(Th)と一緒に産出するので、トリ
   ウムをうまく利用できれば、レア・アースを中国だけに頼らずに済むという見通しが出て
   くるようだ。

    マイ・コレクションにある、レア・アースを含む鉱物を下の写真に示す。
   ピンク、オレンジ、緑など色とりどりで、美しい鉱物が多いのが特徴だ。ただし、惜しむらくは
   大きさが数ミリしかない。

       
          フローレンス石-(Ce)                  モナズ石-(Ce)
           長野県金鶏鉱山                  福島県川辺鉱山

       
            ガドリン石                     フェルグソン石-(Y)
           山梨県黒平                      茨城県大能

5. おわりに

 (1) レア・アースから思い出すこと その2
      レア・アースから思い出すこととして、私がいたH製作所が昭和40年代に発売したカ
     ラーテレビ「キド・カラー」の話を以前のHPに載せたところ、同じ会社にいた石友・H氏か
     ら、「勤務していたT工場の上空を飛行船が通過したとき、勤務時間中だったが従業員
     の多くが屋上に出て空を見上げていた。管理者のだれも文句を言わなかった」、とメー
     ルをいただいた。

      そのH製作所は、2010年に創業100周年を迎えた。記念の年を祝うにふさわしく、業
     績はV字回復し、株主には創業100周年記念配当2円を含め、1株あたり5円の配当金
     があった。
      送られてきた中間報告書には、「創業100周年記念特集」として、写真で振り返る日立
     というページがあり、そこにHPで紹介した飛行船「キドカラー号」とオールトランジスタカ
     ラーテレビ「ポンパ」が並んでいるので、実物をご覧になったことのないかたのため紹介
     する。( 生まれていなかった読者も多いはず )
      これによると、私が入社して間もない昭和43年、45年のことだったが、仕事で関係が
     あったので鮮明に記憶していた。H製作所としても画期的なことだったようだ。

       
                      「キドカラー号」と「ポンパ」
                       【中間報告書から引用】

 (2) 『厚黒学(こうこくがく)』
      そのH製作所には、『和を以て貴しとなす』、という社是(社訓?)があった。(ある?)
     明治43年(1910年)、小平浪平が茨城県にH製作所を作ったとき、集まった従業員は
     野武士と呼ばれる面々で、まとまりがなく、困り果てた浪平は『和』という社是をこしらえ
     た、と副社長から聞いた記憶がある。
      『和』がある会社なら、改めて社是や社訓にする必要がないというわけだ。
      ( 私たちが若いころ、「日立野武士、三菱殿様、松下商人・・・・」と言っていた。)

      2010年日本はGDP世界第2位の座を中国に明け渡した。尖閣列島の問題1つにして
     も、中国と言いう国家、中国人という人種を相手に打ち負かさなければ、解決しない。

      千葉の会社で、海外の系列会社の社長をやられた方と席を並べて仕事をさせていた
     だいている。先月、その方から中国人の本質の一面をとらえた李宗吾の「厚黒学(こう
     こくがく)」という本があると教えていただき、古書店から取り寄せた。

      李宗吾は、1879年に中国四川省に生まれ、抗日戦のさなか1943年、64歳で亡くなっ
     た。1912年「厚黒学」を成都の「公論日報」に連載したところ、「李宗吾は狂っている」と
     ごうごうたる物議をかもし、掲載を中止した。
      そのときまでに執筆してあった、「わが聖人への懐疑」は発表の場を失った経緯が
     ある。

      「厚黒学」とは、一言でいえば、『厚かましく腹黒く生きよ』、ということだ。

       第1歩・・・・・・厚きこと城壁のごとく、黒きこと石炭のごとし
       第2歩・・・・・・厚くてしかも硬く、黒くてしかも光る
       第3歩・・・・・・厚くてしかも形なく、黒くてしかも色なし

       中国の指導者の多くが第3歩まで達している(かのように装っている?)のに、政権
      を途中で投げ出した安倍、福田、鳩山などは『紙のように薄っぺらで白い』、としか映
      らない。菅にしても似たようなもので、これでは、赤子の手をひねるようにコロリとやら
      れてしまうのが当たり前だ。
      ( 今の政治家の中で、中国側から見てタフなネゴシエイター(手強い相手)となれる
       可能性があるのは、『鉄面皮で、腹黒い』とされるあの人しかいないのだが、大方の
       日本人の受けが良くない。
        強い駒を使わず幽閉して、将棋に勝てる訳がない、と思うのは、「厚黒学」に染まっ
       た私の邪念なのだろうか )

6. 参考文献

 1) 藤浪 紫峰
    桜井 欽一:おにみかげ紀行 我等の鉱物,昭和8年〜昭和9年
 2) 長島 乙吉、弘三:日本希元素鉱物,日本礦物趣味の会内
                長島乙吉先生祝賀記念事業甲斐、昭和35年
 3) 長島 乙吉:苗木地方の鉱物,岐阜県中津川市教育委員会,昭和41年
 4) 草下 英明:鉱物採集フィールド・ガイド,草思社,1988年
 5) 李 宗吾著、尾鷲 卓彦訳:厚黒学,徳間書店,1998年
 6) 日立製作所編:第142期 中間報告書,同社,2010年
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