パンニングは、重さの違いを利用して有用鉱物だけを選択的に採集する
「比重選鉱法」の一種である。従って、このやり方は、対象とする鉱物(宝石)
種こそ違え、全世界で広く行われている手法である。
そんなことから、パンニングの世界大会が毎年開かれるなど、趣味と実益を
兼ねた(?)スポーツともなっている。
さらに、パンニングは各国の産業風俗としても定着し、「パンニング」を描いた
切手が現在でも多くの国々から発行されている。下の切手は、2005年8月に
ブラジルが発行した、「ポルトガルがブラジルで採掘した砂金を運搬する
ルートとなった街道” Estrada Real ”」を描く3枚横連刷で、左端にパンニング
する労働者と採集した宝石(ダイヤモンド?)が描かれている。
ブラジルでは、このようにパンニングして鉱物や宝石を採集する労働者を
”ガリンペイロ”( Garinpeiro :ポルトガル語 )と呼び、もともとは、金やダイヤ
モンドを探す山師を指したようですが、転じて無許可で採掘する人も意味する
ようになったらしい。
2.2 鉱物・宝石の比重
パンニングは比重選鉱の1種と話したように、有用鉱物と土砂の”比重の差”を
利用した方法で、土砂との比重の差が大きければ大きいほど楽に選鉱できる
ことになる。下の図に、土砂と鉱物そして宝石の比重を比較してみる。
砂金の元になった山金は石英脈にあり、貴石・宝石や希元素鉱物などは石英
ペグマタイト脈やその晶洞中にあったもので、これらが風化して土砂になったと
考えられ、その大部分は石英、長石、雲母などである。ただ、長石は、石英より
風化しやすく、粘土などになっていることが多く、パンニングすると白濁した水と
なって、まっ先に流れ去ることが多い。
上の図を眺めてみると、次のようなことがわかってくる。
(1) 砂金は自然金(比重19.3)と自然銀(比重10.1〜11.1)が混じりあったもので
自然金が多ければ多いほど比重は大きくなる。
銀の比重には幅があるが、中間の値をとって10.5とする。砂金と呼ぶには
金の含有量≧銀の含有量、つまり金と銀の比率が50%:50%の時、一番
比重が小さくなり、その値は
S.G=19.3×0.5+10.5×0.5=14.9≒15 となる。
石英の比重の5倍以上あり、多少乱暴(腕が未熟)でも、採集しやすい。
ただ、砂金の場合、薄っぺらい葉っぱ状のものなどは、水に浮きやすく
信じられないことだが、砂金採り大会では、”競技用の砂金が水に浮く!!”
という経験をしているので、油断は禁物である。
(2) 希元素鉱物の比重は、石英の約2倍あり、比較的容易に選び出すことができる。
しかし、苗木石((比重4.1)は、希元素鉱物のなかまでは一番比重が軽いので
慎重なパンニングが要求される。
(3) トパーズ(比重≒3.5)は、石英(比重≒2.7)と比重差が少ないが、慣れれば
比較的簡単に選びだすことができる。
(4) 緑柱石や水晶(ともに比重≒2.7)は、石英(比重≒2.7)と比重が同じで、パン
ニングで採集するのは、難しい。
明治時代、岐阜県苗木地方で砂鉱として錫石などを採掘していた時、トパーズや
希元素鉱物は見つかるのに、緑柱石は採集できなかった。そのため、苗木地方
では緑柱石は産出しない、と思われていた。
何のことはない、土砂と一緒に捨てていたのだから、見つかる筈もなかった。
2.3 パンニング技術習得の目標
これからパンニングを始めて見たい、あるいはパンニングでの希元素鉱物採集に
挑戦してみたい、という人たちに次のようなやり方、目標を持たれることをお奨め
する。
(1) 砂金採りを体験
砂金の比重は、石英の5倍以上あり、パンニングの腕が悪くて多少乱暴に
やってもパンニング皿の底に残る。
砂金採り体験施設(有料、砂金粒も大きい)を利用して、自分でパンニングして
砂金を採って、「パンニングの感覚」 を身に付けてください。
(2) トパーズ採集に挑戦
上の図からも解るように、トパーズは石英との比重差が少なく、注意深い
パンニングが要求される。トパーズを洗い出せるようになれば、それより
比重が大きい希元素鉱物は楽に採集できるし、砂金に至っては目を瞑っても
採れるでしょう。
2.4 パンニングの応用
先ほど、緑柱石など比重が石英とほとんど同じものは、パンニングでの採集が難しい
と話しましたが、全く手がない訳ではありません。
「地学研究」誌に、滋賀県田上新免に産するヒンガン石(比重 調査中)を採集する
やり方が次のように記載されている。
@ 石英と錫石が半々に残るまでパンニングする。
A 盥(たらい)のような容器の中で、錫石が残るようにパンニングする。
B Aで、パンニング皿から飛び出した石英などを盥の中から回収して乾かし
実体顕微鏡下で探す。
このようなやり方もあるようですが、私はまだ試していません。
3.1 必要な用具
パンニングに必要な用具を一覧表に示します。
入門時、慣れてきたら、そして本格的にやるのならとステップに応じて、必要な(適した)
用具を並べてみた。
備考欄にもコメントを書きましたが、これらの用具の内の小物は自宅近くの100円
ショップに、選り取り見取りで並んでいます。
パンニング皿やカッチャなどは、湯之奥金山博物館など砂金採り体験施設で販売
しており、ネットでも注文できるところもあります。
ウエーダ(胴長)などは、釣具店にあります。
用具の目的 | ス テ ッ プ | 備 考 | 入 門 | 慣れたら | 本格派 | 土砂をすくう | シャベル スコップ | シャベル スコップ | カッチャ | カッチャは部品を 買って自分で柄をつける |
大きな石を取り除く | フルイ | フルイ | フルイ | 目的鉱物に合わせて 目の大きさを変える パンニング皿の直径より |
パンニングする | パンニング皿
| パンニング皿 スクエアパン (四角い パンニング皿) 揺り板 | パンニング皿は 後々のことを考え 大きなものが良い 中華なべ、植木鉢の水受け 塗り椀の蓋は自宅などでの ”リッフル”( Riffle ) は |
磁鉄鉱を取り除く | 磁石 | 磁石 | 磁石 | 100円ショップにある U字(馬蹄)形磁石 赤い紐などで腰に結わえ 使わないときはポケットに 入れておくと紛失しない 保管時、買ったとき |
採集品をパンニング 皿から取り出す | スポイト | 特に不要 | 特に不要 | 砂金は、乾いた指先に 簡単にくっ付く 指先を頻繁に乾かす |
採集品を入れる | フイルムケース プラスチック瓶 ビニール袋 | フイルムケース プラスチック瓶 ビニール袋 | フイルムケース プラスチック瓶 ビニール袋 | 100円ショップにある 3個セットなど 透明品がベター ビニール袋は |
足が濡れないように | 長靴 | 長靴 | 長靴 ウエダー(胴長) | 夏なら裸足でも大丈夫 | 手指の防寒 | ゴム手袋 | ゴム手袋 | ゴム手袋 | 夏は、なくても大丈夫 上椀部までカバーする |
3.2 パンニングの基本
パンニングのやり方に、必ずこうしなければダメというルールはありませんが、目的と
する鉱物を@確実に A能率良く 採集するには、それなりのやり方があります。
ここで、図解する方法を試されて、自分の体格、体力などに合った”自分流”を
時間をかけて身に付けては、如何でしょうか。
No | 項 目 | 説 明 | 備 考 | 1 | 土砂をすくう |
パンニング皿の上に フルイを重ね、フルイの中に スコップやシャベルで 土砂を入れる
| ”親亀(パンニング皿)の 上に小亀(フルイ)”状態 |
2 | 大きな石を取り除く |
フルイをパンニング皿の上に 重ねた状態で、全体を水に沈め 激しく揺さぶり、フルイの”目”より 小さな土砂をパンニング皿の中に 落とす。 | フルイに残った大きな石は 再びすくうことがないように 下流側や岸辺に捨てる |
3 |
パンニング皿が一杯になるまで 1〜2を繰り返す | 大きな石を取り除くと ”目減り”する
パンニング皿の土砂の量は |
4 | 土砂をほぐす 木片など軽い物を 流し去る |
パンニング皿全体を 水の中に水平に沈め、片手で 土砂をかき回し、パンニング皿の 中の土砂が”サラサラ”になるよう ほぐす | 皿の中の土砂が ”カチンカチン”に 固まっていることが ある |
5 | 重い鉱物を底に沈める |
パンニング皿を持って、全体を 水の中に水平に沈め、時計方向 反時計方向に交互に90度くらい 勢いをつけて回転させる。 各5回、計10回程度 | ”ハンドル回し”の 要領 |
6 |
濁った水が出なくなるまで 4〜5を繰り返す | 7 | 軽い土砂を捨てる |
リッフル部が向こう側になるように パンニング皿を持ち、手前を心持ち (5〜15度)持ち上げ、前後に揺すり ながら、表面の軽い土砂をパンニング 皿の向こう側から落とす | 下の図の赤矢印の 方向に”前後”に揺する |
8 | リッフル部の土砂を 皿の中央に戻す |
水の中で、皿の手前を下げ 皿を円を描くように動かし リッフル部の土砂を 皿の中央に戻す 手指で掻き落としても良い | リッフル部に重い鉱物が 引っかかっていることも 多い |
9 |
土砂の量が徐々に少なくなるよう 7〜8を繰り返す
目安としては、”コップ1/4” |
皿を傾ける角度は段々に 急にしていく(15度くらいずつ) 皿の中に残る土砂の大きさは 段々小さくなる。 もし、大きなものが残っていたら 指で摘んで、よく観察して ”駄物”だったら捨てる
|
10 | 余分な重鉱物を 取り除く |
重鉱物として最も多いのが 砂鉄であり、これを磁石を使って 取り除く 斜めに傾けた皿を水に沈め 馬蹄型磁石で水の中の土砂を かき回すと磁性鉱物は磁石に 吸い付いてくるので、振り払って 捨てる。これを2、3回繰り返す |
砂金産地では磁鉄鉱が多い 岐阜県苗木地方のような 希元素鉱物産地では、 磁鉄鉱が極めて少なく、 磁石が不要の産地もある
必ず水の中で磁石に吸い |
11 | 目的鉱物を絞る |
いよいよ、目的とする鉱物 (砂金、希元素鉱物)を絞り込む パンニング皿の中央に土砂を 寄せ、右片手でリッフルを左にした パンニング皿を持ち、皿を斜めにして 軽く左右に揺すり、白い軽い土砂の 残りを流す
右手は、もう少し下を持ったほうが | 皿の傾きや動かす速さ (=激しさ)は、黒い重鉱物が 流れ出さないよう調整する
黒い鉱物が流れ出そうになったら 段々、白い土砂が少なくなる |
12 |
白い土砂と重鉱物の比率が 2:1〜1:1になるまで 11を2、3回繰り返す
1回終わるごとに、リッフル部の | 皿の傾きや動かす速さ (=激しさ)は、黒い重鉱物が 流れ出さないよう調整する
黒い鉱物が流れ出そうになったら |
13 | 最後の仕上げ |
いよいよ、目的とする鉱物 (砂金、希元素鉱物)だけ残す パンニング皿の中央に土砂を 寄せ、右片手でリッフルを右にした パンニング皿を持ち、皿を斜めにして 軽く左右に揺すり、白い軽い土砂の 残りを流す 右手は、もう少し下の方が、やりやすい かも知れません。
白い土砂がほとんどなくなるまで | 皿の傾きや動かす速さ (=激しさ)は、黒い重鉱物が 流れ出さないよう調整する
黒い鉱物が流れ出そうになったら 段々、白い土砂がなくなる |
14 | 希元素鉱物を採集するとき | 17へジャンプ | 15 | 砂金を探す |
皿に残った重い鉱物に 水約10ccを加える。 今までは座ったり、中腰での 作業だったが、ここからは立っても できる。 重鉱物を片一方に寄せ、その 部分が向こう側になるようにして 皿を手前に傾ける。 (当然、水は手前に溜まる) 皿を斜めにしたまま、皿を時計方向に 回転し、水に勢いをつけて重鉱物に ぶつけると、重鉱物の山が少しずつ 崩れ、砂金だけが残るように なる | 皿の傾きや動かす速さ (=激しさ)は、黒い重鉱物が 一度に流れ出さないよう調整する |
16 |
15を何回か繰り返すと砂金が 皿の上の方に残る | |
17 | 目的鉱物の回収 |
<砂金> 乾いた指先で砂金を強く押すと 指先に吸い付く。この指を水を満々と 張った瓶に差し込むと、砂金は、”スー”と 瓶の底に吸い込まれて行く。 <希元素鉱物など> 大きなものであれば、指先で摘んで ”特別なビニール袋”に回収する 肉眼で判別できないような 小さなものであれば、口の広い プラスチックケース(蓋付き)に 重鉱物ごと、”掻き入れる” |
プラスチック瓶(ケース)の 口の大きさは、自分の指の 太さに合わせると良い
指先に”砂金”が残っていないか
希元素鉱物を回収する容器は |
4.1 前処理
(1) 採集した重鉱物(砂金)を容器に入れたまま、水道水を静かに注ぎ、捨て去る。
これを、濁った水が出なくなるまで繰り返す。
( チョロチョロと流れている蛇口に容器を近づける。容器を蛇口に当てておいて
バルブを開くと、水が勢いよく噴出した場合、重鉱物を全て流し去るから、要注意 )
(2) 新聞紙の上に、真っ白い(無地であれば何色でも良い)コピー用紙を広げ
その上に水の入った容器を思い切り、叩きつける。
時代劇に出てくる、”丁半ばくち”の壺を伏せる、あの要領です。躊躇すると
容器に”ベッタリ”重鉱物が残ってしまいます。
(3) もし、重鉱物が多量に残ったら、水をさして、(2)を繰り返す。
(4) 新聞紙を傾け、白い紙の上の水を流し去る。
(5) そのまま、一日くらい置いておくと”カラカラ”に乾燥する。
(6) 目的とする鉱物が紙に張り付いていることがあるので、乾いた指先でこすって
紙から引き剥がす。
4.2 砂金の場合
(1) 残った重鉱物(砂金)を”黒い紙”の上に広げる。
( 黒い紙の上だと、砂金の黄金色が映えて見やすい )
(2) 実体顕微鏡の下にもっていく。
( 実体顕微鏡がない場合、ルーペか虫眼鏡を片手に持っての作業となる)
(3) 唾で濡らした楊枝で砂金を吸い付けて、ピックアップし、別な紙の上に
移す。
4.3 希元素鉱物の場合
(1) 残った重鉱物を小分けにしながら、”フルイ”でふるい、残ったものを別な
紙の上に移して置く。
( フルイの目の大きさは、自分の”フィロソフィー”で決める。どんな小さな
ものまでも残さず採集したい時は、フルイ掛けは不要 )
(2) 出現するであろう鉱物種名を書いたラベル(メモ用紙でも可)を小箱や
プラスチックケースに入れたものを準備する。
( 鉱物種+予備の数分)
(3) 小分けにした重鉱物を実体顕微鏡の下にもっていく。
( 実体顕微鏡がない場合、ルーペか虫眼鏡を片手に持っての作業となる)
(4) 大きなものは、ピンセットで摘みながら、分類し、所定の小箱やケースに
入れる。
(5) 小さな標本は、砂金の時と同じように、唾で濡らした楊枝で吸い付けて
ピックアップし、所定の小箱やケースに入れる。
(6) 小分けにした山が全部なくなるまで、(3)〜(5)を繰り返す。
(2) 私の場合、初めの2、3回は、湯之奥金山博物館などの砂金採り施設で、指導員の
方から教えてもらったり、学芸員・小松さんのやっているのを見よう見真似で覚えた。
その先は、実際にフィールドに出て、試行錯誤を重ねながら”自分流(自己流?)”に
到達した。
(3) このページに書いた私のやり方が、ベストとは毛頭思っていないので、このやり方を
試されて、自分なりの確実で、やりやすい方法を身に付けられることを願っています。