入館券
開館時間:9時〜16時30分
休館日 :木曜日、祝日の翌日、年末年始
入館料 :一般200円、生徒・児童100円
3.大滝村立歴史民俗資料館のあらまし
散逸し失われてしまうおそれのある大滝村の民俗文化遺産を収集し、展示公開して
民俗文化の発展に資することを目的に設立されたそうです。
3.1 主な展示物
@原生林の様子
A秩父往還
B山峡(やまかい)の農業
C稼山(かせぎやま)
D暮らしぶり
館内のレイアウトを見ると、設立時には、秩父鉱山関係の資料を展示しようという
意図があったとは全く思われません。
3.2 「秩父鉱山の鉱物コーナ」
鉱物標本は、取って付けたように、資料館の一角に据え付けられたガラスケースの中と
秩父往還のコーナの前(!?)に展示してあります。
希望者に配布してくれるパンフレット「秩父鉱山の鉱物」や展示品のラベルから
展示してある鉱物の来歴を推測すると次の通りです。
@秩父鉱山が盛大に稼行していた時期に、産出した代表的な鉱物の美品標本を
地元大滝村役場や光岩小学校に寄贈した。
A新庁舎の建設や小学校の廃校などに伴って、行き場がなくなったこれらの標本が
村立歴史民俗資料館に収納された。
秩父鉱山の鉱物コーナ
4.秩父鉱山の鉱物
展示品は、標本の大きさ、美しさ、結晶の完全さなどの点でいずれも秩父鉱山を
代表する逸品であるが、ここならではの標本をいくつか紹介します。
(1)セムセイ鉱【Semseyite:Pb9Sb8S21】
ブーランジェ鉱と同じ、鉛・アンチモン・硫黄からなるが組成が異なり、自形は
板状をなす。日本ではきわめて産出が少ない。セムセイとは人名である。
淡い黄色を帯びた鉛色で、長辺0.5〜1mmほどの薄板状結晶が丸みを帯びた
方鉛鉱の結晶の上に何枚も突き刺さったように産するのが典型で、なかでも放射状に
生えているような産状が多い。
『国産セムセイ鉱の展示は、本資料館の目玉』とパンフレットに謳っています。
(2)糸(ひも)状自然金【Native Gold:Au】
真っ黒い閃亜鉛鉱の上に、ひも状の自然金が見え、美しい配色である。
このような標本は1965年(昭和40年)ころまでの秩父鉱山で、大黒鉱床で局部的に
産出しただけで、世界的にも稀な産状であった。これだけの量を目の当たりに
するのは、私にとって初めてです。
セムセイ鉱 糸(ひも)状自然金
(3)車骨鉱【Bournonite:CuPbSbS3】
ピンク色の菱マンガン鉱に伴われて、方鉛鉱の結晶が反復双晶をなし、歯車
(車骨)状に見える。大黒鉱床から国内で唯一世界レベルの一級鉱物標本として
通用する車骨鉱を産出した。
都道府県の鉱物を選定するとすれば、埼玉県代表は、秩父鉱山産の車骨鉱とされて
いる。
(4)輝安鉱【Stibnite:Sb2S3】
秩父鉱山でも一時採掘対象としていた。六助鉱床では細柱状結晶や塊状のものを
かなり産したが、大黒鉱床では、針状結晶が写真のように菊花状・放射状や
フェルト状を呈する珍品を少量産した。
車骨鉱 輝安鉱【フェルト状】
(5)毛鉱【Jamesonite:Pb4FeSb6S14】
赤岩鉱床産の鉛・鉄・アンチモン・硫黄からなる真っ黒い毛状の鉱物。同じように
毛状で産出するブーランジェ鉱とは、外観だけでは鑑別できない。
(6)磁硫鉄鉱【Pyrroite:Fe1-xS】0< x <0.17
鉄と硫黄からなる鉱物で、黄鉄鉱より鉄分が多く、そのため磁性(磁石に付く性質)
がある。黄鉄鉱同様、硫酸の原料として採掘されたが、黄鉄鉱(Pyrite:FeS2)より
硫黄分が少ないため、硫酸鉱石としては黄鉄鉱に劣り、黄鉄鉱の豊富な秩父鉱山では
資源として顧みられることは少なかった。しかも、硫黄は製鉄では嫌われるので
磁硫鉄鉱の活躍の場は少なかった。
ただし、副成分として、かなりの量のニッケル鉱物が含まれる場合、ニッケル鉱
として積極的に採掘される。
磁硫鉄鉱の産地は多いが、赤褐色に錆びやすく、結晶となることも少ないため
鉱物標本としても、あまり注目されない。
赤岩鉱床産のものは、写真のように径1cmをこえる美しい六角板状結晶で
量的にも、質的にも、国産最高級の磁硫鉄鉱「結晶」である。
毛鉱 磁硫鉄鉱
(7)クリントン石【Clintonite:CaMg2Al[(OH)2Al3SiO10]】
かつては、「ザンソフィル石」(Xanthophyllite)と呼ばれ、クリントン石の
1変種で、独立した鉱物として扱われていたが、現在の分類ではクリントン石に
一本化されている。
ベスブ石と同じ、珪素・酸素・水素・アルミニウム・カルシウム・マグネシウムが
主成分だが、組成がベスブ石と異なり、結晶形も違う。
秩父鉱山・石灰沢鉱床産のクリントン石は淡青緑〜淡緑色の雲母のような美しい
鉱物で六角板状の結晶を示すこともあるが、たいがい鱗片状で大きさも2mm未満が
多く、時には、写真のように5〜10mmに達するものもある。
現在では、国内でもクリントン石の産地は少なくないが、大きさや美しさの点で
秩父鉱山がクリントン石の日本代表産地であり、その産状は、方解石とベスブ石に
伴われることが多いが、採集は容易なことではない。
クリントン石
5.おわりに
(1)展示方法などに不満はあるものの、これだけの一級標本が散逸せずに地元で保管
展示してあることは嬉しいことです。
(2)隣接する「大滝温泉」は、採集の帰りに汚れや汗を流すのに最適です。
6.参考文献
1)大滝村立歴史民俗資料館編:秩父鉱山の鉱物,同館,2003年
2)加藤 昭:硫化鉱物読本,関東鉱物同好会,1999年
2)加藤 昭:スカルン鉱物読本,関東鉱物同好会,1999年