栃木県大鷲鉱山の自然蒼鉛

           栃木県大鷲鉱山の自然蒼鉛

1. 初めに

    桜井先生と加藤先生の「 鉱物採集の旅  -関東地方とその周辺- 」を読むと、関東地方で
   は比較的産出が珍しい輝水鉛鉱の採れる大鷲鉱山が出ている。
    すでに、ここを何回か訪れ、「輝水鉛鉱」はじめこの産地を代表する標本を採集でき、HPでも
   紹介した。

   ・栃木県大鷲鉱山の輝水鉛鉱
    ( Molybdnite of Oowashi mine ,Tochigi Pref. )

    2010年4月、この近くの小来川鉱山でのミニ・採集会を終えて駐車場に戻ったのは2時前で
   このまま帰るには陽が高かった。そこで、大鷲鉱山を案内することにした。
    峠道を越え、大鷲鉱山入口に到着し、そこから歩いて20分足らずでズリに到着した。ここで
   輝水鉛鉱がついた大きめの石英塊を探すと、まずまずの標本が次々とみつかった。
    次なる目標は「自然蒼鉛」だ。石英を割ってはルーペをのぞくいて探す作業の繰り返しだが、
   なかなか見つからない。1時間たらずの採集でみなさん満足できる「輝水鉛鉱」標本を採集し、
   次回の月遅れGWミネラル・ウオッチングでの再会を楽しみにお別れした。

    帰宅して、クリーニングしてみると、「自然蒼鉛」がいくつかある事がわかり、これで、この産
   地の主な標本がそろった。
    ( 2000年6月初訪山 2010年4月採集 )

2. 産地

    鹿沼市から古峰神社を目指して走ると、道路左手に「下大久保」のバス停がある。ここを右
   に入り、道なりに約200m行くと左に墓地がある。手前を右に登ると人家の入口になるがその
   手前を右に折れると、林道への入口になっている。4WD 車なら、大きな砂防ダムの下まで行
   けそうだが、墓地の近くの空き地に駐車する方が無難だろう。
    ダムの下から左に巻く山道があり、これを登り、ダム(水はほとんどない)の岸を進むと杉林
   の中に入る。右手に白い石英が散乱するズリがある。山道をそのまま進むと、金網で囲まれた
   坑口が3つほど見られます。
    坑口の手前の山道の脇(左側)が長石の産地だ。

3. 産状と採集方法

    ここの輝水鉛鉱は、斑状花崗岩に接する石英脈にあり、本の記述通り白色と煙りがかった
   石英があり、後者に大きな結晶があるようだ。
    従って、採集方法は、クマデでズリを掘り返して、できるだけ大きな石英塊を探して良く見て
   「輝水鉛鉱」がついていればそのまま、ついていなければハンマで割って、ルーペで「自然蒼
   鉛」を探すのが良いだろう。

     採集風景

4. 産出鉱物

 (1) 輝水鉛鉱【MOLYBDENITE:MoS2
      銀色、六角板状で産出するが、柔らかいので、ズリで採集できるのは、角が丸まっている
     場合が多い。まれに、晶洞からでるものは、板状の結晶が立っている。

       輝水鉛鉱【横:10cm】

 (2) 硫砒鉄鉱【ARSENOPYRITE:FeAsS】
      ズリで採集したものは、錆びて虹色〜鉄錆色を示す。ここのものは、コバルトを含むとある
     が、確認できていない。

       硫砒鉄鉱【板状結晶】

 (3) 自然蒼鉛【BISMUTH:Bi】
      石英を割ると、粒状で産出すると言われている。今回採集したものは、”粒”より大きな
     ”小さな塊状”で、石英の隙間を充填するように産する。鉛色の鈍い光沢で、表面には紫色
     で平坦な面をもつ「ホセ鉱A【JOSEITEA:Bi4TeS2】」が共生している。周辺には、泡蒼鉛
     【BISMUTITE:Bi2O2CO3】が見られる。

         
                 全体                   拡大
                     自然蒼鉛【ホセ鉱Aを伴う】

      現地で気付かなかったのは、『自然蒼鉛はへき開する』が頭にあったため、このような産
     状を予想していなかったためだ。最初に訪れたときに、「硫砒鉄鉱」と思い込んでいた標本
     が自然蒼鉛だった可能性もでてきた。

      「ホセ鉱A]などの蒼鉛(ビスマス:Bi)を含む鉱物は、一山越えた「唐沢鉱山」がこの辺りで
     は有名なのだが、結果からすると、大鷲鉱山のほうが採集が容易のような気がしてきた。

 (4) 灰重石【SCHEELITE:CaWO4
      2000年に採集した標本は、現場では分からなかったが、自宅に帰って、紫外線を当て、
     存在を確認できた。

 (5) 正長石【Orthoclase:KALSi3O
      斑状花崗岩が風化して抜け落ちた正長石が山道脇の土の上に落ちているが、ひび割れ
     のため、完全結晶は見つからず、かろうじて輝きのある結晶面を数面もったものを拾った
     ことがある。
      今回、母岩についた斑晶を採集できた。

       正長石

 (6) 方解石【CALCITE:CaCO3
      石英塊を割ると晶洞が現れ、小さな水晶が見られることがある。その晶洞を満たす形や
     水晶を覆う形で方解石が見られる。ただ、「輝水鉛鉱」が来る晶洞には「方解石」は見られ
     ないようだ。ミネラライトの紫外線を照射すると、ピンク色がかった蛍光を示す。

       方解石

5. おわりに

 (1) 引田鉱山
      ここは、1時間もあれば、一通りの鉱物は採集できるだろう。従って、この先にある小来川
     鉱山や手前の引田鉱山などとセットで訪れると良いだろう。
      と言いつつ、引田鉱山を訪れたことがないのだ。正確には、探したが解らなかった。ミニ・
     採集会で小来川鉱山をご一緒した千葉・Iさんが詳しいようなので情報を貰って訪れてみた
     いと思っている。

      桜井先生と加藤先生の「 鉱物採集の旅  -関東地方とその周辺- 」を読むと、『 ・・きれ
     いな紫水晶のかけらを拾った人もありました。・・・・・・ 』
、とあるのが気になっている。

 (2) 「大谷石」
      大鷲鉱山から、鹿沼ICに向かって走ると、左手に「大谷石」を採掘した採石場跡が見える。
     「大谷石」は、凝灰岩の一種で、耐火性に優れているところから、関東地方の裕福な家の
     土蔵(石倉?)や塀などに使われている。

      「石」であって「鉱物」ではないのだが、古書店を回っていたら、戦前の「大谷石」の採掘を
     描く絵葉書があったので、入手した。

         
               採掘跡                 採掘絵葉書
                          大谷石

6. 参考文献

 1) 桜井 欽一、加藤 昭:鉱物採集の旅 −関東地方とその周辺−,築地書館,1972年
 2) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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