御嶽山は、何十年か前に噴火したことがある「活火山」だとは知っていたが、ロープウェイを使え
ば手軽に登れる山だという印象があるため、噴火したことに正直驚ろいた。
しかも、スマホが発達したこの時代ならではで、青空に向って噴煙が吹き上げるまさに”青天の
霹靂(へきれき)”を目の当たりにしたり、噴石が雨霰(あめあられ)と落下し山小屋の屋根に
衝突する音は不気味だった。亡くなった方のほとんどが初速300kmの噴石の直撃を受け、DNA鑑
定で身元が確認された人も多いようだ。
噴火から3日ほど経って、駐車場に置いてある車のフロント・ガラスを見ると、白いものが薄っす
ら積もっているような気がした。山梨県の北西部で御嶽山からの『火山灰』が観測されたという
ニュースをテレビで見てはいたが、甲府市内で観測できるとは思っていなかったので、半信半疑
でフロント・ガラスを水で濡らしたキッチンペーパーでふき取ってみると拭いていない部分との差が
歴然だ。
こうなると火山灰について調べたくなる ” Mineralhunters ” の困った性分が眼を覚まし、まずは
火山灰の回収だ。
1) セロテープに貼り付ける。
2) 拭き取ったキッチンペーパーをバケツの中で洗って回収する。
火山灰を顕微鏡で観察すると、透明なガラス質(SixOy)で、突起をもつ粒状をしていて、大きさは、
70〜100ミクロンで0.1ミリ以下だ。
2011年3月11日以来、大地震、大津波、原発事故、土石流とほとんどの災害は出尽くしたかと
思われていたが、『火山噴火』の登場だ。御嶽山から直線距離で98.5キロのわが家では被害こそ
なかったが火山灰が観測された。これが「水蒸気爆発」でなく「マグマ噴火」であれば、さらに影響
は大きくなっただろう。
私が住む山梨県にある富士山は活火山の一つで、最後に噴火したのは宝永4年(1707年)11月
で、つい300年前のできごとだ。
今回の災害で亡くなられた方々のご冥福を祈るとともに、『自分と家族、そして隣人を守る』のが
私の務めだと再認識した。
( 2014年9月採集 10月観察 )
ネットで調べてみると、有史以来御嶽山の最も活発な活動は1979年(昭和54年)10月28日に
地獄谷上部の標高2,700 m付近を西端とし東南東に並ぶ10個の火口群が形成された小規模な
水蒸気爆発が起きたが、幸いこのときは人的被害はなかったようだ。
私が小中学生のころ、火山を「活火山」、「休火山」、「死火山」に3分類していて、活火山の地図
記号は「▲」だ。
1979年の御嶽山の水蒸気爆発は、火山の定義を見直すきっかけとなり、「概ね過去1万年以内
に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」を活火山と再定義し、休火山や死火山の
呼び名は使われない「死語」になった。この定義による日本国内の活火山は110あるが、今後も
増減する可能性がある。
2014年9月の噴火が戦後最悪とされる火山噴火となった理由は何だったのだろうか。前回(19
79年)と今回(2014年)の噴火を一覧表で比較してみた。
項 目 | 前 回 | 今 回 | 備 考 | 噴火した年 | 1979年 | 2014年 | 「御岳ロープウェイ」 開通(1988年) |
月日 | 10月28日 | 9月27日 | 曜日 | 金曜日 | 土曜日 | 紅葉観光 | シーズン終了後 | ベストシーズン | 頂上付近 | 時刻 | 5時ごろ | 11時52分 | 1979年の本格的な 爆発は15時ごろ |
噴火の種類 | 水蒸気爆発 | 水蒸気爆発 | マグマ噴火ではない | 噴火の規模 | 噴煙の高さ (Max) | 3,000m | 7,000m | 10/7まで | 岩石噴出量 | 18〜20数万トン | 40万トン | 死者 | 0 | 55 |
10/8現在
今後行方不明者の捜索が進むと、 |
行方不明 | 0 | 9 | 負傷者 | 0 | 59 |
今回の噴火の規模は岩石の噴出量で比較すると前回とほとんど同じなのに、大きな違いは前回
は死傷者が一人もいなかったのに今回は今わかっている死者数だけでも戦後最悪とされる火山
噴火災害になっていることだ。
気象庁火山噴火予知連絡会の会長が、「火山(噴火)の被害は噴火の規模によらない。人が
いれば大きな災害につながる」と語っていた通りだ。
前回は朝5時ごろ噴煙を確認してから灰が降り、15時の本格的な爆発まで10時間あり、この間
に頂上付近にいて硫黄の臭気や火山灰などの異常を感じた登山客は早々に下山したと思われ
る。
今回は、紅葉のベストシーズンの休日(土曜日)で、「御岳ロープウェー」を使い、普段よりも大勢
の登山(観光)客が訪れていた。ちょうど昼時で景色の良い場所でお弁当を食べようと、頂上付近
に大勢いたときに、
”何の前触れもなく突然大きな爆発”が起き、このような大災害になったようだ。
頂上付近にいて奇跡的に生還した人たちは、「最初何が起きたのかわからなかった」とインタ
ビューに答えていた。
このような事故が起きると『再発防止』を考えなければならない。まずは、「御嶽山」は『入山禁
止』以外なさそうだ。なぜなら、収束したかどうかの見極めが難しいからだ。
御嶽山の9/1から10/6までの火山性地震回数を気象庁のデータをもとにグラフにしてみた。9月
10日ごろから増えはじめ、20日過ぎには収束に向うのかと思われたが、27日にあの大爆発だ。
噴火には、「マグマ噴火」、「マグマ水蒸気爆発」、「水蒸気爆発」の3種類がある。前の2つは、
発生前に”山がわずかに膨れる”などの変化があるが、「水蒸気爆発」は”突然噴火し、予測が難
しい”とされる。さらに、「御嶽山は過去の噴火が少なく、(噴火の)兆候をつかむだけのデーターが
なかった」、という学者もいる。
これらのうち、「火山灰」は
広い範囲に降り積もると交通や
農作物の成長に影響する。
同時に成層圏にまで達し、
航空機の運行にも影響したりする。
さらに深刻なのは、火山灰や
霧状の硫酸が太陽光を遮って
『火山の冬』(英:volcanic winter)
とよぶ気温の低下を招き、作物の
生長をさまたげ、収穫量が激減し、
地球規模の深刻な”飢餓”を引き
起こす。
「火山岩塊」、「火山礫」、「火山弾」そして「火山灰」などの定義を「地学事典」で調べてみた。
名 称 (英語名) | 大きさ | 説 明 | 備 考 | 火山岩塊 (volcanic block) | 直径32mm以上 | 火山放出物のうち、直径32mm以上 の岩石片で、特定の外形または 内部構造を持たないもの。 火口から放出されたときは、 固結していたもので、角張っている ことが多い。 | 火山礫 (lapilli) | 直径32mm〜4mm | 直径が4mmから32mmの範囲内に ある火山砕屑物。 | 火山弾 (volcanic bomb) | 直径4mm以上 | マグマの破片が可塑性を保った (軟らかい)状態で火口から放出 されたもので、主として直径 4mm以上のもの。 空中を飛行する間に、特有の外形、 表面の模様、内部構造をもつように なる。 | 放出時、「軟らかい」か 「固結している」かが 火山岩塊との大きな 違い |
火山灰 (volcanic ash) | 直径4mm以下 2mm以下とする 学者もいる。 | 大部分直径4mm以下の破片よりなる 火山砕屑物で、固結していない もの。 |
新聞などで報じている、今回の被害を大きくした”噴石”とは、「火山岩塊(英:volcanic block)」の
ことだ。テレビニュースの”噴石”が雨あられと降るシーンで、でアナウンサーが『・・・・・ブロックの
ような大きな・・・』、と形容していたのは英語名に忠実で、正しい表現だ。
また、”噴石”の速度を『時速300キロ』と表現している新聞、テレビがほとんどだが、これは火口
から放出されたときの初速度が300キロという意味のはずだ。落ちてくる”噴石”は、”眼にもとまる”
し、野球が上手くもない私ですら”バットで打てる感じ”だから、せいぜい時速100キロ程度だろう。
とはいえ、持っているエネルギーは野球のボールの比ではないから、当たりどころが悪ければ
即、”デッド・ロック”だ。
山梨県の北西部にある北杜(ほくと)市や韮崎市で御嶽山からの『火山灰』が観測されたとい
うニュースをテレビで見てはいた。
ミネラル・ウオッチングの下見で湯沼鉱泉を訪れ、社長に聞くと「おらほうじゃ降らなかったナ、
八つ(八ヶ岳)があるからかな」というように、火山灰の流れは複雑なようだ。
この歳になるまで、火山噴火直後の火山灰を見たことがなかったので、半信半疑でフロント・ガ
ラスを水で濡らしたキッチンペーパーでふき取ってみると拭いていない部分との差が歴然だ。
このような機会は一生に一度あるかないかだ、と思うと火山灰について調べてみたくなるという、
” Mineralhunters ” の困った性分が眼を覚まし、まずは火山灰の回収だ。
次のような二通りの回収方法を試みた。
1) セロテープに貼り付ける。
セロテープに粘着して回収する。何やら犯罪の遺留品を探すようだ。
2) キッチンパーパーで拭き取り回収
拭き取ったキッチンペーパーをバケツの中で洗って貯め、精密パンニングし、最後はガラ
スビンに回収する。
キッチンパーパーを用いたのは間違いだった。水の中で洗うと、ペーパーのパルプ質(?)や
糊(?)が溶け出して、火山灰がそれらと混じりコロイド状の怪しげな物質になってしまい、ごく少
量しか回収できなかった。洗いざらしの布を用いるべきだった。
火山灰を顕微鏡で観察すると、透明なガラス質(SixOy)で、突起をもつ粒状をしていて、大きさは、
70〜100ミクロンで0.1ミリ以下だ。
私の車のフロントガラス上、横2.4mm、縦1.3mm、つまり3.12平方ミリメートルの範囲に、4個の
火山灰が確認できた。これを水平面に換算してみる。水平面に対するフロントガラスの傾き角を
45度とすると、3.12/√2=3.12/1.41=2.2平方ミリあたり4個、大まかには1平方ミリ当たり2個の
火山灰が降ったと考えられる。
東京大学地震研究所のページに、9月28日の木曽町における降灰調査報告がある。
『 ロープウェイ駅駐車場において採取した火山灰について,構成物粒子の顕微鏡観察を実施し
た。・・・・構成物粒子は変質した安山岩?デイサイト質溶岩片,結晶片,白色?桃色に変質し
た溶岩粒子からなる。ほとんどの粒子に黄鉄鉱の細粒結晶が付着している。観察した限り,
新鮮で透明な褐色ガラス,および,発泡した透明ガラスからなる粒子を見いだすことができな
かった。・・・・・』
火山灰は空中に放出された後、風に流され移動して地表に降下するが、重たいものほど放出点
近く、軽いものほど遠くで降下する。自然に分類・選別が行われるのだ。
甲府に降った火山灰は、ほとんどが「透明ガラス」で、実体顕微鏡では「黄鉄鉱の細粒結晶」は
全く観察できず、東京大学地震研究所の調査結果と全く逆になっているのも興味あるところだ。
・ 福島県猪苗代町沼尻鉱山の重晶石
( Barite from Numajiri Mine , Inawashiro Town , Fukusima Pref. )
火山地帯でのミネラル・ウオッチングでまず注意しなければならないのは、「火山ガス」だ。
とくに、「硫化水素」は恐ろしい。火山地帯で採集したい鉱物がいくつかあるのだが、得られる
標本の魅力と火山の危険性を天秤にかけて、未だ訪れていないわけだ。
さて、恒例の『秋のミネラル・ウオッチング』が近づいてきた。案内を差し上げたHさんの奥さん
から、次のようなメールをいただいた。
『 火山噴火や台風など、自然の怖さを感じる毎日です。皆様もどうぞ気をつけていらして
ください。 』
”安全第一”で開催しようと、改めて決意した。